学校一のオタクは死神でした。
第76話 何故此処に先生が!?
*第76話 何故此処に先生が!?*
その晩、事件は起きた…
「……おい、神藤。どうなっているんだこれは。」
「いや、それ、こっちのセリフですって…」
新と華菜のいる場所は、我らが一星学園2年が修学旅行初日にて寝泊まりするとある旅館である。
この旅館は話によると、たまたま地面を掘り起こしていた、この旅館の大旦那が、たまたま温泉を掘り当てたらしく、そこに建てた旅館だという。であるからして、ここは温泉旅館。つまり、温泉がある。
そして、まさに、新がいる場所がその温泉である。つまり、それは、華菜も同じ位置にいることを示していた。
* * *
数分前に遡る。清水寺からバスで出発した新達はその約30分後に今晩寝泊まりする旅館へと到着した。
荷物は既に清水寺を散策している間に運び込まれており、全員が清水寺で買った土産と持ち歩き用のカバンのみを持ち、旅館の中へと入っていった。
旅館は随分と大きな場所で、高級と言われても違和感を覚えない程の規模だった。
例えるなら…そう、椎茸頭の女将のいる湯屋的な雰囲気だ。
最初に、校長が旅館の女将を紹介し、代表生徒(会長さん)と女将が挨拶をした。
因みにその女将は、若返った湯○婆のようだった。
ここはジ○リですか…
付け加えると、その女将は旅館の看板娘を紹介してきたが、その看板娘の姿は、完全に千○だった…
マジで、ここジブ○かよ…
その後、各自部屋鍵を渡され、自分達の寝室へ向かい、荷物を置き、宴会場へ向かい、少し早めの夕食。
少し早いとはいえ、朝が早く、移動時間もかなりあった為、夕食は普通に食べることができた。
夕食のメニューは、やはり、京都の名物、湯豆腐。
見た目はただの豆腐たが、これが結構美味い。
その他様々な料理が並び堪能した。
その後、再び各自部屋へと戻り、それから直ぐにA組から順に約1時間間隔で入浴するよう言われた。
1時間とは長いような気もするが、この旅館の風呂は先程も言った通り、温泉であり、露天風呂しか無いのだが、何種類かの浴槽に分かれており、それも堪能するよう言われた。
しかし、これは新にとっては好都合。
バスの中まで冷房ガンガンにつけられていた新の体は冷えきっていた。湯豆腐で割と温まったが、それでも、就寝後にゴリラとイヤミが冷房ガンガンにすることは目に見えていた。
その為、いち早く湯へ浸かり、体の芯まで温め、そのまま流れるように寝てしまおうという作戦である。
そして、現在に至る。
流石と言うべきか、華菜も新もは大人である。新は見た目は青年、頭脳は大人。といった感じであるため、落ち着いている。
華菜はかなり顔が引きつっているものの、落ち着いている。
そして、互いの状況確認を図る。
「……質問、ここって混浴じゃないですよね?」
「……この旅館に混浴など無いと聞いている。」
「……じゃあ、何故先生がここに…?」
「……それは私のセリフだ…何故、女湯にお前がいる。」
「いやいやいや!!ここ男湯ですよ!?」
バチャバチャと水滴を飛ばしながら、手を振り否定する。
「いやいやいや!!ここは女湯だ!!じゃなかったら私が入っているわけないだろう!!」
華菜も同じくバチャバチャと水滴を飛ばしながら、手を振り否定する。
「そうですけど!!自分もここが男湯じゃなかったら入ってませんよ!?」
互いに言い合う途中、その言い合いを集結させる決め手になる言動が聞こえてきた…
『キャッ!!ちょっ、暴れないでよ〜』
『いいじゃん、貸切なんだし〜』
『あったかい〜』
キャッキャウフフ………
その声を聞いた瞬間、“華菜”の動きが停止した…。
何故ならば、今現在聞こえている少女達の声は、明らかに、新と華菜のすぐ隣に建つ、男湯女湯を隔てる“壁の向こう”から聞こえてきているからだ…。
華菜の顔からサーッと血の気が引いていく。
つまるところ、華菜のいる湯は新の言動通り、“男湯”なのである。
『おお!!すっげー!!広いぞー!!』
『俺一番乗りー!!』
『一番乗りとは言っても、さっき、神藤がすげぇスピードで先に行ったぞ?』
『な、なんだと…つまり、既に神藤はこの中に…!?』
『湯気たっぷりで見えないっすね…』
ハッハッハッハー!!
