異世界八険伝
11.盗賊団をやっつけろ!
「リ、リザさん!? 」
「あははっ、リンネ様ごめんなさいね、私ってよく転ぶのよ」
ボクの前に広がるM字が閉じてL字に、さらにはI字に変わっていく。
何事もなかったかのようにすまし顔でスカートの裾をはたくリザさんに、どうしても確認しなきゃいけないことがある。
「えっと、2つほど訊きたいことがあるんですが――」
「はい? 何かしら」
まずは脳裏に焼き付いているあの光景だ。
「もしかして、ボクがはいているのはリザさんの――」
「正解! 」
「えっと、オシャレさんですね」
「ありがとう! おしゃれは見えない所からって言いますからね」
「いや、バッチリ見えてました」
  白と水色の縞々模様がボクの頭の中で渦を巻く。
「じっくり見てもらえて誇らしいわ! エリザベート様にお下がりを貰った甲斐がありました」
「えっ!? 」
どゆこと!?
もしかして、エリ婆さん → リザさん → ボクって流れ?
ボクは白と水色の渦に吸い込まれていき――辿り着いた先には恥ずかしそうに照れ笑いをする老婆が居た。
訊かなきゃ良かった、知らなきゃ良かった、やぶ蛇だった。
頭を振って悪夢を振り払う。揺れる銀髪に、老婆の幻影が押し流されていく――。
よし、気持ちを切り替えよう!
「その話はおいといて、もう1つの質問です。どうしてこんな場所に? もしかして、ボクを手伝いに? 」
「残念! とある方を迎えに来たんです、と言っても――これって、とんでもない状況になってます? 」
手を翳して街道を見やるリザさん。間近で見ると本当に綺麗だ。おっと、見とれている場合じゃなかった!
「はい、馬車が盗賊団に襲われているみたいです。助けたいけど――」
「えっ!? この人、盗賊なんですか! まだ生きているみたいですけど、人質に使いましょうよ! 」
「リザさんってえげつない!! けど、盗賊相手に人質を取ってもあまり期待できないかも」
「では、縛って吊るしておきますね! エルフの森に入った罰です! 」
「分かりました、お任せします――」
★☆★
「リンネ様、盗賊なんてちゃちゃっとやっつけてくださいよ、応援してますから! 」
吊された男の股間に左右のパンチを当てながら無茶を言うリザさん。
「12歳のこんなにか弱そうな女の子が、あのごっついおじさん達に勝てると思いますか? 」
「女の武器を使えば――」
「もう良いです! 時間がないから協力してください! リザさんって精霊魔法が使えるんですよね? 」
「中級までですが。と言うか、精霊魔法しか使えません」
この美少女エルフ、意外とポンコツだったり? まぁ、ボクが知ってる精霊魔法なら、あっと言う間に局面を打開できるはず!
「まず、こちらは数が足りません。精霊魔法で何とかなりませんか? 」
「任せて下さい! 森でエルフにケンカを売るとか、盗賊って頭が沸いてるんでしょうね」
徐々に怒りが倍増してきたのか、杖で地面を抉る彼女の手にも力が篭もっていく。
力強く大地に描かれた半径1mほどの魔法陣――その中に杖を突き立て、彼女が朗々と詠唱を始める。これは、精霊召喚だ!
