カノジョの好感度が上がってないのは明らかにおかしい
第45話 長い廊下で
「よっと、記憶の削除終了です。で、どうしますか、この人たち?」
「んー……叩き起こすか?」
鬱蒼とした森の中、俺とティアは木に寄りかかり眠る二人の少女を見つめながらそう言葉を交わした。
叩き起こす……と言ってはみたものの、相手は一応乙女だし、加えて、こいつらは後から反撃してこないとも言えない。……凛は物理的に、青川は多分精神的に……
「背負っていくか……?」
「もやし体質の馨さんができるわけないでしょ?」
「自分が一番よく知ってるっつーの」
どうすっかなー、と俺はがしがしと頭を掻く。
と、いうのも今はサバイバルゲームの真っ最中。
360度どこから銃弾が飛んで来てもおかしくない状況なのだ。
いきなりの詰み展開に俺が頭を抱えていた、その時だった。
「馨さん! 二人が!」
ティアの声に呼ばれ、俺が顔を上げた時、もうすでに、そこには凛と青川は居なかった。
「……消えた?」
「いえ、今突然出て来た男の人たちが一瞬で二人を連れ去って行きました」
「嘘だろ……?」
恐らく、だが、その男の人たちというのは、六実をさらった奴らと同一の集団だろう。ならば、二人も六実が捕らえられている場所と同じ場所に監禁されるに違いない。
いや、ちょっと待てよ? 六実が連れ去られてもうかなりの時間が経っている。今までは時間など気にせず慎重第一で進んで来たが、今この時にも、六実が危害を受けている可能性もあるのか……
あの六実に魂レベルで心酔している連中だ。常識なんて当てはめて考えてはいけないだろう。
「ティア……ちょっと急がないといけないかもしれない」
「え? ーーあぁ、確かにそうですね。凛さんと青川さんをさらった人たちは、山の頂上方面に走って行きました。本拠地は、その方向にあると見て間違いないでしょう」
「わかった。あ、そうだ。ティアにはこれを渡しとく」
そう言って俺は、ポケットから一つの緑色をした球を取り出した。
「手榴弾だ。一応ティアに渡しとく」
「え? 私より馨さんが持ってた方が……」
「一応だ、一応。なにがあるかわかんねぇだろ。ほら、行くぞ」
何故か受け取るのを渋るティアに、俺は手榴弾を握らせる。そして、ポケットから再びハンドガンを取り出すと、俺は再び歩き出した。
……が。
「あぁ、確実にあれだな」
直後、俺の前にそれは現れた。
ところどころ剥がれ落ちた白い外壁。ほとんどが割れてしまっている窓ガラス。そんな、古びた3階建ての建物は、どこからどう見ても廃校舎そのものだった。
校舎まで続く校庭には、多くの足跡が残っており、先ほどここに多くの人間が足を踏み入れたことを如実に語っている。
「よし、じゃあ突入といくか」
「イエッサー!」
元気よく敬礼しながらそう返したティアに冷ややかな視線をぶつけた後、 俺は正面玄関から校舎に足を踏み入れた。
どこか、冷たい空気に包まれた廊下を俺とティアは少しづつ歩いて行く。
「というか、こんな森の中になんで校舎学校なんか造ったんだろうな。もう少し便利なとこに作れば良かっただろうに」
「まぁ色々事情があったんでしょう。でも少し、警戒して進んだ方がいいかもしれませんね。ほら、どこから敵が出てくるかわかりませんし」
「そうだな……え? ティア、今なんだって?」
「え? 警戒して進もう、って……」
「その後だよ」
「敵はどこから出てくるかわからない、ですか?」
「……敵……?」
不思議そうに小首を傾げるティアに俺はそう問い返す。
その問いを聞いた瞬間、ティアは目を見開き、驚きを表情に見せる。そしてすぐに、それは自分のミスを悔やむかのような複雑な表情へと変わった。
「ティア……敵って……敵……」
俺は、何故か、その理由さえわからないのに混乱している頭を抱えてうわ言のようにそう呟く。
「敵って……なんだ?」
自分の中の何か。あったはずの欠片が確実に欠損している。何か、何かが俺の中から無くなった。確実に。今、本当にさっき。
なんだ? 何なんだ? 敵って……? わからない、俺にはわからない……! 
確か、六実を助けるために俺はここに……。助ける? 助けるって……何から?
