魔界帰りの劣等能力者

たすろう

四天寺総反撃②


 ジュリアンとオサリバンはドベルクを置いて撤退のためにマリノスのいる林のへ走り出した。背後からドベルクとアルフレッドが激突したと思われる衝撃波が過ぎ去っていく。
 視線を右奥へ移せば圧倒的な攻撃力でマリノスの呼び出す魔物どもを駆逐していく多数の人外たちがジュリアンの向かう方向と同方向に進撃している。

(なんて奴らだ! マリノスの契約魔たちをいとも簡単に……ふざけるな! 神獣クラスとでもいうか!)

 それに加え、重鎮席の前で守備陣を敷いていた明良たちとマリオンに瑞穂が合流したことで、攻撃力を増した四天寺チームはすでに攻撃圧を失いつつあった魔物たちを撃退し始め、守るだけではなく攻勢に出ようという構えを見せている。
 このままでは、まずドベルクが囲まれてしまうだろう。
 ジュリアンもここにきて、さすがに四天寺襲撃の失敗を認めざるを得ない。

「……あいつは何をやってやがる。まだ引きこもりの坊ちゃんにご執心か? おい! 何をしてやがる、戻ってこい!」

 ジュリアンはまるで誰かを呼び掛けるように独り言を吐くが、その直後、自分たちに向かい猛スピードで接近してくる人物に気づいた。

「ハッ、お前は!? ぐう!!」

 ジュリアンは祐人の凄まじい剣圧に吹き飛ばされる。オートでダンシングソードが迎撃していなければ深刻なダメージを負うところであっただろう。
 後ろにいたオサリバンも流れるような動きで祐人の蹴りを胸に見舞われ、両手がまだ動かないために受け身が取れず転がりながらはじけ飛んだ。

「クソがぁぁ!」

「悪いけど逃さないよ。あんたらには聞きたいことがあるんだ」

 這いつくばることを余儀なくされたジュリアンとオサリバンは怒りと屈辱で目を血走らせながら自分たちに近づいてくる祐人を睨む。
 祐人は無表情だが、今までにない闘気と殺気を纏っており、その有無をも言わせない雰囲気にジュリアンも悪寒が走った。

「て、てめえ……てめえのせいで」

「ジュリアン、あんたらは何を企んでいる? ただ四天寺を襲うのが本当の目的ではないんだろう? それにしてはあんたらは遊びすぎだ。あんたらは誰かに学んだ、もしくは仕込まれたその魔人化の力を試しにきたってところか? 有数の戦力を持つ四天寺家で通用するか確認しに」

 この時、立ち上がろうとしたジュリアンはピクッと反応する。

「いや、何を企んでいるかはいい。あんたらはスルトの剣、カリオストロ伯爵と仲間なんだろ。ということは目的は大体、同じ。機関を貶めて自分たちが世界にたいして公然と影響力を持ちたい、てところだろ。そんなことよりもだ。僕が聞きたいのはその魔人化の術は誰から教えてもらったってことだ。もしくは施されたか、か」

 ジュリアンは眉を顰め、祐人の質問の真意を探っているようだった。

「……何なんだ、てめえは。何が言いたい」

「聞き方を……変えようか。あんたらは異界と通じているな?」

 ジュリアンは大きく目を見開き、祐人を見返した。

「……!?」

「やはり……ね」

 答えを聞かずとも祐人はジュリアンのリアクションで理解したように言った。

「じゃあ異界の誰と通じている? そいつは誰だ、いや……なんという魔神だ? どうやってコンタクトをとっている? 答えろ」

「てめえは一体……」

 ジュリアンの顔が強張る。
 目の前にいる少年が聞いてくる内容は、自分たちが組織した能力者集団において第一級の極秘事項なのだ。それにも関わらず、まるでそれにすでに感づき、さらにはその核心に迫ろうとするような質問……。

(こいつは……何者なんだ。実力もそうだ、無名のぽっと出の能力者のものじゃない。しかも異界のことを知っているだと……? だとすればこいつは)

 自分たちの組織にとってあまりにも危険だ。
 今回の四天寺襲撃で祐人の卓越した戦闘力を知り、この少年を徹底的に調べることを決めていたが、今はそれだけではなく得体のしれないものを感じ取った。

「おい、聞いているのか? 答えないのなら、力ずくで吐かせる。それでも吐かないのであればもういい。時間がないからね、ここで倒してお前らの仲間に聞かせてもらう。異界から来た……お前らをそそのかした存在をね」

 祐人が倚白を構える。祐人の全身から闘気と共に殺気が溢れ言っている内容がただの脅しではないことがジュリアンにも分かった。
 だが、ジュリアンにとってもこの危険な少年を生かす理由はなくなった。いや、今、この時点から四天寺などよりも先に殺さなくてはならない敵となったのだ。