「古の契約により我は汝ら森の友に請う! 我が召喚に応じよ!! 」
魔法陣が緑色に煌めくと、そこから見知った顔たちが湧き出てきた。
「あっ、お久し振りです――」
「あれ? トレントとは知り合いでした? 」
リザさんの嬉しそうな笑顔を見ると、正直に言い辛くなってしまった。
「いえ……さっき森の中で出会って、ちょっとバンジーごっこしただけの仲ですが。なんか、視線が痛い気がしますね」
「彼らは森の守護精霊ですからね、鼻さえ叩かなければ優しい性格ですよ」
「それは旅立つ前に言って欲しかった! おっと、過去は忘れて早く馬車を助けましょう! 」
「そうでした! 森の友トレントよ、我らの敵を蹂躙して!」
「ちょっ!! リザさん助けて!!  」
「トレント! その方は勇者リンネ様よ! 敵はあっちの盗賊たちだからっ! 」
ボクの細い脚に巻き付いてきた枝が解けていく。トレントさんは、とっても悔しそうな表情を浮かべて森を下っていく――。
「ふぅ~。トレントさんが正面突破しているうちに、ボクたちは迂回して馬車を!! 」
★☆★
『ボス、森から何か来ますぜ!! 』
『トレント、魔物だ!!  くそがっ! 何故このタイミングで!? 』
『あれがトレント!? 3…6……8……10! 10匹も居やすぜ! どうしやすか!? 』
『護衛を片付けて女を拉致るぞ! お前ら、地獄より天国が好きだろう? 早く仕事片付けてずらかるぞ! 斬り刻め!! 』
『『おぅ! 』』
馬車まであと30mの所で身を潜めるボクの耳元に、盗賊たちの檄が聞こえてくる。局面を打開しようとしたつもりが、相手のお尻に火をつけてしまった――。
「リザさん、リザさん、何か良くない展開ですよ! 」
「分かってます! 古の契約により、我は汝ら森の友に請う! 我が召喚に応じよ! 風の精霊シルフ!! 」
リザさんが空中に杖で魔法陣を描くと、白い閃光を放って旋風が巻き起こる。その中から風を纏った白い少女が現れる!
「シルフ!? リザさん凄い! かっこいい! 」
「リンネ様、私もうダメ――魔力が尽きました! 後はお任せしますね!! シルフ、お願い。盗賊を風で防いで!! 」
「任されました! リザさんは馬車の中で怪我人の治療をお願いします! これ、ポーションです! あ、もう無かった。ポーションの代わりに――これどうぞ! 」
「毒消し!? 」
『ぐわっ! 旋毛風が! 』
『くそっ、前が見えねー! 』
『とにかく目を瞑ってでも進め! 』
『護衛は少ねぇ、突っ込め! 』
『斬り刻めー! 』
「隊長! 奴ら突っ込んできます! 」
「逃げていいっすか!? 」
「馬鹿言え! 死守に決まってんだろ! 足元をしっかり狙え、意地を見せろ!! 」
シルフの魔法が盗賊たちの出鼻を挫く!
第三勢力による突然の蹂躙劇に、盗賊と護衛双方の戦意が揺らぎかける。
しかし、膠着はほんの一瞬だけだった。
トレントの半数を屠った盗賊の首領が、風を操るシルフに肉迫し、あっと言う間に消し去った――。
くっ、行くしかないか!
確たる勝機も見出せないまま、ボクは馬車の陰から飛び出した。
「エルフの村から来ました! 援護します! ボクが盗賊団の首領を何とかします!! 」
「精霊使いのお嬢ちゃん、助力に感謝する! おい、お前ら! 見惚れてねぇで動け! 背後取られるな! 前に4人、後ろ1人で主を死守だ! いや、お前らもなるべく死ぬなよ! 」
「「か、可愛い……」」
「お前ら、晩飯抜きな! 可愛いお嬢ちゃんの前で恥をかくな、かっこつけろ!! 」
「「うぉりゃ~!! 」」
★☆★
ガツン!
ガチン!
ガツン!!
もうボクの戦いは30分以上続いている。
敵も味方もなく、皆がボクとギベリンとの戦いの結末に注目していた。
ガツン!
ガチン!
ガツン!!
「こんなっ!
ところでっ!!
負けるもんかっ!!! 」
この人、ボクを殺そうとはしていない?
うん、間違いない。剣の腹や柄で、しかも手足だけを狙って攻撃している――。
ガツン!
ガチン!
『ガキはー!
引っ込んでな!!
もう、俺らにはー!
