異世界八険伝

AW

27.赤の召喚【挿絵】

 作戦はこうだ。

 ボクたちは予定通りに今からノースリンクに向かい、赤の召喚石を入手する。レオンに破壊されるリスクを回避するため、召喚はすぐに行う。

 エンジェルウィングには偽物の召喚石とカツラを用意してもらい、行商人を装って大陸側の竜神の角で待機してもらう。そして、赤の召喚者はカツラで髪色を隠し、エンジェルウィングに合流だ。

 もし上手く騙せていたら、レオンが竜神の角からヴェルデまでの途中で接触してくるはず。上手く挟み込み、逃がさないように戦う。

 もしバレてしまった場合、魔人は居城に籠ると考えられる。その場合は作戦Bでいく。みなさん、作戦Bが何か分からないみたいだったけど、頷いていたから大丈夫――。



 ★☆★



 と言うことで、ボクたちは大急ぎで馬車を走らせ、日没前には何とか大陸側の竜神の角に到着した。途中の魔物はなかなかに手強かったが、メルちゃんのメイスがそれ以上に強かった! たった4時間で上級3、中級12、下級15を討伐した。皆のレベルが1つずつ上がっていたけど、考察はお風呂の中でのお楽しみ!


「これが竜神の角? 確かに2対の塔が向かい合って建ってるね。角と言う割には先端が折れてるみたいに平らだけど――」

 遠目には、スマートな東京都庁という感じのペアの建物に見えたけど、近づくにつれ印象が大分変わる。地味な土壁は風化が進んでいて、その脇に切り立つ断崖絶壁を覗き込むと、背筋が凍り付くような黒い海を巻く大渦が見える――。

 反対側までは10m以上離れていて、飛行スキルでもない限りは辿り着けそうもない距離だ。もしこの海に堕ちたらと考えると、飛べても飛びたくない。

「俺も初めて見たぜ。それでだが、俺とティミーはこっち側の1階待機でいいんだな? 例の神殿は向こう側の町の中らしい。魔物も出ないし、大丈夫だろ? 」

「分かりました! ボクたちは町で1泊して、早朝ここに戻るようにしますね」


 馬車を残し、ボクたち3人は竜神の角を登っていく。

 螺旋状に作られた長い階段を高さ200mほどまで昇ると、魔法陣のある部屋に出た。

 部屋には、白地に赤い紋様の鎧を着込んだ王国警備兵が待機していた。

 身分を確認すると、頬をほんのり染めて「いってらっしゃいませ! 」と爽やかに送ってくれた。こっちには本物のメイドさんがいるんです、負けませんよ!

 彼が何かの操作をすると、床全体に描かれた魔法陣が白く輝き始める――。


 眩しい光が徐々に収まり、世界が色彩を帯びてくる。でも、さっきの部屋と何も変わっていないように見える。違いと言えば――頬を染めた警備兵の言葉「いらっしゃいませ! 」くらいか。この人たちのモブ感がハンパない。

 今度は、螺旋階段をひたすら降りる。上りより下りがキツいとよく聞くけど、ボクたちはみんな“下りの方が好き”という結論で一致している。明日の筋肉痛を覚悟の上で調子に乗って競争した結果、最下位に敗れ去った。ちなみに、1位はアユナちゃん。小学生は小回りが利くんだよ――。


 離島の町ノースリンクに到着したのは、日没直後の夕方6時くらいだった。この町には冒険者ギルドはない。魔物が現れないからね。だから、全く寄り道もせずに神殿に直行だ。

 王国経由で話を聞いていたそうで、トントン拍子に事は進み、不気味な夜の神殿内を、奥へ奥へと連れて行かれる。


 そして今、ボクたちは神殿を管理する聖神教の司祭様に案内され、結界の前に来ている。

「行ってくるね――」

 司祭様を含めたその場の全員が、期待と不安を織り交ぜた複雑な顔をしている。そう言えば、メルちゃんもアユナちゃんも召喚石は初体験だったね。君たちの初めてを同時に奪ってあげますよ。


 ボクは結界を通り抜ける。

 部屋にはキラキラと光が満ちている。ぐるっと見渡したけど、竜人族は居ない。最悪、戦う可能性も考えていただけに、正直ほっとした。

 部屋の奥まった所には竜神を象った像がある。竜の右眼にあたるところに、淡く赤い光を放つ召喚石が見える。

 どこかのなんかの神に祈るように、両手で厳かに召喚石を受け取る。すると、部屋を満たす光が一瞬強くなった!


