異世界八険伝

AW

51.エンジェルウイング

 ボクはハッと目覚めて飛び起きた。
 確か、魔界に行って……ミルフェちゃんは!?


 辺りを見回す。
 地下牢じゃない!……どこかの部屋の中?
 誰も居ない……。
 旅館にしては豪華、王宮にしては質素。
 6畳ほどの狭い部屋に高級なベッド。
 家具がなく、生活感が感じられない部屋。


 布団から出る。
 えっ!着替えさせられてる……下着まで!?
 もしかして、メルちゃん達が助けに来てくれた?
 それなら誰かが部屋に居ても良いはず。


 意を決して立ち上がる。
 怪我は治療されている……大丈夫、動ける。


 ドアに向かう。
 引くのか押すのか悩む。
 普通は引くはず……開かない。
 運が悪い!押してみる……開かない!?
 監禁された!?
 仕方ない、転移しよう……。

 そう思ったとき、突然ドアがスライド・・・・した。

「ヴェローナ……」

『あ、やっと起きたわね』

「もしかして、助けてくれた……?」

『そうね。可愛い女の子が今にも死にそうな状態で転がり込んできたら、誰でも助けるわ』

「ありがとう……」

 勇者を殺す最大のチャンスだったはず。でも、この魔人はボクを助けてくれた!

『勘違いしないで。約束を守っただけだから。利息は貰ったけどね』

「利息?まさか……ミルフェちゃんは!?」

『大丈夫、安心しなさい。利息ってのは、貴女の着替えよ。下着はウィズに……』

「止めて!!!」



 結局、ウィズに会ったときに、いかにヴェローナが優しくしてくれたのかを熱弁してあげるということで、下着は回収出来た。ミルフェちゃんは、隣の部屋で寝ているらしい。良かった……。


『ミルフェ王女は大丈夫よ。身体の方も全く・・問題なかった。心配してたでしょ?』

「そう……良かった……。洗脳は解けた!?」

『怒らないでね?洗脳魔法は私が掛けた』

「!!」

『ほら、落ち着いて!落ち着いて聞いて!
 彼女は命を掛けてガルクと戦おうとした。このままだと殺されると思ったの。だから、隙を見て密かに従順化の魔法を掛けた。勿論、さっき綺麗に解除してきたわ。まだ寝てるけど、会いに行く?』

「うん、お願いします……」

 この魔人、こんなにいい人だった?まだ信用しちゃいけないけど、この人となら仲良くなれるかもしれない……。信じてみようかな。



 ボクはヴェローナに連れられて隣の部屋に入った。平屋の一戸建て、3LDKくらいの建物?
 ここは……どこだろう。

「ミルフェちゃん!!」

「……」

 寝てる。布団の上から胸が規則正しく上下しているのが分かる。表情も穏やかだ。良かった。

『衰弱しているわ。2日間ずっと暴れてたからね。私が魔法を掛けてからも含めると、5日間は何も食べていないはずよ。起きてから少しずつ食べさせないと』

「なぜ……ここまで親切にしてくれるの?」


『言ったでしょ?貴女を気に入ったってのが本音。まぁ、建前としては……この子と貴女が重要な鍵になるからよ』

「鍵?」

『これ以上の情報提供には対価を要求するわ。貴女のところの子も情報収集しているみたいだけど私の方が上ね。兵士を洗脳してるからね。因みに、貴女を無事に地下牢に連れてきた兵士達は私のペットよ』

「なるほど……確かにロボットみたいに従順でした。でも、今は持ち合わせがないんです……」

『さっき返した下着で十分よ』

「!!」

 やっぱり、こいつは悪魔だ……。
 でも、政争を一刻も早く解決してアルンに行くには情報はどうしても必要……リザさんの白と水色のシマシマは惜しいけど、手放すか。

「分かりました、お願いします……」



 ★☆★



 ヴェローナから得た情報は、この国の闇の深さを感じさせた。アルンの勇者召喚もそうだけど、フリージア王国も大概だ。もう、どっちが魔族なのか分からなくなる、吐き気がする。


