異世界八険伝

AW

35.北の大迷宮6【挿絵】

 湖のほとりから覗き込む3人の心配顔を見て、正直笑ってしまった。水中の魚から見るとこんな感じなんだね。

 陸に上がり、木陰に女の子座りしてアクアドラゴンの件を報告すると、安心したからか、彼女を心配する声も出てきた。


「戦いにならなくて良かったよね」
「確かにね」
「ドラゴンさん死んじゃったのかな……」
「どこかに転移したのかもしれませんね」
「最初から幻だったってことは? 」
「幻って感じはしなかったね。ドロップアイテムも無かったし、メルちゃんの説が有力かも? 」
「死んでなくて良かった! 」

 うっ、散々雷魔法でやっつけてきたボクには辛い一言。まぁ、力を示せって言われたら本気で撃たないと逆に失礼だよね?

 と言うことで、切り替えよう!

「あれ? アユナちゃん、背が伸びたよね! もしかして、身長追いつかれちゃったかな? 」

「そう? 」

 座っているときに目線が揃っていても、身長が同じとは限らない――立ち上がったボクに合わせ、精一杯爪先立ちするエルフさん。申し訳ないけど、ボクの方が脚が長いってことだね!

「もうっ! 追いついたと思ったのに! いいもん、ネギとかゴボウとか、長いお野菜たくさん食べるもん! 」

 それで背が伸びたら苦労しないよってみんな思ってるはずだけど、誰もツッコまない。小学生の夢は無限大、絶対に壊しちゃいけないんだから!

「じゃぁ、約束通りたくさん泳ごう! あたしが1番いただきっ! 」

 レンちゃんが装備と服を脱ぎ捨て、シャツ1枚になる。背が高い分、パンツが見えちゃってるけど――勢いよく湖に駆けだしていき、ジャンプする。

 ザバーン!

「私も泳いできますね」

 レンちゃんの服まできちんと畳み、シャツだけになるメルちゃん――アユナちゃんが手で口を押さえ、目を丸くして驚くほどの発達ぶりだ!

「リンネちゃん、一緒に行こう! 」

 ローブの下は既にシャツ1枚――アユナちゃんは圧倒的な早さで準備をすると、最初からシャツだけのボクの手を取って引っ張って行く。

 ザバァーン!



 一頻り水辺で泳いだり水を掛け合って遊んだ後、ボクたちは今、飛び込みをして楽しんでいる。と言っても足からなので飛び落ちなんだけど。

 湖の縁にいい感じに伸びた天然の飛び込み台――見つけたのはボクだけど、下から見た以上に意外と高くて怖い。多分、3m位なんだけど、身長も足されるからね――。

 最初は1人ずつ飛び込んでいたけど、スリルを共有したいということで、今は2人1組で抱き合って飛び込んでいるところだ。

 最初、ボクはアユナちゃんと一緒。身長は150cmくらいであまり変わらない。実は水にあまり慣れていないらしく、ボクにぴったりくっ付いてくる。アユナちゃんは成長著しいご様子で、シャツごしにも胸の膨らみが分かるくらいになってきた。エルフ体型というのか、凄く線が細くて羨ましい。

 次にメルちゃんとレンちゃんのペアが飛び込んだ。何をどう食べたらあんな理想サイズになるのかレンちゃんから突っ込まれるメルちゃん。身長はレンちゃんの方が高いのに、胸のサイズは2倍くらい違うように見える。でも、レンちゃんのすらっと引き締まった綺麗な身体も、正直羨ましい。

 ボクたちは、何回か組み合わせを変えながら飛び込みを楽しんだ。メルちゃんの身体は凄く柔らかくて癒されたし、レンちゃんは硬いんだけど謙虚な大きさで安心する。胸の大きさに貴賤はないと言いつつも、ぴったり抱き合っているとどうしても意識をしてしまうもの。これは飽きないね! けど、下着にシャツ1枚――一応女の子しか居ないから、いっか。



「クピクピ!!  」
「えっ! 魔族の反応!? 」

 楽しい一時を過ごす中、枝の上で寛いでいたクピィが突然鳴き出した!

