異世界八険伝

AW

73.推測と罠

 ボクの背後から赤い髪の少女が歩いてくる。

『勇者リンネ様、彼奴等は我にお任せあれ』

 ボク達の前まで来ると、おもむろに両手を広げて魔物達を牽制する。
 その姿は勇ましいが、頭には痛々しいタンコブがある。誘惑に負けて、指でそっと触れてみる……。

『ふぎっ!!』

「ごめんなさい。大丈夫?」

『あの悪魔が意外と強くて。しかし、和解しましたぞ!奴も我等に力添えしてくれましょう!頼もしい限り!』

 和解?
 気付くと、ボク達は何かの影の中に居た。
 皆、不気味な気配を感じて咄嗟に振り向く。

「バフォメット!?」

 その姿を見るや否や、アユナちゃんとクルンちゃんが気を失ってしまった……。

『汝が勇者リンネ様……眩しすぎる。婆にはもはや敵意はありませぬ。精霊殿と共に戦う許可を!』

 巨乳をむき出しにした黒焦げの山羊が、笑顔で話し掛けてきた。母様と呼ばれているだけあって、その立派な胸に目が行ってしまう。
 いや、そんな場合じゃない。どういうこと?悪魔だけど、それほど悪い悪魔じゃない?よく分からないけど、フェニックスを信じよう……。

「一緒に子ども達を守りましょう!」

 ボクは、建物の陰で寄り添う信徒達を一瞥し、安心させるように微笑む。それに応えるように、数人が近づいてきてアユナちゃん達を抱えて連れて行ってくれた。大丈夫だよね……。念の為、スカイとスノーを護衛につける。


 そして、天高く舞う桃色の髪の少女を凝視する。


 ミルフェちゃん?

 いや、違う。雰囲気も、髪の長さも違う。

 ウィズの召還者……。

「あなたはだ…えっ!!」

 ゴォォォー!!
 名前を聞こうとした瞬間、上空から大気を震わす炎の剛球が放たれた!!
 炎の上位魔法メテオ!?
 問答無用で殺す気か!!

 ボクは、咄嗟に魔力を込めて、ウォーターストームを放つ!

 炎を纏う隕石と、荒れ狂う水流が、ボク達の上空数メートルの地点で激突する!
 一面に水蒸気が舞う!

 数秒間の拮抗の後、飛竜の悲鳴が上がる!
 メテオを弾き飛ばすことに成功したであろう、確かな手ごたえがあった。

 水蒸気の霧が晴れたときには、既に飛竜の姿も、少女の姿もなかった。逃げられたか。まさか、転移魔法……?

 判断が一瞬でも遅れていたらと思うと……額から顎、首筋を汗が滴る。

 召還から僅か数日で炎の上級魔法と転移魔法……。
 ボクが込めたのは総魔力の1割ほど。それでも、装備やスキルの効果で相当な威力のはず。レベルも魔力も破格。どうしてこんなに強いのだろう……。

『勇者リンネ様、敵の総大将が去ったとはいえ、雑兵が50以上おりますので油断なさらぬよう!』

 そうだった!
 ベリアル、アザゼル、ベヒモス。
 それと、あの20m以上の蛇は……。

[鑑定眼!]

 種族:ヒドラ(上級魔族)
 レベル:48
 攻撃:42.25
 魔力:41.70
 体力:50.80
 防御:35.55
 敏捷:27.90
 器用:18.85
 才能:1.75

「ヒドラ……レベル48か」

 これはウィズが率いていた魔族、西のエルフの村を殲滅した軍勢だろう。無性に八つ当たりしたくなった。アユナちゃんには悪いけど、ボクの手で一気に潰してやる!

