異世界八険伝

AW

91.リンネvsメル

「それで、メルさんを救う、星を消す方法は見つかりましたか? 」

 天使の羽を弄り続けるボクに堪りかねて、アイちゃんが訊いてきた。20の瞳がボクをキュッと射抜く――。

「1つだけね。薄々気付いていたことを、改めて再確認できたよ」

「どんな方法!?  」

 円卓越しに身を乗り出してくるエクルちゃんの可愛い顔を手で押し返し、深い溜息と共に心のわだかまりを吐き出す。

「正直に言うと、みんなには言えない――そんな方法、です」

 だって、十中八九、反対されるからね。

「そっか。言えない方法なんだぁ、そうですか、分かりましたぁ――って、あたしが言う訳ないの知ってるよね!? 誰にも言えない方法なんて、嫌なことしか思い当たらないから!! 」

「レンちゃん、落ち着く。大丈夫だから――」

『見つけた――』

「『えっ!? 』」

 突然呟いたリーンに、全員が注目する!

『ちょうど真下、地中からゆっくりと迫っている。そうだな、到着は3時間後くらいか。でも、一体どうやって――』

 確かに、足裏に伝わる振動、耳朶を震わす地鳴り、そのどれもがリーンの言葉の裏付けになる。

「リンネさん、王都の書庫でわたしが読んだ本に、こんな一節がありました。"地底城アークデーモンは蘇りし魔の礎なり"――てっきり魔素が地中に還ることの喩えとばかり思っていましたが、実在するのかもしれません」

『地底城だと? あれは1000年前に我が滅したはず』
『リーン様――』
『よもや、かつての魔王の遺産を持ち出してくるとは――』

 お城がどうやって移動するの!?

「ねぇ、どう――」

『お母さん、もはや総力戦です!! 』

 ボクの至極当然の疑問は、リーンの宣言で打ち消された――。



 ★☆★



[ステータスオープン!]

◆名前:リンネ
 年齢:12歳 性別:女性 レベル:35 職業:勇者
◆ステータス
 攻撃:10.95(+4.80、火盾/中級)
 魔力:67.20(+5.20 消費-10% 効果+10% 水超級 魔力常時2倍)
 体力:8.85
 防御:8.90(+5.60 魔法防御+4.00 状態異常無効 魔法攻撃無効)
 敏捷:8.90
 器用:2.55
 才能:3.00(ステータスポイント4)
◆先天スキル:取得経験値2倍、鑑定眼、食物超吸収、アイテムボックス
◆後天スキル:棒術/上級、カウンター、雷魔法/中級、回復魔法/中級、水魔法/上級、浮遊魔法(浮遊の腕輪)、転移魔法(黒竜の翼)、召還魔法/中級、暗視、時空間魔法(時間遅滞)
◆称号:ゴブリンキラー、ドラゴンバスター、女神の加護を持つ者、大迷宮攻略者、特別捜査官、ティルス市長、秩序神の愛、魔神の愛、魔王統一戦争優勝者、天神の愛、邪神救済者

 おっとっと、レベルが2つも上がってる? それと、新しい称号が2つも――なるほど、白兎の件か。

 [天神の愛]:白の神樹に愛されし者の証、魔を滅する力を付与する(抹消)
 [邪神救済者]:邪神の魂を解放せし者の証

 効果が抹消されてる? あれかな、天神が一度死んじゃったから?
 ポイントは全部魔力に投入する! これで魔力71! これなら鑑定眼も大活躍でしょ!