 その後、ドスンッという音がして、その場に緊張が走る。周りを見渡すが誰も居ない――。

「アユナちゃん! お願い!! 」

「任せて!! 」

 アユナちゃんが森の中へと走り出す――。


 ボクたちは22階での魔族反応に対して、その後も常に警戒を怠らなかった。離れて尾行しているのか、気配を隠しているのかは分からないけど、隙を突いて必ず襲ってくると確信していた。

 そこで、こちらが主導権を握るための作戦を考えた。メルちゃんの発案にレンちゃんの妄想が加わり、わざと隙を作って罠に嵌めることにしたんだ――それが、今回の一連の水遊び。

 湖からこの飛び込み台のような木まで、森の茂みを抜ける道があった。逆に言えば、その道を通らないと普通はこの場所まで辿り着けない。そこに皆で落とし穴を掘った。出来上がったときは、あまりの完成度に全員でハイタッチをしたくらいの美穴だ。勢いで作ってはみたけど、まさかこんなベタな罠が実際に効果を発揮するとは誰も考えていなかったのでは――。

 道にポッカリ開いている穴に向かって、アユナちゃんが結界を張る。

 直径2m、深さ3mに及ぶ大きな穴の入口が、加護で強化された強力な結界で塞がれる。アユナちゃんの光魔法は今や中級に上がっている。この狭い範囲であればレベル50程度までは抑え込めることができるらしい。上位の魔人でなければ抜け出せないだろう――。



『ガァー! ここから出してくれ!! 』

「よく見えないけど――これ、魔人だよね? 」
「鑑定できないけど、しゃべってるし」
「クピィちゃんの反応もありますし」
「角が見えるね。魔人だと思う」


 ボクたちは、シャツとパンツの格好のまま、落とし穴の中を観察中だ。この状態なら問答無用で倒せそうだ。乙女たちの水遊びを覗いた罰を与えないといけないよね――さぁ、どう料理しようか。


『俺は魔人序列第7位のウィズだ! 話し合おう! お前たちと争うつもりはない! 』

「リンネ先輩、騙されてはダメです! 魔人は敵を騙して快感を得る生き物です! 」

『俺は味方だ! お前たちが進みやすいよう、背後から来る魔物を倒していただだろう? 』

 言われてみれば、後ろから魔物に強襲されたことはなかったような――。

「味方? 魔人が? お前の目的は何なの? 」

『俺の目的は、魔族と人間との共存だ! 』

「共存と覗きと、どういう関係があるの? 」

『うっ……それは……勇者の……』

「ボクの? 」

『勇者の……胸が意外と可愛かったから……』

「リンネちゃん、こいつ殺そう!! 」




 とりあえず、結界から出さずに話を聴いてみた。ちなみに、服をしっかり着てフル装備だ。

 魔人ウィズによると、魔人の中にも魔王復活を企て世界の支配を確立しようとする魔王派と、魔族の国を作り他種族との共存を目指す共存派があると言う。さらにその共存派の中でも、勇者を陰から支えようという勇者派のリーダーが彼、ウィズなんだとか。共存派の割合は全魔族の2割、勇者派はその中のさらに2割くらいらしい。つまり全魔族の4%――かなりの少数派だ。


『俺たちの本音は……勇者と仲良くなりたいんだ……信じてくれ! 』

「信じろと言われても――今までのサキュバスやトカゲの魔人には騙されましたからね! 」
「リンネちゃんに男が近づくのは絶対反対! 」
「リンネちゃんは可愛いから魔人にもファンがいるのは仕方ない。でも、あたしたちのアイドルは渡さないわ! 」

