音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら
Track.39 出られない者達の声
それは決して踏み入れてはいけない領域なのは頭では理解していた。リアラさんにだって聞かれたくない話もあるだろうし、きっと隠している事だった沢山ある。だけどこの花冠を受け取った時、そんなの全て関係なく僕はこう思ってしまった。
(僕がリアラさんを助けなきゃ)
「待ってください!」
「何でしょうかカオル君。私が伝えたいことは伝えたので、もうお話することはありませんよ?」
「リアラさんはさっきこの花冠の意味を僕は分かっていると言いましたよね」
「はい。まああくまで仮定ではありますが、カオル君が何かを知ろうとしている事だけは分かっているので、そういう言葉を使わさせていただきました」
「ならどうしてわざわざこれを渡したんですか? それにどうしてリアラさんは、僕がこの花冠を知っていると思ったんですか?」
「それは……」
僕がこれを受け取ったのはあくまでゲームの外での話。リアラさんが知る由もない。それなのにどうして彼女はまるで、それを見たかのように僕に言ったのだろうか。こんなの他の人から見ればただの物でしかないはずなのに。
「やっぱりリアラさん、何か僕に隠し事を……」
「カオル君、これ以上この話をするのはやめましょうか。こんな話をしてもきっと誰も幸せになりません」
「リアラさんはそれでいいんですか?!」
「いいも何も、カオル君には関係がない話です。さあ戻りましょう」
今度こそリアラさんは歩き出す。僕はすぐにはその後を追うことができなかった。
(関係ないなんて、そんな訳がないはずなのに……)
リアラさんの本当の望みは一体なんなのだろうか。もし彼女が本当に助けを求めているならば、どうしてこんなにも拒絶するのだろうか。
「何やカオル、逃げられたんか?」
いつの間にか僕の隣にやってきたナナミがニヤニヤしながら声をかけてくる。
「逃げられた訳じゃないよ。ただリアラさんがあからさまに何かを隠そうとしているんだよ」
「隠し事……カオルはそれを聞きたいんか?」
「別にそうではないよ。リアラさんのプライバシーに関わる事だと思うから、多分」
「ならあんたはどうしたいんや」
「僕は……ただリアラさんを助けたいだけ、かな」
■□■□■□
結局リアラさんとのデートもどきは、わだかまりだけを残して終わってしまった。改めて家に戻るとリアラさんはいつも通りの様子で僕に関わってきたけど、その様子が尚のこと僕の胸を締め付ける。本人は恐らく何事もなかったように振舞っているのだろうけど、僕にはそこに得体の知れない何かを感じていた。
「カオル、また間違えとるで」
「あ、ごめん。もう一回頭からやり直しさせてくれないかな」
一日中遊んでばかりにも行かなかったので、家に戻ってからは練習した。だけどやはり力が入ってこず、何度も何度も止めてしまう。リアラさんや他の皆はいつも通りだというのに、リーダーでもある僕が感情に流されてばかりだったら、いつまでも成長しないのは理解している。
理解しているからこそ、僕は焦ってばかりで空回りしていた。
「カオルさん、調子悪そうですけど大丈夫ですか?」
そんな焦ってばかりの僕に声をかけたのは意外にもアタル君だった。彼とは同じバンドのメンバーでありながらも、なかなか二人でゆっくり話す機会がなかった。
「調子が悪いというか、ずっと気になっていることがあって、それが頭から離れないんだ」
「リアラさんの事ですか?」
「まあそうなんだけど」
「カオルさんってまだこのゲームを始めて短いですよね」
「うん。間も無く二ヶ月くらいって感じ」
「じゃあ歌姫の事もあまり?」
「このゲームでは特殊な存在だったことくらいは分かっているよ」
「あながち間違っていませんが、実はその歌姫についてこんな話もあるんです」
そう前置きをした後に、アタル君は語り出した。それは僕が歌姫について知っている基本的な情報とはまた一つ違った内容だった。
「本来このゲームには歌姫という特別なキャラクターは存在するはずがなかったんですよ」
「え?」
「説明書にもどこにもそういうのは記載されていないんです。それなのに何故存在していると思います?」
「誰かが作り上げたとか?」
「そうなんです。カオルさんはβテストの際に起きた事故について知っていますか?」
「えっと詳しくは知らないけど、β版をプレイしたプレイヤーが意識が戻らなくなっだって話だよね。しかもまだ未解決だったよね」
「はい」
少し前に僕が見た資料を思い出す。偶然目に入ったとは言えど、かなり衝撃的な内容だった。だけどそれと何か関係しているのだろうか。
「運営はその事件をもみ消すために、未だにβ版の時代から彷徨い続けるプレイヤー達を直接操作して、歌姫として作り上げたと言われているんです」
「いや、それは幾らなんで無理な話じゃ」
「そうなんです。俺もずっとそう思っていました。ですがリアラさんを見て俺もカオルさんと同じように感じたんです」
「リアラさんがNPCじゃないって事?」
「はい。だからもしかしたらリアラさんの元を辿れば何かに辿り着けるのかなって考えたんです」
「なるほど……」
でもそれはあくまで噂の範囲だ。流石に運営もそこまではしないだろうと思っている。なら、β版からログアウトできていない人達は今もこのゲームの世界のどこかに紛れ込んでいるのだろうか。
(でもそれなら、まず正式版から始めた僕達に助けを求めてくるはず)
いや、僕達が気づいていないだけで本当は、色々な形で助けを求めているのかもしれない。