「どないしましょう、この状況…」
「………み、見るな!!」
「ば、バカ!!声が大きい…!!」
叫ぼうとした華菜の口を慌てて塞ぎ、新の体をの影へと華菜を隠し、音を立てぬよう少しづつ距離をとる。
華菜がモゴモゴと騒ぐが、そのまま塞いだ。
『ん?いま鉄仮面の声が聞こえなかったか?』
『鉄仮面って誰だよ…』
『んぁ?鉄仮面って言ったら、そりゃ…うちの担任だろ?』
『……それ、バレたら殺されるぞ。』
『バレねぇバレねぇって。』
『だったらいいけど…』
oh……何故だろう、口を塞ぐ新の手から異様に冷たい風が漏れているのは何故だろう…
見ると、華菜の顔が憤怒の表情に変貌していた。
あ、アイツ死んだな。
ご冥福をお祈りしますと、心の中で合唱する。
男子生徒達が体を洗い始めたのを見計らって、やっと落ち着いた華菜の口を解放する。
「……落ち着きました?」
「……落ち着いたのはいいが、そろそろその腕をどけてもらえないか?」
「ん?………あ、すんません。」
咄嗟に華菜を隠したせいか、新の腕は盛大に華菜の胸へと押し付けられていた。
…………やけにの感触が柔いと思った。
すぐさま腕を遠ざける。
「…………やけに落ち着いているな。」
「…いや、落ち着いてはいませんよ。平常心を保とうとしているだけです。」
「それより、こっちを向くな。背を向けろ。」
「あ、はい。」
言われてみればそうだ。
目の前に全裸の女性がいるとはいえ、堂々と顔を合わせているのは不自然だろう。
少し慌てたように背を向ける。
「………見てないよな。」
「………見てないですよ。濁り湯ですから。」
「………………………そうか。」
正直言って、半分嘘である。
濁り湯とは言えども、多少は透ける。
その為、極度に接近していた新は、その裸体を視覚の淵で目指していた。
ここで騒がれても、華菜は男子生徒に見つかり、どんな目にあうかわからない。
付け加えて、華菜の身に何も起こらなかったとしても、自分が疑われるのが目に見えている。
その為、嘘をついた。
しかし、その嘘も恐らくバレているだろう。
それでも、堂々と見たと言うよりはマシであろう。
さて、どうしたものか…。
ここは男湯。華菜は女性。
男湯の中で華菜が男子生徒達に見つかれば、華菜は教師として首を切られる。新は生徒として首を切られる。
どちらにせよ、華菜が男子生徒達に見つかるのはまずい。
華菜を女湯に入れようにも、無論、堂々と扉から出るのはOUT。男子生徒に見られなかったとしても、外で見張っている先生に見つかったら、華菜は教師として首を切られる。
壁をよじ登ろうにも、壁の上には御丁寧にも返しがついてある。
早い話、離れた場所から新が華菜を投げればいけそうだが、投げる瞬間に男子生徒達に見つかるリスクが高い。さらに言えば、その瞬間、華菜に新の力がバレる。
新が魔法を使って華菜を女湯に入れるのも同様だろう。
「ん?」
ふと気づいたことがある。
新の浸かっている浴槽は、男湯女湯を分ける壁までぴったりと湯が入れられている。しかも、音から察するに、向こう側も同様、壁までピッタリっと湯が入れられている。壁の厚さは10cm程度だろう。
この構造なら…
新は、壁の下の辺りをぺたぺたと触り、やがて見つけた。
思いの外、近くにあったので助かった。
「…華菜先生。そういえば体育教師だったですよね?」
「……いきなりなんだ。そうだが。」
「じゃあ、“泳ぐ”のが苦手ってことは無いですよね?」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」
長い沈黙。え?嘘だろ?