『勇者よ……感謝する……』

 頭の中に、そんな声が聞こえた気がする。フィーネ迷宮で青の召喚石を授けてくれた――確か、グランさんの声だ。

「確かに受け取りました。大切に使います」

 どこかで誰かに見られてる気がして、長々とお辞儀をしながらお礼を言う。

 顔を上げたときには、部屋を満たしていた光は消え去り、部屋を包み込む結界も解かれていた――。



 ボクが待っている仲間の元に戻ると、司祭様は感動で鼻血を垂らしながら出迎えてくれた。

 さて、この場で召喚するか、宿屋が良いか――。

 司祭様が生召喚を見たいと騒ぐので、彼の失った血液に免じてこの場で頑張ることにする。本音を言っちゃうと、あまり時間が遅くなると召喚される側が可哀想だからなんだけどね――ボク優しい。



 みんなが見守る中、地面に女の子座りして、赤の召喚石を胸に抱きながら妄想という名の深い瞑想に入っていく――。

 赤……赤のイメージ……赤は……炎……情熱の色……信号の止まれの色……トマトやリンゴ、スイカの色……ダメ……食べ物はダメ……赤……赤……赤はキレ易い……だからこそ、優しさは重要……そして可愛さ……おまけに強さ……テーマは……ヤサカワツヨ……そんなイメージでいこう!

 うーん、やはり具体的なキャラをイメージしないとリスクが高くなる。コワブサヨワが召喚されてしまった時点で世界は滅ぶ、そんな危機感を抱いて臨むべし。

 赤い髪をイメージする。まず、可愛さから入る。これは世界平和のために外せない要素。可愛いこそが正義だと初めて言った人は誰だろう。多分、神様かもしれない。

 優しい系だと……トランス能力持ちの妹的な殺し屋さんは……恐すぎる、ダメだ。最強魔法ギルドのS級魔導師も恐すぎて却下だ。精霊使いの子や落第騎士の子、働き者の勇者さんもカワツヨなんだけど……ちょっと情緒不安定なので……外すしかない。

 強い系だと……緑の瞳の白雪姫様とか、元気印のあの子とか、召喚獣なポニテの子とか、空を飛べるツインテールの王女様とか……戦力的にきつそうな子も外す。

 うちの会社には事務員さんを増やす余裕はないのだよ!

 アイドルじぁ魔王を倒せない! そう、可愛いだけじゃだめなんだ。弓が得意なお姫様も、ネトゲ大好きな這い寄るツインテールさんも戦力的に微妙。メロンパンが好きな灼眼の子は普段は黒髪だからダメだ。いや、修行次第では寝ているときもスーパー状態をキープできるんだっけ? やはりダメだ、寝相悪いと殺される。

 ちなみに剣士が理想だよね、キャラ被りしないし。ただし剣なんて持ってないから、買うまでは棒を振ってもらうよ!

 例えば……ヴァンパイアと戦ってた赤い髪のあの子はどうだろう……まて、この世界にヴァンパイアいるのかな? 却下だ。じゃぁ、あのVR世界を生き残ったレプラコーンの二刀流剣士はどうだ? うん、彼女なら間違いなく3拍子が揃ってる。よし、君に決めた! 決して本人を無理矢理召喚するのではないよ、あくまで召喚のイメージモデルだ……名前は……レイ……イン……レン……レンイ……インレ……ネイル……リネ……うん、レンが良いね。



「祈りが終わりました。今から召喚します――」

「おぉ! 長くて深い祈りでしたね! いよいよ――」

 全く祈ってないけどね。あれ? 騙される方より騙す方が悪いって誰か言ってなかったっけ? まぁ、雰囲気作りということで。

 さて、イメージ……イメージ……二刀流……イメージ……レプラコーン……ポップコーン……今だけは雑念ダメ……赤……赤……赤……赤……赤!!

 ボクは召喚石を両手で高々と掲げ、叫ぶ。

「世界を護りし赤の力、いざ、召喚!! 」

 召喚石から眩い光が溢れ出す。光量は一気に加速していき、爆発的に膨れ上がる! 暗闇に沈む神殿全体を照らし出す赤い光は、眩しいけど、とても優しい光だ。

 やがて徐々に光は召喚石に吸い込まれるように収束していく――。


 ボクの手が少女の手と重なる。

 赤い髪、黒いスカートがひらひらと可愛い。赤と黒は凄く似合う色の組合せだと思う。それに、強そうに見える。

 今回はギャラリーが居たから、アユナちゃんみたいに雰囲気作りで気の利いた呪文を織り混ぜてみた。余計なことをして失敗しないか不安だったけど、前回に続き大成功! 超級美少女爆誕だ!!

 彼女レンの閉じられた目がゆっくりと開いていく――。

 橙色と金色の中間色の綺麗な瞳が見える。

 そして、ボクたちの目が合った。


「こんばんは!」

 ボクは精一杯の優しい笑顔で挨拶をした。エリ婆さんみたいにいきなり睨んじゃだめだ。赤髪美少女は、きょとんとしてボクを見ている。

 司祭様や、メルちゃんアユナちゃんが感動して涙を流している。

 この子はメルちゃんほど順応性が高くなさそうだ。上手くコミュニケーションをとらないと!


