異界に迷った能力持ちの殺人鬼はそこで頑張ることにしました

鬼怒川 ますず

37話 魔獣の自覚



「あのバカ先行きやがった。口が軽いあいつ1人にさせると不安だし、後々面倒だから俺も降りるぞ。おいハビーの仲間、少し速度落とせ」


言ってから、ナナシは先に走る馬車から飛び降りて疾走したシャデアに続く様に馬車から降りる準備をする。

シャデアは馬車がフェギル草原に入った直後、死霊術師ネクロマンサーが操る死体の群れがジゴズ騎士団の陣地らしき場所に攻撃をする場面を目撃すると「テラス…ッ!」と言って馬車から降りた。

もちろんナナシもコローネも止めようとしたが、感情に従っているせいなのか二人の声も聞かずにサッと行ってしまった。


「…今走ってた馬車降りた、しかも変な格好、俺怖いんだけど」


ナナシが乗る馬車の御者であるオークが体格に似合わず怯えた声を出す。


「大丈夫だ、あれはそういう身体能力のある奴だ。この世界…ここら辺は種族が違えばそんなもんだろ」

「俺、そんなの知らね」

「なら覚えとけ、そんでさっさと馬の速度落とせ」

「あ、…なんとなく、わかった」


片言のオークの震えた声にナナシが適当にいなす。
そしてオークは馬の手綱を引っ張り、馬の速度を落とす。
あまりにも荒々しい操作に荷馬車の荷物が揺れるが、気にせずにナナシはコローネに頭に手を置いて別れの挨拶をしようとするが。


「いやナナシさん、さすがに走ってる馬車から外に出て無事な種族はいないですよ。岩石族でもあの速度で落ちれば重症ですから」

「コローネ、いまは余計なこと言わないでくれよ」

「え?えーと…ごめんなさい」

ナナシはもはやシャデアの人外行為に対して何も不思議に思うこともなく、対してそれにツッコミを入れようとしたコローネの口を閉じさせた。

(まぁ、俺も速度落とした馬車から降りるんだけどな…)


自身も人外のような身体能力を持つのであまり人のことは言えない。
それを認識しながら、彼は一度小さく咳をしてから仕切り直すようにコローネに語る。


「俺が馬車から降りても能力は持続する。そこからはあの、ねくろまんさーどもの横を通っても気付かれないから大丈夫だ。能力範囲外に出れば能力も消えるからな。これが片付いたら2日くらいかけてオータニア国に行く」

「はい。……ナナシさん、本当に大丈夫でしょうか…」

「なぁに、あの人間離れしたアレもいる。むしろ魔獣の心配をする方がいいと俺は思うけどな」


ナナシはわざとらしく作り笑いをしてコローネの不安を消そうとした。
おかげでコローネも、ふふと笑ってくれた。

馬車の速度がちょうど良い具合に減速した。
それを見越した上でナナシはコローネに言った。


「行ってくる」


コローネの返事も聞かずに、ナナシは馬車から飛び降りた。
草原のこともあって着地してすぐに体を回転させ衝撃を減らし、体制を直して立ち上がる。

馬車が背後でガラガラと走り去って行くのを見ずに、ナナシは目の前の光景に心躍らせた。

殺せる。
人と同じ姿の化け物を何体も殺せる。


ナナシは殺人鬼だ。
顔の無い殺人衝動が抑えられない殺人鬼だ。
彼は待っていた。
この世界の交友関係を壊すことなく、面倒な処置をせずに思う存分人を殺せるこの時を。


(さぁ、始めるか)


彼の欲求を満たす行為の前に魔獣も化け物も関係ない。
彼はただ殺す。
それだけだ。



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銀仮面のアーシャは戦場となった草原を駆け回る。
それは見る人にとっては勇猛果敢に戦っているように見えるだろう。もちろん目の前に立ちふさがる死霊人グールを切り倒しているのでそれは間違いではない。
しかし、問題はその死霊人グールの使用する武器だ。


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!何ですか何ですかあの筒!!何で鉄の粒が高速で出てくるんですか!! わ、私の速度と同等とか怖すぎます!!」


