音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら
Track.50 カナリア四重奏〜試練〜
リアラさんが起きて僕とナナミの所にやって来たのは、本番まで残り五時間を切った時だった。休んだおかげかリアラさんの顔色は少し良くなっていたものの、まだ完治にまでは至っていない。
「昨日は、その、すいませんでした。私が意地を張ったばかりにああなってしまって」
「いえ、僕の方こそすいませんでした。それより体調の方は大丈夫ですか?」
「昨日よりは……楽になりました。でもやっぱり今日のイベントは……」
「リアラさん、聞いて欲しい事があります」
僕は昨日ナナミと一緒に準備したものをリアラさんに話す。与えられた時間の中で僕達が演奏できるのはリアラさんの体調を考慮して一曲。今回のイベントの運営側に連絡を取ってみた所、準備等の都合上時間を極端に短くすることはできないということ。なので場繋ぎはなんとかしなければならい。
それら全てを含めて僕は彼女に話した。
「それは多分、難しいですよ」
「虫の良すぎる話なのは僕も理解しています。でもリアラさんのためにも」
「もしかしたらアタル君はもう戻ってこないかもしれませんから」
「皆で協力して……え?」
今なんて言った? アタル君がもう戻ってこない?
「それはどういう事やリアラ。アタルは昨日、あんたを追ってウチらから離れていった。その後に会ったんやろ?」
「確かにあの後アタル君は私の元にやって来ました。しかし彼も昨日の私を見て、やはり無理だと諦めたんです」
「でもそれだけでもう戻って来ないだなんてそんな事は」
「あるから私は言ったんですよカオル君」
確かにアタル君はまだログインをしていない。でもそれって何か別の理由があるだけで、戻って来ないだなんてそんな事は……。
「アタル君にはある事をお話ししたんです。それを聞いた彼はかなりショックを受けていました。きっと私の顔を見たくなくなるくらいに」
「どういう意味ですか、それ」
「お二人にはお話しできません、今は。ともかく彼が戻ってくる可能性は低いと考えています」
あまりに無情すぎる宣言を僕達の前でするリアラさん。僕とナナミはただ言葉を失うことしか出来ない。きっと一日で戻ると思っていた僕達の亀裂。でもそれはもしかしたら二度と戻らないものになってしまったのかもしれない。
(また何も出来なかったんだ、僕は……)
リアラさんの事を心配しすぎた結果が残したのは絶望の二文字。正しいと思っていた事でさえも、間違っていた。もう起こしたくないと思っていた事が……また起きてしまったんだ。
「何でやリアラ。どうしてアタルに自分から離れたくなるような事を話したんや。あんたはそれを望んだんか?」
「望んでいたわけないじゃないですか。でも望んでいなくても、話さなければならない事実だってあるんです。アタル君もその覚悟をもって私の話を聞いてくれたんです」
「そんなの滅茶苦茶すぎや。ウチはあんたが何をしたいか分からん。そんな奴が歌姫やなんて、どうかしとる」
そう言ってナナミは立ち上がる。まるで何かを決めたかのように。
「ナナミ?」
「すまんカオル。ウチもアタルと同じ事させてもらうわ」
アタル君と同じ事。それはつまり……。
「何かの縁があると思っとったけど、ウチらに縁なんて元からなかったんやな」
それはカナリアから抜ける事。
今この場からいなくなる事。
それは今の僕達にとって最も最悪な事だった。
「待って、ナナ」
「待ってください! ナナミさん」
何としても引き止めなければいけないと思った僕よりも先にリアラさんが言葉を発した。それはログアウトする直前だったナナミを、何とか引き止めた、
「何やリアラ、言い訳でもしたいんか?」
「違います。ナナミさんを行かせたくないんです」
「そう思うなら何であんた、アタルを止めなかったんや。大切なメンバーちゃうんか」
「大切ですよ。でも大切だからこそ、しっかりとお話しして、しっかりと受け止めて欲しかったんです。私という存在を」
「存在を?」
ナナミははてなマークを浮かべているけど、僕にはリアラさんが何を言おうとしているのか分かった気がした。きっとこれこそ僕達カナリアの真の試練なんだと。
歌姫として。
一人の女性として。
今後リアラさんと一緒に時間を過ごしていくための。
そして僕は彼女の好きな人として、彼女を受け止めなければならない。きっとそれが、アタル君に話をした内容と関係しているのだと思う。
「本当は早めに話しておくべきだとは思っていました。けど私は今のこの場所に居られることに甘えて、話すことを躊躇っていました。でももうやめにします」
「やめるってどういう事や」
「どうやらアタル君も来たみたいですし、改めてお話しします」
リアラさんが僕達の背後に視線を向ける。僕もそれにつられて視線を向けると、いつの間にかアタル君の姿があった。
「あの、すいません、俺」
「アタル君、覚悟はできましたか? 今度こそ最後まで話を聞く」
何かを言おうとするアタル君の言葉を遮って、リアラさんは言葉を投げかける。その言葉はいつものリアラさんの口調とは違う、何か特別なものを感じた。
「これが試練なら俺も……逃げません」
「それが聞けて安心しました」
それに対しての反応を聞いたリアラさんは、一息ついた後改めて僕とナナミ、アタル君を見渡す。
「ではお話しさせていただきます。私達歌姫の始まりの物語を」
そして彼女は口を開いた。未だに僕達に語られた事がない始まりの物語を
「昨日は、その、すいませんでした。私が意地を張ったばかりにああなってしまって」
「いえ、僕の方こそすいませんでした。それより体調の方は大丈夫ですか?」
「昨日よりは……楽になりました。でもやっぱり今日のイベントは……」
「リアラさん、聞いて欲しい事があります」
僕は昨日ナナミと一緒に準備したものをリアラさんに話す。与えられた時間の中で僕達が演奏できるのはリアラさんの体調を考慮して一曲。今回のイベントの運営側に連絡を取ってみた所、準備等の都合上時間を極端に短くすることはできないということ。なので場繋ぎはなんとかしなければならい。
それら全てを含めて僕は彼女に話した。
「それは多分、難しいですよ」
「虫の良すぎる話なのは僕も理解しています。でもリアラさんのためにも」
「もしかしたらアタル君はもう戻ってこないかもしれませんから」
「皆で協力して……え?」
今なんて言った? アタル君がもう戻ってこない?