 ヴェローナがアルン王国のレオン王子を誘拐した後、ヴェローナの思惑通りアルン王国はフリージア王国に宣戦布告をした。

 アルン軍3万が国境に展開する中、ヴェローナから解放されたレオン王子が急ぎ舞い戻り、交渉の末に両国は和平を結んだ。

 その後、怒りの矛先を魔人に向けたアルン軍は、国内にある魔人グスカの居城を攻めた。しかし、魔族に尽く蹂躙され国王を含む大量の死者を出し敗戦。国内は混沌を極め、臨時政権とレオン王子派に別れて内戦に至る。

 対するフリージア王国も、弱体化したアルン王国を援助して同盟を結ぼうと主張するヴェルサス王と、アルン王国を滅ぼして大陸を統一すべきと主張するアレクシオス第1王子を中心として、血で血を洗う争いに陥る。

 ここまではよくある話だ。しかし、アレクシオス第1王子がシルフィス第1王女派と合流するや否や、情勢が一気に動く。勝ちを焦った第1王子が魔人ガルクと手を組んだのだ。

 第1王子派アレクサイドは、突然国王派ヴェルサイドの要人を暗殺し始めた。激怒したヴェルサス国王はアレクシオスを廃嫡、第2王子を後継者に指名する。

 引き下がれなくなった両陣営は、お互いに暗殺を繰り返す泥沼の争いに発展する。そして……第1王女と第2王子も毒牙に掛かる結果となった。

 後継者を欲する国王、それを阻止しようとする第1王子……お互いに目指したのは唯一の血族、第2王女ミルフェだった。

 そして、アルン王国に派遣されていたミルフェ王女を真っ先に確保したのは、アレクシオス王子と手を組んでいた魔人ガルクだった。

 しかし、ガルクはミルフェ王女を引き渡さなかった。魔界に監禁し、アレクシオス王子との交渉のカードに利用したのだ。

 ガルクの要求は国王の殺害だった。当然、国王派も徹底して守りに入っている。ここに至り、両陣営はお互いに動けず膠着状態となっている、とまぁこんな感じだった。



『ガルクが死に、ミルフェ王女は生き残った。情勢は変わる。私とウィズが望む最良の形は、ミルフェ王女による新国家樹立よ。だって、現国王は憔悴しきって統治能力はないし、アレクシオス第1王子が勝てば魔族の侵攻を止められず人類は確実に滅ぶわ』

「唯一の道が、ミルフェちゃんが国を纏め、ボク達が支えて人類一丸となって魔人、魔王を止める、こういうこと?」

『御名答。ただし、障害も2つある』

「ミルフェちゃん自身が拒否することと、アルン王国の動き……」

『その通りよ。勇者リンネ、貴女にしか2つの国を、ひいてはロンダルシア大陸を救うことが出来ない。ミルフェ王女を説得し、アルン王国のグスカを討伐してほしい』

「ボクにしか出来ない……ボクなら出来る……本当に?どうしてそう言い切れるの?」

『そうね。まだ今は知らなくて良いことよ。時が来たら自ずと分かる』

「……」

『貴女の仲間にも相談すると良いわ。目指すところはきっと同じ。宜しくね』



ボクの仲間達エンジェルウイングに相談してみます。
 では、そろそろ行きます。転移!……あれ?」

『いい忘れてたわ。ここは私が次元魔法で作ったマイホームよ。この中では次元魔法は使えないわ』

「……」

 ボクはミルフェちゃんを背負って玄関から出た。
 まだ、地下牢の中だった。
 そして、アイちゃんと念話でやり取りし、皆との合流を果たした。



 ★☆★



「随分と大きな建物を買ったんだね……」

 エンジェルウイングの本拠地となるべき建物は、1階が店舗で2~3階が住居構造になっていた。1階部分だけでもかなり広い。学校の体育館くらいのスペースがある。加えて住居部分には個室が40もあり、その他に会議室や大浴場、食堂も完備していた。


