異世界八険伝

AW

70.親子の再会

 魔界に来てから4日目の朝を迎えていた。

 魔人ウィズは、ボクとヴェローナを殺すか、または召還者7人を殺すことで魔王の器となることを企んでいるようだ。ウィズが目指しているものは分からないけど、ヴェローナはボク達と同じ理想を抱いている気がする。だからこそ、ボク達は彼女と手を組むことにした。

 ウィズの目的を挫く最も効果的な手段は、ウィズを殺すことだ。しかし、転移魔法を使うウィズを捕まえることが容易ではないうえ、クルンちゃんの占いではウィズを倒すのはボク達ではなく、メルちゃん達らしい……。それが世界の意思であるならば、従うべきだろう。

 話し合った結果、ボク達は次善策を採ることにした。それは、ウィズを魔界に封じる作戦だ。ヴェローナが協力しなければ、魔界から地上界に出る方法は、大陸中央のグレートデスモス地境最深部の道を通るしかない。そこさえ封鎖してしまえば……。
 ウィズが当初の予定通りに動くとしたら、キュリオ・キュルスで会った西の新王リドと副王リズを利用して、魔界の統一を図るかもしれない。そうなれば、地上はしばらくは安泰だろうけど、魔界では多くの血が流れることになる。それはボク達には許容できない。

 ボク達が今すべきは、魔神をリーンの所に連れて行くことだ。真実を伝える為に。そして、地上にいる最後の召還者を確保し、なるべく早く魔界に戻る。ウィズと戦うために!魔王復活まで残り45日間だ。ウィズさえ何とか抑えれば魔王の完全復活は無い、万全を期す!



 ★☆★



 ボク達はヴェローナの魔法によって地上界に戻ってきた。

 ボクは、アユナちゃん、クルンちゃんと一緒に地上の空気を思いっきり吸い込んで深呼吸をしている。空気が美味しく感じる。ここはフィーネの近くのはず。遠くに見える町はフィーネだろうか。あそこからボク達の旅が始まったんだと思うと、感慨深いものがある。
 魔神はカラスのような黒い鳥の姿になってヴェローナの肩に止まっている。そのヴェローナはというと、ウィズを裏切ったことを思い悩んでいるのかと思ったら、見事に逆だった。明るい表情で魔神と話をしている。あのエルフの村の大虐殺以降、ウィズとは度々衝突があったらしい。
 アユナちゃんも、エルフの敵はウィズという認識だ。ヴェローナに対しては複雑な気持ちかもしれないけど、今は仲間として信じようとしてくれている。


「では、地境にいるリーンの所に飛ぶよ。早く魔界へ通じる空間の歪みを閉めてしまおう」

『本当にリーン様に真実を伝えるのだね?ぼくは……』

 鳥の姿の魔神は、俯きながら翼をわなわな広げている。

「大丈夫!リーンの記憶や力が戻るとは限らないけど、きっと喜んでくれるはずだから!」

『そ、そうかな……』

「じゃぁ、話をしておくから、地境の最奥にある空間の歪みまで下りて、封鎖してきてくださいな!
 さぁ、行くよ!転移っ!!」



 ★☆★



『ひゃっ!』

「あ……。いきなりごめんなさい!」

 またリーンは入浴中だった……。
 魔神とヴェローナは逃げるように去っていった。
 取り残されたボク達は……とりあえず後ろを向いておく。そこには、魔界へ行く前と変わらず虹色に眩い光を放つ魔王の魂が燃えていた。

『着替えるから待っていなさい……』

「はい……」

 一応、ボクは親らしいけどね。さすがに立場がないか。



『子ども等よ、もう良いぞ』

「結論から言うよ。魔神にも魔王は倒せないみたい。でも、魔神から過去の真実、世界の創世について聞いた。秩序神リーン・ルナマリア。あなたはたくさん誤解をしている」

 怪訝そうな表情を浮かべるリーンと向かい合い、ボクは大神林で見た記憶を呼び起こし、ゆっくりと語り始めた。


 2階建の家に住む車椅子に乗った少女(魔神がリーンと呼んでいた少女)。彼女が庭の花壇に植えた白と黒の2つの種。既に両親が亡くなっていたこと。彼女が大切に2本の木を育てていたこと。雨の日も、風の日も……。そして、彼女が病気で死んでしまった事実……ボクは記憶の世界で見たままを正確に伝えた。


 リーンは黙って聞いている。その目は、ボクの話が真実かどうかを見逃さないという強い意思を孕んでいる。そして、ボクが嘘をついているのが分かった途端に命を奪いそうな狂気に塗れていた。

 ボクはリーンの目を見て話を続ける。


「2本の木は長い年月を生き、神樹としての力を持つようになった。そして、次元の存在の力を借りて少女を蘇らせた。神として。ここに、光と闇の力を併せ持つ“秩序神リーン”と、母なる白い神樹“天神”、父なる黒い神樹“魔神”の3柱が誕生した」

