ヒーローライクヒール

手頃羊

その2・得物なくして戦えはせず

次の日。
昼頃になると、ハゼットがギルドの倉庫からいくつか武器を持ってきた。

ハゼット「この世界でこういう職業をして生きていく以上、当然魔獣と戦うことになる。時には人と戦うこともな。」

クロノ「………」

ハゼット「本当ならマキノに頼んで武器を作ってもらうんだが、今あいつはここにはいないし、そもそもお前がどこまで戦えるか分からないからな。とりあえずは基本的な所から学んでいこう。」

クロノ「基本的なっスか。」

ハゼット「戦闘技術のことだ。後はやっていくうちに自分なりの戦い方を見つけていけばいい。」
カウンターに武器を並べていく。
剣、槍、銃、デカい剣、etc…

クロノ「色々種類あるんですね。」

ハゼット「やはり初めてといったら、全ての基本とも言える剣だろうが…まずお前にそこまでの身体能力があるのか…魔力強化も人によってはできない奴もいるし…」

クロノ「魔力強化?」

ハゼット「あぁ。魔力で自分の身体能力を強化する。これが無くて戦闘はできない。まぁ、するにしても銃を使って遠距離から攻撃ってところだろうな。お前の魔力無しでの身体能力…つまり、今のお前の状態だが、この世界の住人のほとんどはお前と大差ない。」

クロノ「そうなんですか?」

ハゼット「あぁ。傭兵やってる奴もその辺の商人も。鍛えてる奴は鍛えてるなりに身体能力は高いが、まぁその程度だ。」
茶道部と野球部の身体能力の違いのようなものである。

ハゼット「そこで魔力強化をすることで、自分の身体能力を飛躍的に高める。こうすることで戦闘が優位に進められ、魔獣との戦いが有利になる。」
茶道部でもドーピングしまくれば、野球部に50m走で勝てるようなものである。

ハゼット「というか、魔力強化をしなければ魔獣とは戦えない。」

クロノ「そうなんですか?」

ハゼット「あぁ。この間出会ったミニゴブリンも、魔力強化をしないまま奴の攻撃を食らったら首なんか簡単に吹っ飛ぶだろうな。」

(そんなどこぞの宇宙エンジニアみたいな…)

ハゼット「だから魔力強化というのは、この世界で最も重要な技術だ。魔法は使えなくても、魔力強化だけで凶悪な魔獣に立ち向かうことだってできる。いや、使えるに越したことはないが。」
剣を持ち地面に立て、そこに両手を置く。

ハゼット「じゃあやってみろ。」

クロノ「え?」

ハゼット「魔力強化だ。」

クロノ「いきなりですね。」

ハゼット「なに、簡単さ。魔力で自分の全身を覆うようなイメージをすればいい。」

クロノ「魔力で全身を…?」
なんとなくイメージしてみる。
自分の体の中にある液体のような何かが、心臓から腕、脚へと広がっていく感覚がする。

ハゼット「ほう、異世界から来たという割にはできてるじゃないか。」

クロノ「え、できてるんですか?」

ハゼット「あぁ。ほら。」
左手で剣を持ち、腹を刺してくる。

クロノ「うごぉ‼︎」
刺さりはしなかったが、代わりに腹をバットで突かれたように、硬い何かで殴られたような痛みに襲われる。

クロノ「やるなら先に…」

ハゼット「刺さらなかったろう?」

クロノ「そうだけど…」
カウンターに手をついて何とか立ち上がる。

ハゼット「魔力強化に関してはひとまず合格だな。やっていくうちに、慣れていくだろう。」
剣をカウンターに置き直す。

ハゼット「魔力強化は重要だ。始めたての頃は疲れるかもしれんが、慣れていくうちに魔力強化ごときでは疲れない、むしろそれが日常でも問題ないくらいには魔力の効率的な使い方が分かっていくさ。」

クロノ「ハゼットさんは今してるんですか?」

ハゼット「いつ何が起きてもいいように対応しないといけないからな。俺くらいになると、むしろしてない時がないくらいだ。さて、じゃあ次は実際に平原に行って魔獣と戦いながら戦いの基本を覚えよう。」

クロノ「いきなりッスね⁉︎」

ハゼット「何事も経験が1番だ。その前に武器を選びたいが…」

クロノ「はぁ…みんなはどんな武器を使っているんですか?」

ハゼット「そうだな…フレアは大剣だ。自分の身長より少しデカいくらいの大剣を扱う。アクアは弓だ。あいつの狙いはかなり正確だよ。エリーは鎌だな。」

クロノ「鎌⁉︎」

ハゼット「あぁ。フォルムが好きなんだと。中々エグい趣味をしていると思う。レオは魔導杖まどうじょうだ。」

クロノ「まどうじょう?」

ハゼット「魔力をコントロールする為の媒体のようなものだ。魔力のコントロールが出来ない奴が使ったりもするし、出来る奴がより難度の高い魔法を行う為に使ったりもする。レオは後者だ。あいつの魔法は一級品だ。特に、威力がな。」
本当に魔法少女だったようだ。

クロノ「ハゼットさんは?」

ハゼット「俺は武器を持たない。」

クロノ「え、素手で戦うってことですか?」

ハゼット「いや、それはまぁ間違ってはいないが…。俺は状況に応じて武器を魔力で創り出せるんだ。」
ハゼットが右手を横に出し、何かを握るような形に手を曲げる。
右手に光が集まり、それが棒状に広がっていくと、剣の形に変わっていく。
やがて光が消えると、そこには銀色の剣が一本握られていた。

