音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら

りょう

Track.28 閉じ込めた記憶

 一度部屋に戻った僕は、布団に寝返りを打ちながら、自分の情けなさを感じていた。

(何で……こんなに情けないリーダーなんだろ僕は)

 集中するって意識し続けても、逆にそれが裏目に出てばかりだ。特に最近は、リアラさんを意識し過ぎている自分がいる。ナナミが言っていたそういう感情があるからなのかは定かではない。でも僕は、今この部屋にいる事が間違っている。早く練習に参加しないといけない。

「カオル君、大丈夫ですか?」

 ふと扉の向こうから声が聞こえる。リアラさんが心配して僕の部屋に来てくれたみたいだ。

「リアラさん、すいません。心配させてしまって。すぐに行きますから」

「いえ、今日はもうお休みしてください」

「え? でも……」

「今のあなたでは練習もできないのではないですか?」

「それは……」

 分かっている。でも今の僕は休んでいる暇なんてない。もっと上達しないと、僕はまた……。

『何であんな奴がリーダーなんだよ』

『ろくな実力も持っていないくせに、生意気だよな』

『親のコネとかなんでしょ、どうせ』

「っ!」

 また……。

『おーい、千由里、竜介、一緒に……』

『あっ』

『か、薫君?! きょ、今日は生徒会の仕事なんじゃ……』

『そうか、そういう事だったんだね』

 僕の居場所がなくなる。

「カオル君? 大丈夫ですか? とにかく今は休んで……」

「駄目なんだ……僕は何もできない人間のままじゃ……」

「カオル君?」

「少しでも……少しでも僕は……成長しないと……」

 視界が眩み始める。最近は一度も起きていなかった、僕の中のトラウマから出てくる発作。ゲームの世界だから起きないと思っていたのに、何で今僕はまた……。

「り……アラさん……」

 バタン

「カオル君! 返事をしてください、カオル君!」

 ■□■□■□
 僕は高校を入学した当初から、何故か生徒会に誘われていて、時折参加していた。僕はいたって普通の生徒で、特に長けた能力も持っていない。それなのに、何故か学園で一目置かれる存在だった。

 だけどそれは、僕に向けられていた目ではなく僕の両親に向けられたものだと分かった。それは何故か? 答えはすごく単純な話。僕の両親は学校の校長と教頭という学校では一番大きな権力の持ち主だった。
 だから僕に媚びれぱ成績も良くなるとかそんな事を考えていた輩がいたから、入学当初から優遇されていたのかもしれない。ましてや僕達の学校は進学校、成績云々にはすごくうるさいのだ、

(だから僕は……親の七光りなんて言われないためにも)

 自分を見てもらうために少しずつでも、努力をしようとした。自分だけが信じる自分を、周りに見てもらうために。
 だけどそれは本当の悪夢の始まりにすぎなかったんだ。

 目を開くといつもの僕の部屋の天井があった。どうやらあの後、誰かが僕を強制的にログアウトさせたのかもしれない。

(まさかゲームで発作が起こるなんて……)

 いくらVRMMOの世界とはいえど、ちょっとやそっとの問題ではない。紛れもなくあの場で体感したのは、ずっと僕が患ってきたある種の病に違いがなかった。

(あれ、ゲームの方にメールが来てる)

 ログインせずともメールは開くことができるので、僕はフラフラな体でメールを開く。差出人はリアラさんだった。

『カオル君、体調は大丈夫ですか? 二日前突然倒れた時は皆驚きました。その後は安静をとってもらうためにログアウトさせたのですが、体調は回復したのでしょうか。すぐには難しいかもしれませんが、早い内にまた練習に参加してくれるのを私達は待っています。
 それではまた練習で リアラ』

 メールの差し出し日は今日の日付。文面を見る限り、僕は二日も寝てしまっていたらしい。流石にそこまで寝ていたなんて過去に一度もなかったので、驚きを隠せない。

(とりあえずログインをして、皆に一度謝らないと)

 しばらく安静にした後、身体が動けるようになってきたのでログインをする。二日前に僕の身に起きた事が、まるで嘘だったかのようにゲームの世界の僕の体は何ともなかった。

「あ、カオル。目覚ましておったんか」

 リアラさんの家へ向かう途中、ナナミと遭遇する。二日前に彼女にも迷惑をかけたであろうから、僕は軽い挨拶と共にその事を謝罪した。

「何一つ気にすることないで。ただ、あまり無理しすぎるのもよくないと思うで」

「なんか考え事ばかりしてたら、頭がパニックになってて……。早く練習に戻ろうと思ったら、急に意識が遠のいちゃったんだよ」

「あまり無理しすぎるのがいけないんや。リアラの事なら今は考えるなと言わんかったか?」

「分かってたよ。でも……ずっと頭から離れなかったんだ。色々な事が」

 それだと駄目なんだってことも理解している。だけどそれを身体が受け付けてくれない。だから僕はずっと苦しんでいたんだ。挙げ句の果てには、

(閉じ込めていた記憶なのに、また思い出すなんて……)

 忘れようと何度も努力してきた記憶も、また蘇ってしまった。これでまた振り出しだ。

「駄目やな、カオル」

「駄目って?」

「今のままじゃ二日前の事を繰り返すだけや。少し休んだ方がええ。うちからリアラに言っておく」

「そんな。僕だって休む訳には……」

「それでリアラにまた負担をかけるのはカオルなんやで! 少しは向こうの気持ちも考えるんや」

「向こうの……気持ち?」

 僕がリアラさんの負担になっているの?

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