音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら
Track.37 歌姫と二人で 中編
リアラさんに連れられてやって来たのは洋服屋さんだった。デートスポットとしてはベストな気もするけど、わざわざ僕を連れてまでやって来る場所なのかなとは思う。
「折角のこの日ですから、カオル君もお洒落をしましょう」
「え? でもまだ僕お金まともに貯まってないですよ?」
「私の奢りですよ。日頃のお礼です」
服を一着ずつ眺めながらリアラさんはそんな事を言う。
「お礼だなんてそんな」
僕は大したことはできていない。むしろ僕の方こそリアラさんに買ってあげなければならない立場だというのに、本当にリアラさんは優しすぎる。
「お礼をしなきゃいけないのは僕の方なんですよ。まだ顔も知らなかった人からのバンドの誘いを、断りもせずに受けてくれたんですから。それに今日だって、こんな滅多にできないことまでしてくれて……」
まさか自分がいわゆるデートなんてする事になるとは思っていなかった。さっきまであんなにリアラさんへの気持ちが分からなかったというのに、今二人でこうして出かけて、こうしてお礼まで言われて、それがただ嬉しくて。
「カオル君は嫌でしたか? 私とお出かけするのが」
「そんな滅相もありませんよ。ただちょっと驚きはしました」
「驚き……ですか?」
「だってリアラさん、益々人間らしいじゃないですか。こんなNPCはどこにもいませんよ」
「それはただのカオル君の思い違いでは?」
「いえ、それは違うと僕は断言できます」
元からその意思がブレる気はないと思っていた。最近いろいろな情報を得て、少しずつでもリアラさんの事を知って、最初からある僕の思いはどんどん大きくなっていた。
「こうしてリアラさんと二人で出かけられる事が何よりの人間の証拠だと僕は思うんです。もし誰に何を言われようとも、この意思だけは変えません」
「カオル君……」
店の中であるのも忘れて思わず語ってしまった。でもそれは決して変わらぬ思いだし、リアラさんにもそれだけはちゃんとこの言葉で伝えたかった。
「それで、えっと、リアラさん、一つ聞きたいのですが」
「何でしょうか」
「さっきから僕のために選んでくれているその服、どう見ても男物ではないと思うんですが」
「そうですよ?」
両手に持つ女物の服を僕に見せながらクエスチョンマークを浮かべるリアラさん。
「僕は男だって分かっていますよね」
「はい勿論」
「じゃあどうして」
「折角の二人きりですから、こういう趣向も是非試して見たくて」
「それだけは勘弁してください!」
もしかしてリアラさんの目的って元からそっち?
■□■□■□
それから約一時間後、僕は両手に沢山の服を持ってリアラさんと店を出た。
「あの、本当にこんなにいいんですか?」
「日頃のお礼だと言ったじゃないですか。それにこのゲームでは普段着の方の類いのものはさほど高くはありませんから」
「そうは言いますけど……」
両手に持つ服は全てリアラさんが僕に買ってくれたものだった(当然だけど全部男物)。こういうものは本当なら男である僕がリアラさんにしなければならない事なのに、これだと少しだけ申し訳なくなってしまう。
「もしかして……気に入りませんでしたか?」
「いや、そんな事は決してありませんよ! ただ少しだけ申し訳なくて……」
「そんなに気負いする話じゃないですよ。私からのプレゼントと思って受け取ってください」
「わ、分かりました……」
いつかはこのお返しができるくらいにならないと。そう胸に誓い、次の場所へと向かう。次は折角なので、僕が一度行って見たかった場所にする事にした。
「ここは確か……楽譜屋さんでしたよね」
「はい。僕自身のドラムの練習のためにと言いますか、僕あまり楽譜に詳しくなかったので」
「それなら私がオススメのものを教えてあげますよ」
「本当ですか? それはすごくありがたいんですけど」
折角僕が連れてきたというのに、またリアラさんのお世話になってしまったら、男である自分としては少し恥ずかしい。でもここでまたお互いに譲りあっても変わらないので、ここでもリアラさんの優しさに甘える事にした。
で、その途中。
「そういえばカオル君はどうしてこのゲームを始めたんですか?」
リアラさんが選びながらそんな事を聞いてきた。そういえばリアラさんとはこういう話をしっかりとした事はなかったっけ。
「理由なんて特にはないんです。たまたま新しいゲームを始めようと思った時に、このゲームが目に止まったんです」
「でもこのゲーム、オンラインゲームとしては少し変わった趣向だなと私は思いますけど」
「確かに珍しい話ですよね。でもそのゲームに手をつけた事に僕は後悔はしていませんよ。そうでなければ竜介達とも和解ができませんでしたし、こうしてリアラさんに出会える事はありませんでしたから」
「カオル君……」
あの時、あの瞬間に彼女の歌を聞かなければ今の僕がここにはいなかったと思う。でも出会えたからこそ、僕のもう一つの居場所がここにできた。
「リアラさんって確かこのゲームを始めて長いんですよね。他の人とバンドを組んだ事はなかったんですか?」
「カオル君と出会う前に一度だけありました。でもその時は……私は失敗してしまったんです」
「失敗?」
「はい。取り返しのつかつかないほどの失敗を私はしてしまったんです」
どこか悲しそうにリアラさんはそう言った。だけどそこにどんな事があって、どんな後悔が彼女の中に生まれてしまったのか、僕はそこまで踏み入れる事ができなかった。