 3人はそれぞれ噛み合わない理由を挙げて反対しているけど、ボクとしては魔人に共存を目指す意志があるなら力を合わせたいと思う。

「みんな待って。この人を信じてみたい。お願い」

「まあ、結局はそう言い出すと思ってたけど、信じる根拠は何かあるの? 」

 肉食系のレンちゃんが早速食いついてくる。

「まずね、この魔人は容易に落とし穴から抜け出せるのに、全く出ようともしないこと」

 魔人ウィズも含め、その場の全員が沈黙している。つまり、それは誰もが認めている事実だと言うこと。

「それに、今のクピィちゃんの表情を見れば分かるけど、この人から敵意を感じないんだよ」

 クピィはボクの肩でのほほんと眺めている。自分のことを言われているのに気付いていないみたい。

「ちなみに、カッコいいからとか言わないよね? 」

 あ、確かに角がなければ水色と銀色の中間の髪や、整った美少年なルックスはどこぞの王子様を軽く凌いでいるかも!

<a href="//18730.mitemin.net/i244928/" target="_blank"><img src="//18730.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i244928/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
↑ウィズ(清水翔三様作)

「それはない! 」

 間ができちゃったけど、ボクは断言する。イケメンなのは認めるけど、男を好きになることはさすがにないよ!

 ガッカリな魔人に対して、安心した3人の表情が印象的だった。



 結果的に、ボクたちは魔人ウィズを解放した――。

 彼は勇者パーティに加わるのは恥ずかしくて無理と言いつつも、勇者派を増やすための布教活動に必要だからと、ボクの下着を所望した。さすがに皆がキレてしまったので、ボクは湖で着ていたびしょ濡れのシャツをあげた。必要経費でしょう。

 彼はさっそく布教活動に向かうと言って、大喜びで転移していった――そう、この魔人は転移魔法が使えるんだ。つまり、ボクたちはいつでも彼に狙われる可能性があるということを意味する――。


「リンネ先輩、何を考えてるんですか! 」

「え? 常に警戒しないとって――」

「違いますっ! シャツですよ、シャツ!! 」

 メルちゃんからは叱られたけど、魔族の1%でも戦わずに協力してくれるなら、シャツ1枚なんて安いくらいだよね、と言うことで納得してもらった。



「さて、次は26階だね。たくさん遊んだし、そろそろ行きましょ! 」

「「おぅ!! 」」

 現在、ボクはレベル22、メルちゃんが16、アユナちゃんが14、レンちゃんが13になっていた。



<26階>

 階段を降りきると、そこは夜だった。正確には闇に覆われた真っ暗な階層が待ち受けていた。道幅がどうとか、天井がどうとか言うレベルではない。何にも見えないのだ。どうやらここは闇属性のステージらしい。

「地図には真っ暗な階層だなんて書かれてないんだけど……」

「推測ですが、25階層を突破した人はかつての勇者アルンパーティ以降存在しないのでは? 」

「情報が古くて当てにならないかもね! 」


 メルちゃん&レンちゃんに前衛を任せ、アユナちゃんが召喚したウィルオーウィスプの放つ光を頼りに、ボクたちは慎重に進んで行った。

 壁そのものも黒いらしく、遠近感が分からないだけでなく、精神的にも未だかつてない負担を背負いながら――。

「前方40mに魔物の気配です! 数は1! 」

「見えなくて鑑定できないよ! 」

 暗闇の中で魔物の目が光る、ということはなかった。ウィルオーウィスプの光は周囲10mまでしか照らせない。その先にあるのは、全くの闇である。ここに居るのは、まるで深海魚の退化した目のように、視力に頼らない魔物らしい。

「音は? 」

「カタカタ聴こえます」

「飛行タイプじゃないみたいだね! あたし夜目効くから先行する! 」

「私も暗いのは大丈夫です! 」

 前衛バトルジャンキー2人は頼りになるなぁ。


 数秒後、破壊音がして――2人が戻って来る。

「スケルトン系の魔物でした」

 冷静なメルちゃんとは違い、レンちゃんは顔面蒼白だ――そう言えば、アンデッドが苦手なんだったね!