銀仮面のアーシャ、本名シャデア・パテルチアーノは叫びながらさらに速度を上げる。
先ほどの戦闘で敵の先鋭を倒し、敵に対して宣誓したシャデア。
だが、1つ間違いを犯していた。

それは敵の戦闘方法だ。
シャデアは最初、敵も剣を使った白兵戦をするのだとばかり思っていた。

実際弓矢のようなものもなく、細長い鉄の筒に小さな剣を着けたようなのでジゴズ騎士団の陣地に乗り込んでいた。
だからこそ筒を向けてきたのは武器の構えだと考え、シャデアはそれら全てを魔獣と同じ動体視力でもって見切り、跳ね返す準備をした

シャデアの考察は当たっていた。
だが武器の種類を知らなかった。

 ダダダダダッ!
弾ける音を耳で受け、直感で迷いなく即座に跳躍する。
すると後方の、ジゴズ騎士団の陣地の盾がキンキンと何か硬いものが当たり、跳ねる音がした。
後方での音が何かを悟り、驚きながら着地するシャデアはすぐさま駆けた。

そして今に至る。


「あーもーそれ引っ込めなさい! あなた達それでも魔獣です…ってうわ!!飛ばすな向けるな追いかけるなぁぁぁー!!」


シャデアはまたも躊躇いもなく飛ばしてくる死霊人から全力で逃げる。
死霊人が今使っているのはマシンガンという種類の弾を連続発射する銃火器であり、この世界にはない武器だった。

チート武器。
剣と魔法の世界ではこの上なく優位に立てる武器だ。

そうとも知らずに『魔法武器』と仮定し、背中に何発か食らってしまうシャデア。

だがシャデアもそれ以上の存在だった。
背中で受けて痛みを味わうも、それだけで済ませながら走る速度を落とさない。
魔獣と同じ体。
それが原因なのか傷も時間が経てば治る。


(…化け物、ですか)


自身も魔獣なのだと再認識し、それでも思考はクリアに留まる。
あの遠征軍の中にテラスはいない。
一目で自身の大切な人がいないと分かったのは直感の様なものだが、恐らく魔力を感知したのだとシャデアは考える。

魔獣になった日以降も慣れ親しんだ彼の気配を覚えていたからこそあの場のいないのが分かった。
ならば死んだかと言えばその可能性は低い。
前方に見える馬の死体の中には騎士の姿も無く、死霊人の中には騎士の姿すらない。
恐らくは遠征軍は全員無事で、テラスもこの遠征軍には参加していない。

それだけわかればあとは簡単だ。

死霊人などはどうでもいい。
目的はそれの大元、死霊術師ネクロマンサーだけだ。
シャデアは巨悪を倒すべく、一気に敵のど真ん中に向かう。


「このつぶても十分浴びました!もうこの痛みに慣れたので成敗します!!」


敵陣に単身飛び込むとそこからは地獄だった。
マシンガン、ライフル、小銃。
シャデアは見たこともない武器で蜂の巣にされるが、それでも速度は落とさない。
服は穴だらけになる。
鎧も帽子も弾け飛び、血も飛散する。
それでも行こうとする。
シャデアですら感じる大きな魔力の根元に。

と、シャデアが特攻をかけたところで魔力の根元、死霊術師ネクロマンサーが乗る鉄の魔獣が動き出した。
死霊術師ネクロマンサーの魔法つかいらしからぬ格好と重圧的な印象を見せつけ、地響きと馬の嘶きよりも煩い音を立てながらシャデアに近づいてくる。

都合が良い。
シャデアは何百発も鉛玉を受けて痛みを知覚しているのにも関係なく気分の昂りを感じながら、鉄の魔獣と勝手に名前をつけた『戦車』に向かっていく。
お互いの距離が短くなる。
しかし戦車は何もしない。

シャデアは何もしてこない戦車に違和感を覚えながらも、銃弾で刃こぼれした剣を構えながら瞬発力を上げて一気に間合いを閉ざす。

そしてーー-。


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