異界に迷った能力持ちの殺人鬼はそこで頑張ることにしました

鬼怒川 ますず

35話 死霊の軍団


「ったく、援軍はまだか?これじゃ進軍もできやしない」


傷だらけの銀甲冑で顔も身も包んだ騎士団長は改めて毒吐きながら目の前で大規模に展開する敵、見たこともない兵装の死体達を見ていた。


騎士団長ジゴズ・クァンジュ。
彼は隣国で連続で起きてる村の壊滅事件の調査とその支援のために騎士団総員で遠征に向かう途中であった。

早朝にデザールハザール王国を発ち、1時間ほどしてからフェギル草原に差し掛かったその時、彼らの前に謎の魔獣の軍団が現れ、騎士団はその相手をしていた。


魔獣の軍団。
彼らはそれを相対するまでそのような存在を知らなかった。
魔獣は本来同族としか群れることはなく、ましてやそれが15以上の数まで膨れ上がることなど無いと誰もがそう信じ、世界の常識となっていた。
例外があるとすれば過去数百年前に存在したであろう『死霊術師ネクロマンサー』と言う人が堕ち、魔に呑まれた化け物だけだ。

死霊術師は莫大な魔力を内包し、その肩書き通り死体などを操ることに長けた魔獣だ。
操れる数も50以上であり、これだけで魔獣の軍団と呼ばれるものであった。
現在のデザールハザール王国を含む諸国ではそれだけでも軍団扱いが普通となり、それ以上のものを誰も知らなかった。

過去の死霊術師を超えるものが現れた。
最初ジゴズは魔獣軍団に遭遇した際に数え間違いと幻覚魔法をかけられたのだと疑った。

だがそれはあり得ない。
彼は、彼らジゴズ騎士団全員が装備している銀甲冑は魔法の効果を跳ね返すといった特別な仕様であった。そのため幻覚魔法はあり得ないと考えてから目の前の光景を疑った。

500から1000はいるのか、見るからに生きてはいない死人、死霊人グールが全員が同じ鉄の帽子や長い筒を持って整列をし、見たこともない薄い茶色の服を着込んで待ち構えていたのだ。

最初何事かと思ったが、整列した死霊人グールの最前列が長い筒を両手で構えて目線、穴が空いた筒の先をジゴズ騎士団に向けて標準を合わせ始めた。

その行為に何か嫌な気配を感じたジゴズは急いで騎士達に防御と回避を伝えた。
彼のとっさの命令に口を開けていた他の騎士達は全員盾を構えた。
その行為が急死に一生を得た。

最後の騎士が盾を構え終わるのと同時にパパパパパパッ!!と連続してなにかが弾けるような音がフェギル草原に響き、直後騎士達が乗っていた馬が次々に倒れていった。
落馬し混乱が起きて慌てふためく騎士達だったが、態勢を直す間も無く次が来た。

今度は筒に小さな剣をつけた死霊人グールが騎士団に向かって突撃し始めたのだ。
いきなりのことで多くの騎士が怯えるがジゴズは違った。
彼は1人で果敢に立ち向かい、彼1人で突撃して来た死霊人を全滅させてしまった。
その間の間ジゴズが後退の命令を出すと騎士団はすぐに来た道を少し戻り防衛の為の盾やらを展開し始めた。

あれから数時間が経過した。

現在彼らは遠征に使うはずの武器や装備を出して陣地を作成し、たまに攻めてくる少数の死霊人を倒しつつ先程の筒から出る砲弾を盾で受けつつ戦線を維持していた。

ジゴズは魔獣達の出方と王国からの援軍が来るまでこの遠征軍で立ち向かえるか悩んでいたが、よわい40過ぎでジゴズ騎士団の参謀長であるパテルマがジゴズの元に来ると膝を折って報告する。