 ボクは鑑定眼を発動させたまま、11人の顔を眺めていく――。

 うはっ! リーンも、黒白も見れないし――まぁ、神様のステータスなんて一般人に見れる訳もないか。他の8人を確認しておこう。


◆名前:レン
 年齢:14歳 性別:女性 レベル:26 職業:剣王
◆ステータス
 攻撃:25.35(+3.30 +3.30)
 魔力:4.15
 体力:5.85
 防御:7.00(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:12.50 (+3.00 +3.00)
 器用:1.45
 才能:2.00(ステータスポイント0)

 レベル上がってるし、ちゃんと魔力にも振ってるし。


◆名前:アユナ
 年齢:11歳 性別:女性 レベル:30 職業:天使
◆ステータス
 攻撃:4.25
 魔力:54.07(+5.20 消費-10% 効果+10% 木竜/上級)
 体力:9.55
 防御:6.40(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:6.80
 器用:2.30
 才能:2.00(ステータスポイント0)

 レベル30!? この子の見た目に騙されちゃダメだ――。


◆名前:クルン
 年齢:12歳 性別:女性 レベル:22 職業:導師
◆ステータス
 攻撃:4.20(+2.50)
 魔力:30.45(+2.50)
 体力:5.80
 防御:5.25(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:7.15 (+2.50)
 器用:4.40
 才能:2.00(ステータスポイント0)

 うん、もふもふレベルも上がってるはず!


◆名前:アイ
  年齢:11歳 性別:女性 レベル:19 職業:識者
◆ステータス
 攻撃:2.30(+2.00)
 魔力:23.10(+4.50 特殊効果:魅了)
 体力:5.45
 防御:5.20(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:5.20 (+2.50)
 器用:1.75
 才能:2.00(ステータスポイント0)

 アイちゃんの知略に期待してるよ!


◆名前:エクル
 年齢:14歳 性別:女性 レベル:15 職業:親衛隊長
◆ステータス
 攻撃:17.10(+2.50 +2.50)
 魔力:11.50(+2.50 +2.50)
 体力:4.85
 防御:4.65(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:15.15 (+2.50 +2.50)
 器用:2.80
 才能:2.00(ステータスポイント0)

 あっ、鬼ごっこ大会の優勝候補発見!


◆名前:サクラ
 年齢:16歳 性別:女性 レベル:22 職業:大魔導師
◆ステータス
 攻撃:4.00
 魔力:36.95(+5.20 消費-10% 効果+10%)
 体力:6.20
 防御:6.10(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:6.20
 器用:2.60
 才能:2.00(ステータスポイント0)

 サクラちゃんには無理してほしくないな――。


◆名前:ミルフェ
 年齢:13歳 性別:女性 レベル:8 職業:国王見習い
 ◆ステータス
 攻撃:0.95(+1.10)
 魔力:43.10(+3.60)
 体力:1.60
 防御:1.05(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:1.55
 器用:2.35
 才能:1.80(ステータスポイント0)

 相変わらず、魔力と胸だけ目立つね――。


◆名前:フレイ
 年齢:16歳 性別:女性 レベル:7 職業:魔人見習い
◆ステータス
 攻撃:2.40
 魔力:49.20
 体力:2.80
 防御:2.70(+1.50)
 敏捷:8.45
 器用:3.90
 才能:1.80

 うわっ、魔人見習いだって――。


「なるほど、みんな強くなってるんだね。ちなみに、メルちゃんも結構レベル上がってるの? 」

「うん、あたしより5つ上だった――」

「そっか――」

 レンちゃんの5つ上ってことは、レベル31か。攻撃は高くて50、魔力は15くらいかな。星を7つ宿してどれくらい強くなるのか分からないけど、ボクたち12人が力を合わせれば、魔王の魂に近づけさせないだけなら――可能、だよね?