クロノ「スッゲェ…」

ハゼット「剣に限らず、大抵の物なら創れる。最も、これは俺だけの技術ではない。この世界のどこかに何人もいるだろうし、お前でもやれば出来るかもしれん。」

クロノ「マジですか⁉︎」

ハゼット「だが全ての人間が出来るわけではない。出来ない奴の方が遥かに多い。これに関しては、出来る奴の方がおかしいと言えるだろうな。」
手を開くと、剣が光となって消えた。

ハゼット「さて、お前の武器は何がいいか…」

???「話は聞かせてもらったぞ‼︎」

クロノ「なぁっ‼︎」
耳元で大声で叫ばれたせいで変な声が出てしまった。

マキノ「おっと、驚かせてすまない。」
ニヤニヤしながら謝る。

(絶対ェわざとだ‼︎)

ハゼット「マキノ?いつ来たんだ?」

マキノ「お前が武器をカウンターに置いたあたりからだ。大体話は分かっているよ。ギルドに入団するんだろう?」

クロノ「は、はい。」

マキノ「実はな、私が今ひそかに研究している武器があるんだ。初心者にも扱いやすい…かは知らないが、武器の適性が分かりづらい初心者には中々便利な武器なんだ。誰か良い実験台になりそうな初心者はいないかと思ってギルドに来てみたら、良い感じのがいたじゃないか。」

クロノ「実験台…」

マキノ「なぁに、ベッドに鎖で縛って薬品を垂らすわけではないさ。」

(むしろその思考が出る事の方が怖ぇよこのマッドサイエンティストが。)

マキノ「これから魔獣討伐に向かうのだろう?少しこの武器を使ってみてくれないか?」
そう言ってマキノは背中に隠していた二本の剣を取り出す。

ハゼット「剣?二本?」
メカメカしい形をしている。

クロノ「なんですかこれ?変形したりするんですか?」
剣を受け取るが、特に変わった部分は見当たらない。

マキノ「その通り!」

クロノ「マジで⁉︎」
適当に言ったつもりが当たってしまった。

マキノ「銃と剣の2つしか変形出来ないが、今後色々と増やしていきたいと思っているんだ。今はとりあえず試作段階。」

ハゼット「武器の変形か…。初心者には扱いづらいと思うが。」

マキノ「変形は簡単に出来るようにしてるし、むしろ初心者にオススメだと思う。剣と銃という2つの戦い方を1つにまとめたわけだから、臨機応変に対応できる。初心者に限らず、誰にとっても強力な武器になってくれるさ。」

クロノ「どうやって変形するんですか?」

マキノ「剣から銃への変形は、まずグリップの部分を強く握って素早く回す。この時、グリップの部分だけを回すように勢いよくやるんだ。」
言われた通り、グリップを強く握って勢いよく回す。
グリップが90°まで回ると止まり、腹の部分と両の刃が開き、隙間ができる。


隙間

隙間


という感じだ。

マキノ「今度は剣を左に振って両刃を折り畳む。」
左に降ると刃の部分が腹に接着する。

マキノ「今度はグリップを引く。そうするとグリップが少し伸びるんだ。それから、伸びた部分と腹の部分の接合部が曲げられるようになっている。」
腹を持って曲げると、接合部から丸い筒のような物が出てきた。

マキノ「曲げた腹は180°完全に曲げ切っていい。そして次に回したグリップを戻す。」
グリップを戻すと、今度はトリガー部分が腹から出てくる。

マキノ「最後にグリップを中に押し込めば完成だ。」
グリップを中に押し込む。

クロノ「なるほど…」
見た目はP90というPDWに近い形をしている。

マキノ「後は銃と同じ使い方だ。魔力を込めてトリガーを引けば撃てる。」

クロノ「魔力を込める、とは?」

ハゼット「銃の内部に魔力を込めるんだ。自分の魔力を銃に流して、銃の中にあるマガジンに魔力を貯める。トリガーを引けば、毎回一定量の魔力が攻撃魔法となって発射される。後は撃つときに細かい調整をすれば、威力をあげたり、発射する弾に属性を付与したりできる。」

クロノ「魔力を貯める…」
自分の魔力を銃に入れてみる。

クロノ「入ったかな?」

ハゼット「ここで確認してくれるなよ?」

クロノ「ははは、さすがにしませんよ。」

マキノ「これも持っていけ。」
ベルトのようなものを渡される。

クロノ「ベルト?」
丁度対称な位置に2つの輪っかが付いている。

マキノ「常に持ち歩くわけにもいくまい?このベルトは魔力と相性が良く、具体的には…ちょっと1本貸してくれ。」
ベルトともう片方の変形させていない方を渡す。
剣をベルトの穴に挿す。
ベルトの穴の方が若干大きく、そのまま抜けてしまうかと思われたが、刀でいう鍔にあたる位置まで来ると、紫色の膜のようなものが穴を塞ぎ、剣が動かなくなった。

マキノ「これで、腰に帯刀させることができる。抜く時、収める時に少し魔力を使うが、本当に少しだ。わざわざ意識する必要もない。」

クロノ「なるほど…」
改めて剣とベルトを受け取り、ベルトを装着する。

マキノ「うむ。少しデザインが殺風景過ぎたかなと思ったが、下手に装飾を付けない方が良いということもあるな。」
マキノがやったように、腰の輪っかに剣を挿す。

クロノ「ん?お?おー。」
良い感じに入った。

ハゼット「よし。じゃあ、早速外に行こう。」

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