この仕事しかねぇんだ!! 』
側面から大きく踏み込み、脚を狙って薙ぎ払ったけど、器用に弾き返されてしまう。
ガツン!
逆に、相手の突きを叩き落とし、距離をとって息を整える。
「ふぅ。物を盗んでっ、人を殺してっ――そんなの仕事じゃないでしょ!! 」
ガツン!
ガチン!!
勢いをつけて放った気合い全開の一撃も、剣先を合わされて勢いを殺がれてしまった。手首を目指し強引に振り下ろすも、鍔に当たって跳ね返される。
『ガキには分かんねぇ!
やりたくてやってる訳ねぇだろ!! 』
ガチン!!
胴に迫る強烈な一撃――ボクは避けることなく敢えて全力で打ち返す!
手に痺れが走る!
でも、魔物との命の奪い合いとは違う。
上手く言い表せないけど――生きる者同士の、生きたいと願う者同士の、何か大きなモノを背負った戦いに、魂のぶつかり合いに、胸が高鳴っていた。
「家族は!
友達は!!
悲しまないのか!!! 」
ガツン!
ガチン!!
『家族なんて!
とうに、捨ててるさ!! 』
ガツン!
ガチン!!
鉄棒はしなる様にギベリンの直剣に絡みつき、直剣も負けじと撃ち返す!
「お前が、捨てても!
家族は――ずっと家族だっ!! 」
ガツン!
「絶対に! 絶対に!!
お前を待ってる! 泣いて待ってる!! 」
ガツン!
ガチン!
ボクの連撃に防戦一方になるギベリン――撃ち返す剣圧が、心が纏う覇気が弱まっている気がする。
『黙れっ!
今さら引き返せるかよ!! 』
ガツン!!!
己の魂を鼓舞するかの様に繰り出された強烈な振り下ろしを、ボクは頭上で激しく撃ち返す!
一瞬、火花が蝶のように舞う!
お返しとばかりに同様の攻撃を見舞うと、ギベリンも剣の腹に左手を添えて弾き返してくる。
ガチン!!
「自分のっ!
都合でっ!
語るな!!! 」
ガツン!
ガチン!
脇腹から脚を狙った薙ぎ払いと突きのコンビネーションも、ギベリンの防御を崩しきれなかった。でも、明らかに動き出しが鈍っている。今一度距離を置き、助走をつけて打ち下ろす――。
「やり直せない人生なんて、
無いんだ!!! 」
バキン!!!
ドカン!!
『ぐはっ!! 』
『『首領!! 』』
根元から砕け散った剣を持ったまま、左手で右肩を押さえて膝を折るギベリン――首領を案じ、駆け寄る部下の盗賊たち。
ボクは彼らを見下ろすように、精一杯に小さな胸と高い声を張って叫ぶ!
「生きていれば! 決して諦めない意思があれば! できないことなんて、絶対にない!! 」
『ふっ、ガキに説教されるとはな――もうこんな腐った仕事は仕舞いだ。お嬢、最後に名前だけ聞かせてくれ』
「リンネ! 」
『リンネか。ありがとな! お前ら、降参だ! 投降しろ!! 頼む、リンネ。仲間だけでも助けてやってくれ――』
今にも首領の敵討ちとばかりに飛びかかろうとする盗賊を制するギベリン。ここぞとばかりに殺された仲間の仇討ちを果たそうとする護衛たち――再び高まる一触即発の緊張の中、ボクは鉄棒を高々と空に突き刺し、怒鳴り声を上げる!