「リンネ様……クルン占ったです……大きな……本当に大きなお城が来ます……そして……また……リンネ様が倒れてしまいます……に、逃げましょう!……今すぐ逃げてくださいです!! 」

 切羽詰まった金切り声を上げるクルンちゃん――この狐っ娘の占いは絶対だ。それはみんなが知っている。でも、逃げる訳にもいかないことも、みんなが理解している――。


 張り詰めた緊張の糸を切ったのは、ミルフェちゃんだった。


「リンネちゃん、アイちゃんの言ってた地底城だけど、私も文献で読んだわ。もし事実なら復活したのは城だけじゃない、“魔王軍”もよ! 」

『人の王の言う通り。666体の魔王軍は脅威――とりわけその中でも2人の将軍は別格だ。時間がない、どう作戦を立てるか――』


 その後、アイちゃん主導で作戦が練られていき、概略は以下のように決まった。

・リンネ、レン、アユナ:メルちゃんとの話し合い、無理なら束縛
・リーン、クルン、エクル、サクラ:魔王軍との戦闘
・黒、白、フレイ、アイ、ミルフェ:魔王の魂の防衛、作戦指揮と回復


『お母さん、本当に気を付けてくださいね! 』

 リーンだけでなく、全員がボクを見つめている。でも、メルちゃんを救うためには何だってする覚悟がボクにはあった。その強い意志を胸に刻み、一人ひとりの目を見返して叫ぶ。

「よし、みんな頑張ろう!! 」

[リーン・ルナマリアがパーティに加わった]
[黒の聖樹・魔神がパーティに加わった]
[白の聖樹・大地神がパーティに加わった]
[アユナがパーティに加わった]
[レンがパーティに加わった]
[アイがパーティに加わった]
[クルンがパーティに加わった]
[エクルがパーティに加わった]
[サクラがパーティに加わった]
[ミルフェがパーティに加わった]
[フレイがパーティに加わった]

 うわっ、神様3人を含めた12人パーティ!? レイドってやつ!?



 ★☆★



 強烈な縦揺れを受け、ボクたちの身体が跳ね上げられる。咄嗟に白が結界を張ってくれていなければ、ボクたちは岩盤に押し潰されていただろう。この突き上げるような衝撃は、地境を下から穿ち、やがてボクたちを上空に押し出した――。

 暁に映し出されたのは、黒い岩の腕に抱かれた広大な空間だった。その奥には、鬼神の顔の如き奇岩城が聳えている――魔王の箱舟アークデーモンとはよく言ったもんだ。 

 さらに、想像を遥かに絶する光景が広がる――。

 魔王の魂を囲んで並び立つボクたちが居るのは、野球場がいくつも入る規模の広大な岩石砂漠だ。その前方、奇岩城を背にして対峙するように、突如、禍々しい鎧を着た魔族軍が出現する。そして――それを率いる総大将は、水色の髪の少女だった――。



「メルちゃん! 迎えに来たよ!! 」

 両手を広げて精一杯叫ぶボクの声が虚しく木霊する。

 赤い瞳をしたメルちゃんは、みんなに挨拶をするかのように、無手の右腕を大きく掲げている。

「そんな訳も分からない魔王なんかに負けないで! あたしたちはみんなで誓ったじゃないか! 」
「そうだよ! 優しいメルちゃん、戻ってきて! 」

 ボクに続いてレンちゃん、アユナちゃんも必死に叫ぶ。

 リーンたち魔族担当班は、既に散開して情勢を見守っている。

 アイちゃんたち防衛班は、魔王の魂を隠すように密集している。


 と、その時、メルちゃんの右手が前方に振り下ろされる――。


 轟音を上げて押し寄せる魔王の軍団を前に、ボクとリーンの瞳が一瞬だけ交差した。

 彼女はアイちゃんの念話と一緒で、ボクの心を読める。もっと言えば、親子の絆もあるのかもしれない。そういう意味で、“お互いにやるべきことをやろう”と言う意思疎通の確認だった。


『我の召喚に応じよ、エクリプスリーパー! 』

 リーンの頭上に雷撃が堕ちる。

 光が和らいだ時、彼女の右腕には金色の輝きを放つ、漆黒の鎌が握られていた――。

 本当に秩序神? その武器は物騒過ぎるでしょ!

