異世界八険伝

AW

17.フィーネ迷宮1階

 翌朝5時過ぎ(腹時計参照)、ボクは激しい物音で夢から目覚めた。

 強盗か!? それとも隊長か!?

 いや、ミルフェちゃんがベッドから落ちた音だし――。


 お姫様って、普段は特大ベッドでゴロゴロ寝ているんだろうから仕方ないよね。

 じっくり眺めると、ピンク色の、クセのないさらさらロングが眩し過ぎて目がチカチカする。パジャマ越しに浮かぶラインは13歳にしては上出来だ。性格的には、お姫様というよりスポーツ選手のような元気で活発な子。リザさんのドジっ子属性とか、アユナちゃんの天真爛漫属性、ミルフェちゃんのアイドル属性は、日本だとモテモテなんだろうなぁ。


 ベッドから落ちても目覚める気配は皆無――よし、ドサクサに紛れてこちょこちょしちゃえ!


 こちょこちょ、こちょこちょ

「ひゃん! なになになに!? 」

 混乱した顔も可愛いです。
 さらに、女の子座りが女子力増す今日この頃。


「コケコッコー! 朝ですよ! 用意しましょ! 」

「リンネちゃんおはよう! 何かね、迷宮で触手に襲われる夢を見たの――」

 おっと、そんなフラグはNGだ!




 その後、ボクたちは準備万端、宿屋の1階でランゲイル隊長を待つ――しかし、1時間が過ぎてもツンツン頭が起きて来ないんだけど?

「隊長さん遅いね! 置いていく? 」

「リンネちゃんが朝強すぎなのよ。さすがに昨日あれだけ暴れたんだから、6時出発はあり得ないわ。筋肉痛のオマジナイ、全然効いてないし! 」

 あれ?
 ミルフェちゃんが朝6時出発って言ったのに――。

「祈りが足らなかったんじゃない? 待っててもキリがないし、起こしに行こうか」

「しょうがないわね。可愛い女の子を待たせた罰を下さないとね! そうだ、日頃の感謝を込めて顔に落書きしちゃおう! 」



「はぁ、よく寝た! 身体中が痛ぇ! バリバリ筋肉痛じゃねーか。2人とも、朝から人の顔見て笑うなよ、失礼だろが」

「早く顔を洗って用意してください! 置いていきますよ? 」

 隣で爆笑しているミルフェちゃんのせいで、ボクはツンツン頭の顔を正視できず、おざなりな対応を取る。焦った隊長は大急ぎで着替え始め、さらに天罰は重ねられていく――。


 その後、ミルフェちゃんがランゲイルさんの反撃に遭い、さらに食事と3日分の準備をしていたら、出発は7時過ぎになってしまった。日本人的な感覚からすると、なんて時間にルーズなんだよ!と物申したい。



 ★☆★



 迷宮は町から徒歩30分の距離にあった。

 途中、隊長さんから迷宮での諸注意を永遠とレクチャーされた。眠い。

 ミルフェちゃんも迷宮探索は初めてらしく、頑張って聞いている。その頬っぺには黒墨で★が描かれている。自業自得なんだけど、ピエロみたいで可愛い。


「繰り返すぞー! まず、全員纏まっての団体行動が基本だ。勝手に1人で先走るなよ? 逃げるときも皆で逃げるんだ。ミルフェ、なぜだか分かるか? 」

「はいっ、先生っ! トラップ、例えば、転移装置とか落とし穴があったら迷子になってしまうからです! 」

「よし、正解だ。あとは、火魔法は使うな。なぜだか分かるか、リンネ? 」

「はい、先生っ! 狭い密閉空間だと一酸化炭素中毒や酸欠になる危険性があります。その場合、毒消しも効きません! 」

「ん? イッカタンソク? 何ケツ? まぁ、半分正解だ。要は、中毒に気を付けろってことだ。最後に、宝箱は勝手に開けるな、俺が開ける。何でか分かるか? 」

「はいっ、はいっ! 分かります! 先生がお宝大好きだからです! 」

「ブッブー! んなわけあるかぁ!! リンネは分かるか? 」

「はーい、宝箱自体に危険なトラップが仕掛けられていたり、魔物が棲み着いている場合があるので、専門知識のある“優秀な”冒険者が最初にチェックすべきだからです! 」

「よし、完璧だ。さすが俺。先生が優秀だと生徒も優秀だ。すぐにでも冒険者学校教師のスカウトがきそうだな! 」

 このセクハラちょろ教師は役に立つんだろうか――。



 林を抜け、迷宮入口に到着したボクたちは、迷宮警備員から最新情報を絶賛確認中。
 冒険者ギルドの計らいで、今日から3日間だけ入場をストップしてボクたちの貸し切りにしてくれるらしい。宝箱取り放題ですね。

