音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら
Track.16 歌姫 後編
「申し訳ないって、それはどういう意味でしょうか」
思わず出た僕の本心に、リアラさんはいつもの優しい言い方とは違って、真剣な言い方で僕に疑問を投げかけてきた。
「そのままの意味ですよ。だってリアラさんは、今日渡したばかりの歌詞を、もう曲にしているじゃないですか。それって、普通ではあり得ない事だと思うんです。もはや天才の域を越えていて、何となくですがどうしてリアラさんさんが歌姫と呼ばれているのか分かったんです。だからそんなあなたと僕なんかが、バンドを組んでいるのが申し訳なく感じました」
色々あって疲れていたのか次々と言葉が出てきてしまう。それはもはや嫌味でもあって、決して今言うべき言葉ではない。それは分かっていたけど、僕はそれを押し止められなかった。
「歌姫、ですか。確かに私はそんな呼ばれ方をしますが、決して私はそんな大層なものではないと思います」
「それは僕に対する嫌味ですか?」
「そうではありません。私の部屋に入ってきてください、そうすれば私の言葉の意味が分かりますよ」
「リアラさんの部屋に?」
リアラさんに連れられて部屋に入る。そこで僕を待っていたのは、
「これは、一体……」
「いつしかカオル君に言ったと思いますが、私はこの世界の人間であって人間ではないんです。その証拠がこれなんです」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「証拠って、これは」
それはまるでこのゲームとは全く別のものを感じさせる空間だった。まるでそこに入るのは、たった一人しか許されない空間。
言うなればまさに歌姫がと呼ばれる者にしか住まうことができないなんとも不思議な場所だった。
(まさかこの家に、こんなにすごい部屋があったなんて)
「もう五年位前になりますかね。このゲームが稼働して間もない頃、私は歌姫というこのゲームで一番上の能力を持つキャラクターとしてこの世界に生まれました」
部屋にある置物に手を触れながらリアラさんは語り始めた。
「この世界に生まれた?」
「そうです。私は人間でもなんでもないただのゲームのキャラクターに過ぎないんです。予めこういう部屋や家が用意され、最初から天才的な能力を持つ者としてこの世界にいるだけであって、努力とかそんなのは全くしてないんです。だから何もすごくないですし、私がそうであるのは当たり前の事なんですよ」
リアラというキャラクターが歌姫として呼ばれるの当たり前の事、そう自分で語る彼女はどこか寂しげだった。
「だからカオル君は何一つプレッシャーを感じる必要はないんです。私は人間でもなんでもない、ただのキャラクターなのですから。あなたはあなたらしく、これからもカナリアのリーダーとして皆を引っ張っていけばいいんです」
最後にリアラさんは話をそう締めた。確かに彼女はただのキャラクター、プレッシャーに感じる必要なんてどこにもない。僕はたまたまその歌姫と出会って、バンドを組む事になったに過ぎないのだから。
その言葉のおかけで気分は少しだけ楽になった。だけどそれと同時に僕の中にある感情が生まれた。
「確かにリアラさんはただのキャラクターに過ぎないかもしれません。だけど僕は、そんなあなたを一人の人間としてか見られません」
「どうしてそんな事を言えるのですか?」
「何でですかね。僕も不思議です」
「ふふ、自分にも分からないのに言わないでくださいよ」
「ごめんなさい、でも悪意はなかったので許してください」
「嫌だと言ったらどうします?」
「えー!」
こんなふざけたやり取りをしている内に、先程までの考え事はいつの間にか消えていた。リアラさんは最初からそのつもりで僕にこの事を教えてくれたのかもしれない。でも、だからこそ僕は思った。
こんなに優しくて、こんなに僕の事を心配してくれる彼女が、ただのキャラクターだなんて考えられないと。
でも今そんな事言ったら、また何か言われそうなので、今はその考えは胸の奥にそっとしまっておこう。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
僕の作詞が終了してからは、更に忙しい日が続いた。たった一日で曲を作り上げてしまったリアラさんには、流石の皆も驚いていたけど、これなら本番に間に合いそうだと安心していた。
そして迎えた本番前夜。今日は明日の準備を含めて皆家に寝泊まりすることに。ゲームの世界とはいえど、こんなお泊まり会みたいな事をするのは、滅多にない僕はかなりはしゃいでいた。
「そんなにはしゃいで、明日倒れないでくださいよ」
終いにはリアラさんに心配されてしまう始末。でも彼女の言う通りではあるので、早い内に就寝する事に。
だが皆が寝静まった頃に、その事件は起きてしまった。それは僕が、トイレに行こうと一度起きた時の事。
「あれ? リアラさんは?」
先程までの近くで寝ていたリアラさんの姿が突如見えなくなった。外へ出るにももうかなり遅い時間なのに、果たして彼女はどこへ行ってしまったのだろうか。
「リアラさん、どうしたんですかこんな夜遅くに」
そんな彼女をようやく見つけ出したのは、探し始めて一時間が経った頃。家からかなり離れた所で彼女を見つけた。声をかけてみるが返事はなく、その場でずっと立ち尽くしているだけだった。もう一度声をかけようと手を彼女の肩に置こうとした時に、それは起きた。
「っ!?」
突如頭の中に何かが流れてくる。だがそれら全ての情報がバラバラで、何を示しているのか分からない。
「あ、カオル君、どうしたんですか? もう寝ないと明日起きれませんよ?」
「は、はい。分かっていますけど」
「けど?」
今一瞬起きたあれはなんですか?