「泳げます…?」
「…………………顔を10秒湯につけるくらいなら。」
マジか…。
え?体育教師としてそれはどうなんだ…?
「……………水中の“トンネル”を潜ることくらいは…出来ます?」
「…………頑張れば出来る。」
「…………そうですか。じゃあ、頑張ってください。」
「は?」
新は、先程から触れている“鉄格子”を引き抜いた。この壁の厚さなら鉄格子は向こう側からも設置してあるだろうと。ポッカリと空いた穴から足を突っ込み蹴破る。
予想通りである。
壁1枚に浴槽がピッタリとくっつくように設置してあるなら、もしかすると、ここの浴槽の出湯口は男女合わせて1箇所しか無いのではないかと予想したのだ。もしそう出るならば、湯を張る時、男女平等に湯を入れるために使う穴が壁のどこかに有るはずだと考えたのだ。
意外にも、新のすぐ近くにその穴は設置されていた為運が良かった。
穴の大きさはギリギリ人1人くらいなら通れる程のスペースだろう。念の為、バレない程度で魔力を使い、穴の大きさを広げる。
新は華菜の手を掴むと、その穴の位置を手探りで示す。その感覚でハッとなった華菜と顔を見合わせると、無言で頷く。
華菜は大きく息を吸い込むと目を瞑って潜り、その穴へと頭を通す。
「あ、ここに居たでやんすか。」
「お、神藤こんな所で何してんだウホッ?」
「ん?おー、ゴリラ?とイヤミ?」
運悪く新を見つけたゴリラとイヤミが話しかけてきた。
因みに、未だ華菜は穴と格闘中。あともう少しでくぐり抜けられそうだ。
しかし、このままだとゴリラとイヤミに華菜がバレてしまいそうなので……
「ゴリラ、イヤミ…」
「なんだウホッ?」「なんでやんす?」
キョトンとした表情をする2人に新はニッコリと笑う。
「寝てろ。」
「ウホッ?」「は?」
すっとんキョンな声を上げる二人に容赦なく人間レベルの掌底を叩き込む。
ドッ!と鈍い音を立てながら3m程吹き飛び、ザッバーン!!と水の造形を作り上げる。
骨が折れ内程度に調節したから問題ないだろうが、少しの間気絶してもらった。
何だ何だと騒ぐ男子生徒が数名いたが、その隙に華菜が逃げていれば問題ない。
ふと後ろを向くと、少し苦しげにバタバタと動く華菜の足が目に入る。
影から察するに、体は腕と肩までは通っているが、胸からしたが入らないといった感じだ。
つまるところ………豊満な胸元がつっかえて出れないと……
新が珍しく顔を赤らめながら頭を抱える。
その後、あともう少しだけ魔法で穴を広げ、華菜は無事脱出した。
鉄格子の修復は女湯は流石に直すことは出来なかったが、男湯はしっかりと直しておいた。念の為、前より頑丈にしておいた。
* * *
湯から上がった後…
「酷いウホッ!!」「酷いでやんす!!」
先程吹き飛ばされ復活したゴリラとイヤミが新に半泣き状態で訴えた。
「だから悪かったって…ほら、牛乳奢るから…」
「ウホッ!!なら許すウホッ!!」
「巨里…ものに釣られてるでやんす…まぁ、巨里が許すならmeも許すでやんす。」
さいですか。まぁ、牛乳2本で吹き飛ばしたのを許してくれるなら安いものだ。別に許してもらう必要も無いんだけどな……
「ウッホォー!?高級バナナ牛乳まであるウホッ!!!!じゃあ、コレにするウホッ!!」
「うぉー!?高級コーヒー牛乳もあるでやんす!!!!じゃあ、コレにするでやんす!!」
「はいはい…って高っ!?!?1本1000円!?!?」
「コレ以外は許さないウホッ!!」「コレ以外は許さないでやんす!!」
「マジっすか………」
結局、2人にバカ高い牛乳2本を買わされたが、それを一気飲みした二人を見て流石にイラつき、もう1発殴っておいた。
その晩、事件は起きた…
「……おい、神藤。どうなっているんだこれは。」
「いや、それ、こっちのセリフですって…」
新と華菜のいる場所は、我らが一星学園2年が修学旅行初日にて寝泊まりするとある旅館である。