 重要な情報は以下の3点。

 1.全3階層で、最奥に結界がある。
 2.魔物はレベル15まで確認済み。
 3.各階層ごとにフロアボスが居る。



 円陣を組んで、隊長が気合いを入れる。

「たとえ死んでも、リビングデッドになって攻略するつもりで行くぞ! 気合い入れろ!! 」

「「おぅ!!! 」」

[ミルフェがパーティに加わりました]
[ランゲイルがパーティに加わりました]

 いざ迷宮へ。



 ★☆★



 高さ、幅3mほどの狭い通路が続いている。

 中は明るくもなく、暗くもなく。ランタンの類いを使わずに前方20mくらいまでなら目視可能だ。よくある、迷宮が放つ魔力で壁が微光を帯びている――と言ったところか。

 フィーネ迷宮は、ボクが召喚された日が誕生日らしい。つまり、生後3日目、産まれたてほやほやの迷宮ちゃん。他人とは思えないけど、二卵性双生児とも思えない。でも、是非ともこの手で攻略したいものだ。

 ギルドに開示された情報によると、1階層は螺旋を描いての罠もない一本道。そしてその中央にフロアボスが居るらしい。迷宮なのに迷わないなんて、本当にチョロキュウ。ただし、フロアボスまでの道のりは推定10kmもあるそうだ。誰だよ、こんな壮大なバウムクーヘンを作った人は!


 隊長を先頭に、その3歩ほど後ろをボクとミルフェちゃんが手を繋いで進む。怖いから手を繋いでくれと懇願された結果だ。

 誰かがリビングデッドとか言うからこうなる! まぁ、この柔らかい手を握っていると、心も身体も癒されるから大歓迎なんだけどね。

 それはそうと、僧侶がアンデッドを怖がっているとか、ネタキャラ化しないのだろうか。彼女の将来が何となく心配だね。


 入口から5分と経たずに魔物の気配――。

 うわっ、でっかいコウモリ!?


[鑑定眼!]

 しーん――。

 案の定、魔力が上回らずに観れないようだ。
 鑑定マナーを叱られたばかりだし、しばらくはお休みさせておこう。

「魔力が高すぎてステータス見れない! 」

「大丈夫、雑魚だ! ダークバット、こいつのレベルは7-8。群れで襲ってくるのと、背後や足元からの奇襲にだけは十分気を付けろよ! おっと、3匹か!? リンネ、1匹任せたぞ! 」


 ザクッ!

 隊長は一太刀で先行する1匹を斬り落とす。

 さらに、左右から飛んでくる2匹のうち、右側を狙うらしい。


 ボクは、黄色い声できゃーきゃー叫びながらしがみ付いてくるミルフェちゃんを振り解き、棒2号を振り抜く。

 ヒュン!

 そう、風刃だ!

 1発目は全然当たらなかった。それどころか、隊長に掠りそうだった。

 スイングと発動のタイミングが分からない、知ってるけど、練習不足!

 2発、3発、4発と空振りが続く――。


 ギャン!


 5発目でやっと命中した!

