音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら
Track.42 己が信ずる道を
大嫌い。
今まで一度だってその言葉をリアラさんの口から聞いたことがなかった。それなのにリアラさんはその言葉を初めて僕の前で口にした。
あの今まで優しかったリアラさんが。
「あ、えっと、カオル君。今のはその」
「そうですよね。自分が知られたくない事を知ろうとしている人間なんて、大嫌いですよね。当たり前の反応ですよ」
それが僕にとってあまりにもショックな出来事で、今までに起きたどんな事よりもダメージが大きかった。
(でもこれは、自業自得だから……)
リアラさんは何も悪くない。
「カオル君、私は!」
「すいません、今日は泊まろうと思いましたがログアウトしますね。リアラさんだって嫌ですよね、僕がここにいるのは」
「違います! 私はただ……」
「余計な事をしてすいませんでした、リアラさん」
だから僕は大人しく身を引いて、ログアウトをする。多分今この場所に居続けるのは、僕にとっても、リアラさんにとっても辛い事だと思うから。
「カオル君!」
この日初めて僕とリアラさんとの間に、亀裂が生じた。
■□■□■□
翌日。昨晩の一件で僕はマセレナードオンラインにログインする事を拒んでいた。これは自分の罪であり、リアラさんは何一つ悪い事をしていない。その罪を償うためなら、彼女と距離を置く覚悟だってできている。
(アタル君とナナミには迷惑かけるけど……仕方ないよね)
もしこれでいつも通り何食わぬ顔でログインしたら、リアラさんと顔を合わせられない。それどころかもっとリアラさんに嫌われる。最悪カナリアの解散だって……。
『どうしたんだよ薫、お前から電話かけてくるなんて』
「ちょっと竜介と話がしたくてさ」
ログアウトしている間、特に何もやる事がなかった僕は、久しぶりに僕の方から竜介に電話をかけた。こうでもしてないと気が紛れないし、誰かと話をしていないとリアラさんの事を思い出してしまう。
『元気がなさそうけど、どうかしたのか?』
「ちょっと昨日色々あってさ」
『例の歌姫とか?』
「どうして分かるの?」
『今お前が悩む事があるとしたら、それくらいだろ?』
「ま、まあそうだけど……」
そうだとしてもそれはちょっと酷いよ竜介。
「リアラさんに大嫌いだって言われたんだ。何でも知ろうとしている僕の事が」
『あの優しい人にか? そういう事を言いそうな人じゃないと俺は思うんだけど』
「そう。だからショックだったんだ」
『温和な人が怒るって、お前一体何をしたんだよ』
「何もしてないよ。ただ僕はリアラさんを……リアラさんを……」
そこまで言ったところで、僕の目から涙が流れ始めた。昨日は涙は流れなかったのに、一夜明けて改めて思い返すととても悲しかった。リアラさんにあんな風に拒絶されて、何にも和解できないままこうして今ここにいて、そんな自分がとても情けなくて、涙が溢れ出した。
『薫、今泣くくらいなら他にやるべき事があるんじゃないのか?』
「やるべき事?」
『お前はこのまま何もしないで時間が過ぎるのを待つのか? ライブだってもうすぐなんだろ? それなのにこんな所で泣いてていいのかって言ってるんだよ』
「それは……」
竜介の言葉はもっともだった。ライブまで残された時間は少ない。でも今の状態で戻って、リアラさんは果たして僕を受け入れてくれるのだろうか。
『薫、お前がやりたい事はなんだ。今ここで泣いてる事か? 違うだろ。どんな事があったのかは俺には分からないけど、それで挫けるようなお前じゃないだろ』
「っ!?」
まだ弱気な僕に対して竜介が叱咤してくれる。その言葉が僕にとってどれだけ力強い言葉で、何度も背中を押されてきた言葉なのか。僕以外に誰も分からない。
「竜介」
『何だ』
「僕は間違っていたのかな。あの時からずっと、進むべき道を間違えていたのかな」
『それは俺には分からないよ。でも今進もうとしている道は間違ってはいないって俺は思う。自分が信じた道を進み通してみろ薫』
「そう……だよね」
『一度裏切った身の俺が言うのもあれだけど、お前は昔から自分の道は自分の足で進んできた。一度間違えてしまった道も正して、進めばいい。だからお前自身を信じろ。自分は正しいんだって』
「……ありがとう、竜介」
嬉しかった。つい一ヶ月前まではいがみ合っていたのに、それなのに今は背中を押してくれる。だから僕も前に進める。
「僕、頑張ってみるよ」
■□■□■□
大嫌いだなんて言葉を使うのは初めてだった。本当は彼の事を嫌いになるはずなんてないのに、私はついその言葉を口にしてしまった。
(カオル君の方が苦しいはずなのに……)
どうして今、私の胸はこんなにも苦しいのだろうか。私は自分の事を知られる事が怖くて、彼を突き放してしまった。あれから一夜明けた今でも胸が苦しい。私は本当はあの時どんな言葉を言えばよかったのか。考えても考えても答えが出ない。
「そう言えばカオル、まだログインしとらんな。リアラ、何か知っとるか?」
「カオルさんは……もう戻ってこないかもしれません」
「なっ!? どういう事やそれ」
「私は昨日大切な人を傷つけました。ですからこれはきっと天罰なんです」
「リアラ……?」
ただ一つ、出てる答えがあるなら、
「だから今日もしカオル君がログインをしてこなかったら、カナリアは解散ですら、たった一度しかライブをできませんでしたが、それも仕方がないです。罪は私が引き受けます」
カナリアを解散させること。苦しみから逃げるのには、これしか答えが私の中になかった。
