音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら
Track.36 歌姫と二人で 前編
ちょっとした一騒ぎががあったものの、僕達のいつも通りの時間は当たり前のように始まった。
「なあアタル、さっきのはどう思っとる?」
「完全に俺達を置いてけぼりにしていましたね」
「知りたいのはウチらもやのに」
何やらナナミとアタル君がヒソヒソ話をしているけど、それは気にしないでおくとして、
「あ、あの、リアラさん」
「何でしょうか」
「さっきは僕すごく偉そうな事言っていましたけど、あれはリアラさんを止めたくて必死で。すいませんでした」
僕はつい先程の言動に関してリアラさんに謝罪をしておきたかった。咄嗟に出た言葉とは言えど、あれはどう考えても駄目だと思った。
「謝る必要なんてないですよ。私もすぐにああいう事言ってしまうのは悪い癖だって分かっているんですけど、カナリアには迷惑をかけたかったので」
「迷惑だなんてそんな」
「それに私少しだけ嬉しかったんです。カオル君がああやって止めてくれた事が」
「僕はそんな大したことは全くしてないですよ」
「そういうところがカオル君のいい所なんですよ、きっと」
「え?」
微笑みながら言うリアラさんに僕はポカンとしてしまう。
(今のが僕のいい所?)
そうとは思えないんだけど。
「さてと、少し遅くなってしまいましたが練習をしましょうか」
仕切り直しと言わんばかりにリアラさんが僕達に言う。何だかんだでもうログインしてから一時間以上が経過してしまっていた。早めに集まった目的である例の件は一時保留という事でまとまったので、リアラさんと二人で出かけるまではいつも通りだ。
「練習? 何を言ってあるんやリアラ。あんたとカオルは今からお出かけタイムやろ?」
「え、でも、それは練習してからでも充分かと思うんですが」
「何を言っておるんやリアラ。折角の初デートなんやから、こういう時くらいはハメを外す必要があるやろ」
「で、デート?!」
その言葉に僕は思わず反応してしまう。確かに二人きりで出かけたいとリアラさんが言ってはいたものの、それがデートになるだなんて、僕はゲームを間違えてしまっているのではないだろうか。
「あ、アタル君、これって、その、デートになるの?」
「まあ二人きりで出かけるのですから、言い方によってはデートになると思うとますよ」
「で、てもこのゲームってそういう要素あったっけ?」
「ありませんが、そういうのは本人達の意思次第になるかと」
本人達の意思次第。
確かに今の時代オンラインゲームとかでそういう出会いを求めるのは少なくはない話だ。僕もそういう思いがなかったと言えば嘘になる。ここで出会う人達は皆初対面。あの頃の顔見知りは一人もいないはず。だからここで人生をやり直してみたいと考えていた。恋も出来るなら尚のこと……。
ただそれはあくまでそれは僕の意思なだけであり、リアラさんの意思は分からない。こんな事を考えているのはやっぱり僕だけなのかな。
「か、カオル君、では行きましょうか二人で、その、デートに」
そんな事を考えている間に、どう言いくるめられたのかリアラさんが恥ずかしながらも僕を誘ってきた。その可愛さに僕は思わずドキッとしてしまった。
「えっと、はい!」
■□■□■□
今更ながらの説明にはなるけど、このゲームにはちゃんと服装を変える事ができる。普段着やライブの時用、その他様々な用途で服装を選ぶ事ができる。
こういう時に何が便利かと言うと、普段の自分では着れないような服でも、このゲームで貯めたお金で好きな服を選んで買う事ができる。だからこういうイベントの時にも、普段からしっかりとしていればちゃんとした服を自分で選ぶ事ができる。
できるのだけど……。
「すいませんリアラさん、折角のお出かけなのにいつもの服と変わらなくて」
「いえ気にしないでください。私も似たようなものですから」
ゲームを始めてまだ二ヶ月も経たない僕が、ろくな服を選ぶことはできず、いつもと殆ど変わらない服になってしまった。
それとは違いリアラさんはフリルがついたワンピースを着ていて、僕とは月とスッポンの差がついていた。
「では行きましょうか」
「は、はい」
僕はリアラさんの後をついていくように、いつもの街へと繰り出す。リアラさんの人気が高いからかもしれないけど、歩く度に周りの人からの視線を感じる。
「それでどこへ行きましょうか、カオル君」
「あの、僕は特に行きたい場所はないので、リアラさんにお任せしたいんですけど」
「そうですか。では是非カオル君と行ってみたかった場所があるのでそこへ行きましょう」
そう言いながらリアラさんは僕の腕を掴む。その動作一つで僕はすごくドキドキしてしまう。
(これだとまるで本当にデートしているみたいだけど……)
この先持ってくれるかな僕の心臓。