 リーンの目が次第に泳ぎ始めていった……。
 自分の記憶を辿ろうとして頭を抱えている。

 ボクはさらに話を続ける。
 肝心なところはここからだ。
 リーンの大いなる誤解と真実の物語は。


「3柱が創造した天魔界、後にここに住まう人々によって“ロンダルシア大陸”と名づけられた地上界は、長い年月を経て繁栄を極めた。しかし、その栄華は儚く崩れ去ることになる。天神と魔神は互いにリーンとこの世界を独占しようとしたんだ。両者の不和による諍いが起き……魔神が生み出した魔王と、天神が生み出した七勇の争いは世界を急速に衰退させていった。
 やがて、天神は天界に、魔神は魔界に逃れて、天魔界=地上界には秩序神リーンのみが残されることになった。リーンは、天界から放逐されたと思っていたようだけど、真実はそうではなかった。結果的には、同じように一人ぼっちになってしまったのだけど。
 一人残されたリーンは悲嘆に暮れ、亡き両親を蘇らせる為の神石を作った。それが銀の召還石だ。しかし、次元の存在はリーンに力を貸すことなく、願う召還は果たせなかった。その後、リーンは天神の七勇と共に魔王と戦い、魔王の肉体を滅することに成功する。しかし、その代償として自らの魂を激しく欠損させ、記憶を失うこととなった。
 そして1000年の時が流れた。魔王復活が近づく中、奇しくも人の手により銀の召還が成功した。それが……」

『それが、あなたなのね、リンネ。いえ……お母さん!思い出した……やっと思い出した!』

 リーンが涙を流しながら抱きついてきた。
 柔らかくて良い匂いがする。
 懐かしい匂い。

 2000年以上の時を越え、親子が再会したんだ。
 それを思うと、ボクも涙が止まらなかった。
 アユナちゃんも、クルンちゃんも泣いていた。

 でも、お父さんじゃなくて、お母さんなの?
 この世界に来たときにキャラクター設定をした記憶が蘇る。うっすらとだけど、前の世界では男だった気がするんだけど……まぁ、どっちでもいっか。

「ボクは記憶が無いんだけど……前の世界ではもう死んじゃっていたんだね?」

『うん……事故で……。でも、こうして会えて本当に良かった!!』

「生き返してくれてありがとう、って言うのは変かな。いや、謝るべきだね。ごめんね。たくさん苦労をかけてしまったみたいで」

『寂しかったよ。すごく、すごく寂しかった!でも、2本の木が私と一緒に居てくれた……』

 リーンはボクをじっと見つめてくる。
 ぎゅっと、抱きしめる手に力が加わる。

「リーンを地上界に一人ぼっちにした天神と魔神を恨んでる?」

 戸惑うような表情を見せるリーン。
 悲しげな瞳の中に、不安と後悔が見て取れる。

『違う。謝りたい。優しく私を見守ってくれた白と黒に、私は自分勝手に両親を重ねてしまった。いえ、その役割を押し付けてしまった。恨まれるとしたら私の方』

「だってさ!」

 ボクは背後を振り返り、岩陰で様子を窺っていた魔神に話しかけた。

『えっ!?黒……?』

『リーン様……なんとお詫びすればよいか……』

「ほらね!お互い、過去を乗り越えよう!ボク達にはやるべきことがあるでしょ?1000年も前のことなんてすぱっと忘れて、これからのことを頑張ればいいでしょ!」

「なんだか、リンネ様が神様より偉く見えるです」
『うんうん、変な感じだね』

『お母さん、ありがとう!』

 洞窟の通路から黒い仮面をつけた生物が近づいてくる。
 ニューアルンの会議室で会った奴だ。手足が長く、宇宙人のような生物。それが溶けるように1枚の木の葉となり、鳥の姿をした魔神に吸収されていく。

『影はもう不要だよね。これからは、ぼく自身がリーン様を守るから』

『そう、この子たちは……黒と白が私を守ってくれていたんだね。ありがとう……』

 リンネは仮面の生物を結構きつく扱っていた気がするけど。
 あ、白い仮面の方はまだいるね。天神に会いに天界まで行かないといけないかな。

『お母さん、聞こえてる……』


 そのとき、アイちゃんからの念話が入った。

(リンネさん、やっと繋がった!大変です!!)

(どうしたの!?)

(フリージア王国がクルス光国に宣戦布告をしたそうです!!)

(えっ!?)

(フリーバレイの解放拠点が……フリージア軍に占領されました)

(ミルフェちゃんが命令した訳ないよね!?)

(不明です!確認お願いします!)

(分かった!今から行くね!!)

「みんな、大変なことになった!フリーバレイで戦争が起きてるみたい。リーンと魔神、ヴェローナはここで魔王とウィズに警戒してほしい。アユナちゃん、クルンちゃん、フリージアの王都に行くよ!!」

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