僕と彼女のセカイ

巫夏希

1-2 閉鎖空間外操作情報インターフェース

 廊下を走って、僕らは旧校舎地下へと向かう。腕時計を見ると、今は午後三時を回ったあたりだった。

「さて、ここからが問題なんだな」
「どうするんだ? カメラとセンサーと警備員まで居る」
「それは私たちがここに来るまでに考えていた話だ。それ以上に何かあるかもしれないし、何もないかもしれない。それ以下の人員だって有り得る。全ては未知数だよ」

 まあ、オーパーツすぎるオーパーツが出てきた遺跡を管理しているのだから、どれくらいの警備があるかは不明だからね。

「オーパーツと言ったって、そこまで難しいものでもないからね。あんまり警備も居ないんじゃない?」
「縄文時代にスマートフォンが有ったとでもいうのか? スティーブ・ジョブスも驚くぞ」
「だろうね」

 だろうね、じゃない。
 警備をどう掻い潜るのか……君は少しも考えていないんだろうから、僕が考えなくちゃいけないのだろうけれど。

「なぁ、少年」

 志津里はそんなことを言った。畏まった口調ではあるが、確実にふざけている。あと、僕は少年と呼ばれるような年齢をもうとっくに過ぎている。

「……なんだよ、志津里」

 仕方がないので、僕は答えた。これ以上話が進まなくなるとそれはそれで辛い。

「いつ、誰が“警備を掻い潜る”なんて言った?」

 ――嘘だろ。
 志津里からその言葉を聞いたとき、少なくとも僕はそう思った。
 センサーがある場所まではもう数メートルの距離にまで迫っていた。にも関わらず志津里の足が止まることは無かった。

「おい、待て! それ以上進んだらセンサーが……!」

 僕の制止をも聞かずに、志津里の足は進んでいく。
 そして、遂にセンサーの前まで到着した。

「……さ、流石に止まるよな?」

 ――そんな僕の言葉を、聞いてすらくれなかった。
 志津里は、センサーのある位置をひょいと飛び越えた。ジャンプで。

「?!」

 つくづく何を仕出かすのか解らない人間だった。さっきは『バレると退学』だの言っておいて、そんな堂々とセンサーを通過するなど――!!
 ――しかし、何時まで経っても、異変は無かった。

「……どういうことだ、つまりセンサーが、」
「作動したかしてないかは今は論じるべきじゃない。さっさと行くよ! 君だって、縄文の遺跡にスマフォがあった理由を突き止めたいだろう?」

 えぇ、まぁ、そりゃね。そうなんですが。

「ならさっさとこっちにこいよ! 急がないと、今度こそセンサーが作動するかもよ?」

 そいつは非常に不味い。バレたら一大事ということには代わり無いのだから、今は志津里の言うことに従うしかないようだ。
 センサーをくぐり抜け、地下室への階段に辿り着く。階段自体は石造りであった。石を積み上げて、それを階段の形にしたものだろう。

「……にしても、こんな直方体の石をどうやって大量に手に入れたんだろうか。まっすぐに正確に作られている。まさか、人工ではないよな」
「いや、人工だよ。これは少なくとも、自然で出来たものではないだろう」

 志津里はそう言った。

「どうしてそこまで確定出来る?」
「一つ、大陸から石を積み上げる文化というのが伝えられたのは仏教の伝来と同時期だとされていること。二つ、その当時にようやく石を加工する技術が発達してきている、ということ」
「つまり」
「つまり、とは結論を急ぎすぎじゃないかな。まだ、話は終わっていないよ。……ここは人工で作られたもの。しかしその時代にはそんな技術なんて無かった。ここ自体がオーパーツなんだよ」

 遺構自体がオーパーツ。
 それが意味するのは、その時代にオーバーテクノロジーがあったか、もしくはこの時代に未来人がいたかのどちらかだろう。
 そのどれもが、現実的ではない。
 非日常で、不思議なもの。
 現実的でなくても、それは少なくとも現実にあるものだと気付く時だってあるが、現在、僕が聞いたそれは、間違いであると言える。この世界には『あってはならない』ものだって、僕だって理解できた。

「ちょっと話が過ぎたね。……ようやっと着いたよ。ここが遺跡の最深部だね」

 そう言われて、僕は息を呑んだ。
 まず感じたことは、立ち込める血の臭いだった。鉄の匂いが僕の嗅覚にパンチを与える。目で見ても、血が散乱していることは明らかだった。石という石に血痕がこびり付いていた。なんというか、ここで何かあったことは明らかだった。

「……ここで、何があったんだ?」
「何があった、と言われて答えられないな。少なくとも、ここであったことは少ない関係筋にしか知られていなくてね」

 何故お前が知っているんだ、というのは野暮か。

「……何があったんだ? はぐらかさないで答えろ」
「スマートフォンが発掘されたと言っただろう。あれは、実際に動く代物だったんだよ。そしてそこには大量の資料が入っていた。全てが支離滅裂な文章で解析出来なかった。……しかし、ひとつだけどあったよ。解析出来たファイルがね。それは、取扱説明書だった。そのスマートフォン、いや、『閉鎖空間外操作情報インターフェース』のね」

 志津里はそう、僕に告げた。

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