「ジゴズ様、どうやら死霊術師ネクロマンサーと使役している死霊人の数の報を受けて騎士団を複数出撃させると大臣達が決定したようです」

「援軍だけで騎士団総出か…」


ジゴズは、まだ死者が出ていないこの遠征軍に対してデザールハザール王国がいくつもの騎士団を援軍に向かわせることに驚いたが、その判断は正しいと思う。

実際、死霊人を使役させている『死霊術師ネクロマンサー』の正体も実力もわかっていない。
それどころか、最初の攻撃以降は小手先で遊ばれている感じがしていた。
未知数の敵、だからこそ戦力は揃えたほうがいい。


「こっちに来る騎士団は全部で幾つだ?」

「ルミエル騎士団、ガルドレア騎士団、ラーズバルカン騎士団。王国が出撃を指名した騎士団はこの3つです」

「…4万人も援軍に来るとか聞いたことねぇな、ラーズバルカン騎士団は金鉱の守護で王国には八百人しかいないってのに」


ジゴズは騎士団の中でも多くの騎士を抱える『ガルドレア騎士団』が騎士団ごと援軍に向かうことと、王国がそれほどまでに安心出来ないという実態を改めて認識し、すぐ先で理路整然と待機している死体達を見た。


「…あの死体ども、おそらくですが魔獣の襲撃で壊滅した村から調達したものだと思います。死霊人の種族も報告にあった壊滅した村と一致しますし、何よりも死体の腐敗が全然進んでいない」

「俺もそう思っていたところだ。まさか遠征に出てすぐに討伐すべき諸悪の根元に出くわすとは思わなかったけどな」


パテルマも報告が終わり、ジゴズのすぐ横に立って彼にいつも通り話しかける。

パテルマの言う通り、死霊術師が操る死霊人は全て報告に書いてあった壊滅した村に住んでいた種族ばかりであり、まだ死霊人も腐っている様子は見えないほど生前と同じ姿だ。
しかし、何体かは腕も足も千切れてたり、顔に大きな傷や火傷の跡も散見する。
それ以上に見るも耐え難い、普通ではない殺し方をして得た死霊人だらけだ。

多くの罪なき人々が殺され、その身体を弄ばれる。
この現実を目にすることにジゴズはもちろん、他の騎士達も憤りを感じていた。


「…敵の出方は先ほど見た通り、筒状の物から高速で鉛の弾を飛ばし攻撃してくる。それだけで後は取るに足らない」

「はい、実際にこちらの魔法防御の 甲冑のお陰で怪我人は出たものの死者は1人も出ていないです。馬を失ったのは辛いですが…それでも生きているだけ幸いだと思うことにしましょう」


王国の有り余る財源で魔法防御が付いた鎧を特注で用意し、騎士団にいる騎士が全員装備していたことが幸いして全員が致命傷も受けずに撤退できた。

代わりにそういった装備や馬具を付けていなかった馬をほとんど失うことになったが、兵力が万全の状態でいられることが今の状況下では最も重要だ。なにせ相手は『伝説』の化け物であり、12の騎士団の1つをまとめる騎士団長のジゴズですら「持ちこたえるのは難しい」と薄っすらと思わせる存在だ。

いくら死霊人グールを何体でも倒せる彼でも、操り手でありながら初代死霊術師ネクロマンサーすら上回る空前絶後の強大な魔力を見せつける死霊術師ネクロマンサーに勝てるか分からない。


「…とにかく今は戦線の維持だ。死霊術師ネクロマンサーが鉛を飛ばして少しずつ体力を減らしてくる小競り合いには何としても耐えろ。攻めてもあの死体と筒の前に鎧の耐久力が持たない、援軍が来るまで持ちこたえるよう」


全隊に報告しろ、まさにそう言いかけていた瞬間。
突如先ほどから響いていた鉛玉を飛ばしていた音以上の轟音が鳴り響き、ジゴズ騎士団の陣地の目前の草原の一部が大きく弾け、地面が抉れたのだ。

衝撃波が生じた事によって騎士の数名が倒れたりしたがジゴズや古参の騎士達はなんとか耐え、彼らは揃って驚く前に攻撃元を探し始めた。
ジゴズは、彼らは息を呑んだ。
その姿を見つけた彼らは言葉も発せず、一瞬の間を開けさせた。