「フェニックス!バフォメット!手出し無用です、ボクが片付ける!!」

『『御意のままに』』

 雄叫びを上げながら迫る魔物の群れ……彼我の距離は20m。
 ボクは大きく深呼吸をし、体内の5割の魔力と大気に澱む魔力を併せ、練り上げていく。怒りの感情を振り払い、清い水をイメージする。かつて一度だけ完成させた水竜魔法を使う!北の大迷宮25階層の湖、その守護竜たるアクアドラゴンをイメージする。金色に輝く眼、銀色の2本の巨大な角、体長80mの壮大な竜……魔力を解き放つ!!

「出でよアクアドラゴン、魔を打ち払え!!」

 杖から迸る光は、一瞬のうちに大量の聖水を生み出し、竜の姿を形成する!前回召還したよりもさらに輝きを増した水竜が、魔族の面前に立ち塞がる!

『顕現せしリンネ様の聖なる剣の力、とくと御覧あれ!』

 薙ぎ払う爪や尻尾で吹き飛ぶ魔物の群れ。
 巨躯を誇るヒドラでさえも、その数倍の竜の前には赤子同然……前足で頭から潰され、聖水の効力で蒸発していく。
 飛んで逃げようとするアザゼルの群れは、ブレスで一瞬にしてかき消される。

 水竜は桁違いだった。
 10分足らずで魔族軍を殲滅したアクアドラゴンは、ボク達にウインクをしながら霧と化した。辺り一面にキラキラと雫が舞い、虹が架かる。


 虹を呆然と見上げるフェニックスは、ボクに一礼して精霊界に戻っていった。
 バフォメットは、片膝を地に付けて頭を下げている。悪魔も一種の上位精霊だと聞いたことがある。悪魔の忠誠なんていらないけど、アユナちゃんと契約してもらおうかな……。


 その後、嫌がるアユナちゃんを説得して契約してもらった。天使が悪魔を使役する、大丈夫なのだろうか。

 そして、母様であるバフォメットの指示により、塔の子ども達(及び見張りの青年達)は、エンジェルウイングの自治都市フィーネ支部で預かることになった。勿論、黒いローブを剥ぎ取って、白銀のローブに着せ替えさせた。リーダー的な存在だった白い髪の少女キルヒアイスさんには、フィーネ支部の副長になってもらうことにした。
 お金は大丈夫。魔結晶やドロップアイテムを売ったら42500リル(425万円)にもなったから!思わぬ臨時収入だ。



 ★☆★



 転移を繰り返して魔力が尽きかかったボクは、フィーネ支部のベッドで横になりながら、アイちゃんと情報交換をしている。

 既に、夕食もお風呂も済ませた。そして、ボクの両脇には静かに寝息を立てる天使っ娘と狐っ娘がいる。これぞ癒しのサンドイッチ!もふもふな羽や耳に自然と伸びてしまう手を、強い理性で抑え込む。ゆっくり眠らせてあげたいからね。でも、結局は誘惑に負けてしまった……。


(その召還者はミルフェ様ではなかったのですね?)

(遠くてはっきりは見えなかったんだけど、多分違うと思う。ミルフェちゃんの髪を少し切って、目をぐっと釣り目にした感じだった。ただ、あの膨大な魔力……今考えると、ミルフェちゃんの可能性もあるかな)

(ミルフェ様だとしたら、ウィズが精神支配しているかもしれないと?でも、魔力だけならいくらでも上げようはありますよ。ヒドラを10匹、20匹倒せば膨大な経験値が手に入りますからね。もうレベルアップは厳しいでしょうが、早めに止めないと)

(そう、だよね……)

(情報を整理しましょうか。リンネさん、論点は3つあります。まず1つ目は、召還者がミルフェ様かどうかという点。2つ目は、召還者やミルフェ様の目的は何かという点、そして最後の3つ目……どうやって見つけ、見つけた後にどう対処するのかという点です)

(ふむふむ。1つ目は遭遇したボクからすると、2人は別人。でも、もし同一人物だとしたら、ミルフェちゃんは王宮から浚われたのではなく、自ら抜け出したということになるのかな)

(はい。正直、今日の戦いがなければ、わたしは同一人物の線で動いていました。今でも可能性は高いと思っていますけどね)

(え……アイちゃん、何か根拠があるの?)