「随分大胆なことをするんですね、リアラさん」
「ええやん。あれでこそデートやで」
カオルとリアラの二人から少し離れた先。看板の後ろに隠れる二つの影があった。
「それでナナミさん、俺達は何をしているんですか?」
「それは勿論スト……追跡や」
「今明らかにストーカーって言いかけましたよね」
「なあアタル、さっきのはどう思っとる?」
「完全に俺達を置いてけぼりにしていましたね」
「知りたいのはウチらもやのに」
何やらナナミとアタル君がヒソヒソ話をしているけど、それは気にしないでおくとして、
「あ、あの、リアラさん」
「何でしょうか」
「さっきは僕すごく偉そうな事言っていましたけど、あれはリアラさんを止めたくて必死で。すいませんでした」
僕はつい先程の言動に関してリアラさんに謝罪をしておきたかった。咄嗟に出た言葉とは言えど、あれはどう考えても駄目だと思った。
「謝る必要なんてないですよ。私もすぐにああいう事言ってしまうのは悪い癖だって分かっているんですけど、カナリアには迷惑をかけたかったので」
「迷惑だなんてそんな」
「それに私少しだけ嬉しかったんです。カオル君がああやって止めてくれた事が」
「僕はそんな大したことは全くしてないですよ」
「そういうところがカオル君のいい所なんですよ、きっと」
「え?」
微笑みながら言うリアラさんに僕はポカンとしてしまう。
(今のが僕のいい所?)
そうとは思えないんだけど。
「さてと、少し遅くなってしまいましたが練習をしましょうか」
仕切り直しと言わんばかりにリアラさんが僕達に言う。何だかんだでもうログインしてから一時間以上が経過してしまっていた。早めに集まった目的である例の件は一時保留という事でまとまったので、リアラさんと二人で出かけるまではいつも通りだ。
「練習? 何を言ってあるんやリアラ。あんたとカオルは今からお出かけタイムやろ?」
「え、でも、それは練習してからでも充分かと思うんですが」
「何を言っておるんやリアラ。折角の初デートなんやから、こういう時くらいはハメを外す必要があるやろ」
「で、デート?!」
その言葉に僕は思わず反応してしまう。確かに二人きりで出かけたいとリアラさんが言ってはいたものの、それがデートになるだなんて、僕はゲームを間違えてしまっているのではないだろうか。
「あ、アタル君、これって、その、デートになるの?」
「まあ二人きりで出かけるのですから、言い方によってはデートになると思うとますよ」
「で、てもこのゲームってそういう要素あったっけ?」
「ありませんが、そういうのは本人達の意思次第になるかと」
本人達の意思次第。
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ただそれはあくまでそれは僕の意思なだけであり、リアラさんの意思は分からない。こんな事を考えているのはやっぱり僕だけなのかな。
「か、カオル君、では行きましょうか二人で、その、デートに」
そんな事を考えている間に、どう言いくるめられたのかリアラさんが恥ずかしながらも僕を誘ってきた。その可愛さに僕は思わずドキッとしてしまった。
「えっと、はい!」
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今更ながらの説明にはなるけど、このゲームにはちゃんと服装を変える事ができる。普段着やライブの時用、その他様々な用途で服装を選ぶ事ができる。
こういう時に何が便利かと言うと、普段の自分では着れないような服でも、このゲームで貯めたお金で好きな服を選んで買う事ができる。だからこういうイベントの時にも、普段からしっかりとしていればちゃんとした服を自分で選ぶ事ができる。
できるのだけど……。
「すいませんリアラさん、折角のお出かけなのにいつもの服と変わらなくて」
「いえ気にしないでください。私も似たようなものですから」
ゲームを始めてまだ二ヶ月も経たない僕が、ろくな服を選ぶことはできず、いつもと殆ど変わらない服になってしまった。
それとは違いリアラさんはフリルがついたワンピースを着ていて、僕とは月とスッポンの差がついていた。
「では行きましょうか」
「は、はい」
僕はリアラさんの後をついていくように、いつもの街へと繰り出す。リアラさんの人気が高いからかもしれないけど、歩く度に周りの人からの視線を感じる。
「それでどこへ行きましょうか、カオル君」
「あの、僕は特に行きたい場所はないので、リアラさんにお任せしたいんですけど」
「そうですか。では是非カオル君と行ってみたかった場所があるのでそこへ行きましょう」
そう言いながらリアラさんは僕の腕を掴む。その動作一つで僕はすごくドキドキしてしまう。
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