 お腹の辺りから真っ二つに裂け、瞬時に魔素に還る。

 2匹目を早々に仕留めた隊長と、しゃがみ込んで頭を押さえるミルフェちゃんが生温かい目で見守る中、格好良くガッツポーズを決めてみせる。

「リンネちゃん、魔法使えるじゃない! 魔法使いっぽくて格好いいよ! 」

「いや、命中率が低過ぎだろ! 後ろから俺の首がチョンパされそうだったろ!? 遠距離魔法できるならよぉ、ポジションチェンジしねぇか? ミルフェの手は、俺が握る!! 」

「魔法じゃなくて、この武器の特殊効果の“風刃”! 飛んでる敵に当てるの結構難しいよ? 隊長で少し練習させて!! 」

 必死に首を守る隊長の足元に一振り。勿論、魔力は込めずにね。

 1匹相手に5発と言うのは、さすがにちょっと魔力の無駄遣いだったかも? ダメージは申し分ないけど、残り何発撃てるか分からないからセーブしておくか――。



 この後、20匹以上のダークバットを手分けして倒した。もう、これだけは言いたくて仕方がない。バットでバット狩りは楽しいな、です。

 良くも悪くも、定番の迷宮ゴブリン共は、転がりながら逃げていく。走り去るのではなく、本当に転がりながら――。
 転がり過ぎて目を回して倒れているのは無視する。ここまでいくと、ゴブリンキラーって、称号というより攻撃スキルだよ。



 1時間ほど進むと、通路の両脇に扉を発見した。

 ここは大体、中間地点かな。


「こういう場合、アタリ部屋に宝箱、ハズレ部屋は魔物の巣だな! 正直、どっちを引くかは開けなきゃ分からねぇ。どうする? 」

 腕を組んで悩むランゲイル隊長――。

「ボク的には、攻略に関係なければスルーでいいよ? 」

「何てこと言うのよリンネちゃん! こういうのが冒険の醍醐味じゃない! ここは運試しで開けてみようよ! 1階でしかこんなリスク負えないでしょうし! 」

 冒険の醍醐味なんて言われると、キュンとときめくかも。確かに、1階なら大した魔物も出ないだろうし、開けるのもありかな。

「まあな、俺も開けてみてぇ。つうか、アタリもハズレも関係なく両方開けるのが漢というものだ! 」

「そうよ! もしかしたら魔力書がどっさりの図書室かもしれないでしょ!! 」

「分かりましたっ! 何か、パーティの経験値は魔物を倒してない人にも入るみたいだから、隊長さん1人で頑張っちゃって! ボクたちは休憩してるから。漢なんでしょ? 格好いいところ見せてくださいよ」

「しゃーねー、美少女たちの前だ、一丁ハッスルするか。惚れ過ぎるなよ!? 」



 ★☆★



 30分後――。

 血塗れの隊長さんを、リビングデッドと勘違いしたミルフェちゃんが杖で叩き潰すという事故がありましたが、隊長さんは気絶してしまい、真相に気付けませんでした。


「まさかの、どっちも魔物部屋とか。この迷宮って意地悪いわねー! 本当は隅っこに宝箱があったんじゃない? よく見たの? 」

「ああ、間違いねぇ。ほんっと何にもねぇ。と言っても、途中で気絶しちまってよく覚えてないがな――まだ頭がズキズキするぜ」

「まぁ、まだ1階だし? 世の中そんなに甘くない甘くない。気を取り直して先に進もう? 」


 その先も、魔物数種類と遭遇した。

 隊長情報によると、
 リビングデッド:レベル6-9
 グレイトラット:レベル6-8
 ボイズンスネーク:レベル8-10
 ダークウルフ:レベル8-10

 こんな感じの下級魔物ばかりだった。

 どれもゴブリンより少し強い感じで、ボクと隊長さんの2人で余裕綽々、絶好調で撃破していく。ミルフェちゃんは――隊長さんを殴ったくらいしか戦ってないよ。



 腹時計が11時をお知らせします。
 ピッピッピッ……ポーン♪

 その時、1階の最奥、フロアボスの部屋に到達した!


「ふむ、こいつはチャイルドドラゴンだな、レベルは12-14だ。何とかいけるか? 」

「ボクたちは休憩してるから、隊長さんお願い! 」

「いやいやいや、それはキツい! 倒せない相手じゃねぇが、ちっこくても竜種だ。まず、鱗が硬い。生命力も高い。時間が掛かっちまうぞ? 」

「それは困るわ! 早く倒してお昼食はチャイルドドラゴンのステーキにしましょ!! 」

「じゃあ、隊長さんとボクが前衛で上手くヘイト管理しながら戦う、ミルフェちゃんは回復係で待機ね! 怖いから石は投げなくていいよ」

「リンネの風刃もいざというときまで封印だ。俺もまだチョンパりたくねぇぞ」

「「了解、先生! 」」



 隊長さんは大声を張り上げて突撃する。

 チャイルドドラゴンは咆哮をあげて牽制する!

