異界に迷った能力持ちの殺人鬼はそこで頑張ることにしました
36話 銀仮面のアーシャ参上
最初はこの様な事態になって騎士団の若き命を散らせてしまう事に躊躇いを感じた。
ジゴズは、彼自身も初の知性がある魔獣と謎の装備をした死霊人達に決して畏怖を感じはしなかった。
このまま通せば祖国が滅び、また多くの民の血が流れる。
それを阻止するにはここで魔獣達を止めなければならない。
だが、ここにいる騎士達は訓練だけで体を鍛えるも、魔獣を倒した経験の少ない新米の騎士ばかりだ。
その様な者達ばかりの騎士だからこそ、多くの者は足や体をガクガクと震わせ、高級な鎧が擦れる音が彼方此方から聞こえてくる。
ザッ、ザッ、と足音を轟かせながら近く死体達。
もちろん弓矢を使う事も出来るが、あの死体はどういうわけか再生する。
先ほどもジゴズが一人で斬り倒した追撃部隊も、バラバラの身体が全て元の部位に戻り、何事もなかったかの様に背中を向けて魔獣の軍団内に戻っている。
では燃やそうと火の矢を放ったが、火がついた死霊人は地面に倒れて火を消す。
刺さった矢も死んでいるのかあまり意味がなく、無駄だと考えて今では矢も使えない。
「…ジゴズ様、我々はどこまで行けるでしょうか」
敵の宣戦と本気を出した攻撃の前に策も尽きたパテルマは落ち着いた声でジゴズに問う。
対してジゴズは力強く「大丈夫だ」と言って大きな声で全騎士に告げた。
「聞け!我が騎士団の諸君! これから行うは正義と騎士の務めである! 援軍が来るまで死ぬ気で剣を振るうがいい!!悪しき魔獣が我らの勇敢な姿に驚嘆する様を目にするまでは死ぬな!!守るべき民を守る剣を死んでも地面に落としてはならない!! 我らこそ不落の王国の騎士と奴らに示してやるぞ!!」
騎士達の士気を上げるジゴズの声に諦めの色は無かった。
まるでまだ勝つ気でいる。
未だに死の恐怖に怯える多くの騎士達は発破を掛けるジゴズに理解ができない目を向ける。
それでも騎士団長は、ジゴズは視線も負の感情も全て受け止めながら彼らに言った。
「…よく聞け。お前達は我らが愛すべき人達が殺され、死体にされて一生傀儡にされるのを許すか? 俺には無理だ。だからこそ俺たちに出来ることを、愛しき者を凶刃から逃すために、戦うんだ。逃げたければ逃げるが良い、勇姿を後世に伝える役目を担いたければ急いで走り逃げるが良い。無理強いはさせない、しかし、途中で殺されでもしたらあの世で俺が何百回も殺してやる。それほど重要だぞ」
ただそれだけ。
全体に届いたのか、一部の騎士には聞こえなかったかもしれないジゴズの言葉。
パチパチと最初に静寂を破ったのはパテルマだった。
それに続いて1人、また1人とジゴズの言葉に対して拍手し、やがては騎士団全員が言葉に賛同の意を向けた。
「……そうだ!我々は負けるわけにはいかない!!」
「あぁ! ここで負けりゃ俺たちの家族まで殺されて操られちまう!」
「魔獣がなんだ、あの世で殺しに行くと言ったジゴズ様の方が恐ろしいに決まってらぁ!!!」
「行くぞ!!」
先ほどまでの通夜帰りの顔は何処へやら。
兜を被っていてもどんな表情をしているのか分かるほど、緊張も恐怖も無くなった声を出す。
雄叫びをあげてお互いを切磋琢磨する騎士団は、そのまま全員が臨戦態勢に入る。
騎士達は皆剣を構え。
ある者は大鎚。
ある者は槍を向け迎撃の準備に出た。
本調子を出す。
そうしている間に、柵に一体の死体がたどり着き雪崩れ込むように他の死霊人が先にぶつかる。
「行くぞお前ら! ジゴズ騎士団の勇姿を見せてやるぞ!!」
『応ッ!』と騎士達が口にして武器を振るう前に、ある異変が起きた。
突然騎士達と肉薄していた死霊人達の五体がバラバラに斬られ、彼らの間で何か素早く動いている何かのせいで突風が巻き起こる。
まず最初に、何が起きている。と思ってしまうほどの事で、ジゴズですらそれが何なのか見えなかった。
ジゴズは目の前の死体の、動かなくなった残骸に呆然としてしまう。
そしてふと目線を死霊人の攻撃が一番激しいと思っていた場所に向ける。
斬り捨てた死体達の中で唯一騎士団の者ではない。
そして怪人はただ一言。
「悪を倒すために死を覚悟する。騎士なら当然です」
それはある騎士がよく使っており、ジゴズが質問すれば必ず言葉に混ぜて受け答えていた。
誰よりも騎士らしく、強くなろうとした少女。
今は亡きあの少女の声。
だからこそジゴズは、唖然とする声を無理やり出してでもその名前を言いたかった。
だがその前に、銀仮面を着け、この場ではあまりに合うこともない姿の剣士はジゴズや騎士団に名乗る。
「どうも初めまして! 私は通りすがりの謎深き剣士です!ちょうどここを通ったので、偶々ですが、ほんーーーとうに偶々ですが!この騒動に乱入しました。理由があるとすれば、騎士の皆様の勇姿を見ていたら体が動いてしまいました!! って事でしょうか。何やら苦戦気味ですが、安心してください!この謎深き剣士……そう!銀仮面のアーシャが来たからにはもう大丈夫です!」
そう言って『銀仮面のアーシャ』は自身が持つ剣を天に突きつけ、明らかに見せつけるようにポーズをとる。
ぽかん、と口を開けて動きを止める騎士達。
ジゴズですら手を止めていた。
しかし死霊人は動きを止めない。
まだ斬られていない後続の死霊人は先に乗り込んだ死霊人の動かなくなった骸を踏みつけながら陣に入り込もうとする。
だが、それを『銀仮面のアーシャ』が許すことはなかった。
突き上げていた剣を下ろすと、そのまま常人を遥かに超える跳躍を見せて死霊人の背後に回る。
するとまたも突風が吹き、いつの間にか消えていた銀仮面の周囲にいた死霊人達がバラバラになっていく。
斬る姿をジゴズ以外は視認出来なかった。
高速の域から出て静止した銀仮面は、剣を死霊人の軍団に向けて高らかに宣誓する。
「悪しき魔獣よ、デザールハザール王国を脅かす巨悪よ、この……えと、…あ、アーシャだった…。この偶々通りかかったアーシャが貴様を倒してやる!!!………というか私すごいな、糸みたいなのも見えるし切れるし、最高!」
1人意気揚々に語りながら、それでも銃剣で向かってくる死霊人を片手剣で軽くあしらう様に倒していく。
「それにしても、遠征軍にテラスの気配は無しか…魔力が分かるってのも少し難儀だな……別に良いか、さぁ、どんどん来なさい!」
余裕に語る銀仮面のアーシャ。
そこに死霊人は迷いなく銃を向けて鉛玉を放つ。
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