「お金は足りたの??」

「はい。それが……無料なんですよ、ここ」

「えっ!?お化け屋敷とか?」

「違います!ギベリン商会という所の斡旋なんですが、リンネさんには恩があるということで」

「ギベリン……ギベリン……あ!思い出した!ミルフェちゃんを襲ってた盗賊の……」


『今はギベリン商会だ!勇者リンネ!
 やっと会えた。やっと恩返し出来る。な、お前ら!』

『『『ちぃ~ス!!』』』

 うわっ!ヤ○ザみたいな集団が来たよ……。
 義賊だかなんだか知らないけど、お金持ちなんですね。でも、思わぬところで“情けは人の為ならず”を体現したよ。これなら奴隷解放資金も大丈夫。

 その後、成行でギベリン商会は解散し、エンジェルウイングに合流した。断りたいけど断り辛い。一気に男臭くなったよ。

 茶色い歓声が聞こえる。「可愛い女の子ばかり!」「エルフいるよ!」「天使もいる!」「狐っ娘だ!」「俺のハーレム生活きた~っ!」「俺は勇者様一筋だからな!」「ドワーフいらね!」「お前もいらね!」
 もう、どうでもいい。そのうち思い知るでしょ!



 ★☆★



 ボク達は、寝室のベッドで横たわるミルフェちゃんを囲んで座っている。


『むむむむむっ……!』

「アユナちゃん、どうかした?」

『何で13歳でこんなに胸があるの!?』

「あぁ~そこね、王女様の特権みたいな?」

『納得できな~い!けど、頑張る!
 魂よ、輝きを取り戻せ!レイジング・スピリット!』

 エリ村でレンちゃんを目覚めさせた魔法だ。

 ミルフェちゃんの目が……ゆっくり開いていく!



「ミルフェちゃん!!」

「リンネちゃん!!!」

 ボク達は無言で泣きながら抱き合った。言葉はいらない。触れ合ってさえいれば全部分かるから。
 良かった!記憶は失われていない!
 辛い記憶もあったと思うけど、ボクのことを覚えてくれていたことが嬉しかった!!自分勝手だね、ごめんね。でも、生きててくれて、ありがとう!!!



 ★☆★



 その後、ボク達はギベリンさんも交え、ヴェローナから得た情報を元に作戦会議をした。


「それで、ミルフェ王女はどうしたいの?」

 レンちゃんが単刀直入に切り出した。ライバル意識剥き出し?なんで……!?

「私は、父様とアレ兄様と3人で話したい。2人とも平和を求めてるのに何で殺しあうわけ?私は真相を知りたい」

「王様になる気はないということ?」

「ないわ」

「ヴェローナはミルフェ王女にしか国を纏られないって言ってたけど?国を見捨てるの?」

「見捨てる?そんなことは言ってない!王は、相応しい者がなるべきだと思うの。見ての通り、必要なのは英雄の血ブランドじゃない。王は、皆で選ぶべきよ」

「ミルフェちゃん!ボクもそう思うけど、相応しい者の資質って何だと思う?」

「資質……民を愛する心、平和を愛する心。そうね、抽象的だけど、皆を愛する心かしら」

「それならミルフェちゃんが1番相応しいよ!」

「リンネちゃん。私は世界の平和を誰よりも願ってる!でも、それを成し遂げる為の力が私にはない、誰も救えないの……」

「ボクもティルスの市長をしたときにそれは感じたよ。でも、力は必要なかった。仲間達が支えてくれたから。力があれば……かつての暴走した勇者達みたいになる。王は心があればいい!」

「私を支えてくれる人なん……」

「ボク達がいるじゃん!!
 皆で平和な世界を作ろうよ!!」

 皆、頷いてくれている。きっと大丈夫。

「私が王になれば……皆が平和に暮らせて、幸せを感じられる国を作れるかな……」

「作ろうよ!!みんなで!!!」



 ボク達、エンジェルウイングの目的が決まった。奴隷を解放し、魔族とも共存し、皆が幸せに生きられる世界を作ること。世界を天使の羽で優しく包み込むんだ。その為に戦う!

「では、わたしは三者会談の手配をしますね!」

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