異界に迷った能力持ちの殺人鬼はそこで頑張ることにしました
12話 才能と適性
すでに日は落ち、辺りは真っ暗になっていた。
人々は朝から働いてきた体を休ませるべく、飯屋、酒場、風呂、風俗といった娯楽に浸る。
その中で、真っ暗なあき地でキンキン、と剣を打ち合う者達がいた。
ナナシとシャデアだ。
あのあとすぐに目を覚ましたシャデアに謝罪をして、それを許してくれたシャデアが、今度は真剣での稽古にやる気になったようで、一心不乱にナナシに斬りかかって行った。
もちろんナナシも受けてばかりではなく、きちんと寸止めしながら無力化している。
戦績で言うと65勝0敗といった具合に。
まだ一時間しか経ってないのにこれだけやられる現状に歯噛みするシャデア。
だがシャデアもただ無力化されていっているわけではなかった。
ナナシの先を前の戦闘で学び、そこからどう斬り崩すか考えるようになった。
一瞬の思考がどんどん速くなる感覚に、シャデアは歓喜していた。
まさか真剣を使った緊張感のある稽古が、これほどまでも有意義だったなんて思ってもみなかった。
そう考えているうちにナイフの反りが彼女の首に当たる。
それだけでシャデアも動きを止め、試合がまた終わる。
「こいつで66勝……余所見をするな、一瞬が命取りになる。動きに無駄はなくなったが、 まだまだ洗練できるはずだ」
「ありがとうございます! 」
ナナシがナイフを離すとシャデアは汗だくになりながらお礼を言う。
ナナシはそのお礼に頷いて返し、ナイフを懐にしまう。
「今日はこのへんにするか。力は元々特訓していたから充分あるが、技術が型にはまったただの剣術だけで少々危惧したが、この短時間で俺と18回も打ち合い、4手先まで読むといったまでに成長するとは……お前には才能があるな」
「そうですか? 私は必死だっただけですし」
「その必死さが大切だ、守るってのは……必死に武器を振るうことだからな」
口にした今の言葉に、心が重くなる。
殺すのを楽しみ、それを仕事にしてきた。
その自分が口にした『守る』という言葉はある同業者が口にしていた決め文句だったのを思い出す。
シャデアがキョトンとナナシの顔を見つめるのでそれに気付き、そっぽを向いて視線を外す。
「ま、このへんで稽古は終わりにしようか、暗くて何も見えないし、この後は宿も探さなくちゃならない」
「そうですね、私もこの後は夜の見回りを任されていますし……今日はここまでですね」
「明日も同じ夕刻で大丈夫か?」
「大丈夫ですよ! むしろ明日もお付き合いしていただけるなんて最高ですよ!」
さっきまで真剣に神経を注いでいたシャデアは、明日も稽古をしてもらえることに疲れた顔も晴れて笑顔になる。
そんな彼女を、少しばかり羨ましく思うナナシ。
2人はすぐに片付けると空き地をあとにする。
帰り道、シャデアが住み込みで勤めている屯所まで送り届ける際に、ふとナナシが思い出す。
ちょっとした疑問をシャデアに聞いてみる。
「そういえば、この世界では……まほうってのはあるのか?」
「ありますよ? どうしたんですか急に……もしかして魔法とかって初めて見たりするんですか?」
「まず俺のいたところに魔法なんてもんはなかったな……」
もちろん超能力はあるが。
ナナシは今朝から異様な光景を何度も見てきた。
例えば二軒目の武器屋を出たところの目の前で、耳の尖ったエルフの少女が荷台から大人でも苦労するであろう荷物を軽々と宙に浮かばせ、維持したまま商人と商談をしていた。
街中ではそれが普通のように、みんな魔法には注目などしていなかった。
魔法というと、幼い頃の記憶では同級生がそう言ったゲームで盛り上がっていたのを思い出す。
ゲームやそれに関連した題材の作品を見たりやったりしたことがないのでうろ覚えだが、たしか魔法は超能力と同じ位置にある『架空』存在だった。