この旅館は話によると、たまたま地面を掘り起こしていた、この旅館の大旦那が、たまたま温泉を掘り当てたらしく、そこに建てた旅館だという。であるからして、ここは温泉旅館。つまり、温泉がある。
そして、まさに、新がいる場所がその温泉である。つまり、それは、華菜も同じ位置にいることを示していた。
* * *
数分前に遡る。清水寺からバスで出発した新達はその約30分後に今晩寝泊まりする旅館へと到着した。
荷物は既に清水寺を散策している間に運び込まれており、全員が清水寺で買った土産と持ち歩き用のカバンのみを持ち、旅館の中へと入っていった。
旅館は随分と大きな場所で、高級と言われても違和感を覚えない程の規模だった。
例えるなら…そう、椎茸頭の女将のいる湯屋的な雰囲気だ。
最初に、校長が旅館の女将を紹介し、代表生徒(会長さん)と女将が挨拶をした。
因みにその女将は、若返った湯○婆のようだった。
ここはジ○リですか…
付け加えると、その女将は旅館の看板娘を紹介してきたが、その看板娘の姿は、完全に千○だった…
マジで、ここジブ○かよ…
その後、各自部屋鍵を渡され、自分達の寝室へ向かい、荷物を置き、宴会場へ向かい、少し早めの夕食。
少し早いとはいえ、朝が早く、移動時間もかなりあった為、夕食は普通に食べることができた。
夕食のメニューは、やはり、京都の名物、湯豆腐。
見た目はただの豆腐たが、これが結構美味い。
その他様々な料理が並び堪能した。
その後、再び各自部屋へと戻り、それから直ぐにA組から順に約1時間間隔で入浴するよう言われた。
1時間とは長いような気もするが、この旅館の風呂は先程も言った通り、温泉であり、露天風呂しか無いのだが、何種類かの浴槽に分かれており、それも堪能するよう言われた。
しかし、これは新にとっては好都合。
バスの中まで冷房ガンガンにつけられていた新の体は冷えきっていた。湯豆腐で割と温まったが、それでも、就寝後にゴリラとイヤミが冷房ガンガンにすることは目に見えていた。
その為、いち早く湯へ浸かり、体の芯まで温め、そのまま流れるように寝てしまおうという作戦である。
そして、現在に至る。
流石と言うべきか、華菜も新もは大人である。新は見た目は青年、頭脳は大人。といった感じであるため、落ち着いている。
華菜はかなり顔が引きつっているものの、落ち着いている。
そして、互いの状況確認を図る。
「……質問、ここって混浴じゃないですよね?」
「……この旅館に混浴など無いと聞いている。」
「……じゃあ、何故先生がここに…?」
「……それは私のセリフだ…何故、女湯にお前がいる。」
「いやいやいや!!ここ男湯ですよ!?」
バチャバチャと水滴を飛ばしながら、手を振り否定する。
「いやいやいや!!ここは女湯だ!!じゃなかったら私が入っているわけないだろう!!」
華菜も同じくバチャバチャと水滴を飛ばしながら、手を振り否定する。
「そうですけど!!自分もここが男湯じゃなかったら入ってませんよ!?」
互いに言い合う途中、その言い合いを集結させる決め手になる言動が聞こえてきた…
『キャッ!!ちょっ、暴れないでよ〜』
『いいじゃん、貸切なんだし〜』
『あったかい〜』
キャッキャウフフ………
その声を聞いた瞬間、“華菜”の動きが停止した…。
何故ならば、今現在聞こえている少女達の声は、明らかに、新と華菜のすぐ隣に建つ、男湯女湯を隔てる“壁の向こう”から聞こえてきているからだ…。
華菜の顔からサーッと血の気が引いていく。
つまるところ、華菜のいる湯は新の言動通り、“男湯”なのである。
『おお!!すっげー!!広いぞー!!』
『俺一番乗りー!!』
『一番乗りとは言っても、さっき、神藤がすげぇスピードで先に行ったぞ?』
『な、なんだと…つまり、既に神藤はこの中に…!?』
『湯気たっぷりで見えないっすね…』
ハッハッハッハー!!
