ヒーローライクヒール

手頃羊

その6・我が魔法

クロノ「んぁ…」
目を覚ます。

クロノ「どこだここは…」

(さっきまで草原で戦ってたはずなのに…)
どこかの部屋のベッドの上にいた。

マキノ「目が覚めたか。」

クロノ「えっ?」
すぐ横にマキノがいたのに気づかなかった。

クロノ「マキノさん?ここって…」

マキノ「私の研究所の医務室だ。」

クロノ「研究所?」

マキノ「あぁ。アリアンテから少し離れた場所にある。お前が気絶した後、ハゼットがここまで運んできたんだ。」
周りをよく見ると、何かの液体が入っている試験管やフラスコが置いてある。

クロノ「そうだったんですか…ハゼットさんは?」

マキノ「命に別状は無いと分かったら、ギルドに戻っていったよ。快復したら、連れてきてくれとさ。」

クロノ「なるほど。なら…」
ベッドから立ち上がろうとする。
が、マキノに肩を押さえられる。

マキノ「まだ座っておけ。目が覚めたばかりだろう?」

クロノ「でも、何も異常はないですよ?」

マキノ「起きてすぐには気づかないこともある。とりあえず安静にしておけ。私は科学者だが、医学の知識もある。」

クロノ「はぁ…」
言われた通り、ベッドに座る。

マキノ「さて…お前が突然気絶した原因だが…」

クロノ「俺、怪我とかしてないですよ?ゴブリンと戦っても無傷だったし…」
一切心当たりがない。

マキノ「それは私も知っている。君の体に傷は1つも見当たらなかった。原因は攻撃を受けすぎたことによる疲労からの気絶とかではない。」

クロノ「じゃあ何すか?何かの病気とか?」
異世界であるなら、クロノが知らない謎の病原菌に体を蝕まれているという可能性もなくはない。

マキノ「それも違う。」

クロノ「じゃあ他に何が…?緊張が解けて気が抜けたとか?」

マキノ「そうでもない。実は君が寝ている間、少し採血させてもらったんだ。」
自分の左腕の手首と肘の間に包帯が巻かれているのを見る。

クロノ「血?」

マキノ「血というのは、生物の色んな情報を持っていてね。ドラキュラが血を吸うのも、何か関係しているかもしれない。それほど、血というのは可能性を秘めているのさ。」
赤い液体の入った試験管をゆらゆらと揺らす。

クロノ「ドラ…キュラ?」

マキノ「その話は置いといて、君のことだ。」

(ドラキュラがこの世界にはいるってことか…)
少し不安になるが、積極的に忘れる。

マキノ「分析してみた結果、驚いたことが分かった。」
科学的な話が始まると、途端にマキノの顔がはしゃぐ気持ちを抑える子供みたいにニヤニヤし始めた。

(好きなんだなぁ…研究。)

クロノ「驚いたことって、そこまですごいことがあるんですか?」

マキノ「君の血液に、魔力が含まれているんだ。そこそこな量のね。」

クロノ「血に、魔力?」

マキノ「あぁ。今君の中に流れている血にも、魔力が含まれているということだ。」

クロノ「それって珍しいんですか?」

マキノ「珍しいも何も、そんな奴見たことない。」

クロノ「マジで?」

マキノ「あぁ。獣人、魔獣、人間、その他200人以上…まぁにんという言い方が合っているかはともかくとして、そんな数の血を分析したことがあるのさ。」

クロノ「マジかよ。」
途方も無い数字だが、この科学者ならやりかねない気がした。

マキノ「成分や濃度に個人差はあれど、血に魔力が含まれているだなんて奴はいなかった。君が初めてだ。」

クロノ「そんなに…じゃあ原因はそこにあるんですか?」

マキノ「あぁ。おそらく魔法の使い過ぎによる魔力の消耗が原因だろう。」

クロノ「魔力の消耗?」

(MPマジックポイントが切れたとか、そういう意味?)

マキノ「まず魔力のことだが、この世界では魔力は普通、君のように血液に含まれてるのではない。」

クロノ「というと?」

マキノ「そうだな。例えば、胃には胃液がある。血管には血がある。脳には脳汁がある。そういった臓器のように確かな形は無いが、魔力を保存しておく容器のようなものがあると考えてくれ。そこから必要な魔力を取り出して使う。魔力が使われると、自動的に体内で新たな魔力が生成され、その容器を満たしていく。広く知れ渡っている例えだ。実際のメカニズムを解き明かしたものはいない。」

クロノ「それって、僕のとどう違うんです?」

マキノ「この容器••が空になっても、魔法が使えなくなるだけで、それ以外は困らない。心臓は正常に動くし、血液も循環し続ける。魔力が無くなってしまうことで気絶することもありえない。だが君の場合は違う。君にとっては魔力は、魔法を使う為のものというだけでなく、血液を構成する上で大事な成分の1つとなってしまっているんだ。」