「普通の人や種族はまず使えないですが、エルフなんかの種族を中心に、才能がある人たちは生まれ持った魔力がある限り魔法を無限に覚えて使うことができるそうです」
「ふーん、つまりは使い勝手が良い道具みたいなもんか」
「えぇ、実を言うとテラスもフィンお嬢様も魔法の才能があるんです。しかもどちらも稀代とかで結構強いんですよ」
それを聞いて、ナナシの頭にはあの強がりで言いたい事の反対を言う偉そうなあのテラスよ、お淑やかでない胸で胸を張る少女フィンを思い浮かべる。
あいつらなら覚えるだろうな。
まぁどちらもこのシャデアより見た目が弱そうだったので、魔法とやらが使えることに少しばかり感心してしまう。
ふと、急に静かになったシャデアが気になって顔を見る。
シャデアは悔しそうに唇を噛んでいた。
「……才能があるから、二人には……」
それを見てナナシは悟る。
シャデアには魔法の才能がない事に。
ナナシの視線に気づいたのか、さっきまでの暗い表情は消え、いつも通りの笑顔に変わる。
「ま、魔法はとにかくすごいんですよ! 私ってば適性がないから時々羨ましく思っちゃうんですよ! あはははは、まったくすいません、変な顔見せちゃって!」
「おぉ、そうか……」
「そ、それじゃナナシさん、ここまでで良いですよ。明日も稽古をお願いしますね!」
そう言って深くお辞儀をするシャデアに「おう」と生返事を返す。それを聞いてすぐにシャデアは飛ぶように走り去っていった。
手を振ってシャデアを見送るナナシは彼女の心境を理解していた。
おそらく、魔法が使いたかったんだろう。
だが、そんなシャデアの事情も気になるが、そんなのは後回しだ。
今は大事な大事な、大事なことの準備をしなくてはならないから。
「……さて、久しぶりの殺人だ」
そう呟くナナシの顔、スパイマスクには奇妙な笑顔の表情を浮かばせる。
人々は朝から働いてきた体を休ませるべく、飯屋、酒場、風呂、風俗といった娯楽に浸る。
その中で、真っ暗なあき地でキンキン、と剣を打ち合う者達がいた。
ナナシとシャデアだ。
あのあとすぐに目を覚ましたシャデアに謝罪をして、それを許してくれたシャデアが、今度は真剣での稽古にやる気になったようで、一心不乱にナナシに斬りかかって行った。
もちろんナナシも受けてばかりではなく、きちんと寸止めしながら無力化している。
戦績で言うと65勝0敗といった具合に。
まだ一時間しか経ってないのにこれだけやられる現状に歯噛みするシャデア。
だがシャデアもただ無力化されていっているわけではなかった。
ナナシの先を前の戦闘で学び、そこからどう斬り崩すか考えるようになった。
一瞬の思考がどんどん速くなる感覚に、シャデアは歓喜していた。
まさか真剣を使った緊張感のある稽古が、これほどまでも有意義だったなんて思ってもみなかった。
そう考えているうちにナイフの反りが彼女の首に当たる。
それだけでシャデアも動きを止め、試合がまた終わる。
「こいつで66勝……余所見をするな、一瞬が命取りになる。動きに無駄はなくなったが、 まだまだ洗練できるはずだ」
「ありがとうございます! 」
ナナシがナイフを離すとシャデアは汗だくになりながらお礼を言う。
ナナシはそのお礼に頷いて返し、ナイフを懐にしまう。
「今日はこのへんにするか。力は元々特訓していたから充分あるが、技術が型にはまったただの剣術だけで少々危惧したが、この短時間で俺と18回も打ち合い、4手先まで読むといったまでに成長するとは……お前には才能があるな」
「そうですか? 私は必死だっただけですし」
「その必死さが大切だ、守るってのは……必死に武器を振るうことだからな」
口にした今の言葉に、心が重くなる。
殺すのを楽しみ、それを仕事にしてきた。
