僕と彼女のセカイ

巫夏希

プロローグ

 この世界は平凡すぎるものだと思う。
 なんというか、ツマラナイ。
 生きているだけで、死んでしまいたくなるとは言わないが、そんな感じだ。パット・パルマーも、言っていた。ツマラナイと感じるならば、世界は色を失っていくと。まさにそのとおりであると思う。
 今日も僕は一人で閉じこもっている。僕専用の部屋、とは言わないが、旧校舎にある古い理科室が謂わば僕だけの部屋でもある。
 古ぼけた人体模型に、黒板消しでも簡単に書いたチョークが消えない黒板とかがあるが、僕自体ここに馴染んでいる。まあ、ここに居れば若干はつまらなくならない。クラスには在籍しているけれど、僕のこの野暮ったさ(というか僕自身が他の人間に興味を持っていない、という理由も付加しているのだが)が考慮されて、クラスで浮いている存在となっている。それでも、僕は特に気にしないし、彼らは全てツマラナイ存在だからどうでもいいのだけれど。

「……お茶ちょうだい?」
「君がここに来ているのが悪いのだろう。僕は僕がやりたいと思ったことしかしないよ」
「私にお茶汲みをする行為は?」
「やりたくない行為だね」
「ちょっとはルールってものを学ぼうぜ」

 僕につきまとっているこの少女こそが、僕の唯一の害悪である。
 名前は遠野志津里。僕の行動を悉く邪魔する人間だ。普通の制服だが、唯一校則を違反していると思われるルービックキューブと鍵がついているネックレスは、落ち着いて入るのだが、それでも存在感を放っていた。
 僕のテリトリーに入ってきておいて、やれお茶汲みだの、やれ一緒にデート(という名の脱走)だの、やり方がひどいたらありゃしない。最悪すぎる人種だ。人間の中で一番ひどいのでは……いや、もしかしたら人間でもないかもしれない。流石にそれは言い過ぎだろうか。

「ほらー、さっさとお茶を」
「嫌だね」
「あんた、暇そうにしているじゃん。いつも本ばかり読んで? 今回はなんだい。あー、『法の書』? 魔術師のアレイスター・クロウリーが書いた奴?」
「そうだけど、もう内容は理解してしまったよ。魔法なんてものもないっていうこじつけに対するこじつけだったけどね」

 ならなんで読んでいるのよ、と志津里は続ける。

「ならばそんなツマラナイ本捨てちゃえばいいじゃない。こんなツマラナイ世界捨てちゃえばいいじゃない。……そうよ、捨てちゃえば?」

 捨てる? と首を傾げた僕を無視して、さらに話を続ける。

「あんた、『地球プラネタリウム論』を知っている?」
「……聞いたことないね?」
「簡単に言えば、地球の外は宇宙というとてつもなく広い空間があると言われているのだけれど、実際それはただのまやかしで、地球というのはひとつの閉鎖空間である……という理論なんだけどね」

 僕はその理論を聞いたことがなかった。勿論、志津里が言っても、だ。
 僕は少なくとも世界にある全ての理論を理解しているつもりだ。だから、志津里が言う理論は間違っている――はずだ。

「君は全てを知っている。歴史というカテゴリに、古い柵というジャンルをね。柵を破壊して、今までの先駆者は新たな時代を切り開いていった、と思われがちだ。現にそうだと言われてもいるからね。だけど、今までの先駆者は、全て古い柵の範疇にあったものだ。簡単に言えば、この世界にある限界を超えていないんだよ。完膚なきまでにこの世界を破壊していないんだよ。つまりは、まだ新しい世界に向かっていないんだ。今までの世界には連続性があるし、全て連続なんだ」

 だから、とさらに志津里は話を続ける。にしても良く喋る。

「……どうだい、この世界を破壊して、連続性のない新しい世界へと向かってみないか?」

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