「……な、何だあれは!?」


一人の初老騎士が叫ぶように挙げた声が彼らの固まっていた口を開けさせ、口々に驚愕の声が飛び交い、彼らの間で交錯する。


死霊人グールじゃないぞあれ!!」

「で、デカイ…鉄の魔獣なんて聞いたことがないぞ!?」

「まさかあれが死霊術師ネクロマンサーなのか! それならこの破壊も頷ける!!」

「あの魔獣に付いている筒、死霊人グールの持ってるものと同じだ。同じ原理で飛ばしているのか?…」

「恐ろしい…もしあれに当たっていたら木っ端微塵だ…」


憶測や畏怖の言葉が彼らの中で飛び交うが、ふと何処からか平原中に 誰かの声が響く。


『初めましてデザールハザール王国の騎士の皆さん、私はこの死体達を率いる死霊術師ネクロマンサーであり将軍のルイディだ。本日はこのような威力調査と茶番に付き合ってくれて感謝する。貴方達の強さは私の願いを叶えるのに必要不可欠であり、思想を超えた民族の統一を成し遂げる先駆に相応しい。今の砲撃は開戦の狼煙だ、我が軍の戦力増強のために一人残らず、デザールハザール王国ごと死んでくれ』

「なんだと?」


ジゴズは突然聞こえてきた声が言っている意味を理解した上で、それでも大きな声で死霊術師に疑問符を投げかける。


「ちょっと待てルイディとやら!!!どうして他国の村々を襲って得た死体を使ってデザールハザール王国を攻めてきた!?仮に戦力を得ると言うのなら帝国を攻めた方が無駄な移動もせずに済むし貴様にとっては都合がいいはずだろ!!」


声は草原に響き、ジゴズの声が聞こえたのかまたもや死霊術師ネクロマンサー・ルイディは声を風に乗せて答えた。


『それについてはジゴズ騎士団長、貴方の意見に賛成だ。デザールハザール王国の領地内の村を襲った方が早い。それは明白だ。だがここまでの行動は我らを呼びし神が下した事だとしか言いようがない、デザールハザール王国の陥落、それが我らの最優先任務なのだから』

「神?……神とはなんだ!!我らってことは他にもお前と同じように知性がある魔獣がいるってのか!!」

『あぁ…喋りすぎましたか。まぁデザールハザール王国で一波乱起こして死ぬ運命のはずの彼らの事だ、どうでもいい。とにかく私は私の願望を叶える事に専念します』


ジゴズの質問に答えるのが面倒になったのか。
そこから先の発言はただ一言。


『死ね』



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ラズヴァ・ルイディ。
ドイツ陸軍にいた兵士であり、世にも悪名高い収容施設に従属していた青年。
士官でもなければまともな学校を出ていない招集された者でありながら、彼が崇拝し尊敬している総統への忠義は他の誰にも負けないと言っていいほどだった。

だが彼はその背中を見ていくうちに。
戦況が追い詰められるほどに。
多くの仲間が死ぬ光景に。
自分の目の前に連合軍兵士が現れ発砲した時に。

彼は素朴な疑問を持つようになる

なぜ揃いも揃って『国や民族という括りに縛られているのか』と。
彼は人を殺した事があった。
その光景を始めて見たとき、それが生物の摂理だと片付けたが、連日の敗戦の報を聞き戦友の訃報の報を嘆いていくうちに『生』というものに嫌悪を抱き始めた。

なぜ悲しむために生まれるのか?
なぜ殺しあってまで思想思考を主張するのか?
なぜここまで矛盾しているのか?

