異界に迷った能力持ちの殺人鬼はそこで頑張ることにしました

鬼怒川 ますず

26話 シャデア・パテルチアーノ

「……うぅ、ここは? 神が住む天界ですかね♪」

「地獄行きなのは確かだからここが天国なのは合ってるな」


気絶から回復した生首のジャックが起きて早々に妄言を言ってくるのでナナシは適当に返しておく。
急に言葉を喋る白髪の男の生首に、フィンやシャデアはビクリと年相応の少女らしく驚く。
テラスも驚くべき歳なのだが、昨晩見ていたので慣れていた。
そもそも、歳をとっているから驚かないという話もおかしなものだ。
普通なら生首が喋ったらその場から逃げるものだ。
しかし、この場にいるのは全員が肝の座った人物ばかり。

ナナシはこの面子に心から『変人に出会っちまったな』と敬意を表して本題に戻る。

「おいジャック、お前はこの女に見覚えないか?」

ナナシが親指を向けてさすシャデアの方向にジャックは視線を向け、少し考えてから言う。

「もしかして、この前食べたお嬢さんでしょうか♪」


二マリと笑みを作ったジャックに言われたシャデアはとても不愉快だったらしく、蛇をも威殺しそうな睨みをジャックに向ける。

シャデアが何か言いそうだったので、逸れてしまっては面倒だと思いその前にナナシが話を進めた。


「そうこの前お前が殺した少女だ。でだ、その少女が生き返って何故かこんなにも姿が変わっている。何か知ってるか?」

「さぁ?私は神の御言によって力を得た。その他の者たちとは違ってあっさりしていましたけど、これほどの奇跡を手に入れたんです。彼女も奇跡が起きたんじゃないですか♪」

「よし、お前が今言ったその他の者はどうやって力を貰ったんだ?」

「フフーン♪ 確か、腕を一本失くされたあの人、それとブリキの体にされて手に入れたあいつ、お菓子を食べたあの可愛い子供たち、あとは聞いたこともない毒を飲まされた聖職者様……」


ナナシはこれも徒労で終わるのだろうかと、目の前でよく分からん力を習得するよく分からん内容に顔を覆いたくなるが、その中でシャデアとテラスが顔色を変えたのでナナシはふと聞いてみる。


「おい、まさか知らない人から物をもらって食べたとか言うんじゃないだろうな」

「ま、まさかーそんなことあるわけないですよー」

「おい魔獣、ちなみにそのお菓子って具体的にどんなやつなんだ?」


棒読みで汗を流しながら答えるシャデアと魔獣に急いで確認を取るテラス。
ジャックはジャックで思い出すように両目をつぶって唸る。


「う〜ん………確かクッキーなどの焼き菓子でしたね♪ …どうしたんですか私が殺したお嬢さん♪ 顔色が悪いですよ。 まさかですが……もしかして貴女、そのお菓子を誰かからもらって食べたんですか?」


魔獣が何気無く尋ねるとシャデアは視線を逸らし、テラスは頭を抱えていた。
心当たりがあった。


「あの老婆だね……」

「だから言っただろ、人から物をもらって無闇に食べるなと…」


二人はナナシとフィンに親切に片付けを手伝った時にシャデアがお菓子を貰った時の話をし、それにナナシはもう一度深いため息をつく。
否、ため息しか出ない。
止めたテラスは良いとして、シャデアのその受け答えはなんだかもう……。


「毒入って死んだら意味ねぇんだから、そんな怪しいモン食うな。そもそもお前の目指す騎士は死なねぇ体持った不死身かなんかか?」

「ご、ごめんなさい……」


ナナシが言いたいことをシャデアに言うと、シャデアはシャデアで顔を俯かせながら謝る。
まだ言いたいことはあるが、とにかくシャデアがその老婆から貰った焼き菓子を食べてこの状態になった事だけはわかった。
問題は、彼女が何になったかだ。


「おい、お前はこいつが魔獣になったのか分かんねぇのか?」

「…まぁ私も魔獣ですのでそれなりの同族センサーはあります…しかし、このお嬢さんは同じ魔獣とは違うと言いますか…近い存在なのは確か…ですね。よく凝らして見ると内包している魔力の量が尋常じゃないですね。人間が本来持つ魔力の数千倍は有るのでしょうか? 私も軽々と超えていそうな魔力ですよコレ……」


長々と、訝しげにジロジロとシャデアを見ながら言ったその言葉に、フィンがようやく口を開いた。


「つまり……今のシャデアは人間ではないんですの?」


フィンが恐る恐るジャックに聞くが、ジャックは「えぇ」と答えて肯定する。
その答えはナナシも予想がついていた。

シャデア・パテルチアーノは、もう人間ではない。
ジャックが言う魔獣に近い存在にとなっている。

それがショックだったのか、さっきからシャデアは何も喋れずにいた。

無理もない。
まさか人々を守るための騎士になろうとしていた少女が、人々に嫌われている魔獣になってしまったのだから。

しかも、その事実を自分を殺した魔獣に告げられると言う屈辱的な状況も相まって、シャデアの精神はナナシでも察せる。

多分、死んでいたほうがマシだと思っているだろう。
他の人間の前にだって、魔獣になって生き返った姿で出るのは彼女の騎士のなんたらが許しはしない。

ナナシにはそう思えた。

だからこそナナシはシャデアに少しばかりの同情を…。


「……ごめん、私の魔力が尋常じゃないって事は…私が魔法とか使えるって事だよね?」

「え? そうですけど…その魔力ならほとんどの魔法は使えると言っても過言じゃ…」

「やったーーーーーーーーーーーーッッ!!!」


両手を空高く突き上げ、天井に届きそうなくらい飛び上がる。
その顔はさっきまで暗かった大人の顔とは違って、生き生きとした少女の笑顔だ。



前言撤回しよう。
どうやらこのクソガキ騎士は、何の躊躇いもなかったようだ。

魔力が膨大だと言われて舞い喜ぶシャデア。
テラスやフィンも突然の豹変ぶりに、ひっくり返った。


「おいシャデア!! なぜ喜べるんだ!?仮にもお前魔獣と同じ存在になったって言われてるのに!!」

「私の望んでいた夢が叶ったら喜んじゃうって!あ〜魔法か〜、私ってば底辺から最高位の魔法使いになれちゃったんだ〜〜」

「シャデア!? 貴女はそれで良いんですの!?」

「はいフィンお嬢様! 私は王国を、フィンお嬢様を守れるならばこの身を魔に落としても構いません!」

「あぁ……すごい明るく輝いた笑顔です。…こんな顔のシャデアを見るのは子供の頃以来ですわ…。その顔でそう言われてしまっては…私は何も言えませんわ」


ギャーギャーと、喜びで顔がにやけてながら騒ぐシャデアとそれに対して呆れるテラス。フィンはそんなシャデアの顔を見てガクリと肩を落とす。

この状況に生首のジャックは「楽しそうですねー♪」と視線をナナシに向けるが、この部屋の騒ぎの認識を他の人間に対して無かったことにしていたナナシは「無駄かな」と、今にも能力を切ってしまいそうだった。


【シャデア・パテルチアーノ。】

【老婆から貰ったお菓子を食べ、死んで生き返ったら王国一の魔力を持っていたようです。】




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