(お母さん、聴こえていますよ。お母さんの棒も物騒ですからね? )

 うわっ、聴こえてる。まぁ、確かに切り口が綺麗にカットされるか、グロく殴られるかと言えば後者が分が悪いかも? でも、どう見ても死神っぽいんだけど――。

(適切な死を与えるのも、私の務めですから――娘の戦い、しっかりと見ていてくださいね! )


 リーンは鎌の柄を地面に深々と突き刺す!

 突進する魔王軍の足元から光の槍が幾千も現れ、突き通していく――。

 あっという間に半数以上を失った魔王軍に対し、今度は鎌を両手に持ち替え、2回、3回と横薙ぎに払う!

 高速で放たれた光の刃は、加速度的に巨大なうねりとなり、メルちゃんごと迫り来る魔王軍を吹き飛ばす――規格外の強さ、これが序列第2位の実力か。

 そして、一瞬にして砂煙の中に突進すると、今度は大きく振りかぶって縦に切り裂く――。

 キーンと、甲高い音が響き渡る!!

 リーンの攻撃をまともに防いだ者が、そこに居た。禍々しい翼と尻尾を持つ異形――こいつが、黒が言っていた“別格の力を持つ将軍”のうちの1人!?

『リーン・ルナマリアか! 何時ぞやの借り、積年の恨み、今こそ晴らす! 』

『戯け! お前ごとき悪魔に我は負けん! アバドンよ、アリオクと共に今度こそ光に還れ! 』

 リーン、負けないでね!

 じゃぁ、もう1人はどこなの? 砂塵が舞う中、周囲の動きを凝視する――。


 見つけた! クルンちゃんたちが戦ってる――獅子の顔をした鎧の剣士だ! めっちゃ強そうなんだけど、大丈夫なの!?

 
「リンネちゃん!! 」

  レンちゃんの声がボクの視線を引き寄せたその先には、ゆっくりとボクたちを目指して歩くメルちゃんが居た。


「止めて……リンネちゃん……レンちゃん……アユナちゃん……私を……止めてください! 」

 まだ意識がある! 助けられる!!

「止める! 絶対に止める! 助けるから! だから――」

「憎悪が……怒りが……沸き起こってくるの……私は……みんなのこと……大好きなのに……大好きで大好きで……ずっと一緒に笑っていたいのに……怒りで身体が……」

「リンネちゃん危ないっ! 目を覚まして、バカメル! 」

 血のような濃い赤の服――よく見ると、それはミスリルとオリハルコンで編まれた元ピュアホワイト色の天使の衣だった。そして、メルちゃんの両手には、血液で造られたかのような剣が握られていた――。

「憎い……憎い……勇者が憎い……神が憎い……人間が、天使が、亜人が憎い……うぅ……みんな大好きなのに……早く私を殺して……」

「リンネちゃん! あたしがこのバカの目を覚ます! アユナちゃんと一緒に下がってて! 」

 レンちゃんの目は本気だ。既に身体は赤い光で包まれている。

「分かった。でも、殺しはやめてよ! 」

「当然! 行くよ、あたしの親友!! 」



 10合、20合と剣戟が響き渡る。

 勝負は1対1どころか、2対0の戦い――必死に自身を押さえつけようともがくメルちゃんに対し、レンちゃんは手足を狙って容赦のない攻撃を繰り返す。

 しかし――圧倒的な実力差が両者にはあった。それもそのはず、ボクの目に映るメルちゃんのステータスは破格の数値を示していた――。

◆名前:メル
 年齢:14歳 性別:女性 レベル:31 職業:魔王の器
◆ステータス
 攻撃:233.20(+6.50 魔法遮断)
 魔力:70.55
 体力:92.00
 防御:121.10(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:119.50
 器用:69.00
 才能:2.00(ステータスポイント0)


 決着は思わぬ形で訪れた。


 爆音と共に吹き飛ぶ何かに、一瞬だけ気を取られたことでできたレンちゃんの隙――その瞬間を逃さず飛び込んだメルちゃんが、横の死角からの中段蹴りを一閃!