「どないしましょう、この状況…」
「………み、見るな!!」
「ば、バカ!!声が大きい…!!」
叫ぼうとした華菜の口を慌てて塞ぎ、新の体をの影へと華菜を隠し、音を立てぬよう少しづつ距離をとる。
華菜がモゴモゴと騒ぐが、そのまま塞いだ。
『ん?いま鉄仮面の声が聞こえなかったか?』
『鉄仮面って誰だよ…』
『んぁ?鉄仮面って言ったら、そりゃ…うちの担任だろ?』
『……それ、バレたら殺されるぞ。』
『バレねぇバレねぇって。』
『だったらいいけど…』
oh……何故だろう、口を塞ぐ新の手から異様に冷たい風が漏れているのは何故だろう…
見ると、華菜の顔が憤怒の表情に変貌していた。
あ、アイツ死んだな。
ご冥福をお祈りしますと、心の中で合唱する。
男子生徒達が体を洗い始めたのを見計らって、やっと落ち着いた華菜の口を解放する。
「……落ち着きました?」
「……落ち着いたのはいいが、そろそろその腕をどけてもらえないか?」
「ん?………あ、すんません。」
咄嗟に華菜を隠したせいか、新の腕は盛大に華菜の胸へと押し付けられていた。
…………やけにの感触が柔いと思った。
すぐさま腕を遠ざける。
「…………やけに落ち着いているな。」
「…いや、落ち着いてはいませんよ。平常心を保とうとしているだけです。」
「それより、こっちを向くな。背を向けろ。」
「あ、はい。」
言われてみればそうだ。
目の前に全裸の女性がいるとはいえ、堂々と顔を合わせているのは不自然だろう。
少し慌てたように背を向ける。
「………見てないよな。」
「………見てないですよ。濁り湯ですから。」
「………………………そうか。」
正直言って、半分嘘である。
濁り湯とは言えども、多少は透ける。
その為、極度に接近していた新は、その裸体を視覚の淵で目指していた。
ここで騒がれても、華菜は男子生徒に見つかり、どんな目にあうかわからない。
付け加えて、華菜の身に何も起こらなかったとしても、自分が疑われるのが目に見えている。
その為、嘘をついた。
しかし、その嘘も恐らくバレているだろう。
それでも、堂々と見たと言うよりはマシであろう。
さて、どうしたものか…。
ここは男湯。華菜は女性。
男湯の中で華菜が男子生徒達に見つかれば、華菜は教師として首を切られる。新は生徒として首を切られる。
どちらにせよ、華菜が男子生徒達に見つかるのはまずい。
華菜を女湯に入れようにも、無論、堂々と扉から出るのはOUT。男子生徒に見られなかったとしても、外で見張っている先生に見つかったら、華菜は教師として首を切られる。
壁をよじ登ろうにも、壁の上には御丁寧にも返しがついてある。
早い話、離れた場所から新が華菜を投げればいけそうだが、投げる瞬間に男子生徒達に見つかるリスクが高い。さらに言えば、その瞬間、華菜に新の力がバレる。
新が魔法を使って華菜を女湯に入れるのも同様だろう。
「ん?」
ふと気づいたことがある。
新の浸かっている浴槽は、男湯女湯を分ける壁までぴったりと湯が入れられている。しかも、音から察するに、向こう側も同様、壁までピッタリっと湯が入れられている。壁の厚さは10cm程度だろう。
この構造なら…
新は、壁の下の辺りをぺたぺたと触り、やがて見つけた。
思いの外、近くにあったので助かった。
「…華菜先生。そういえば体育教師だったですよね?」
「……いきなりなんだ。そうだが。」
「じゃあ、“泳ぐ”のが苦手ってことは無いですよね?」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」
長い沈黙。え?嘘だろ?