「御仁が俺たちをそそのかしただと……ふざけんじゃねぇぞ! 俺たちとしても同じだ。てめえだけはここで殺していく!」

 目を血走らせた本気のジュリアンと祐人が激突する。
 人の領域を超えた速度と力がぶつかり合い、辺りにいる魔物たちも二人から放出される力の余波で吹き飛ばされた。
 この突然に発生した最上位能力者同士の戦いにも匹敵する戦闘は、すぐさま周囲にいる敵味方に驚きをもって周知された。

「ジュリアン!? どうした!? 撤退するんじゃねえのか!? あれは! あいつ……溜め込んだ力の一部を使ってるだと!」

 アルフレッドと戦闘中のドベルクはジュリアンが最終決戦のための奥の手の一つを解放したことに気づき、驚愕する。

「祐人!」
「祐人さん!?」

 瑞穂とマリオンが驚きの声を上げてしまう。
 それもそうだった。ジュリアンと祐人の戦闘は戦場全体を巻き込まんとする衝撃波を放っているのだ。
 しかも、祐人が今までにないほどの荒々しい仙氣を放っている。また、祐人の戦い方に今までのような洗練さがない。
 まるでその戦い方は目の前の敵を殺すことだけを意識した戦い方……。
 殺される前に殺す。それだけを狙ったような余裕のない戦い方なのだ。
 それは一対一の戦いに全身全霊を傾けた、云わば、相手以外には隙だらけになっても構わない……というもの。

「あれは……瑞穂さん、行きましょう! 祐人さんのフォローに!」

「分かったわ! 明良、ここは任せるわ! ここは耐えて!」

 祐人の今の姿に瑞穂とマリオンは燕止水と戦いが脳裏によぎったのだ。互いが全身がボロボロになろうとも決着がつくまでは決して止まらずに牙を剥き続けた、あの時の死闘を。

「行ってください、瑞穂様! ここは我々だけで何とかします!」

「頼むわ!」

 そう言うと瑞穂たちが祐人に向かった。
 明良たちにしてみれば、この場から瑞穂とマリオンという矛と盾がいなくなるのは痛い。
 ジュリアンたちの撤退のために、マリノスがこの重鎮席にもっとも多くの魔物をこちらに傾けているのだ。
 だが、それでも明良がそう返事したのは、明良も瑞穂たちと同じことを感じていたのかもしれない。

「大丈夫でございます。ここは私たちが加勢いたしますので。皆様は自分の仕事に集中してください」

「え!?」

 突然、背後から若い女性の声でかけられ、明良は驚き振り返る。
 そこには英国スタイルの使用人の姿をした女性が立っており、その後ろには幼い可愛らしい男の子と三人の女性が立っていた。

「ご挨拶は後ほど致します。私たちはご主人様……祐人様の命で来ました。ご安心ください!」

 そう言いながら、無表情に使用人姿の女性は明良たちの鶴翼陣形の横から迫ってきた魔獣にフォークを放ち倒す。

「ふえーん。シルシル……怖い」
「ピンちゃん、大丈夫よ。シルシルは、ほら、自分の仕事場を邪魔されるのが、死ぬほど嫌いだから」
「よしよし」
「仕事場を守らせたら誰よりも完璧にこなすもんねぇ」

 明良は一瞬、呆然とするが、すぐに状況を理解する。

「助かります! みんな聞け! 婿殿のお仲間が来てくれたぞ! 怪我したものを後ろに下げろ、霊力切れを起こしてきたものはすぐに言え!」

 明良には何となく分かるのだ。
 祐人の契約した人外である。
 間違いなく常識外れの存在なのだろうと。





皆様に報告です!
「魔界帰りの劣等能力者1.忘却の魔神殺し」が8月1日に発売されて、なんと……重版されることが決定しました!!
 しかも発売された翌日に重版が決まり、そして今日、もう一度重版が決まりました。
 そして……一番、皆まさに伝えたいことですが、

 2巻の発売も決定しましたぁぁ!!

 本当にありがとうございます!
 これもすべて皆様のおかげだと思っております。
 皆様が応援してくださったのでここまでこれました。
 私はこの幸運を今、噛み締めています。
 あらためまして、誠にありがとうございます!

 まだお手に取っておられない方は是非、書籍版を手に入れてください。
 WEB版をご存知の皆様も楽しめるように頭をフル回転させました。
 何卒、よろしくお願いいたします。




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コメント

  • ノベルバユーザー338502

    重版と2巻発売決定おめでとうございます!
    WEB版も楽しみにしてます!

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