今まで一度だってその言葉をリアラさんの口から聞いたことがなかった。それなのにリアラさんはその言葉を初めて僕の前で口にした。
あの今まで優しかったリアラさんが。
「あ、えっと、カオル君。今のはその」
「そうですよね。自分が知られたくない事を知ろうとしている人間なんて、大嫌いですよね。当たり前の反応ですよ」
それが僕にとってあまりにもショックな出来事で、今までに起きたどんな事よりもダメージが大きかった。
(でもこれは、自業自得だから……)
リアラさんは何も悪くない。
「カオル君、私は!」
「すいません、今日は泊まろうと思いましたがログアウトしますね。リアラさんだって嫌ですよね、僕がここにいるのは」
「違います! 私はただ……」
「余計な事をしてすいませんでした、リアラさん」
だから僕は大人しく身を引いて、ログアウトをする。多分今この場所に居続けるのは、僕にとっても、リアラさんにとっても辛い事だと思うから。
「カオル君!」
この日初めて僕とリアラさんとの間に、亀裂が生じた。
■□■□■□
翌日。昨晩の一件で僕はマセレナードオンラインにログインする事を拒んでいた。これは自分の罪であり、リアラさんは何一つ悪い事をしていない。その罪を償うためなら、彼女と距離を置く覚悟だってできている。
(アタル君とナナミには迷惑かけるけど……仕方ないよね)
もしこれでいつも通り何食わぬ顔でログインしたら、リアラさんと顔を合わせられない。それどころかもっとリアラさんに嫌われる。最悪カナリアの解散だって……。
『どうしたんだよ薫、お前から電話かけてくるなんて』
「ちょっと竜介と話がしたくてさ」
ログアウトしている間、特に何もやる事がなかった僕は、久しぶりに僕の方から竜介に電話をかけた。こうでもしてないと気が紛れないし、誰かと話をしていないとリアラさんの事を思い出してしまう。
『元気がなさそうけど、どうかしたのか?』
「ちょっと昨日色々あってさ」
『例の歌姫とか?』
「どうして分かるの?」
『今お前が悩む事があるとしたら、それくらいだろ?』
「ま、まあそうだけど……」
そうだとしてもそれはちょっと酷いよ竜介。
「リアラさんに大嫌いだって言われたんだ。何でも知ろうとしている僕の事が」
『あの優しい人にか? そういう事を言いそうな人じゃないと俺は思うんだけど』
「そう。だからショックだったんだ」
『温和な人が怒るって、お前一体何をしたんだよ』
「何もしてないよ。ただ僕はリアラさんを……リアラさんを……」
そこまで言ったところで、僕の目から涙が流れ始めた。昨日は涙は流れなかったのに、一夜明けて改めて思い返すととても悲しかった。リアラさんにあんな風に拒絶されて、何にも和解できないままこうして今ここにいて、そんな自分がとても情けなくて、涙が溢れ出した。
『薫、今泣くくらいなら他にやるべき事があるんじゃないのか?』
「やるべき事?」
『お前はこのまま何もしないで時間が過ぎるのを待つのか? ライブだってもうすぐなんだろ? それなのにこんな所で泣いてていいのかって言ってるんだよ』
「それは……」
竜介の言葉はもっともだった。ライブまで残された時間は少ない。でも今の状態で戻って、リアラさんは果たして僕を受け入れてくれるのだろうか。
『薫、お前がやりたい事はなんだ。今ここで泣いてる事か? 違うだろ。どんな事があったのかは俺には分からないけど、それで挫けるようなお前じゃないだろ』
「っ!?」
まだ弱気な僕に対して竜介が叱咤してくれる。その言葉が僕にとってどれだけ力強い言葉で、何度も背中を押されてきた言葉なのか。僕以外に誰も分からない。
「竜介」
『何だ』
「僕は間違っていたのかな。あの時からずっと、進むべき道を間違えていたのかな」
『それは俺には分からないよ。でも今進もうとしている道は間違ってはいないって俺は思う。自分が信じた道を進み通してみろ薫』
「そう……だよね」
『一度裏切った身の俺が言うのもあれだけど、お前は昔から自分の道は自分の足で進んできた。一度間違えてしまった道も正して、進めばいい。だからお前自身を信じろ。自分は正しいんだって』
「……ありがとう、竜介」
嬉しかった。つい一ヶ月前まではいがみ合っていたのに、それなのに今は背中を押してくれる。だから僕も前に進める。
「僕、頑張ってみるよ」
■□■□■□
大嫌いだなんて言葉を使うのは初めてだった。本当は彼の事を嫌いになるはずなんてないのに、私はついその言葉を口にしてしまった。
(カオル君の方が苦しいはずなのに……)
どうして今、私の胸はこんなにも苦しいのだろうか。私は自分の事を知られる事が怖くて、彼を突き放してしまった。あれから一夜明けた今でも胸が苦しい。私は本当はあの時どんな言葉を言えばよかったのか。考えても考えても答えが出ない。
「そう言えばカオル、まだログインしとらんな。リアラ、何か知っとるか?」
「カオルさんは……もう戻ってこないかもしれません」
「なっ!? どういう事やそれ」
「私は昨日大切な人を傷つけました。ですからこれはきっと天罰なんです」
「リアラ……?」
ただ一つ、出てる答えがあるなら、
「だから今日もしカオル君がログインをしてこなかったら、カナリアは解散ですら、たった一度しかライブをできませんでしたが、それも仕方がないです。罪は私が引き受けます」
カナリアを解散させること。苦しみから逃げるのには、これしか答えが私の中になかった。
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