異界に迷った能力持ちの殺人鬼はそこで頑張ることにしました
18話 最初の終わり
ナナシが異変に気付いたのはすぐだった。
まず笛の音を聞いた。
能力を使って気配を消していた彼は、ユーヴァン街のすぐ近くで見回りをしていた兵士達が笛の音が響いた方向に向かって走り出したのを目撃したので、その方向に殺人鬼がいると確信しその後を追いかけていくことにする。
時々、正規の兵士や騎士以外にも大剣を担いだ男やフードを被った杖持ちの女を見かけたが、どうやらこの街で言われている魔獣ハンターという者らしい。
彼らも笛の音に導かれて走り出す。
さすがにここまでのギャラリーがいたら殺害はできない。たとえ能力を使ったとしてもそれは彼の中のルール違反にもなってしまう。
そう考えて諦めようと走るのをやめようとした。
ちょうどその時、女の雄叫びが響いたのだ。
周りで走っていた兵士や騎士、魔獣ハンター達はその声に怖気付き、全員等しく足を止める。
ナナシもその1人だった。
ただ、彼は怖気付いたのではない、その声に聞き覚えがあったから止まったのだ。
「……シャデアか!?」
感情のない顔の下に、いつもだったら浮かばせない焦りの感情がざわめく。
まさか、そんなわけはない。
ナナシは一刻も早くその声のした場所に向かう。
声のした場所はフェルド街。
自分が宿を置き、その近辺をシャデアが所属するジゴズ騎士団が管轄している場所だ。
兵士達を抜かし、風のように走り抜けるナナシ。
しばらくして今度は男の慟哭が聞こえた。
これも聞き覚えがあった。
テラスだ。
彼は似合わず舌打ちして、さらに速度を上げて走る。
やがて、目の前が松明やランタンで明るくなった場所にたどり着く。
そこには大勢の騎士や兵士、ちらほらと魔獣ハンターの姿がある。
そして、彼らが見つめる路地裏の方からテラスの泣き叫ぶ声が響いてくる。
それを見てナナシは、シャデアの死を悟った。
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「……ア"ア"……笑えません……でも笑います♪」
さっきまで人外に化けていた魔獣は元の人型に戻り、壁に手をついて自らの体を引きずって歩く。
まさか、無名の騎士にここまでやられるとは……。
油断した。
愛の力は尊い。
今回学んだ教訓はそれだけ。
200年前にこの世界に来てから、あれほど強い騎士と戦ったのは初めてだった。
だが、それだけではない気がする。
根本が間違っていたように思えた。
そうでなければ、人間を数千人殺してきた自分がここまで手負いを受けるわけがない。
そう冷静に判断しながら今でも聞こえるあの青年騎士も声を聞く。
悪い事をした。
胸中では悪く思っているが、その反面その顔にはニタニタと笑いを貼らせていた。
いつからだろう、自分が人間をやめたのは。
「……でーも!美味しくいただいたしィ〜♪ 今回は運が悪かったってことでいいかなぁ!」
そう言って、少し苦しそうに魔獣は路地裏の闇に隠れる。
その顔は少しばかり悲しそうだった。
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