悪夢を食べるのは獏、命を狩るのがヴァルキュリア

ノベルバユーザー173744

嫌々お仕事お疲れ様でした‼お休みなさい‼

 今日は他の人には雑務、でも、うちには正式なお仕事である書類整理……正確に言うと、始末書の数々を書かされとります。

「何々?『自爆テロの犯人を、モノホンの牛頭馬頭ごずめずはんに引き渡して地獄に送ったんはどうしてや?』そら、地獄で日々反省の意味を込めてやって貰わんとしょうがないけんやがね。そんな、爆弾ぶっぱなすんをこの屋敷に置いてエェと思うんかな?」

言いながら書きこみ、ぽんっと印鑑を押す。

「あぁぁ、この印鑑、もう押す部分が周りが欠けとるがね‼ほやけん、プラスチックはいかんのよ‼このドケチ上司がぁぁ‼安もんばっか買いやがってぇぇ‼」
「このドケチ上司ですが?」
「ウギャァァ‼ドケチがぁ‼陰険インテリエロ眼鏡~‼後ろに立つなやぁぁ‼」

悲鳴をあげる。

「ドケチは良いんですが、仕事ですから。ですがね?その陰険インテリエロ眼鏡ってやめてくれません?名前があるんですよ?こっちにも。百目鬼どうめきさん」
「うざっ‼きもっ‼それに、うちの本名を言うな~‼」
百目鬼真侑良どうめきまゆらさん。名字だけでも3文字。しかも珍しい名字で、普通の田中、木村といった名字は安く買えるんですよ?良い素材を使っても。でもですねぇ……決まった名字は安いんですが、珍しい名字だと、作って貰うんです。そうすると発注に素材選び、文字は一文字幾らと専門の業者に頼むと、一つ買うだけでも他の人よりも一桁違うんですよ⁉一桁‼」
「解っとるわ‼シャ○ハタの訂正印を会社で購入してもろたら、他の人は600円やったのに、2000円やったわ。100Yenショップにもないけんって、やっすい文房具店で、500円のを作って貰って買おうと思ったら、お店の人に『本体がこの位で、一文字ごとに何円かかります。送料はこれ位ですので……』って、何でやねん‼珍しい名字で悪いんかぁぁ~‼」

 いつもネチネチと絡む、陰険インテリエロ眼鏡に仕返しとばかりに机を叩き叫ぶ。

「と言うことで、陰険インテリエロ眼鏡‼象牙は象さんが可哀想やけん、丈夫なプラスチック素材の訂正印と、仕事用の印鑑、認印、印鑑証明の印鑑と、銀行印も頼むわ‼何やったら予備にそれを5セット‼」
「増えてませんか?」
「前に行ったおっちゃんは纏め買いすれば、半額まで落としちゃるって言うとったんよ。一気に纏め買いや‼頼むで。これは職務内に入るよなぁ?」
「って、シャァシャァと認印と印鑑証明の印鑑と銀行印も何考えてるんです‼職務外ですよ‼」

 言い放つ上司に、引き出しの中から、ザァァっと印鑑を出して見せる。

「書類整理の時に、足りんなって全部つこうたんよ。それに、どれが印鑑証明のか、認印か、銀行印か、職務上の印鑑か解らへん。訂正印もボロボロ」

 呆気に取られる上司に、ニッコリと、

「な?安もん買うと、こがいになるねん。陰険インテリエロ眼鏡‼エェ木の素材で作ってくれ‼最低でも職務印と訂正印だけでも5セット‼後は何とか買うわ‼な?こうて?」
「て、貴方、給料ほぼないでしょうが」
「ん?あるで?」

 ごそごそとポケットをあさり、一セントのコインを出す。

「アホですかぁぁ‼1セントごときで、作れませんよ‼」
「う~ん。食事はまかない。寝るとこはここ、最低限のもの買うたらないなぁ……。やけん。これは隠し財産や‼」

 自慢げに1セントコインを見せびらかした真侑良に、ため息をつくと、

「……仕方ないですね。自分の印鑑まで使ったとすると、問題です。特別に作りましょう」
「やったぁぁ‼」
「ですが、公式文書に認印だの、銀行印だのを使ったのは問題です。その書類も作りますので、記載、印鑑をお願いしますね‼」
「シャ○ハタ……」
「作りますよ‼全く」
「うわぁぁい~‼やったぁぁ‼これで食費ちょっとは賄える~‼ペットボトルのお茶は買えんけど安いお茶っ葉買って、冷茶が飲める~‼」

 喜ぶ部下に、

「家はどうするんです⁉」
「家賃賄えんし独り暮らしやけん、ここに住みますけど?」
「ここは職場で住んだらいけません‼」
「えぇぇ?じゃぁ、公園で路上生活かぁ……雨避けれる所近くにあったかなぁ……地上も梅雨、ここも梅雨……まぁ、何とかなっか」

頭を抱える。



 昔はもっと可愛かった。
 昔はおっとりとしていて、可愛らしい控えめな……。



「なぁ、陰険インテリエロ眼鏡‼じゃぁ、書類終わったけん。うち寝るわ。ほんじゃ、印鑑よろしくな~‼」

と、テクテク大きな袋を抱えて歩き出す。
 そして、客を案内する筈のソファに寝転がり、

「スピー……」

と眠ってしまったのだった。



「昔はこんな奴じゃなかったのに……って、俺が言うんじゃなかったな……俺のせいだ」

 禁煙するんじゃなかった……と小声で悪態をつき、真侑良には解らないように、他人侵入不可の結界を張り、出ていったのだった。

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