 辛うじて剣でガードしたものの、勢いをそぐことすらできず、激しく跳ね飛ばされるレンちゃん!

「時間遅滞! 」

 ボクはすぐさま追いかけ、身体を預けてレンちゃんを受け止める!

「ヒール!! 」

 食い込んだ剣の傷、破裂した内臓共に瞬時に癒していく――大丈夫、間に合った! 

「うぅ、ごめん……」

「ううん、レンちゃんは休んでて」



 さっきの場所では新たな戦いが始まっていた――。



 アユナちゃんが、最上位精霊フェニックス、そして悪魔のバフォメットと共に激しい魔法戦を繰り広げていた。

 煉獄の業火、聖なる光の矢、凍てつく波動がメルちゃんを襲う。

 しかし、あの血剣の効果か、メルちゃんが剣を一閃するたびに魔法は掻き消えていく!


 業を煮やしたバフォメットが諸手を上げて突っ込む!

 フェニックスが後方から援護し、アユナちゃんは祈るようにその場にしゃがみ込んでいた――。


 これがメルちゃんの剣技――。

 リーンの、舞うような華麗な動きとは違い、鬼気迫る無駄のない動き――。

 レベル88を誇る強靭なバフォメットでさえも、一太刀ごとに身体を切断し、消し去ってしまった。

 そして、空を舞うフェニックスに血剣を向けたかと思うと、それを一気に伸ばし、蔓のように巻き付かせてフェニックスの身体を拘束する。地に堕とされた不死鳥は、悔しそうに力ない咆哮を上げると、その姿を消滅させた――。

 メルちゃんは、地面に蹲るアユナちゃんには目向きもせず、ボクの方へと歩を進める。


「リンネちゃん……私は……いつか……リンネちゃんと戦うかもしれないと思ってました……心の奥底でずっと……いつか戦いたいと……願っていたのかもしれません……」

「そうなんだ。でも、ボクはメルちゃんとは戦いたくないよ? こんな形ではね! 」

「そう言っていただけて……嬉しいです……今まで……本当にありがとうございます。そして……お力になれず……ごめんなさい」

「ううん、まだメルちゃんの力は必要だから。こんなところで終わらせたりはしない」

「私は……世界を滅ぼしますよ」

「そんな泣き虫の、優しい子には――世界は滅ぼせない。滅ぼさせないから! 」

 赤く染まった瞳から止めどなく流れ落ちる涙を見て、ボクは決意を固める。次元の存在に会って、確信したことを実行する決意だ。でも、その前にメルちゃんの気持ちを受け止めよう。


 ダフさんに作ってもらった“リンネの杖”を取り出し、一つゆっくり深呼吸する。


「メルちゃん、ボクの大切な親友。今、助けてあげるからね! 来い、魔王の器!! 」

「私の大好きなリンネちゃん……私の全てを以て……挑みます!! 」



 メルちゃんが血剣を突き出して突っ込んでくる!

「サンダーバースト!! 」

 ボクは間髪入れず、雷撃を放つ! 残りの魔力は7割――切り札の時間遅滞も残り20秒弱だ。

 半径1m、光速で放たれる雷撃を躱しきれないと踏んだか、メルちゃんは、突きに移行していた体勢を咄嗟に変え、血剣を振るって雷撃を掻き消す!

「ウォータープリズン!! 」

 一瞬の隙を突き、1辺2mほどの水の檻がメルちゃんを包み込む。しかし、それも血剣一閃で掻き消されてしまう。

「魔法では……私は倒せませんよ! 」

 ボクが魔法を放ちながら作った20mの間合いを、メルちゃんが一気に詰めてくる!


「避けてくださいね! 」

 速い!!