「盗賊たち!君たちのリーダーは降伏した!! 命は保証する、武器を捨てて言うことを聞いて! 護衛の人達も! 無駄に血を流さないで!! 」
沈黙の中、ボクの方に歩み寄る人影がある。
「トレント、シルフ、ありがとう! 親愛なる森の友に幸多からんことを! まさか、リンネ様――盗賊を説教するなんて、さすがは勇者様ね!! 」
「いえ、何だか他人とは思えなくて……」
「リンネ様、もしかして前の世界では盗賊でした? 」
「ちがう!!(覚えてないけど――)」
「あははっ、リンネ様ごめんなさいね、私ってよく転ぶのよ」
ボクの前に広がるM字が閉じてL字に、さらにはI字に変わっていく。
何事もなかったかのようにすまし顔でスカートの裾をはたくリザさんに、どうしても確認しなきゃいけないことがある。
「えっと、2つほど訊きたいことがあるんですが――」
「はい? 何かしら」
まずは脳裏に焼き付いているあの光景だ。
「もしかして、ボクがはいているのはリザさんの――」
「正解! 」
「えっと、オシャレさんですね」
「ありがとう! おしゃれは見えない所からって言いますからね」
「いや、バッチリ見えてました」
  白と水色の縞々模様がボクの頭の中で渦を巻く。
「じっくり見てもらえて誇らしいわ! エリザベート様にお下がりを貰った甲斐がありました」
「えっ!? 」
どゆこと!?
もしかして、エリ婆さん → リザさん → ボクって流れ?
ボクは白と水色の渦に吸い込まれていき――辿り着いた先には恥ずかしそうに照れ笑いをする老婆が居た。
訊かなきゃ良かった、知らなきゃ良かった、やぶ蛇だった。
頭を振って悪夢を振り払う。揺れる銀髪に、老婆の幻影が押し流されていく――。
よし、気持ちを切り替えよう!
「その話はおいといて、もう1つの質問です。どうしてこんな場所に? もしかして、ボクを手伝いに? 」
「残念! とある方を迎えに来たんです、と言っても――これって、とんでもない状況になってます? 」
手を翳して街道を見やるリザさん。間近で見ると本当に綺麗だ。おっと、見とれている場合じゃなかった!
「はい、馬車が盗賊団に襲われているみたいです。助けたいけど――」
「えっ!? この人、盗賊なんですか! まだ生きているみたいですけど、人質に使いましょうよ! 」
「リザさんってえげつない!! けど、盗賊相手に人質を取ってもあまり期待できないかも」
「では、縛って吊るしておきますね! エルフの森に入った罰です! 」
「分かりました、お任せします――」
★☆★
「リンネ様、盗賊なんてちゃちゃっとやっつけてくださいよ、応援してますから! 」
吊された男の股間に左右のパンチを当てながら無茶を言うリザさん。
「12歳のこんなにか弱そうな女の子が、あのごっついおじさん達に勝てると思いますか? 」
「女の武器を使えば――」
「もう良いです! 時間がないから協力してください! リザさんって精霊魔法が使えるんですよね? 」
「中級までですが。と言うか、精霊魔法しか使えません」
この美少女エルフ、意外とポンコツだったり? まぁ、ボクが知ってる精霊魔法なら、あっと言う間に局面を打開できるはず!
「まず、こちらは数が足りません。精霊魔法で何とかなりませんか? 」
「任せて下さい! 森でエルフにケンカを売るとか、盗賊って頭が沸いてるんでしょうね」
徐々に怒りが倍増してきたのか、杖で地面を抉る彼女の手にも力が篭もっていく。
力強く大地に描かれた半径1mほどの魔法陣――その中に杖を突き立て、彼女が朗々と詠唱を始める。これは、精霊召喚だ!