「突然ですが、あなたは異世界召喚されました」

 赤髪美少女は茫然としている――ボクは何を言っちゃってるんだし! こういうときは自己紹介からだ!
優しく、落ち着いてコミュニケーションだ。

「ボクは、リンネと言います。突然過ぎて訳が分からないと思いますので、説明しますね」


 神殿の一室へと大移動する。そして、この世界のこと、ボクたちのこと、現状とこれからのことをできる限り丁寧に説明した。みんなが手伝ってくれたお陰で、3時間後にはだいぶ打ち解けてくれた。笑顔がとても可愛い子だ。よく見ると少し耳が長い。耳友ができたと、アユナちゃんが大喜びしている。

「あたし……名前が……思い出せません……」

「貴女は“レン”ちゃんです。よろしくね! 」

「「レンちゃん、よろしくね!! 」」

「はい! 皆さんよろしく! 」



 ★☆★



 ボクたちは今日、神殿のお部屋を借りて1泊することになった。

 もう夜の10時くらいだけど、美少女4人でワイワイ話しながら食事をし、仲良くお風呂に入っていく。流れは自然、違和感の欠片も感じられない。

 レンちゃんはメルちゃんと同じ14歳らしい。メルちゃんより5cmくらい背が高いけど、胸はボクより少し育っているくらいだね。まぁ、2年後には完勝さ! 髪の長さは4人の中でもダントツ1番長い。2番はボクかな。


 さぁ、ステータスの確認だ!


 レンちゃんは敏捷型の剣士だね。メルちゃんほどじゃないけど初期ステータスが高い。スキルも教えてもらった。トイレ不要がやっぱりお揃いだった。隠術? かくれんぼが強そう。

<a href="//18730.mitemin.net/i244861/" target="_blank"><img src="//18730.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i244861/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
↑レン(清水翔三様作)

 ◆名前:レン
 年齢:14歳 性別:女性 レベル:1 職業:剣士
 ◆ステータス
 攻撃:1.10
 魔力:0.30
 体力:0.90
 防御:0.75
 敏捷:1.70
 器用:1.45
 才能:2.00
 ◆先天スキル:二刀流剣術/初級、隠術、食物超吸収
 ◆後天スキル:
 ◆称号:赤の召喚者


 ボクはレベルが1つ上がって16に。理由は分かりませんが、突然に見習いを卒業しました!! そして、ステータスポイントは全て魔力に。

 ◆名前:リンネ
 年齢:12歳 性別:女性 レベル:16 職業:勇者
 ◆ステータス
 攻撃:8.35(+1.50)
 魔力:23.60(+3.00)
 体力:6.40
 防御:8.50(+4.80)
 敏捷:5.15
 器用:2.35
 才能:3.00(ステータスポイント0)
 ◆先天スキル:取得経験値2倍、鑑定眼、食物超吸収、アイテムボックス
 ◆後天スキル:棒術/初級、カウンター、雷魔法/初級 中級、回復魔法/初級、水魔法/初級
 ◆称号:ゴブリンキラー、ドラゴンバスター、女神の加護を持つ者


 メルちゃんもレベルが1つ上がって9に。ステータスポイントはまた攻撃に。鬼化使うとヤバイ。

 ◆名前:メル
 年齢:14歳 性別:女性 レベル:9 職業:メイド
 ◆ステータス
 攻撃:17.00(+5.20、風弾/中級)
 魔力:9.90
 体力:7.35
 防御:8.35(+2.80)
 敏捷:8.35(+2.00)
 器用:6.90
 才能:2.00(ステータスポイント0)
 ◆先天スキル:気配察知、食物超吸収、鬼化
 ◆後天スキル:
 ◆称号:青の召喚者


 アユナちゃんもレベルが1つアップ。ステータスポイントは悩んだ挙げ句、敏捷と体力に半分ずつ。このエルフっ娘、召喚者並に強い――。

 ◆名前:アユナ
 年齢:11歳 性別:女性 レベル:7 職業:精霊魔法使い
 ◆ステータス
 攻撃:3.20(+1.50)
 魔力:20.60(+3.00)
 体力:3.85
 防御:4.25(+3.20、魔法防御+3.00)
 敏捷:4.35
 器用:2.10
 才能:2.00(ステータスポイント0)
 ◆先天スキル:精霊召喚/中級、光魔法/初級
 ◆後天スキル:風魔法/初級
 ◆称号:森に愛されし者、女神の加護を持つ者


 今日はボクとアユナちゃん、メルちゃんとレンちゃんが一緒に寝ました。歳が近い者同士ということで。おやすみなさいー!



 ★☆★



 朝6時、揃って起きたボクたちは、ノースリンクの町を出て竜神の角に向かう。行きより1人増えていたけど、問題なく転移した。

 下りのかけっこマラソンは、レンちゃんの圧勝だった――ボクたちは筋肉痛だったからと言うことで――。

 馬車の中でいびきをかいて寝ていたラーンスロットさんたちを起こしてあげたときには、既に行商人風に変身したエンジェルウィングの方々も到着していた。事前の打ち合わせ通りに偽物の召喚石を受け取り、レンちゃんにカツラを被せて、みんなで朝食を食べた。食べてから被せても良かったんだけど、そこはマラソン優勝者への月桂冠ということで――。

 時間は朝9時を過ぎている。

 さぁ、西の勇者レオンが魔人なのかどうか、白黒はっきりさせましょう!

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