クロノ「え゛…それってヘモグロビンとか赤血球みたいな…」

マキノ「なんだそれは?」

クロノ「あぁ…えっと、僕の世界でも科学はかなり進歩してて、血液にどんな成分が含まれてるか全部分かってるんです。その中に、ヘモグロビンっていうのと赤血球っていうのがあるんです。」
説明が終わらない内からマキノがだんだんと近づいてくる。

マキノ「お前…そんな…」

クロノ「えっ、ちょ」
急に跪いて、手を握りしめてくる。

クロノ「あの」

マキノ「お前の住む世界はそんなにすごいところなのか…?なぁ?」
瞬きしないで目の中を覗き込んでくる。
目を逸らそうとすると、今度は顔を掴まれて無理やり目を覗いてこようとする。

クロノ「いや、目が怖」

マキノ「羨ましい…そんなところが…」

(ダメだこの人話聞いてくれない!)

クロノ「とりあえず説明の続きいいですかね?」

マキノ「あ、あぁ…すまない。取り乱してしまった。」

(科学好きってか…マッドサイエンティスト?)

マキノ「えーと、とにかく、魔力は君の血液にとって無くてはならないものとなっている。魔力を使い過ぎて血液から無くなってしまうと、血液ではなくただの赤いドロドロの液体になってしまう。つまり、血と呼べなくなってしまう。血がなくなるんだ。それによって貧血で倒れてしまうということだ。」

クロノ「貧血⁉︎」

マキノ「まぁ幸運にも、すぐに魔力は回復するようだな。」

クロノ「そうなんですか?」

マキノ「あぁ。見たところ、常人の魔力自然回復のスピードよりは速い。」

(それはそれで嬉しいことだが、それでも気絶したってことは、その速いスピードを更に上回るほど使ってたってことだよな…)

マキノ「ハゼットに聞いたが、魔力湖の水を飲んだんだったな。」

クロノ「はい。結構。」

マキノ「これは仮説だが、魔力湖の水を摂取したことで体内に、まぁそれこそ血液とかそういう部分に魔力が侵入し、体の組成だとかそういうのが変化してしまったのではないかと思う。」

クロノ「水飲んで…体質が変化…?」

マキノ「あぁ。」

クロノ「えぇ〜…」
ベッドに仰向けで寝転がる。

マキノ「魔力を一切持たない君だからこそかもしれん。」

クロノ「はぁ〜…」
大きなため息を吐き、また座り直す。

クロノ「あっ。」
入団試験で気になっていたことを1つ思い出す。

マキノ「どうした?」

クロノ「スライムと戦った時に、魔法が使えなかったんですよ。こう…魔法を発射するみたいな。」

マキノ「あぁ、射出型の魔法か。」

クロノ「へぇ〜。その射出型?ってやつですか?それはできなかったんですけど、銃は使えたんですよ。」

マキノ「ふむ…」
紙の束を取り出し、目を通しながら何枚もめくる。

(俺のカルテか何かか?)

マキノ「また仮説となるが、君の魔力は体から離れることができないのではないか?」

クロノ「体から離れられない?」

マキノ「或いは、魔力を流したい対象と密着していなければ流すことができない。」

クロノ「直接手から波動拳は出せないけど、銃を通してなら撃てるってことですか?」

マキノ「波動拳?…まぁ射出型魔法のことだろうが、そうだ。銃っていうのは前説明した通り、魔力を流し、マガジン部に魔力を蓄積させておく。この時点で、この魔力は使用者の魔力ではなく、誰の物でもない『自らを使役するものがいない魔力』となる。トリガーを引くと、今度は銃そのものがその魔力を使役する存在となり、射出型の魔法を放つ。」

クロノ「俺が銃を使って魔法を撃ったんじゃなくて、銃が俺の代わりに魔法を撃ったってことですか?」

マキノ「そういうことだ。トリガーを引くことで、魔法が放てないお前の代わりに撃ってくれる。」
改めて自分の武器を見る。

クロノ「ってことは…」

マキノ「お前には必要不可欠な武器だ。これから色々な戦いをするだろうからな。」

(これが無いと戦えないのか…)

マキノ「それを貸してくれ。2本ともだ。」
剣を2本、マキノに手渡す。

マキノ「仮説が本当なら、この武器は改良していかなくてはならない。これから私は研究室にこもってくる。今日は泊まっていけ。明日には完成させるさ。」
マキノが扉を開けて出て行った。

マキノ「あぁ、何かあったら呼ぶんだ。部屋を出てすぐ右隣の部屋にいる。」
扉が閉められる。

クロノ「はぁ…」

(ワッツザファック…)
心の中で面倒に対する苛立ちを口にするが、それではどうにもならない。

クロノ「なるようになるかな…」

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