魔界帰りの劣等能力者

たすろう

四天寺総反撃


 祐人たちのいたところから、マリノスの呼び出した夥しい数の魔族と魔獣たちが成す術などなく凄まじいスピードで駆逐されていく。
 それはまさに制圧、蹂躙という言葉が相応しかった。

 アルフレッドから距離をとり、この戦場の姿を目の当たりにしたジュリアンの表情が驚愕に歪む。

「な、何だ……何だ、あれは何だ!? 四天寺の隠し玉か! これほどの霊圧を放つ……人外が何体いる!?」

 ジュリアンと対峙しているアルフレッドも構えはとっているが内心は驚きを押さえている状態だった。剣聖アルフレッドとて理解の及ばない出来事なのだ。

(たしかに、私も四天寺の全貌を知るわけではないが……。これだけの高位の人外たちを四天寺が使役しているというのは今まで聞いたことはない……む、帰ってきたか)

 荒れた戦場の中をドベルクが大剣をひっさげて、猛スピードでこちらに帰ってきた。

「おい、ジュリアン!」

「ドベルク! てめぇ、どこで寝てやがった!」

「はは! すまねえな! 剣の応急修理で手間取った。さすがに丸腰でここには戻れんだろう? それと途中でオサリバンも拾ってきたぜ、治療もしてやった」

 そう言うとドベルクはボロボロの衣服とは裏腹に呵々と笑いながらアルフレッドとの戦闘で折れたはずの魔剣ダーインスレイブを担いだ。
 ドベルクの後ろにはオサリバンが血走った目で荒い息を繰り返している。
 オサリバンの両腕は祐人に切り飛ばされたはずだったが、今は武骨で鉄製の大きなホチキスの芯のようなで繋げられている。

「チッ……うん? あれはマリノスか」

 この時、マリノスのいる方向から、デーモン、ハーピー、4足の魔獣たちが地上、上空を埋め尽くさんばかりに突入してくるのがジュリアンに見える。
 ジュリアンの知る限り、マリノスがこれだけの契約人外を一気に投入してきたのは見たことがない。ジュリアンはこの時、これはマリノスの意思表示と受け取った。
 自分の連れてきたメンバーの中で最も冷静な男、マリノス。
ドベルクが戻ってきたタイミングで契約人外の一斉投入。これは総攻撃に移れというものだとジュリアンは受け取った。

(ククク、そうだ! べつに負けたわけではない。我らの)

「よし、ドベルク……今からあれを試す……」

「帰んぞ、ジュリアン!」

「……!? なんだと!」

 言葉を遮られたうえのドベルクのセリフにジュリアンは咄嗟に声を張り上げる。

「馬鹿、落ち着けや。分からねーのか、ジュリアン。マリノスは俺たちの逃げる時間を稼ぐためにてめえの可愛い化け物ども全軍投入してきたんだ。追い込まれんのは俺たちなんだよ。何だか知らねーが、あのふざけた人外どもはどいつもこいつもクソ化け物ばかりだ」

「ぬう……!」

 能力者でも滅多にお目にかかれない高位人外とマリノス配下の魔物たちとの戦闘が始まり、その一方的な戦況を見てジュリアンは口惜し気に拳を握りしめる。【万の契約者】マリノス配下の優秀な魔物たちが、紙きれのように吹き飛ばされているのだ。
 ドベルクはどこか楽しんでいるようにニヤリと笑った。

「どうやら俺たちは四天寺の底力を見誤ってたみたいだぜ。完全に戦力負けだ。ナファスがあのガキに殺(と)られたのが痛いぜ。あーあ、もうちったぁ、遊びたかったけどな、なあ、剣聖よ!」

 するとアルフレッドは聖剣エクスカリバーの剣先をドベルクに向ける。

「そう言う割にはやる気満々のようだが……鍛冶師」

「はっはっはー! 分かっちまうか。おらジュリアン行け! あのやべぇ人外どもが押し寄せてくる前に俺も時間稼ぎしとくわ」

「……なに? てめえはどうすんだ」

「分かってねぇな。戦いは劣勢の方が面白いんだよ!」

 ドベルクの妖霊力が爆発した。

 祐人の友人たちは嬉々として移動している。

「わー、やりますか、朱顛さん。ちょっと……こんな時でも飲むんですか?」

 朱顛と呼ばれ、一チームを任された目を見張るような侍の美少年が酒瓶を傾けながら晴れやかな顔で声を上げた。

「いやね、茨木君、祐人様と契約したらさ、この姿を取り戻せてさ。嬉しくて、嬉しくて飲まずにはやってられないんだよ。この感謝の気持ちをどう表そうかと思ってたのに、中々、その機会がなかったからさぁ」

