ヒーローライクヒール

手頃羊

その2・how to use

平原の真ん中にある森の中。
その上空に紫色の光の円が浮かんでいる。

(なんだこれ…)
弱く光っていることもあり、真下に来るまで全く気づかなかった。

クロノ「もしかして、これが門…?」

マレー「なんだいあんた、門は初めてか?」
とうとう門の前まで来てしまった。

エル「急げマレー。あの女に気づかれる前に移ってしまおう。」

(あの女?そういえば、門の近くに魔族が住んでるとかって話があったな…)
マレーが門に手をかざす。

(今のうちに逃げるチャンスとか…)
しかし、エルが弓に矢を番えた状態で目を離さずにじっと見つめてくる。

エル「ここまで来て逃すはずがないだろ。」

クロノ「うっ…」

(多分、早撃ちで負ける…)
銃に手を伸ばそうと考えたが、エルが油断をしていない以上勝てる気がしない。

(なら最悪、向こうで何とかするしか…)

エル「マレー、まだか?」

マレー「もうちょっと待て。ったく、門開けるにも頭使うんだよ…」
やがて門の光が強くなり、円の内側に景色のようなものが見えてきた。

クロノ「あれが魔界ってやつか…」

マレー「ようし、あたしが門の鍵を知ってるのをありがたく…」
突然、円の中が暗くなる。

マレー「え?」

クロノ「なに?なんか異常事態?」

エル「なんで暗く…」
円の中心から黒い光が広まっていくように見える。

エル「向こうから何か来て…」
黒い光は羽を広げた大きな何かに形を変える。

クロノ「鳥?」

エル「マレー‼︎早く門を閉じろ‼︎」

マレー「なんでこいつが…」
門の向こうから顔を突き出す。
大きな口と鋭い牙が何本も生え、黒い火が溢れている。

エル「なんで黒龍が門に⁉︎」
全身が現れる。
龍という名に相応しい、真っ黒な鱗に覆われた巨大な体と翼を広げ、門の上空からクロノ達を見下ろす。
近くに立っているだけで威圧感と熱気に気圧されてしまう。

(魔界にはこんなヤバいやつがいんのか⁉︎)
門の向こう側の景色を見る。
その瞬間、上方から強烈な閃光が放たれる。

(なんだ今の⁉︎)
黒龍が口を大きく開けている。
その口の内側から黒い火が漏れているのが見えた。

クロノ「ブレス⁉︎」
マレーとエルの方を見る。
2人とも黒龍を見上げたまま動かなくなっている。

エル「まずい…まずい…」

マレー「やめろ…」

クロノ「おい早く逃げないと…」

エル「体が動かないんだ…あの光は…」

(目くらまし⁉︎金縛り的なやつか⁉︎)
2人の前に立ち、銃を構える。

クロノ「やってやる‼︎」
黒龍が黒い炎を吐く。
銃から魔力を発射、ドーム状に3人を包み、黒炎を防ぐ。

クロノ「うおおおおお‼︎」
炎を防ぐ為に魔力を大きく消耗してしまう。

クロノ「キツイか⁉︎いやいけるいけるいける‼︎」

マレー「あんた…」

クロノ「おい‼︎まだ動けないのか⁉︎」

マレー「いや…」
まだ動く気配がない。

クロノ「くそったれ‼︎」
黒炎が収まる。

(収まった?チャンスだ‼︎)
銃をその場に捨て、振り返って2人を肩に担ぐ。

マレー「うわっ!」

エル「何を⁉︎」

クロノ「重っ…‼︎」
女性2人分、特にマレーは蛇の体の部分の重量が高い。
魔力で筋力を上げて全力で逃げる。

クロノ「うおおおおおおお‼︎」

マレー「おい!やばい!」
50メートル以上離れた所でマレーが背中を叩く。

クロノ「なに⁉︎」

マレー「黒龍が鱗を飛ばしてくる!」

クロノ「鱗⁉︎」
振り返ると、黒龍が尻尾を何度か振っていた。

マレー「尻尾から鱗を飛ばしてくるんだ!直撃したら体に穴が空いちまう!」

クロノ「はぁ⁉︎」
黒龍が尻尾を高く上げる。

クロノ「銃で…いや間に合わない‼︎」
2人を地面に降ろし、2人の前に立つ。
魔力強化で防御力を上げて2人を守るように受け止める。

クロノ「がぁっ‼︎」
体のあちこちをラグビーボール程の大きさの鱗が切り裂いていく。
痛みを和らげる魔力の使い方もできるが、それをするほど魔力が残っていない。

クロノ「くぅっ…くそっ…!」
膝をつきそうになるが、足に力を入れて耐える。

(まだまだ終わりはせんぞ…)