(誘拐だとすると、わざわざ証拠が残りそうな白い衣というのが引っ掛かりました。故意にエンジェルウイングかクルス光国を陥れようとした意図が見受けられます。直感ですが、その場合に最も可能性が高いのは、ご本人による偽装工作でしょう。それと、今回の襲撃のタイミングです。ミルフェ様は使い魔でリンネさんの動向を見ていますからね。エルフ大森林に転移したリンネさんを、僅か2時間後に襲撃する……それを可能にした根拠にはなります)

(……)

(勿論、見た目が全く違うのなら2人は別人ということで争いはありません。まぁ、この点は追々分かるでしょうね。それと、2つ目の目的ですが、ミルフェ様が召還者ではないという仮定で考えると……召還者の目的は単純明快。つまり、ウィズの目的ということになります)

(ウィズの目的?もしかして、ボクを殺すこと?または、7人の……いや、残り6人の召還者を殺すことも含まれるのかな)

(ええ。今回の襲撃を思い出してください。バフォメットが仲間に加わったことは、フェニックスの功績大と考えて良いでしょう。もしあの教団との戦闘中に襲撃されていたら……恐らく、相手はそのタイミングを見計らって襲撃してきたのでしょう。つまり、リンネさんの命が最大の目的だと考えられます。今こうして話している間も……)

(えっ!?)

 ボクは慌ててもふもふを中断し、室内外の気配を探る。
 いきなり上半身を起こしたボクを、2人が寝ぼけ眼で見上げている。

(リンネさん、冗談です。彼女の転移ですが、状況から察するに、ウィズのような人転移ではありません。限定し過ぎるのは危険ですが、あの紅い飛竜独特の魔法だと考えるのが最も自然です。そう考えると、傷ついた体では無理には攻めてこないでしょう)

(そう、なのかな。でも不安で眠れないよ。早く何とかしないと……)

(それで、3つ目の論点です。目的がリンネさんだとして、今回の件、どうやって居場所を知りえたかが問題なんです。クルス光国の幹部か、ミルフェ様の使い魔くらいしか考えられません!念の為、クルス君の相談役、シラヌイさんも含めて疑う必要があります)

(なるほど。もしかしてアイちゃんは、ミルフェちゃんが召還者ではないにしても、何か関係があると言いたい訳ね?人質にとられて脅迫されているとか……)

(そうです。ですので、逆に情報操作をして誘き出しましょう。ウィズの魔族軍が潰えた以上、相手はより慎重に動くでしょうが、罠の準備は万端です。リンネさん、すみませんが……エサ役になってください!)

 アイちゃんが準備万端言うのなら大丈夫だろう。
 その後、相手に遭遇した場合の対処法を確認し、もふもふを味わってから眠りに落ちた。

 今日の戦闘で、ボク達のレベルはさらに上がっていた。


 ◆名前:リンネ
 年齢:12歳 性別:女性 レベル:32 職業:勇者
 ◆ステータス
 攻撃:10.15(+4.80、火盾/中級)
 魔力:63.80(+5.20 消費-10% 効果+10% 水魔法超級)
 体力:8.60
 防御:8.70(+5.60 魔法防御+4.00)
 敏捷:8.65
 器用:2.45
 才能:3.00(ステータスポイント0)


 ◆名前:アユナ
 年齢:11歳 性別:女性 レベル:27 職業:天使
 ◆ステータス
 攻撃:3.95
 魔力:51.30(+5.20 消費-10% 効果+10% 木竜/上級)
 体力:9.00
 防御:6.00(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:6.00
 器用:2.10
 才能:2.00(ステータスポイント0)


 ◆名前:クルン
 年齢:12歳 性別:女性 レベル:20 職業:導師
 ◆ステータス
 攻撃:4.20(+2.50)
 魔力:27.25(+2.50)
 体力:5.30
 防御:5.05(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:6.85 (+2.50)
 器用:4.40
 才能:2.00(ステータスポイント0)