 首筋を狙った薙ぎ払い、足元への下段回し蹴り、そして飛び上がってからの上段袈裟斬り――一連の動きに無駄がない。レンちゃんとの戦いの時のような、自身を制御することも、ボクを手に掛けることへの迷いも感じさせない。


「時間遅滞! 」

 全てを躱しきる自信が持てず、スキルに頼る。

 10秒だ!

 後ろに下がって袈裟斬りを辛うじて避けると、今度はアイテムボックスから棒を取り出し、メルちゃんの右手首を狙う!

 鈍い音と共に小さな悲鳴が上がるが、まだこれでは終わらない!

 横に回り込むと、次は左足首を狙って振り下ろす!

 骨を砕く嫌な感触が手を伝う。本当にごめん!!

 そして再び20mの間合いを確保した――。


「うっ! 今のはスキルですね!? 」

「うん、後でヒール掛けるから我慢してね――」

「必要ありません!! 」

 左手に剣を持ち替えたメルちゃんが、ボクに飛び付くように片足で跳ねる!

 この距離を、一瞬で!?


「いきます!! 」

 片手で振るわれる剣は、両手よりは軽く遅いものの、ボクのステータスでは受け流すことも弾き返すこともできないほど強烈だ!

 風圧だけで舞い踊る小岩、抉り取られる岩肌――あっという間に壁際まで追い詰められてしまった。


「火盾! 」

 重い剣戟が10、20と繰り返されるたび、血剣からはどす黒い蒸気が上がり、徐々に弱体化していくのが見て取れる。ボクの手は既に感覚を失い、左腕が変な向きに曲がっているのが見える。でも、今はひたすら防御だ――。

「はぁっ!! 」

 剣を松葉杖代わりに使い、身体を横に捻って回し蹴りを放つメルちゃん――。

「転移! 」

「時間遅滞! 」

 メルちゃんの背後に回り込み、杖を再び取り出したボクは、慌てて振り向いたメルちゃんのお腹に向けて魔法を放つ!!

「サンダーストーム!! 」

「うあぁー!!」
「うっ!! 」

 壁に叩きつけられる瞬間、メルちゃんが放った血剣がボクの首筋を掠る!

 滴る血を手で拭う――間一髪だった!!


 頭部を強打したメルちゃんが片膝を地に着けて蹲る。

 武器は奪われ、手足も十分に動かせないはず。今が最後にして最大のチャンスだ!


「今だ! アユナちゃん、レンちゃん!! 」

 ボクの合図を聴いて、2人が駆けてくる! アユナちゃんの光魔法セイントバインドがメルちゃんの両手両足を縛る! レンちゃんが後ろからメルちゃんを抱き締めるように押さえつける!

 そしてボクは――メルちゃんの柔らかい胸の中へと顔をうずめ、残りの全魔力を注ぎ込む!


 イメージするのは――エリ村の近くを流れていたあの綺麗な川の水、神秘的な清流だ。それを強く、強く想い描く!

 超級になった水魔法ならば可能なはず! 心の穢れを払い、憎悪を押し流してくれる清い流れでメルちゃんの心を洗い流す!

「心の平安を取り戻せ、ウォーターキュア!! 」


 手応えは確かにあった。

 顔に感じた温かさは本物だ。


 後は、みんなに任せるしかない。

 メルちゃんから星を消し去る手段はただ1つ。ボクがメルちゃんを殺すことだ。でも、それは絶対にしたくない。たとえボクの中に星が全て集まることが唯一の正解だったとしても――。

 ボクに取り得る方法――それは、可能な限りの魔力で、メルちゃんの内に秘める魔力を消し去る方法だ。

 ボクがイメージしたのは、ボクの心とメルちゃんの心を総入れ替えすること。魔素が完結した存在が星であると言うのなら、それは魔力の空に浮かんでいるはず。ボクの総魔力量の半分を使って、メルちゃんの心の空ごと取り替えてしまえ、と――強く願った。

 ボクは、メルちゃんに抱き着いたまま、メルちゃんと一緒に意識を手放していった――。

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