「それはどういう事やリアラ。アタルは昨日、あんたを追ってウチらから離れていった。その後に会ったんやろ?」
「確かにあの後アタル君は私の元にやって来ました。しかし彼も昨日の私を見て、やはり無理だと諦めたんです」
「でもそれだけでもう戻って来ないだなんてそんな事は」
「あるから私は言ったんですよカオル君」
確かにアタル君はまだログインをしていない。でもそれって何か別の理由があるだけで、戻って来ないだなんてそんな事は……。
「アタル君にはある事をお話ししたんです。それを聞いた彼はかなりショックを受けていました。きっと私の顔を見たくなくなるくらいに」
「どういう意味ですか、それ」
「お二人にはお話しできません、今は。ともかく彼が戻ってくる可能性は低いと考えています」
あまりに無情すぎる宣言を僕達の前でするリアラさん。僕とナナミはただ言葉を失うことしか出来ない。きっと一日で戻ると思っていた僕達の亀裂。でもそれはもしかしたら二度と戻らないものになってしまったのかもしれない。
(また何も出来なかったんだ、僕は……)
リアラさんの事を心配しすぎた結果が残したのは絶望の二文字。正しいと思っていた事でさえも、間違っていた。もう起こしたくないと思っていた事が……また起きてしまったんだ。
「何でやリアラ。どうしてアタルに自分から離れたくなるような事を話したんや。あんたはそれを望んだんか?」
「望んでいたわけないじゃないですか。でも望んでいなくても、話さなければならない事実だってあるんです。アタル君もその覚悟をもって私の話を聞いてくれたんです」
「そんなの滅茶苦茶すぎや。ウチはあんたが何をしたいか分からん。そんな奴が歌姫やなんて、どうかしとる」
そう言ってナナミは立ち上がる。まるで何かを決めたかのように。
「ナナミ?」
「すまんカオル。ウチもアタルと同じ事させてもらうわ」
アタル君と同じ事。それはつまり……。
「何かの縁があると思っとったけど、ウチらに縁なんて元からなかったんやな」
それはカナリアから抜ける事。
今この場からいなくなる事。
それは今の僕達にとって最も最悪な事だった。
「待って、ナナ」
「待ってください! ナナミさん」
何としても引き止めなければいけないと思った僕よりも先にリアラさんが言葉を発した。それはログアウトする直前だったナナミを、何とか引き止めた、
「何やリアラ、言い訳でもしたいんか?」
「違います。ナナミさんを行かせたくないんです」
「そう思うなら何であんた、アタルを止めなかったんや。大切なメンバーちゃうんか」
「大切ですよ。でも大切だからこそ、しっかりとお話しして、しっかりと受け止めて欲しかったんです。私という存在を」
「存在を?」
ナナミははてなマークを浮かべているけど、僕にはリアラさんが何を言おうとしているのか分かった気がした。きっとこれこそ僕達カナリアの真の試練なんだと。
歌姫として。
一人の女性として。
今後リアラさんと一緒に時間を過ごしていくための。
そして僕は彼女の好きな人として、彼女を受け止めなければならない。きっとそれが、アタル君に話をした内容と関係しているのだと思う。
「本当は早めに話しておくべきだとは思っていました。けど私は今のこの場所に居られることに甘えて、話すことを躊躇っていました。でももうやめにします」
「やめるってどういう事や」
「どうやらアタル君も来たみたいですし、改めてお話しします」
リアラさんが僕達の背後に視線を向ける。僕もそれにつられて視線を向けると、いつの間にかアタル君の姿があった。
「あの、すいません、俺」
「アタル君、覚悟はできましたか? 今度こそ最後まで話を聞く」
何かを言おうとするアタル君の言葉を遮って、リアラさんは言葉を投げかける。その言葉はいつものリアラさんの口調とは違う、何か特別なものを感じた。
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