異界に迷った能力持ちの殺人鬼はそこで頑張ることにしました

鬼怒川 ますず

39話 思いもよらない敵 (前編)

「全軍、走りながら斉射」

 ルイディがそう命令した。したはずだった。
 しかし、各部隊に配置されていた死霊人グールはみな動かず、ただ銃を構えているだけだった。
 ルイディは赤と青が灯る両目でその光景を目の当たりにし、再度命令を投げかける。
 魔力の糸に簡単な命令『敵に対して一斉射撃』を。だが再度の命令も死霊人達は動こうともせず、ただじっと銃を構えて

いるだけ。
 おかしい、無限の魔力を持つ魔獣となったルイディは、死霊人に命令を送れなかったことなど今までなかった。それを踏

まえたうえで、自身の命令で動かない死体達に対して疑問を抱く。

 (この私の魔力が尽きた…?しかし、私の身体から出る魔力も糸もすべて確認済み。糸が切れた痕跡もない……それならば

あの騎士たちがやったのか?)

 ルイディは今まさに一掃しようとしていた騎士達のほうへ目を向ける。
 騎士達はちょうど陣地から出てきたところで、盾を前にして恐る恐る進軍してきていた。
 違う、ルイディの直感がそう告げる。理由としては相手の出方だった。

 (撃てないように死体に細工をしたのならもう少し大胆に出るでしょう。それに…)

 髪を掴んで持ち上げていた妙な格好した同じ魔獣の女剣士もその光景を両の目で見て驚いているようだった。
 彼女の仕業でもない。それも理解できた。
 それならば、いったい誰が邪魔をしている?
 ルイディの頭には疑問が浮かび、死霊術師ネクロマンサーという魔獣になってからかくはずもない汗が、まるで本当に

流れているかのように思えてきた。

 冷や汗をかく?
 この私が、か?
 死を体現した私が?

 魔獣になってから不都合なことなどはなかった。
 なんでも思い通りになり、なんでも出来るようになった。
 自身の思想と、その思想の根幹に携わる総統ヒューラーの意志を引き継いで理想の世界に変えるためにルイディは尽力

を尽くした。
 すべての人を生から解放する。
 そして統一した民族を創造し、望んだ世界を作る。
 魔獣の力をくれた神の考えなど、ルイディ個人にとってはどうでもいいことだ。
 それが少しの不都合でここまで不安に駆られ、死んだ体を持つはずが生を実感する羽目になるとは、彼は思ってもいなか

った。
 死には感情はない。
 死には表情はない。
 人間だったルイディには手に入れられなかった死そのもの。

 それなのに、今焦っている自身に矛盾を感じてしまう。
 完璧な死を求めたのにだ。

 「…貴女に問います。貴女の他に向こうに与する魔獣がいるのですか?」

 「い…いない…」

 「嘘はいけませんよ、騎士団のサツキでもなければ私にここまで干渉することはできないと思います。私の力に対抗できる人間なんて彼女以外はいません。サツキがこの場にいないのならこれは同じ魔獣の仕業でしょう。ほら、言ってください」

 髪を掴んだまま女剣士に顔を近づけ質問する。ルイディの問いに女剣士は本当に分からないようで首を微かに振って否定した。その顔は腫れていたが。嘘をついているようには見えない。

 (魔獣ではないか…ではやはりここにはサツキがいるのか)

 再び思索するルイディだが、その時あることが起きた。
 周りにいる死霊人に動きがあった。
 指示も出していないのに、なぜか動き出す死体にその髑髏の目を向ける。
 動きだした死体達は揃って銃をこちらに構え、引き金に指をかける。

 「…な!?」

 「…え…?」

 いきなりの事でルイディは理解できなかったが、それでも死体達は銃弾を放つ。
 破裂音が鳴り響き、全弾迷いなくルイディと女剣士に襲い掛かる。
 ルイディが着ている黒い装束に何発もの穴が開き、女剣士…シャデアの身体にもさきほど走って浴びた以上の鉛弾が突き

刺さる。
 銃声はしばらくの間続き、遠くから恐る恐る動かない死体達の間を進軍していた騎士団も耳にしていた。
 やがて銃声は止み、死体達が持っていた銃に装填されていた弾薬が無くなり、その銃口の先では動かなくなった魔獣が二体転がるのみであった。

 何が起きた?
 倒れたルイディの頭にはそれしか浮かばず、弾で穿たれた体が痛みを発していた。
 だが、無限に湧く魔力と魔獣の特性もあり、ルイディと女剣士の身体はすぐに再生する。
 先に再生し起き上ったルイディは、すかさず死霊人に命令を下す。

 「私の命令を聞け!」

 ただそれだけで、死霊人達は命令に従って銃を下した。
 ふう、と息を吐いてなぜか安堵するルイディは、今の生を実感する仕草に嫌味を覚える。

 「…やはり、何者かに介入されている。しかも、この私に対しての敵意は本物だ」

 嫌悪感、敵意、すべてにおいて死にはいらない感情がこうも出てくる。
 ルイディはここまで自分をコケにした相手を尊敬し、さらに殺したくなってきた。
 殺す。
 ただ殺すのも惜しいくらいに。
 死そのものが、持っていないはずの怒りに震える。

 と、そこでふと自分が掴んでいたはずの女の髪の感触がないことに気づいた。
 疑問に思いそこに視線を向けると、そこにはいるはずの女の姿はなかった。

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