「アンデッド中心なら私が片付けますね! 」

 メルちゃんの力強い言葉とメイスの一振りで、ボクたちの快進撃は維持された。



 ★☆★



「その先を左折ね! その後に左右に分かれるT字路があるから気を付けて! T字路は右だからね! 行き止まりまで進めば部屋がある!」
   
 その後、魔物はボクたちが視認する前にメルちゃんが始末していた。多分、レベル20前後のスケルトンソルジャーとかアーチャーとか。あとはダークなんちゃら系だと思われる。

「部屋まで来ましたね」

「魔物が居るかもだけど、狭いからたくさんは居ないはずだよ」

 ボクたちはゆっくりと部屋に入る――。


 バタンッ!!


 いきなり扉が閉まった!?

 アユナちゃんが閉めた訳でもないらしい。これもトラップの一種かな?

「今、勝手に閉まったよね!? 」

 レンちゃんが発狂しそうだ!

「落ち着いて! 前方に魔物が1体見えます」

 確かに、赤く光る2つの点が見える。高さ2m、幅が10cmくらいか――。

 光っているのが眼なら、10m離れていると考えると、結構大きいかも! でも、これなら観れる!

[鑑定眼!]

 種族:スケルトンキング
 レベル:28
 攻撃:8.85(+4.40)
 魔力:9.10
 体力:5.25
 防御:5.70(+1.85)
 敏捷:5.20
 器用:3.30
 才能:1.75


「スケルトンキング、レベル28! ステータス的に、武器と盾があるみたいだよ、気を付けて! 」

 2つの光が一瞬強まったように見えた瞬間、奴は突然襲いかかってきた!


 上段からの容赦ない袈裟斬りを、メルちゃんがメイスで受け流す。

 スケルトンはすぐさま横から薙ぎ払いにくるけど、今度はレンちゃんが頑張って剣で受け止めた。

 横に回り込んでからのメルちゃんの一撃は、しかし、スケルトンの盾が防ぎきる。

 それならと、2人は連携して同時に攻め立てるが、スケルトンの剣術には一切の無駄がない。お互いに決定打が決まらないまま30合以上の剣戟が続く――。

「アユナちゃん、光魔法お願い! 」

 膠着状態を打開するため、メルちゃんが叫ぶ。ボクもいつでも魔法を撃てるように魔力を練り上げておく。

「うん、分かった! この世にあらざるものよ、去れ、光の彼方へ! セイントブレス!! 」

 フェアリーワンドから放たれた聖なる祝福の光――その光の奔流を、スケルトンの盾が受け止める。ただ、それもほんの一瞬のこと。徐々に盾が消えていき――10秒後にはスケルトン本体も消滅した。


「意外と手強かったね」
「あの盾、魔法防御も高そうだった」

 スケルトンキングを倒した後、レンちゃんとメルちゃんが感想を言い合いながら連携を再確認している。

 そんな中、ボクは薄暗い部屋の中を歩き回り、執念で宝箱を見つけた!


「開けるね――えっと、これは、腕輪かな? 」


[鑑定眼!]

[浮遊の腕輪:装備した者はスキル浮遊と同様の効果を得られる]


「浮遊の腕輪だって! 空が飛べるかも? 」

「すごい! カッコいい! 」
「迷宮内ではあまり意味がないですが、飛行タイプの魔物と戦う際には役に立ちそうですね」
「頭に乗せるプロペラよりはお洒落だね! 」

 確かに――鳥の羽のようなデザインが、金や銀、何かの宝石みたいな石で装飾されている。芸術品としても一級品なのは間違いないね。

「で、誰が装備する? 」

「「「リンネちゃん! 」」」

「えっ!? ボクは魔法で遠距離攻撃出来るし――」

「使うのに魔力必要だと思うからあたしはパス! 魔力が切れて転落死とか、笑えないよ」
「私はシルフの力で少しなら飛べるからいらないよ? 」
「私は……お空は苦手です……」