「古の契約により我は汝ら森の友に請う! 我が召喚に応じよ!! 」
魔法陣が緑色に煌めくと、そこから見知った顔たちが湧き出てきた。
「あっ、お久し振りです――」
「あれ? トレントとは知り合いでした? 」
リザさんの嬉しそうな笑顔を見ると、正直に言い辛くなってしまった。
「いえ……さっき森の中で出会って、ちょっとバンジーごっこしただけの仲ですが。なんか、視線が痛い気がしますね」
「彼らは森の守護精霊ですからね、鼻さえ叩かなければ優しい性格ですよ」
「それは旅立つ前に言って欲しかった! おっと、過去は忘れて早く馬車を助けましょう! 」
「そうでした! 森の友トレントよ、我らの敵を蹂躙して!」
「ちょっ!! リザさん助けて!!  」
「トレント! その方は勇者リンネ様よ! 敵はあっちの盗賊たちだからっ! 」
ボクの細い脚に巻き付いてきた枝が解けていく。トレントさんは、とっても悔しそうな表情を浮かべて森を下っていく――。
「ふぅ~。トレントさんが正面突破しているうちに、ボクたちは迂回して馬車を!! 」
★☆★
『ボス、森から何か来ますぜ!! 』
『トレント、魔物だ!!  くそがっ! 何故このタイミングで!? 』
『あれがトレント!? 3…6……8……10! 10匹も居やすぜ! どうしやすか!? 』
『護衛を片付けて女を拉致るぞ! お前ら、地獄より天国が好きだろう? 早く仕事片付けてずらかるぞ! 斬り刻め!! 』
『『おぅ! 』』
馬車まであと30mの所で身を潜めるボクの耳元に、盗賊たちの檄が聞こえてくる。局面を打開しようとしたつもりが、相手のお尻に火をつけてしまった――。
「リザさん、リザさん、何か良くない展開ですよ! 」
「分かってます! 古の契約により、我は汝ら森の友に請う! 我が召喚に応じよ! 風の精霊シルフ!! 」
リザさんが空中に杖で魔法陣を描くと、白い閃光を放って旋風が巻き起こる。その中から風を纏った白い少女が現れる!
「シルフ!? リザさん凄い! かっこいい! 」
「リンネ様、私もうダメ――魔力が尽きました! 後はお任せしますね!! シルフ、お願い。盗賊を風で防いで!! 」
「任されました! リザさんは馬車の中で怪我人の治療をお願いします! これ、ポーションです! あ、もう無かった。ポーションの代わりに――これどうぞ! 」
「毒消し!? 」
『ぐわっ! 旋毛風が! 』
『くそっ、前が見えねー! 』
『とにかく目を瞑ってでも進め! 』
『護衛は少ねぇ、突っ込め! 』
『斬り刻めー! 』
「隊長! 奴ら突っ込んできます! 」
「逃げていいっすか!? 」
「馬鹿言え! 死守に決まってんだろ! 足元をしっかり狙え、意地を見せろ!! 」
シルフの魔法が盗賊たちの出鼻を挫く!
第三勢力による突然の蹂躙劇に、盗賊と護衛双方の戦意が揺らぎかける。
しかし、膠着はほんの一瞬だけだった。
トレントの半数を屠った盗賊の首領が、風を操るシルフに肉迫し、あっと言う間に消し去った――。
くっ、行くしかないか!
確たる勝機も見出せないまま、ボクは馬車の陰から飛び出した。
「エルフの村から来ました! 援護します! ボクが盗賊団の首領を何とかします!! 」
「精霊使いのお嬢ちゃん、助力に感謝する! おい、お前ら! 見惚れてねぇで動け! 背後取られるな! 前に4人、後ろ1人で主を死守だ! いや、お前らもなるべく死ぬなよ! 」
「「か、可愛い……」」
「お前ら、晩飯抜きな! 可愛いお嬢ちゃんの前で恥をかくな、かっこつけろ!! 」
「「うぉりゃ~!! 」」
★☆★
ガツン!
ガチン!
ガツン!!
もうボクの戦いは30分以上続いている。
敵も味方もなく、皆がボクとギベリンとの戦いの結末に注目していた。
ガツン!
ガチン!
ガツン!!
「こんなっ!
ところでっ!!
負けるもんかっ!!! 」
この人、ボクを殺そうとはしていない?
うん、間違いない。剣の腹や柄で、しかも手足だけを狙って攻撃している――。
ガツン!
ガチン!
『ガキはー!
引っ込んでな!!
もう、俺らにはー!