思わず出た僕の本心に、リアラさんはいつもの優しい言い方とは違って、真剣な言い方で僕に疑問を投げかけてきた。
「そのままの意味ですよ。だってリアラさんは、今日渡したばかりの歌詞を、もう曲にしているじゃないですか。それって、普通ではあり得ない事だと思うんです。もはや天才の域を越えていて、何となくですがどうしてリアラさんさんが歌姫と呼ばれているのか分かったんです。だからそんなあなたと僕なんかが、バンドを組んでいるのが申し訳なく感じました」
色々あって疲れていたのか次々と言葉が出てきてしまう。それはもはや嫌味でもあって、決して今言うべき言葉ではない。それは分かっていたけど、僕はそれを押し止められなかった。
「歌姫、ですか。確かに私はそんな呼ばれ方をしますが、決して私はそんな大層なものではないと思います」
「それは僕に対する嫌味ですか?」
「そうではありません。私の部屋に入ってきてください、そうすれば私の言葉の意味が分かりますよ」
「リアラさんの部屋に?」
リアラさんに連れられて部屋に入る。そこで僕を待っていたのは、
「これは、一体……」
「いつしかカオル君に言ったと思いますが、私はこの世界の人間であって人間ではないんです。その証拠がこれなんです」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「証拠って、これは」
それはまるでこのゲームとは全く別のものを感じさせる空間だった。まるでそこに入るのは、たった一人しか許されない空間。
言うなればまさに歌姫がと呼ばれる者にしか住まうことができないなんとも不思議な場所だった。
(まさかこの家に、こんなにすごい部屋があったなんて)
「もう五年位前になりますかね。このゲームが稼働して間もない頃、私は歌姫というこのゲームで一番上の能力を持つキャラクターとしてこの世界に生まれました」
部屋にある置物に手を触れながらリアラさんは語り始めた。
「この世界に生まれた?」
「そうです。私は人間でもなんでもないただのゲームのキャラクターに過ぎないんです。予めこういう部屋や家が用意され、最初から天才的な能力を持つ者としてこの世界にいるだけであって、努力とかそんなのは全くしてないんです。だから何もすごくないですし、私がそうであるのは当たり前の事なんですよ」
リアラというキャラクターが歌姫として呼ばれるの当たり前の事、そう自分で語る彼女はどこか寂しげだった。
「だからカオル君は何一つプレッシャーを感じる必要はないんです。私は人間でもなんでもない、ただのキャラクターなのですから。あなたはあなたらしく、これからもカナリアのリーダーとして皆を引っ張っていけばいいんです」
最後にリアラさんは話をそう締めた。確かに彼女はただのキャラクター、プレッシャーに感じる必要なんてどこにもない。僕はたまたまその歌姫と出会って、バンドを組む事になったに過ぎないのだから。
その言葉のおかけで気分は少しだけ楽になった。だけどそれと同時に僕の中にある感情が生まれた。
「確かにリアラさんはただのキャラクターに過ぎないかもしれません。だけど僕は、そんなあなたを一人の人間としてか見られません」
「どうしてそんな事を言えるのですか?」
「何でですかね。僕も不思議です」
「ふふ、自分にも分からないのに言わないでくださいよ」
「ごめんなさい、でも悪意はなかったので許してください」
「嫌だと言ったらどうします?」
「えー!」
こんなふざけたやり取りをしている内に、先程までの考え事はいつの間にか消えていた。リアラさんは最初からそのつもりで僕にこの事を教えてくれたのかもしれない。でも、だからこそ僕は思った。
こんなに優しくて、こんなに僕の事を心配してくれる彼女が、ただのキャラクターだなんて考えられないと。
でも今そんな事言ったら、また何か言われそうなので、今はその考えは胸の奥にそっとしまっておこう。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
僕の作詞が終了してからは、更に忙しい日が続いた。たった一日で曲を作り上げてしまったリアラさんには、流石の皆も驚いていたけど、これなら本番に間に合いそうだと安心していた。
そして迎えた本番前夜。今日は明日の準備を含めて皆家に寝泊まりすることに。ゲームの世界とはいえど、こんなお泊まり会みたいな事をするのは、滅多にない僕はかなりはしゃいでいた。
「そんなにはしゃいで、明日倒れないでくださいよ」
終いにはリアラさんに心配されてしまう始末。でも彼女の言う通りではあるので、早い内に就寝する事に。
だが皆が寝静まった頃に、その事件は起きてしまった。それは僕が、トイレに行こうと一度起きた時の事。
「あれ? リアラさんは?」
先程までの近くで寝ていたリアラさんの姿が突如見えなくなった。外へ出るにももうかなり遅い時間なのに、果たして彼女はどこへ行ってしまったのだろうか。
「リアラさん、どうしたんですかこんな夜遅くに」
そんな彼女をようやく見つけ出したのは、探し始めて一時間が経った頃。家からかなり離れた所で彼女を見つけた。声をかけてみるが返事はなく、その場でずっと立ち尽くしているだけだった。もう一度声をかけようと手を彼女の肩に置こうとした時に、それは起きた。
「っ!?」
突如頭の中に何かが流れてくる。だがそれら全ての情報がバラバラで、何を示しているのか分からない。
「あ、カオル君、どうしたんですか? もう寝ないと明日起きれませんよ?」
「は、はい。分かっていますけど」
「けど?」
今一瞬起きたあれはなんですか?
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