「ティアッ!! 何だ! 何を消した! お前だろ!? お前なんだろ!?」
俺は小さなティアの肩を掴み壁に押し付ける。その勢いでティアの体はかなりの衝撃を受けたはずだが、彼女は眉ひとつ動かさなかった。
「お前が…… お前なんだろ? 俺の中から何か記憶を奪い取ったんだろ? それが、お前のいう、敵なんじゃないのか?」
「……私は、何も……していません……。全ては、より良い未来へのーー」
「うるせぇ!  ……それはもういいんだよ。本当のことを話してくれ……」
歯を強く噛み締め、ティアに懇願する俺に、彼女はなにも言わなかった。
全く、言葉を発さず、ただ俺を魂の抜けたような、ビー玉じみた眼球で見つめていた。
俺は戦っていた。確かに、何かと。だが、それが何なのかがわからない。記憶を辿るたびに、その部分だけ黒く塗りつぶされたようになり思い出すことができなくなる。
「ごめんなさい」
ティアはただそう言うと、青い光となって消え去った。
彼女の肩に置いていた両手は情けなく虚を掴んでおり、俺はゆっくりその手を握りしめた。
「六実……」
俺はゆっくり腕を下ろすと、薄暗い廊下を再び歩き出した。
先ほどとは違い、響く足音は一つ。肌寒く感じていた廊下の温度が、また一度下がったように感じた。
「んー……叩き起こすか?」
鬱蒼とした森の中、俺とティアは木に寄りかかり眠る二人の少女を見つめながらそう言葉を交わした。
叩き起こす……と言ってはみたものの、相手は一応乙女だし、加えて、こいつらは後から反撃してこないとも言えない。……凛は物理的に、青川は多分精神的に……
「背負っていくか……?」
「もやし体質の馨さんができるわけないでしょ?」
「自分が一番よく知ってるっつーの」
どうすっかなー、と俺はがしがしと頭を掻く。
と、いうのも今はサバイバルゲームの真っ最中。
360度どこから銃弾が飛んで来てもおかしくない状況なのだ。
いきなりの詰み展開に俺が頭を抱えていた、その時だった。
「馨さん! 二人が!」
ティアの声に呼ばれ、俺が顔を上げた時、もうすでに、そこには凛と青川は居なかった。
「……消えた?」
「いえ、今突然出て来た男の人たちが一瞬で二人を連れ去って行きました」
「嘘だろ……?」
恐らく、だが、その男の人たちというのは、六実をさらった奴らと同一の集団だろう。ならば、二人も六実が捕らえられている場所と同じ場所に監禁されるに違いない。
いや、ちょっと待てよ? 六実が連れ去られてもうかなりの時間が経っている。今までは時間など気にせず慎重第一で進んで来たが、今この時にも、六実が危害を受けている可能性もあるのか……
あの六実に魂レベルで心酔している連中だ。常識なんて当てはめて考えてはいけないだろう。
「ティア……ちょっと急がないといけないかもしれない」
「え? ーーあぁ、確かにそうですね。凛さんと青川さんをさらった人たちは、山の頂上方面に走って行きました。本拠地は、その方向にあると見て間違いないでしょう」
「わかった。あ、そうだ。ティアにはこれを渡しとく」
そう言って俺は、ポケットから一つの緑色をした球を取り出した。
「手榴弾だ。一応ティアに渡しとく」
「え? 私より馨さんが持ってた方が……」
「一応だ、一応。なにがあるかわかんねぇだろ。ほら、行くぞ」
何故か受け取るのを渋るティアに、俺は手榴弾を握らせる。そして、ポケットから再びハンドガンを取り出すと、俺は再び歩き出した。
……が。
「あぁ、確実にあれだな」
直後、俺の前にそれは現れた。
ところどころ剥がれ落ちた白い外壁。ほとんどが割れてしまっている窓ガラス。そんな、古びた3階建ての建物は、どこからどう見ても廃校舎そのものだった。
校舎まで続く校庭には、多くの足跡が残っており、先ほどここに多くの人間が足を踏み入れたことを如実に語っている。
「よし、じゃあ突入といくか」
「イエッサー!」
元気よく敬礼しながらそう返したティアに冷ややかな視線をぶつけた後、 俺は正面玄関から校舎に足を踏み入れた。
どこか、冷たい空気に包まれた廊下を俺とティアは少しづつ歩いて行く。
「というか、こんな森の中になんで校舎学校なんか造ったんだろうな。もう少し便利なとこに作れば良かっただろうに」
「まぁ色々事情があったんでしょう。でも少し、警戒して進んだ方がいいかもしれませんね。ほら、どこから敵が出てくるかわかりませんし」
「そうだな……え? ティア、今なんだって?」
「え? 警戒して進もう、って……」
「その後だよ」
「敵はどこから出てくるかわからない、ですか?」
「……敵……?」
不思議そうに小首を傾げるティアに俺はそう問い返す。
その問いを聞いた瞬間、ティアは目を見開き、驚きを表情に見せる。そしてすぐに、それは自分のミスを悔やむかのような複雑な表情へと変わった。
「ティア……敵って……敵……」
俺は、何故か、その理由さえわからないのに混乱している頭を抱えてうわ言のようにそう呟く。
「敵って……なんだ?」
自分の中の何か。あったはずの欠片が確実に欠損している。何か、何かが俺の中から無くなった。確実に。今、本当にさっき。
なんだ? 何なんだ? 敵って……? わからない、俺にはわからない……! 
確か、六実を助けるために俺はここに……。助ける? 助けるって……何から?
「ティアッ!! 何だ! 何を消した! お前だろ!? お前なんだろ!?」
俺は小さなティアの肩を掴み壁に押し付ける。その勢いでティアの体はかなりの衝撃を受けたはずだが、彼女は眉ひとつ動かさなかった。
「お前が…… お前なんだろ? 俺の中から何か記憶を奪い取ったんだろ? それが、お前のいう、敵なんじゃないのか?」
「……私は、何も……していません……。全ては、より良い未来へのーー」
「うるせぇ!  ……それはもういいんだよ。本当のことを話してくれ……」
歯を強く噛み締め、ティアに懇願する俺に、彼女はなにも言わなかった。
全く、言葉を発さず、ただ俺を魂の抜けたような、ビー玉じみた眼球で見つめていた。
俺は戦っていた。確かに、何かと。だが、それが何なのかがわからない。記憶を辿るたびに、その部分だけ黒く塗りつぶされたようになり思い出すことができなくなる。
「ごめんなさい」
ティアはただそう言うと、青い光となって消え去った。
彼女の肩に置いていた両手は情けなく虚を掴んでおり、俺はゆっくりその手を握りしめた。
「六実……」
俺はゆっくり腕を下ろすと、薄暗い廊下を再び歩き出した。
先ほどとは違い、響く足音は一つ。肌寒く感じていた廊下の温度が、また一度下がったように感じた。
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