「まあ、あっしらの姿は契約した主人の性状に影響を受けますからね。他のみんなも喜んでましたから」

「じゃあ、やるよ! 茨木君、アメさん、ムッシュさん!」

「はーい!」「はいよー」「うむ!」

 朱顛たちが魔族の群れに突入すると、どの魔族魔獣とも知れない大量の血しぶきが吹き荒れた。

 すふぃ率いるもう一つの攻撃チームも大量の魔物たちに接触する。

「すふぃさん、張り切ってますね」

「当り前よ! ガンダル君、ようやく‥‥‥ようやく、祐人っちに呼ばれたんだから!」

 すふぃは純白の衣に黄金の装飾品を身につけ、切り揃えられた金髪とスレンダーな体に似合わぬ豊満な胸を揺らし両手をクロスさせるように薙いだ。
 すると、魔物が一斉に塵と化し、辺りに清浄な空気が代わって漂った。優男風のガンダルはこれを見ると、手にしている弦楽器を奏でる。

「美しいですねぇ。やっぱり美しいのは正義です!」

 ガンダルの音色を聞いた多数の魔族たちが苦しみだし‥‥‥頭が弾けるように吹き飛ぶ。

「あとで祐人様の後ろにいた黒髪少女を私に紹介してくれないか聞いてみましょう!」

 そして、最後の攻撃隊を任された猿君が、その名前通りの動きで敵に張り付いては切り裂き、張り付いては切り裂いている。

「まあ、猿君! キレがいいですわ!」

「キキキッ! ナーさんだって、毒の威力が増してますな! サイさんも相変わらずの怪力ですぞ!」

 ナーさんと呼ばれた女性口調の青年(・・)は爪を五方向に伸ばしてデーモンを貫く。丁寧で厚めの化粧を施し、しなやかな体にロングスカートを身につけている。
 そしてすぐ横でサイ子は大きな槌を魔獣に叩きつけると、地面ごと粉砕した。
 革ジャンにジーパン姿で片目を黒の眼帯で覆った長身のサイ子は槌を肩にかけると悩まし気な顔を見せる。

「ご主人様は……怪力だけが取り柄の私なんて気に入ってくれるだろうか……。今まで呼び名に興味もなく、名前もサイ子なんて変な名前で固定してしまって……クッ、こんなことなら、もっと外見に気をつかって……」

「大丈夫よ~、サイ子。サイ子だって十分、可愛いわよ。祐人ちゃんはきっとあなたを可愛がってくれるわぁ。今度、私がコーディネートしてあげるから。名前だって祐人君にあらためてつけてもらったらいいじゃない」

「べ、別に私は! 可愛がって欲しいわけでは! 可愛がって……可愛がって……」

 サイ子の槌の威力が数倍増した。



 祐人たちはひしめくように現れる魔物たちを倒しながら、ジュリアンたちのいる方向に猛スピードで移動している。

「瑞穂さん! 僕はもう大丈夫だ。明良さんとマリオンさんのところへ!」

「え!? 祐人はどうする気なの?」

「……」

 祐人はジュリアンたちから聞き出したいことがある。それは魔界との繋がりだ。
 だが、その内容はできれば誰にも聞かれたくはない。それがたとえ瑞穂でも同様だ。
 祐人が聞きだそうとしているのは堂杜家としての秘匿事項にあたるのだ。

「瑞穂さんは早く行って! こちらが優勢でも明良さんたちは戦い続けている。スタミナが心配だ! 敵を完全にやりこむまでは油断できない」

 瑞穂は一瞬、怪訝そうな表情を見せたが、たしかに祐人の言うことには一理ある。実際、負傷したまま戦っている者たちもいるのだ。

「……分かったわ」

 瑞穂はそう言い、祐人から離れる。
 この時……一瞬だけ見せた祐人の鬼気迫る表情が、祐人の抱える重大な何かを瑞穂は感じた。

(この圧倒的に不利な状況だ。急がないと、あいつらは絶対に退却を選択する! 逃げる前に捕まえる! 間に合え!)

 祐人は迫りくる魔族、魔物を切り捨てた。





「魔界帰りの劣等能力者1.忘却の魔神殺し」の発売日が近づいてきました。
正直、私は緊張しています。
予約も始まっていまして、正直緊張しております。
大幅に改稿した場面もあり、是非、皆様には見比べて頂きたいです!
本当に感謝です。





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コメント

  • 月

    ……………少しだけでもいいから裕人に優しくしてあげて………(切実)

    0
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