 なんだ、消去法ですか。



 ★☆★



 その後、メルちゃんが魔物を倒しつつ、宝箱がありそうな場所もチェックしながら進んだ。他の宝箱は、結論から言うとハズレ。使い捨ての照明魔法やマジックポーション、お金だった――。


「あっちに明かりが見えるよ! 」

 階段は明るいらしい。遠く離れていても良い目印になった。これで26階クリアだ。かなりゆっくり歩かざるを得なかったため、4時間も掛かってしまった。

 今はだいたい夜の9時。歩き中心だったためか、あまり疲労感もないので、27階もクリアしてから休憩をとることにした。


 今後の予定は、こんな感じに修正済み。リスケって大切だよね。

 3日目:27階までクリア
 4日目:29階までクリア
 5日目:30階クリア(攻略)



<27階>

「多分、リッチ! 魔法に気を付けて! 」

 扉を開けた部屋の中には、黒い闇のようなローブを身に纏ったスケルトン、リッチが居た。人型アンデッドのうち戦士系の頂点がスケルトンキングならば、魔法系の頂点はリッチだと言われている。いにしえの優秀な魔法使いがアンデッド化し、さらに強力な魔力を得たリッチ――ボクの鑑定ではステータスを観れなかった。まだまだ魔力を上げないとね!


「魔法を使われる前に片付けます! 」

 メルちゃんとレンちゃんが突っ込む!

 しかし、その攻撃は当たらない! 身体が霞んで霧状になり、離れた別の場所に再び実体化する――湿気のある暗闇はリッチの独壇場だ。

「瞬間移動!? 」

「遊ばれてる! 固まらずに距離を取るよ! 」


 距離を取ったボクたちに向けて、リッチから黒い電撃のような光、炎魔法が飛んでくる。

 直線的な軌道なので、集中していれば辛うじて回避できる――。

 ボクも、杖に魔力を込めてサンダーボルトを連発する!

 しかし、うまく捉えても、魔法防御が高いようで決定打にはならない!


「ッ!! 」

 レンちゃんがいきなり倒れた!

「催眠魔法ですね、私たちは魔力が高いのでレジストできたようです!」

 ボクはレンちゃんにヒールを掛け、部屋の隅に移動する。大丈夫、物理的なダメージはないようだ。


「光の範囲魔法を撃つよ! 目を閉じて! 」

 アユナちゃんが本気モードだ!

「聖なる光よ、闇を払え! セイントフラッシュ!! 」

 狭い部屋が一瞬にして光で満ちる――ただし、ただの光ではない。対アンデッド用の浄化魔法だ。リッチを覆う闇の衣が剥がされる。今がチャンスだ!

「サンダーボルト! 」

 咄嗟に放った下級魔法だけど、確実に効いた!

 身体を硬直させ、地に膝を着くリッチ――そこにメルちゃんが襲い掛かる!

「トドメです! 」

 頭部に向けて放たれた渾身の一撃!

 ガードしようと掲げられた杖ごと、リッチの全身を破壊する!

 そして――黒い霧が霧散するようにリッチは消滅し、その場には、上級魔結晶と闇の魔法書/初級が残された。



「レンちゃん大丈夫? 」

「あいたた! 倒れたときに顔からいっちゃった! 鼻が潰れたかも! 」

 見た感じ――潰れちゃったのは、その可愛いお鼻じゃなくて、お胸の方だね。

「魔法を使える魔物は少ないけど、先のことを考えると早めに対策しないとね! 魔力が低すぎると魔法のダメージも大きくなるし、今回みたいにレジストできないみたいだからね! 」

