機械仕掛けのメイドと孤独の博士

巫夏希

機械仕掛けのメイドと孤独の博士


「……博士、今日ももう朝ですよ。まだ眠らないのですか?」
「ああ、大丈夫だよ。これだけ終わらせたいのでね」

 そう言って、博士は再び机に向かっていました。
 時刻は午前五時を回ったあたり。健康のことを考えると、もっと早く寝てほしいのだけれど、博士が言うには楽しいことはずっと続けられるのだという。
 博士は何を作っているのか、私には解りません。毎日のように机に向かって何かを作っていました。それはまるで、命を削っているようにも思えました。
 博士に訊ねたことがあります。博士はいったい何を作っているのか、と。
 博士は言いました。それを見せることが出来る日になるにはもう少し時間がかかる、と。
 ですから、私は待ちました。博士がそれほど大切にしているものを、それほど時間をかけて開発しているものを、私も見てみたいと思いました。
 私はできる限りのことでサポートしていきました。食事、掃除、看病。私はメイドとして博士に作られましたから、メイドとしてサポートしていきたいと思いました。
 そうして長い時間が経過し、春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎ、また春が来て――。博士はそれでも何かを作り続けていました。私に見せてくれることもありませんでしたし、話すこともありませんでした。それでも私はずっとそれを待ち望んでいました。いつか、それが完成する日を信じて。


 ◇◇◇


「……どうやら、私もここまでなのかもしれないな」

 博士はそう言って、窓から外を見つめました。
 朝私がいつものように博士の部屋に向かうと、博士が倒れていました。私は大急ぎで救命措置をして何とか目をさましましたが――それでも、博士の身体が限界であることは直ぐに解りました。
 久しぶりに見た博士の横顔は、いつもよりやつれているように見えました。私がしっかり健康管理をしていたのですが、博士の身体を蝕んでいた病は、私の計算以上に早く広まっていたようなのです。
 博士は私の頬を撫でて言いました。

「お前は悪くない。お前は立派にメイドとして仕事をしてくれた。お前が居なかったら、私はずっと独りぼっちだっただろうし、もっと早く死んでいたかもしれない。でも、お前はロボットだ。お前はメインテナンスが出来なくなって、動かなくなるまで人間の数倍はかかるだろう。つまり、私のほうが早く死んでしまうことは自明なのだ。だが、そうなればお前は独りぼっちになってしまう。それは、私にとっても辛いことだった」

 目から一筋、何かがこぼれました。
 それは確か、涙と呼ばれるものでした。
 博士の話は続きます。

「私の机にある研究を、私と思っていきなさい。お前は優しい娘だ。メイドであり、機械かもしれない。心をプログラミングしたが、それは人間の心と比べてみると天と地ほどの差があるかもしれない。だが、私は知っている。お前が生き物にとって優しい心の持ち主であるということを。だから、私と思ってアイツを育てるといい。きっと、お前が死ぬその時まで、見守ってくれるはずだから――」

 その言葉を最後に、博士は目を瞑り――二度と目を開けることはありませんでした。


 ◇◇◇


 トレジャーハンターが、絶海の孤島と呼ばれるとある島を探索していた。
 この島にはかつて存在したといわれる超古代文明の欠片が残っているといわれている。その文明は大きな戦争によりその科学力の大半が失われ、今の時代の科学力低下の元凶であるとも言われている。
 そして、トレジャーハンターは一軒の家を見つけた。
 その家はとても古く、どちらかといえば廃墟と言ってしまって過言ではないほどの寂れ方をしていた。
 中に入り、あたりを見渡す。中は荒れ果てているが、人が住んでいた気配も見られない。
 やはりここはただの廃墟だったか――。そう思い、彼が帰ろうとしたその時――、椅子に誰かが座っているのが確認できた。
 それは人間のようだった。しかし生きているようには見えない。肌が白く、ずっと眠っているようだった。そして、その人間のひざ元には猫が同じく眠るように丸くなっていた。




 その表情は、なぜだかとても幸せそうに見えた。


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