いく日もその考えで思考が固まり、死ぬ前まで答えは出なかった。
だが彼は答えを得る。
皮肉にも生を失う瞬間に彼はやっと分かった。


生きとし生けるもの全てが死に絶え、民族、種族、国、全ての括りから解放される死こそが1つの種族であり、それを誰かが…総統のように相応しい人物が支配すればいい。
そうすれば誰もが幸せで恒久的な平和を得ることができる。 

ルイディは息絶える1秒前まで自身の叶えることが不可能な夢幻の思想を信じ、目の前が真っ暗になり意識が無くなるまで心で叫び続けた。


『死こそが全て!!全てが平等になる死こそが最高の民族だ!!生などは始まりでしかなくただ憎しみを増し、毒の様に精神を蝕む邪魔な存在でしかない!!そう、そうだ!!死を克服するのではなく、死そのものになり統括する事こそが最高の民族であり、本当の意味で永遠の平和を維持できる!!誰もが争わずに済む!!未来に起きる悲劇に苛まれながら生きずに済む!!争いがなければ世界に害を及ばす発展も無い!!これが出来れば…これさえ出来れば私は………我ら…そう、と……』


暗い意識に沈み、どんどん自分が自分じゃなくなる感覚。
死は平等。
自身の思想が正しいと改めて思い、その死に身を委ねようとした。
その直後、彼の真っ暗闇の意識の中で声が響く。


『面白い、面白いなその考え方。不可能を可能と思う、その破綻した思慮深さには私でも目からうろこが落ちそうだ』


声が聞こえる、とは少し違う。
まるで身体全てに響き渡るように男とも女とも言えない声を全身で感じた。


『生を憎み死を尊む、生命の摂理と輪廻の輪すら不必要と死しても尚訴える貴様の声、安心しろ、私は一言一句聞いていたぞ』


ルイディはその声に対して声を出して答えようとする。

「……」

しかし声は出ない。
死んでいるからだろうか、声を発することも唇を動かすことも出来ない。
それでも身体に響き渡る声の主は声なき声の質問に答えた。


『私か?……そうだな、私は『神』だ。正し、ある意味で神であって本領は出せないもの』


「……」

信じられない。


『神の存在を信じられない?それは当然か、死を賞賛することは神の創造を蔑ろにすることと同義であるからな。では貴様に夢幻の思想を叶える力を授けよう』


「……?」

力……?


『我が腕に集まりし大罪と無念を抱き死に絶えた名前無き者よ。死を広めよ、女神を殺せよ、壁を壊せよ、私を讃えよ。ラズヴァ・ルイディ、世界に名を忘れられた大罪人よ、神の定めた摂理を壊したいその理想、今から生身の肉体と死霊術師ネクロマンサーの力を与えてやるから叶えるが良い!』


その瞬間、彼の体に力が湧き上がり、彼は復活を遂げた。
異世界で、魔獣として。


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ルイディは生前なら着ることもなかったはずのドイツ軍将校の軍服を着こなしながら、ドイツ軍の使用していた戦車の主塔から身体を半分出して外を眺める。

多くの死霊人グールが我先にとマシンガンとライフルを構えて前進する。
その先で立ちふさがる簡易的な陣地と重装備の騎士達。
何度も小競り合いをして得た騎士団のパターンを考察し、ルイディはただの独り言を発する。


「…銃が剣や弓の前に倒れるとは思いませんが、ここは全兵を使って死体確保に専念するべきでしょうか。魔力の1/90を使って威嚇用の戦車まで出したし、これを無駄なく活用したいですが……仕方ない」


彼はそう結論づけると再度、騎士団の陣地に突撃して行く死霊人グール、彼らが装備しているドイツ軍兵武装に冷酷な笑みを浮かべ、その後に表情を変えて満足げな顔になる。


「あぁ、我が友、我が同胞、我が文明の英知と争いの最先端である我が祖国の装備、莫大な魔力で精製した『虚像』を纏う死の種族。何とも美しいのか、何とも気高いのか、誇りもないのに勇敢なその姿こそ私が求めた最高の民族だ! 恐れずに進め死の種族、勝利の死を広めるのだ」


彼が声高く戦車の上で自身が操っているはずの死霊人グールを、まるで生きているかのように褒め称え、賞賛する。

その間に先兵が騎士団の陣地にたどり着いた。
ルイディは騎士団の中で騎士の死体が出来次第即座に操れるよう、『最高の英知でありながら最低の堕落を与える魔法』を詠唱し、騎士団同士で死と生の戦いを拝見しようと楽しんでいた。