「はーい……」

「闇魔法の初級かぁ、ボクはパス! 暗い子になっちゃいそうだから」
「魔力ないからあたしもパス!」
「私は光魔法に悪影響でるからいらなーい! 」

「はい、メルちゃんおめでとう!」

 消去法で決まった気分はどうでしょうか――メルちゃんは渋い表情ながら、魔法書に手を翳し、闇魔法の初級を習得した。いずれ使うときがくるよ、海水浴の日焼け防止とかね。



 ★☆★



 27階も迷路としては単純で、暗い中を迷わずに進めば攻略難易度はそれほどでもなかった。途中の宝箱からはお金やポーション、闇属性の装備を手に入れた。

 そして、3時間以上掛けて階段まで到達した。

「ふぅ、やっと着いた! 」

「今は真夜中くらいだよ、シャワーで洗いっこして、朝6時までたっぷり寝よう! 」



<28階>

 迷宮攻略4日目。途中でマラソンみたいに走破した階層がいくつもあったせいか、かなりのハイペースで進んでいる。

 そして訪れた28階。

 26、27階と大きく異なる点は、暗くないこと! そして、通路状の構造!

「明るいのはいいけど、ドラゴンがいるね――」

 どうやらここは、10m四方ほどの部屋が連続した構造になっているらしい。地図によると全部で20部屋を通ることになる。その1部屋ごとに魔物が――ドラゴンが出るようだ。


[鑑定眼!]

 種族:チャイルドドラゴン
 レベル:13
 攻撃:4.15
 魔力:4.50
 体力:6.10
 防御:2.75
 敏捷:3.75
 器用:2.30
 才能:0.90

「チャイルドドラゴン、レベル13! 」



 ★☆★



 最初は楽だった。メルちゃんが1発で終わらせてくれるから。でも、5部屋を過ぎるあたりからレンちゃんも戦闘に加わり――10部屋を過ぎるあたりから鑑定が効かなくなり――15部屋を過ぎるあたりからやや総力戦になってきた。

 部屋を進むにつれて、ドラゴンがこんなに強くなっていくとは――。


「19部屋目――これはワイバーン、確かレベル30らしい」

 部屋が広くなった。空間魔法だね。ざっと見て縦横高さが200mくらいありそう。蒼い空を1匹のワイバーンが悠々と飛んでいる。

「リンネ先輩、雷撃は届きますか? 」

「せめて20m以内じゃないと――そうだ、浮遊使ってみるね」


 ボクは浮遊の腕輪に魔力を通した。

 なんだろう、空中を泳ぐというか、魔力で移動するような不思議な感覚だ。手足をバタバタしなくてもいいけど、イメージをしっかり持たないと浮いているだけで精一杯。浮遊しながら他の魔法なんて撃てるのだろうか? 慣れないと厳しいよ、これは!

「ちょっと……練習しないと……飛ぶので精一杯かも……10分だけ練習させて……ワイバーンが来たらよろしく! 」



 ★☆★



 10分後――ワイバーンは空の縄張り意識が強いのか、10m以上上昇すると襲いかかってくるようだ。ボクは心の準備をして、10m上昇ほどした。

 予想通り、猛烈なスピードで迫るワイバーン!

 ボクは慎重に魔法でカウンターを合わせる!

「サンダーストーム!! 」

 雰囲気作りの詠唱をしている余裕がない。金色の光線がワイバーンに直撃、一瞬で消し去った! とうとうワイバーンを1撃で倒せるようになったよ、隊長!



 ★☆★



 20部屋目で待っていたのは、頭から尻尾の先までが20mくらいのドラゴン。階層守護竜のようには話せないみたいだけど、サイズ的にはメタルドラゴンなんかよりずっと大きい!

「緑の鱗……普通のドラゴンだよね? 」

「ブレスに注――」

『ブォォーッ!! 』

「アブな! 」

 先制でブレスを撃たれた! 若干の予備動作がある分、至近距離でなければ避けられない攻撃ではない。

 メルちゃんレンちゃんが突っ込む! ブレス直後は隙ができるもんね!

 その前に動きを封じる! 援護射撃だ!

「サンダーバースト! 」

 あれ? 倒してしまった――。

「「…………」」

 ドラゴンって、雷魔法に弱いのね。


 最深30階層まであと2つ! ボクたちは、気合を入れて29階へと降りて行った――。

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