異界に迷った能力持ちの殺人鬼はそこで頑張ることにしました

鬼怒川 ますず

41話 魔獣の終わり

死体達に消えたシャデアを探させ、遠くにいたはずの騎士団がもう間近に迫っている事に焦りを感じ始めた死霊術師ネクロマンサー、ラズヴァ・ルイディ。

迎撃命令ならもう随分前に下した。
しかし、その命令に死体達は一体たりとも従おうとしない。
命令を下してすぐに一歩前進だの銃を構えるだの、命令を実行する最初の所作はしているのに、次の瞬間には命令を取り消したかのようにただジッと止まるのみだ。

赤と青の目からは異常なほどの発光を出しながら、魔力を持って従わせようとする。
しかし、どうしても言うことを聞かない。

ここまで言うことを聞かないのは第三者の介入ではなく自身がおかしくなったか。
そう思ったが、ルイディの手元でせっせと忙しなく動く死体達を見てそれは無いと確信する。
命令が効かないのなら、ここにいる死体達も命令不十分で動きを止めるはずだからだ。
その光景を端目にしてから骨の指にーー何故か力を入れて、惜しみなく魔力を行使し始める。

動け。
動け。
動け。
動け。

「動けぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーー!!!」

初めて感情のある声を、魔獣の身体のルイディから発した。
それは熱が篭っており、怒りの感情がその言葉には載っていた。
騎士団の一部がその声にビクッと後退り、あと数十メートルのところにいる魔獣に改めて恐怖を感じるが、ルイディはそんなものを気にしていられなかった。

「どうして、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも!!生者というものは私の邪魔ばかりするんだ!!誰だ一体! 私の理想を邪魔するのは!!誰だァァァァ!!」

ただ激昂する。
さっきまで何の生気もなかった死の王が発する怒号は、フェギル草原にただ響く。
それは生者である騎士達が息を呑む程に、その髑髏の顔に怒りの感情を激しく表していた。
団長のジゴズでも声を発しなかった。
言葉を発したら、魔獣に殺されると思ったからだ。
しかし、そんな彼らとは別に高らかに声をあげる者がいた。

「そこまでです悪党!さっきは不覚をとりましたが、今度は好きにさせませんよ!」

くぐもった声で名乗りをあげる声が聞こえた瞬間、ルイディは激しく発光させた赤と青の両の眼を動かしてそちらを見る。

自身の右側の草原にただ1人立つ女。
その顔はさっきまで付けていたおかしな銀仮面では無く、死霊人グールが所持しているガスマスクを被っている。
その腰には同じように装備させていた短機関銃を持ち、ズタズタになった服を着ている。
それは側から見たら可笑しな格好で、場所が違えば道化に見える。
その姿を見て胸中に浮かぶのは『滑稽』だ。
事実、事情を知ってるはずの騎士達にもそう思った者がいた。
しかし、ルイディだけは違う。
今この草原で起きている不可解な事象に関係しているであろうその女。
騒動の際に目の前で消えた聞き覚えのある女の声。
単純に考えても、もう1人いるはずの第三者と繋がっているのは確かだ。

「不思議ですね。もう死んだ身であり、死と一体化したはずの私が、怒りに身が震えてしまっています…いや、怒りで震えてしまうのは生きている証拠でしょうか?何とも……何とも腹立たしい」

静かに、ルイディは語り出す。
その声も、最初の感情のないものからある熱が篭ったものに変わっている。
震えているせいか、何故かカタカタと骨組みの体が音を立てて揺らぐ。
黒いローブの下にある骨の間に、生前あった肉や血が貼り巡っているように熱くなる。
それを自嘲気味に笑ってからルイディはその道化の格好をした女に向けてただ右手を突き出す。

「誰かは知らないが私を怒らせたことを後悔するなよ女ァ!」

掌から黒い閃光を放つ黒弾。
それは一切の光を拒んでいるようで、純黒の塊ともいえる。
その黒弾は女に向かって真っ直ぐ進む。
空気を裂く轟音が響く。
その黒弾が着弾するのを騎士団の騎士達、あのジゴズですら視認できなかった。

なぜなら着弾するよりも前に、あの奇妙な格好をした女が空気を裂く速度で向かってきた黒弾をいとも簡単に蹴り返したのだ。
それは、同じ魔獣でもあるルイディでも目を疑うものだった。

「は?」

怒りの感情のこもった声から反転、彼はその顔に似合わない声を上げる。
短い驚愕の声は、彼の顔に黒弾が当たったと同時に途切れ、そのまま後ろに倒れる。
ガラガラと骨が崩れる音が響くが、女ーーシャデアはまだ倒していないと確信する。
彼女は黒弾を跳ね返して傷んだ右足を引きずるようにしながらも、無理やり力を入れて駆ける。
回復のスピードは、惜しくもルイディの方が早かった。

(馬鹿な…そんなのはあり得ない… ︎今のは私が授かった魔法の中でも最上位の神域と言われていたものだぞ ︎   跳ね返すなど、しもか蹴り返すなど ︎」

今のがただの人間なら、ただ魔法に長けた人間なら触れた明けで物理法則全てを無視して抹殺出来ていたはず。
同じ魔獣という同系統のスペックを持った相手でも、喰らえばただでは済まない。
それを、蹴り返した。
ルイディは崩れた顔面の修復が終わるとすぐに向かってくるシャデアに向き合う。
ただでは済まない。
それがルイディ自身に跳ね返るとは思わなかった。
すぐに迎え撃つように死体達に命令を下すが、死体達は見向きもせずに今もまだシャデアを探していた。
内心舌打ちしながら、ルイディは自分の手で何とかしようと策を練った。
周りに立ち込めていた毒ガスは、さっきの爆風で晴れてしまい今は使い物にならない。

もう一度黒弾を撃っても良いが、撃ち返されればまた回復で時間を掛けてしまい間合いを取られる。
打つ手といえば、ルイディ自身相手と肉弾戦を行うことしかない。
しかし、ルイディは心の奥底でニタリと笑い、こちらに追撃を繰り出そうとするシャデアを見下した目で見据えた。

(魔法が効かないのなら、それ以外の方法があるのですよ)

黒いローブの下からスッと手にした筒状の物。
その柄の部分にたれていた金属製のピンを指に掛け、今か今かと袖に隠して抱える。
その筒状の物の正体は手榴弾、ルイディがいた時代の携帯型の爆弾。
持っていれば自分にも爆発の衝撃に巻き込まれるが、迫る直前に相手の前に投げて離れた場所にいれば軽傷の分だけ回復のスピードで勝る。
そこでもう一度捕らえ、今度こそ息の根を止める。
神速に近い速さでありながら、ルイディは目で捉えながら待つ。

さぁ、早く、早く私とともに死を感じましょうーー!!
死んでも私が使ってあげますから。

心で嘯き、勝利を確信したのと同時に、目の前でシャデアが消えた。
ルイディが驚く前に身体に衝撃が走った。
まず、いつの間にか目の前に来ていたシャデアに身体を斜めに切り裂かれた。
あっと声を出す前に、今度は刺さった剣を下から上げるように右肩まで上げて同じ様に斬る。
右手と左手が裂けて落ちる。
ブツ
ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ………。

その一刀だけで大事な何かが断線されていく。
すでに攻撃の手を止めたシャデア。
だがルイディはそれどころではない。
いくつも伸びていた、誰かを操っていた糸が、全て切れていく。
前方で膝をつく死体があった。
大きな図体のオークの死体が倒れる。

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