「あぁ我が祖国の軍力と異世界の騎士の力はどれほどか、本気を出してない私にどこまで抗えるのか、楽しみだ! ……死は喜びを感じないが、私は楽しい!あぁ、生とはなんて邪魔なんだ!これでは私も矛盾している。だが私が魔獣になればこの邪魔な感情も消える、これぞまさに矛盾を打ち消す死だ!」


まだ後方に控える多くの死霊人グール達の中でただ一人楽しそうにテンションを上げるルイディだったが、ふと自身の指先を注視し始める。
手が軽くなる。
何も持っていないはずの手がフワッと軽くなる感覚が神経を通じて彼の高揚した頭の中を走る。
寒くもないのに急に悪寒がするのと同じように。


「…なんだ?なぜ死体を操る感覚が無くなる? 死体に着けていた魔力の糸が断ち切られた? だが騎士団長ですら切れるはずもない不可視の糸だぞ、それが切れるはずは……」


彼の指先には糸が出ている。
正確には使役させる死体と同じ数の多くの糸が無数に伸びている。


伝説の魔獣、過去にいたルイディの前の死霊術師ネクロマンサーは人間でありながら魔法を極めた後に堕落し、知性無き魔獣に身を落とした。
だがそれは、この死体を操る魔法に問題があっただけだ。

死体を操る。
それはただ傀儡を動かすのと同じように熟練した技術がいる高等術の1つだ。

しかし、この世界の魔法や魔術ではどんなに魔力が有っても死体を操る操作が両立することはない。
死体を操り動かし、それが多数なら魔力の消費と精神の消耗も激しくなる。
それが時を経っていけばやがては死霊術師ネクロマンサー自身も正気を保てなくなり、術者が死体を操っているのか、魔法が彼らを操っているのか分からない状況になり、やがては人の身でありながら伝説の魔獣と呼ばれる理性なき生き物に成り代る。

そう、初代『死霊術師ネクロマンサー』はその経緯を経てから魔獣となり、伝説を残した。

だがラズヴァ・ルイディは違う。
彼は『無尽蔵の魔力』と『死霊術の仕組』を神と自称する者から授かり、会ったこともない初代とは遥かに違う効率の良い使い方をしていた。

初代は五本の指で死体の一体一体の動きを正確に動かし、また別々に命令させて俊敏に動かすことを得意とした。

それとは変わってルイディは無尽蔵の魔力を指の一本一本に集約させ、一本につき1000体分の糸を伸ばしていた。そして、命令も簡単なもので『引き金を引く』や『突撃する』を部隊ごとにまとめて命令していた。
死体を慎重に操るのではなく、ただ言っているだけで動かす。
負荷もただ魔力がごっそり減るだけで肩が凝る程度であり、重複して使用している『ドイツ軍装備一式』の『虚像魔法』合わせても顔色が変わることも無い。

人間では出来ない、魔獣として転生し『神』から授かった神知の力を上手く使いこなすルイディはまさに初代ですら凌駕する化け物だ。

そんな彼だからこそ、大きく太いはずの糸が数本断ち切られたことに不満気になる。
魔力は常人では見えない。
それこそ魔を極めし者のみだ。


騎士団長サツキ・ヒビノ。


デザールハザール王国1の魔法騎士の彼女の様に魔法に特化した騎士なら不思議ではないが、今相手しているのは魔法が使える騎士が少ないはずのジゴズ騎士団だ。
いくら騎士団長が魔法を使えてもその糸を『膨大な魔力で断ち切る』ことなど出来るはずもない。
ただ硬いだけの麻縄とは違う、鋼鉄の様な強度を誇るはずの糸だ。


だが、それが切れた。
しかも一体ではなく数十体分の糸が。
何が起きた?


さっきまで自身の勝利を確信し喜びに満ちていた表情は消え、予期せず事態に若干の苛立ちを乗せて双眼鏡で糸が切れた死体の周辺を眺めながら索敵する。
そして見つけた。

奇妙な姿の剣士を。


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