 ★☆★



 ボク達は、朝早く起きて準備を整えると、皆が待つニューアルンへと向かった。


「「リンネちゃん!!」」

 ニューアルンの会議室へ転移したボク達を待ち伏せていたかのように、メルちゃん達が抱きついてきた。
 メルちゃん、レンちゃん、エクルちゃん……とても久しぶりな気がする。一歩離れてにこにこしているアイちゃんとは、毎晩のように念話をしていたけど。

 その後しばらく揉みくちゃにされながら、柔らかくて温かいハグを堪能させてもらった。


「ウィズは魔界に隔離、ヴェローナは地境でリーン様や魔神様と一緒ということですね?私達、何も出来ませんでした……」

 アイちゃんから情報は伝わっていると思うけど、ウィズとヴェローナを探していたメルちゃん達は、役に立てなかったことがとても悔しい様子。でも、1週間ほどの間、皆で作戦を考えたり、修行をしていたらしい。それぞれレベルアップしていた。


 ◆名前:メル
 年齢:14歳 性別:女性 レベル:26 職業:メイド長
 ◆ステータス
 攻撃:40.50(+7.00 風神/上級)
 魔力:13.90
 体力:9.20
 防御:10.00(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:11.25
 器用:6.90
 才能:2.00(ステータスポイント0)


 ◆名前:レン
 年齢:14歳 性別:女性 レベル:21 職業:剣王
 ◆ステータス
 攻撃:20.75(+3.30 +3.30)
 魔力:3.90
 体力:5.65
 防御:4.25(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:10.20 (+3.00 +3.00)
 器用:1.45
 才能:2.00(ステータスポイント0)


 ◆名前:アイ /人族
 年齢:11歳 性別:女性 レベル:18 職業:識者
 ◆ステータス
 攻撃:2.30(+2.00)
 魔力:21.30(+4.50 特殊効果:魅了)
 体力:5.25
 防御:5.20(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:5.20 (+2.50)
 器用:1.75
 才能:2.00(ステータスポイント0)


 ◆名前:エクル
 年齢:14歳 性別:女性 レベル:11 職業:親衛隊長
 ◆ステータス
 攻撃:11.60(+2.50 +2.50)
 魔力:11.20(+2.50 +2.50)
 体力:4.45
 防御:4.35(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:14.05 (+2.50 +2.50)
 器用:2.80
 才能:2.00(ステータスポイント0)


(リンネさん、今後は常に誰かに監視されていると思って行動してくださいね。この作戦で、ウィズの召還した者かミルフェ様のどちらかが動くはずです。何が起きてもわたし達を信じてください!)

(うん、分かった!信じるから!)

 “何が起きても”というところが怖いんですけど……。

(心の声、聞こえていますけどね。大丈夫です、多分)



「リンネさん、大変です!!」

「えっ、アイちゃんどうしたの!?」

「ヴェローナが裏切りました……魔族を集めて魔界への扉を開こうとしています!このままでは、折角魔界に閉じ込めたウィズが解放されてしまいます!」

「えっ!?」

『リンネちゃん、私達は念の為、ウィズの襲撃に備えてニューアルンに残るよ!』

「そうですね、アユナちゃんの言う通りです。ウィズの狙いはわたし達なのだから、今回はリンネさんだけで行くべきです」

 アユナちゃんもグルか。ちょっと寂しい気分……。

「アイちゃん、ヴェローナが居る場所って分かる?」

「アルン王都付近です。魔族の数も多いので戦おうとは思わないでください……魔界の門を破壊して戻ってくるだけで構いませんから」

「それなら1人でも大丈夫そう。でも、転移は無理だ……スカイに乗って3時間、ちょうどお昼頃には着きそうだけど、それで平気?」

「十分間に合います、お気をつけて!」


 桃色の髪の少女が脳裏に浮かぶ。
 次は絶対に逃がさない!!
 強い決意を胸に秘めて、ボクはスカイと共に飛び立った。

「異世界八険伝」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く