それは決して踏み入れてはいけない領域。
リアラさんが唯一拒絶をする領域。
僕にはそこ足を踏み入れる勇気はなかった。
「折角のこの日ですから、カオル君もお洒落をしましょう」
「え? でもまだ僕お金まともに貯まってないですよ?」
「私の奢りですよ。日頃のお礼です」
服を一着ずつ眺めながらリアラさんはそんな事を言う。
「お礼だなんてそんな」
僕は大したことはできていない。むしろ僕の方こそリアラさんに買ってあげなければならない立場だというのに、本当にリアラさんは優しすぎる。
「お礼をしなきゃいけないのは僕の方なんですよ。まだ顔も知らなかった人からのバンドの誘いを、断りもせずに受けてくれたんですから。それに今日だって、こんな滅多にできないことまでしてくれて……」
まさか自分がいわゆるデートなんてする事になるとは思っていなかった。さっきまであんなにリアラさんへの気持ちが分からなかったというのに、今二人でこうして出かけて、こうしてお礼まで言われて、それがただ嬉しくて。
「カオル君は嫌でしたか? 私とお出かけするのが」
「そんな滅相もありませんよ。ただちょっと驚きはしました」
「驚き……ですか?」
「だってリアラさん、益々人間らしいじゃないですか。こんなNPCはどこにもいませんよ」
「それはただのカオル君の思い違いでは?」
「いえ、それは違うと僕は断言できます」
元からその意思がブレる気はないと思っていた。最近いろいろな情報を得て、少しずつでもリアラさんの事を知って、最初からある僕の思いはどんどん大きくなっていた。
「こうしてリアラさんと二人で出かけられる事が何よりの人間の証拠だと僕は思うんです。もし誰に何を言われようとも、この意思だけは変えません」
「カオル君……」
店の中であるのも忘れて思わず語ってしまった。でもそれは決して変わらぬ思いだし、リアラさんにもそれだけはちゃんとこの言葉で伝えたかった。
「それで、えっと、リアラさん、一つ聞きたいのですが」
「何でしょうか」
「さっきから僕のために選んでくれているその服、どう見ても男物ではないと思うんですが」
「そうですよ?」
両手に持つ女物の服を僕に見せながらクエスチョンマークを浮かべるリアラさん。
「僕は男だって分かっていますよね」
「はい勿論」
「じゃあどうして」
「折角の二人きりですから、こういう趣向も是非試して見たくて」
「それだけは勘弁してください!」
もしかしてリアラさんの目的って元からそっち?
■□■□■□
それから約一時間後、僕は両手に沢山の服を持ってリアラさんと店を出た。
「あの、本当にこんなにいいんですか?」
「日頃のお礼だと言ったじゃないですか。それにこのゲームでは普段着の方の類いのものはさほど高くはありませんから」
「そうは言いますけど……」
両手に持つ服は全てリアラさんが僕に買ってくれたものだった(当然だけど全部男物)。こういうものは本当なら男である僕がリアラさんにしなければならない事なのに、これだと少しだけ申し訳なくなってしまう。
「もしかして……気に入りませんでしたか?」
「いや、そんな事は決してありませんよ! ただ少しだけ申し訳なくて……」
「そんなに気負いする話じゃないですよ。私からのプレゼントと思って受け取ってください」
「わ、分かりました……」
いつかはこのお返しができるくらいにならないと。そう胸に誓い、次の場所へと向かう。次は折角なので、僕が一度行って見たかった場所にする事にした。
「ここは確か……楽譜屋さんでしたよね」
「はい。僕自身のドラムの練習のためにと言いますか、僕あまり楽譜に詳しくなかったので」
「それなら私がオススメのものを教えてあげますよ」
「本当ですか? それはすごくありがたいんですけど」
折角僕が連れてきたというのに、またリアラさんのお世話になってしまったら、男である自分としては少し恥ずかしい。でもここでまたお互いに譲りあっても変わらないので、ここでもリアラさんの優しさに甘える事にした。
で、その途中。
「そういえばカオル君はどうしてこのゲームを始めたんですか?」
リアラさんが選びながらそんな事を聞いてきた。そういえばリアラさんとはこういう話をしっかりとした事はなかったっけ。
「理由なんて特にはないんです。たまたま新しいゲームを始めようと思った時に、このゲームが目に止まったんです」
「でもこのゲーム、オンラインゲームとしては少し変わった趣向だなと私は思いますけど」
「確かに珍しい話ですよね。でもそのゲームに手をつけた事に僕は後悔はしていませんよ。そうでなければ竜介達とも和解ができませんでしたし、こうしてリアラさんに出会える事はありませんでしたから」
「カオル君……」
あの時、あの瞬間に彼女の歌を聞かなければ今の僕がここにはいなかったと思う。でも出会えたからこそ、僕のもう一つの居場所がここにできた。
「リアラさんって確かこのゲームを始めて長いんですよね。他の人とバンドを組んだ事はなかったんですか?」
「カオル君と出会う前に一度だけありました。でもその時は……私は失敗してしまったんです」
「失敗?」
「はい。取り返しのつかつかないほどの失敗を私はしてしまったんです」
どこか悲しそうにリアラさんはそう言った。だけどそこにどんな事があって、どんな後悔が彼女の中に生まれてしまったのか、僕はそこまで踏み入れる事ができなかった。
それは決して踏み入れてはいけない領域。
リアラさんが唯一拒絶をする領域。
僕にはそこ足を踏み入れる勇気はなかった。
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