 ボクは敏捷を生かして背後に回り込む。

 あっ、隊長さんの初撃が躱された!

 ボクは大上段から渾身の一撃を、尾の付け根に振り下ろす! ヒット!!



 ドラゴンは振り向きざま、ボクに噛みついてくる!

 素早い!!

 躱しきれた? いや、左脚から血が――。

 ミルフェちゃんがすぐにヒールをくれる!

 出血が止まり、傷口が塞がっていく――うん、動ける!

 ボクはミルフェちゃんに向かって手を上げる、ミルフェちゃんもそれに応える。



 隊長さんの、脚を狙っての薙ぎ払いがヒット!

 ドラゴンは隊長さんを睨むも、ボクの方に相変わらず突っ込んでくる!

 ボクは噛み付きを直前ギリギリで躱し、カウンターを鼻面に叩き込む! クリーンヒット!!

 ドラゴンは堪らず尻尾でボクを払いにくる!

 ボクは棒2号を地面に突き刺し、盾に使って勢いを削ぐが――尻尾が回り込んできて、胴にボスッと痛みが走る!!

 瞬時に蒼白い光がボクを包み込み、痛みが消えていく! 

 ミルフェちゃん、ヒールありがとう!



 何でさっきからボクだけ狙われてるの?

 隊長さん! 何か不平等じゃないですか!?



 隊長さんは執拗に脚を狙う、ヒット! ヒット! ヒット!

 ボクは再びドラゴンの側面まで迂回、棒2号を縦に振り抜き、風刃を撃ち込む! 首筋にヒット!
 勿論、ドラゴンの首筋だ。

 隊長さん、首を引っ込めてドラゴンから距離を取る。

 失礼な。



 改めて2人同時に左右から挟撃!

 あ、やっぱりドラゴンはボクを狙うらしい。

 コイツ、雄でしょ!


 ドスン!!

 重低音とともに、隊長さんの剣がドラゴンの背中にヒット!
 斬るというより叩いた感じ。ダメージは、不明。


 ボクもドラゴンの噛み付きを右に躱して、側頭部にカウンターを全力全開で振り下ろす!!


 ガツン!!!


 これは見事に入った!

 チャイルドドラゴンは白眼を剥いて地に伏す――。



 ★☆★



「リンネ、悪いな。そっちばかりに攻撃が向かってしまって」

「ミルフェちゃんがベストなタイミングでヒールしてくれたから全然大丈夫でしたよ! 」

 遠くからでも目立つ大きな胸を張って、にっこり笑顔を見せるミルフェちゃん。

「それにしても、強くなったな! さすがは勇者だ」

「いえいえ、まだ見習いですから! 」

 武器の性能とスキルのお陰かもね。



 チャイルドドラゴンは中級魔結晶に――さらに、何やらドロップアイテムが転がっている!


[鑑定眼!]

[チャイルドドラゴンの肉:高級食材。ステーキにするのがお勧め]

 鑑定内容が余計なお節介なんですけど! ボクはステーキよりハンバーグ派ですが――。



「2人とも、お疲れさん! ステーキステーキわっしょいわっしょい! 」

 ステーキは魅力だけど、誰が作るの?
 ボクは料理なんてできませんからね?
 勿論、ミルフェちゃんもできないだろうし、隊長に作らせたら味が落ちそうだし――。

「アイテムボックスに入れておいて迷宮攻略の打ち上げパーティ用にしない? ここで火を使うのはアレだし」

「こんだけ広ければ大丈夫だろ。まぁ、中毒で死んでもチャイルドドラゴンのステーキが食えれば本望というものだぜ! 」

「やったぁ、ステーキ!! 」

 何だか、グルメ王女様、爆誕な感じ。



 結局、誰も上手に調理できないということが分かり、高級肉はアイテムボックスに吸い込まれました。想定通りですね。普通のお昼ご飯を食べて、2階へレッツゴー!!

 おぉ、レベルが8に上がってた!!

「異世界八険伝」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く