マレー「あんた…なんで…」
満身創痍となったクロノに声をかける。

クロノ「あぁ…?」

マレー「なんであたし達を…助けて…」

クロノ「何がだよ…?」

マレー「だってあたしら、魔族だよ?」

クロノ「関係ないよ。魔族だからとか、人間だからとか、そんなくだらん区別で人を助けるかどうか変えてたまるかよ。目の前で、ヤバイ目にあってる人がいたら、助ける。誰だろうと助ける。それで良いだろうが。いちいちめんどくさい判断する必要なんかないんだよ。どっちが嫌ってるとか、そんなのいらないんだよ。」

エル「だが…私たちはお前を奴隷にしようと…」

クロノ「そんなのはもうどうでもいい。今、あんたらが困ってる。それとも死にたいのかよ。だったら後で死んでくれよ。でもそれまでなら俺はあんたらを守るぞ。絶対に守る。守れる状況にあるんだから守ってやる。」
足元にいつの間にか魔法陣が出現していた。

クロノ「ただのわがままだよ。守ってほしくないのかもしれない。でも、わがままで守れる命があるんだ…だったら…」
魔法陣が白く強く光る。

(今のは俺が本音で言った言葉…なんだよな…)

クロノ「絶対に助けてやる。」

(そうか、これが詠唱呪文で…)
ガイアの言葉を思い出す。
『心から感じた想いを口に出す。その覚悟が自らを昂らせ、強力な魔法を発動させる。』

(これが詠唱魔法ってやつだな。)

クロノ「やってやる…」
尽きかけていた魔力が体中に広がるのを感じる。
目の前まで黒龍が近づいてくる。
尻尾を高く振り上げ、クロノを見据える。

(溜めた魔力の使い方…どんな魔法を放てば良いか…もう分かってる気がする…)
黒龍を睨み返す。
クロノ目掛けて尻尾を振り下ろす。

クロノ「ぶっぱなしてやる‼︎」
落ちてきた尻尾を右手で受け止め、投げ捨てる。
黒龍の胴体に走り寄り、左手で持った剣に魔力を込め、上段から斬り下ろす。

クロノ「1…」
黒龍を大きく押し飛ばす。
その後を追い、剣を右手に持ち直す横薙ぎに斬る。

クロノ「2…3…‼︎」
剣で斬り上げ、浮かび上がった黒龍の体を斬り落とす。

クロノ「4……5…‼︎」
もう一度斬り上げ、黒龍の体を宙に浮かせる。

クロノ「6…‼︎」
残った魔力を剣に全て集中させる。

クロノ「あああああああああ‼︎」
黒龍の体が落ちてくる。

(これが俺の詠唱魔法…全力の魔力強化‼︎そしてこの技は…)

クロノ「命名‼︎『七閃疾る斬撃セブンスタッド』‼︎」
黒龍に剣を叩きつけ、カチ上げる。

10秒ほど宙を舞い、地面に激突する。
もはやクロノにまともに立てる力すら残っていない。

クロノ「はぁっ…はぁっ…魔力…使いすぎ…だ…‼︎」
マレーとエルの方を見る。

クロノ「おい…あんたら…大丈夫か…?」

マレー「あ、あぁ…」

クロノ「そっか…良かった…」
守れて良かったと安堵する。

エル「なぜ私たちを助けてくれたんだ…」

クロノ「えぇ?言ったでしょ、危険な目にあってるから助けたって…」

マレー「あんたは魔族を嫌ってないのか?」

クロノ「だって、俺は別に魔族に何かされたわけでもないし、因縁もないし。奴隷商人に攫われかけたって言っても、そこに魔族は関係ないでしょ。」

エル「魔族と人間には長い争いがあるだろう。」

クロノ「それ俺関係ない。過去になんかやってても、その時代に俺はいかったし。だったら、これから先に仲良くなろうとした方が絶対良いと思うんだけどなぁ。

エル「お人好しなのか、バカなのか…」

マレー「バカだ。絶対バカだ。」

クロノ「だったらこの世の人間全員バカになっちまえば」
立ち上がろうとすると、ドラゴンが大きな咆哮をあげる。

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