「泳げます…?」
「…………………顔を10秒湯につけるくらいなら。」
マジか…。
え?体育教師としてそれはどうなんだ…?
「……………水中の“トンネル”を潜ることくらいは…出来ます?」
「…………頑張れば出来る。」
「…………そうですか。じゃあ、頑張ってください。」
「は?」
新は、先程から触れている“鉄格子”を引き抜いた。この壁の厚さなら鉄格子は向こう側からも設置してあるだろうと。ポッカリと空いた穴から足を突っ込み蹴破る。
予想通りである。
壁1枚に浴槽がピッタリとくっつくように設置してあるなら、もしかすると、ここの浴槽の出湯口は男女合わせて1箇所しか無いのではないかと予想したのだ。もしそう出るならば、湯を張る時、男女平等に湯を入れるために使う穴が壁のどこかに有るはずだと考えたのだ。
意外にも、新のすぐ近くにその穴は設置されていた為運が良かった。
穴の大きさはギリギリ人1人くらいなら通れる程のスペースだろう。念の為、バレない程度で魔力を使い、穴の大きさを広げる。
新は華菜の手を掴むと、その穴の位置を手探りで示す。その感覚でハッとなった華菜と顔を見合わせると、無言で頷く。
華菜は大きく息を吸い込むと目を瞑って潜り、その穴へと頭を通す。
「あ、ここに居たでやんすか。」
「お、神藤こんな所で何してんだウホッ?」
「ん?おー、ゴリラ?とイヤミ?」
運悪く新を見つけたゴリラとイヤミが話しかけてきた。
因みに、未だ華菜は穴と格闘中。あともう少しでくぐり抜けられそうだ。
しかし、このままだとゴリラとイヤミに華菜がバレてしまいそうなので……
「ゴリラ、イヤミ…」
「なんだウホッ?」「なんでやんす?」
キョトンとした表情をする2人に新はニッコリと笑う。
「寝てろ。」
「ウホッ?」「は?」
すっとんキョンな声を上げる二人に容赦なく人間レベルの掌底を叩き込む。
ドッ!と鈍い音を立てながら3m程吹き飛び、ザッバーン!!と水の造形を作り上げる。
骨が折れ内程度に調節したから問題ないだろうが、少しの間気絶してもらった。
何だ何だと騒ぐ男子生徒が数名いたが、その隙に華菜が逃げていれば問題ない。
ふと後ろを向くと、少し苦しげにバタバタと動く華菜の足が目に入る。
影から察するに、体は腕と肩までは通っているが、胸からしたが入らないといった感じだ。
つまるところ………豊満な胸元がつっかえて出れないと……
新が珍しく顔を赤らめながら頭を抱える。
その後、あともう少しだけ魔法で穴を広げ、華菜は無事脱出した。
鉄格子の修復は女湯は流石に直すことは出来なかったが、男湯はしっかりと直しておいた。念の為、前より頑丈にしておいた。
* * *
湯から上がった後…
「酷いウホッ!!」「酷いでやんす!!」
先程吹き飛ばされ復活したゴリラとイヤミが新に半泣き状態で訴えた。
「だから悪かったって…ほら、牛乳奢るから…」
「ウホッ!!なら許すウホッ!!」
「巨里…ものに釣られてるでやんす…まぁ、巨里が許すならmeも許すでやんす。」
さいですか。まぁ、牛乳2本で吹き飛ばしたのを許してくれるなら安いものだ。別に許してもらう必要も無いんだけどな……
「ウッホォー!?高級バナナ牛乳まであるウホッ!!!!じゃあ、コレにするウホッ!!」
「うぉー!?高級コーヒー牛乳もあるでやんす!!!!じゃあ、コレにするでやんす!!」
「はいはい…って高っ!?!?1本1000円!?!?」
「コレ以外は許さないウホッ!!」「コレ以外は許さないでやんす!!」
「マジっすか………」
結局、2人にバカ高い牛乳2本を買わされたが、それを一気飲みした二人を見て流石にイラつき、もう1発殴っておいた。
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