この仕事しかねぇんだ!! 』
側面から大きく踏み込み、脚を狙って薙ぎ払ったけど、器用に弾き返されてしまう。
ガツン!
逆に、相手の突きを叩き落とし、距離をとって息を整える。
「ふぅ。物を盗んでっ、人を殺してっ――そんなの仕事じゃないでしょ!! 」
ガツン!
ガチン!!
勢いをつけて放った気合い全開の一撃も、剣先を合わされて勢いを殺がれてしまった。手首を目指し強引に振り下ろすも、鍔に当たって跳ね返される。
『ガキには分かんねぇ!
やりたくてやってる訳ねぇだろ!! 』
ガチン!!
胴に迫る強烈な一撃――ボクは避けることなく敢えて全力で打ち返す!
手に痺れが走る!
でも、魔物との命の奪い合いとは違う。
上手く言い表せないけど――生きる者同士の、生きたいと願う者同士の、何か大きなモノを背負った戦いに、魂のぶつかり合いに、胸が高鳴っていた。
「家族は!
友達は!!
悲しまないのか!!! 」
ガツン!
ガチン!!
『家族なんて!
とうに、捨ててるさ!! 』
ガツン!
ガチン!!
鉄棒はしなる様にギベリンの直剣に絡みつき、直剣も負けじと撃ち返す!
「お前が、捨てても!
家族は――ずっと家族だっ!! 」
ガツン!
「絶対に! 絶対に!!
お前を待ってる! 泣いて待ってる!! 」
ガツン!
ガチン!
ボクの連撃に防戦一方になるギベリン――撃ち返す剣圧が、心が纏う覇気が弱まっている気がする。
『黙れっ!
今さら引き返せるかよ!! 』
ガツン!!!
己の魂を鼓舞するかの様に繰り出された強烈な振り下ろしを、ボクは頭上で激しく撃ち返す!
一瞬、火花が蝶のように舞う!
お返しとばかりに同様の攻撃を見舞うと、ギベリンも剣の腹に左手を添えて弾き返してくる。
ガチン!!
「自分のっ!
都合でっ!
語るな!!! 」
ガツン!
ガチン!
脇腹から脚を狙った薙ぎ払いと突きのコンビネーションも、ギベリンの防御を崩しきれなかった。でも、明らかに動き出しが鈍っている。今一度距離を置き、助走をつけて打ち下ろす――。
「やり直せない人生なんて、
無いんだ!!! 」
バキン!!!
ドカン!!
『ぐはっ!! 』
『『首領!! 』』
根元から砕け散った剣を持ったまま、左手で右肩を押さえて膝を折るギベリン――首領を案じ、駆け寄る部下の盗賊たち。
ボクは彼らを見下ろすように、精一杯に小さな胸と高い声を張って叫ぶ!
「生きていれば! 決して諦めない意思があれば! できないことなんて、絶対にない!! 」
『ふっ、ガキに説教されるとはな――もうこんな腐った仕事は仕舞いだ。お嬢、最後に名前だけ聞かせてくれ』
「リンネ! 」
『リンネか。ありがとな! お前ら、降参だ! 投降しろ!! 頼む、リンネ。仲間だけでも助けてやってくれ――』
今にも首領の敵討ちとばかりに飛びかかろうとする盗賊を制するギベリン。ここぞとばかりに殺された仲間の仇討ちを果たそうとする護衛たち――再び高まる一触即発の緊張の中、ボクは鉄棒を高々と空に突き刺し、怒鳴り声を上げる!
「盗賊たち!君たちのリーダーは降伏した!! 命は保証する、武器を捨てて言うことを聞いて! 護衛の人達も! 無駄に血を流さないで!! 」
沈黙の中、ボクの方に歩み寄る人影がある。
「トレント、シルフ、ありがとう! 親愛なる森の友に幸多からんことを! まさか、リンネ様――盗賊を説教するなんて、さすがは勇者様ね!! 」
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