そう例えば、
「そう、か」
「どうかしましたかカオルさん」
「少しだけ分かったかもしれない。リアラさんの事」
あの花冠とか。
(僕がリアラさんを助けなきゃ)
「待ってください!」
「何でしょうかカオル君。私が伝えたいことは伝えたので、もうお話することはありませんよ?」
「リアラさんはさっきこの花冠の意味を僕は分かっていると言いましたよね」
「はい。まああくまで仮定ではありますが、カオル君が何かを知ろうとしている事だけは分かっているので、そういう言葉を使わさせていただきました」
「ならどうしてわざわざこれを渡したんですか? それにどうしてリアラさんは、僕がこの花冠を知っていると思ったんですか?」
「それは……」
僕がこれを受け取ったのはあくまでゲームの外での話。リアラさんが知る由もない。それなのにどうして彼女はまるで、それを見たかのように僕に言ったのだろうか。こんなの他の人から見ればただの物でしかないはずなのに。
「やっぱりリアラさん、何か僕に隠し事を……」
「カオル君、これ以上この話をするのはやめましょうか。こんな話をしてもきっと誰も幸せになりません」
「リアラさんはそれでいいんですか?!」
「いいも何も、カオル君には関係がない話です。さあ戻りましょう」
今度こそリアラさんは歩き出す。僕はすぐにはその後を追うことができなかった。
(関係ないなんて、そんな訳がないはずなのに……)
リアラさんの本当の望みは一体なんなのだろうか。もし彼女が本当に助けを求めているならば、どうしてこんなにも拒絶するのだろうか。
「何やカオル、逃げられたんか?」
いつの間にか僕の隣にやってきたナナミがニヤニヤしながら声をかけてくる。
「逃げられた訳じゃないよ。ただリアラさんがあからさまに何かを隠そうとしているんだよ」
「隠し事……カオルはそれを聞きたいんか?」
「別にそうではないよ。リアラさんのプライバシーに関わる事だと思うから、多分」
「ならあんたはどうしたいんや」
「僕は……ただリアラさんを助けたいだけ、かな」
■□■□■□
結局リアラさんとのデートもどきは、わだかまりだけを残して終わってしまった。改めて家に戻るとリアラさんはいつも通りの様子で僕に関わってきたけど、その様子が尚のこと僕の胸を締め付ける。本人は恐らく何事もなかったように振舞っているのだろうけど、僕にはそこに得体の知れない何かを感じていた。
「カオル、また間違えとるで」
「あ、ごめん。もう一回頭からやり直しさせてくれないかな」
一日中遊んでばかりにも行かなかったので、家に戻ってからは練習した。だけどやはり力が入ってこず、何度も何度も止めてしまう。リアラさんや他の皆はいつも通りだというのに、リーダーでもある僕が感情に流されてばかりだったら、いつまでも成長しないのは理解している。
理解しているからこそ、僕は焦ってばかりで空回りしていた。
「カオルさん、調子悪そうですけど大丈夫ですか?」
そんな焦ってばかりの僕に声をかけたのは意外にもアタル君だった。彼とは同じバンドのメンバーでありながらも、なかなか二人でゆっくり話す機会がなかった。
「調子が悪いというか、ずっと気になっていることがあって、それが頭から離れないんだ」
「リアラさんの事ですか?」
「まあそうなんだけど」
「カオルさんってまだこのゲームを始めて短いですよね」
「うん。間も無く二ヶ月くらいって感じ」
「じゃあ歌姫の事もあまり?」
「このゲームでは特殊な存在だったことくらいは分かっているよ」
「あながち間違っていませんが、実はその歌姫についてこんな話もあるんです」
そう前置きをした後に、アタル君は語り出した。それは僕が歌姫について知っている基本的な情報とはまた一つ違った内容だった。
「本来このゲームには歌姫という特別なキャラクターは存在するはずがなかったんですよ」
「え?」
「説明書にもどこにもそういうのは記載されていないんです。それなのに何故存在していると思います?」
「誰かが作り上げたとか?」
「そうなんです。カオルさんはβテストの際に起きた事故について知っていますか?」
「えっと詳しくは知らないけど、β版をプレイしたプレイヤーが意識が戻らなくなっだって話だよね。しかもまだ未解決だったよね」
「はい」
少し前に僕が見た資料を思い出す。偶然目に入ったとは言えど、かなり衝撃的な内容だった。だけどそれと何か関係しているのだろうか。
「運営はその事件をもみ消すために、未だにβ版の時代から彷徨い続けるプレイヤー達を直接操作して、歌姫として作り上げたと言われているんです」
「いや、それは幾らなんで無理な話じゃ」
「そうなんです。俺もずっとそう思っていました。ですがリアラさんを見て俺もカオルさんと同じように感じたんです」
「リアラさんがNPCじゃないって事?」
「はい。だからもしかしたらリアラさんの元を辿れば何かに辿り着けるのかなって考えたんです」
「なるほど……」
でもそれはあくまで噂の範囲だ。流石に運営もそこまではしないだろうと思っている。なら、β版からログアウトできていない人達は今もこのゲームの世界のどこかに紛れ込んでいるのだろうか。
(でもそれなら、まず正式版から始めた僕達に助けを求めてくるはず)
いや、僕達が気づいていないだけで本当は、色々な形で助けを求めているのかもしれない。
そう例えば、
「そう、か」
「どうかしましたかカオルさん」
「少しだけ分かったかもしれない。リアラさんの事」
あの花冠とか。
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