その自分が口にした『守る』という言葉はある同業者が口にしていた決め文句だったのを思い出す。
シャデアがキョトンとナナシの顔を見つめるのでそれに気付き、そっぽを向いて視線を外す。
「ま、このへんで稽古は終わりにしようか、暗くて何も見えないし、この後は宿も探さなくちゃならない」
「そうですね、私もこの後は夜の見回りを任されていますし……今日はここまでですね」
「明日も同じ夕刻で大丈夫か?」
「大丈夫ですよ! むしろ明日もお付き合いしていただけるなんて最高ですよ!」
さっきまで真剣に神経を注いでいたシャデアは、明日も稽古をしてもらえることに疲れた顔も晴れて笑顔になる。
そんな彼女を、少しばかり羨ましく思うナナシ。
2人はすぐに片付けると空き地をあとにする。
帰り道、シャデアが住み込みで勤めている屯所まで送り届ける際に、ふとナナシが思い出す。
ちょっとした疑問をシャデアに聞いてみる。
「そういえば、この世界では……まほうってのはあるのか?」
「ありますよ? どうしたんですか急に……もしかして魔法とかって初めて見たりするんですか?」
「まず俺のいたところに魔法なんてもんはなかったな……」
もちろん超能力はあるが。
ナナシは今朝から異様な光景を何度も見てきた。
例えば二軒目の武器屋を出たところの目の前で、耳の尖ったエルフの少女が荷台から大人でも苦労するであろう荷物を軽々と宙に浮かばせ、維持したまま商人と商談をしていた。
街中ではそれが普通のように、みんな魔法には注目などしていなかった。
魔法というと、幼い頃の記憶では同級生がそう言ったゲームで盛り上がっていたのを思い出す。
ゲームやそれに関連した題材の作品を見たりやったりしたことがないのでうろ覚えだが、たしか魔法は超能力と同じ位置にある『架空』存在だった。
「普通の人や種族はまず使えないですが、エルフなんかの種族を中心に、才能がある人たちは生まれ持った魔力がある限り魔法を無限に覚えて使うことができるそうです」
「ふーん、つまりは使い勝手が良い道具みたいなもんか」
「えぇ、実を言うとテラスもフィンお嬢様も魔法の才能があるんです。しかもどちらも稀代とかで結構強いんですよ」
それを聞いて、ナナシの頭にはあの強がりで言いたい事の反対を言う偉そうなあのテラスよ、お淑やかでない胸で胸を張る少女フィンを思い浮かべる。
あいつらなら覚えるだろうな。
まぁどちらもこのシャデアより見た目が弱そうだったので、魔法とやらが使えることに少しばかり感心してしまう。
ふと、急に静かになったシャデアが気になって顔を見る。
シャデアは悔しそうに唇を噛んでいた。
「……才能があるから、二人には……」
それを見てナナシは悟る。
シャデアには魔法の才能がない事に。
ナナシの視線に気づいたのか、さっきまでの暗い表情は消え、いつも通りの笑顔に変わる。
「ま、魔法はとにかくすごいんですよ! 私ってば適性がないから時々羨ましく思っちゃうんですよ! あはははは、まったくすいません、変な顔見せちゃって!」
「おぉ、そうか……」
「そ、それじゃナナシさん、ここまでで良いですよ。明日も稽古をお願いしますね!」
そう言って深くお辞儀をするシャデアに「おう」と生返事を返す。それを聞いてすぐにシャデアは飛ぶように走り去っていった。
手を振ってシャデアを見送るナナシは彼女の心境を理解していた。
おそらく、魔法が使いたかったんだろう。
だが、そんなシャデアの事情も気になるが、そんなのは後回しだ。
今は大事な大事な、大事なことの準備をしなくてはならないから。
「……さて、久しぶりの殺人だ」
そう呟くナナシの顔、スパイマスクには奇妙な笑顔の表情を浮かばせる。
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