魔界帰りの劣等能力者

たすろう

四天寺総力戦 乱戦⑤


 数にして数百にも及ぶ魔物たちが乱入してきた。
 明良率いる四天寺の精霊使いたちあまりの数に顔色を変えてしまう。

「な、なんという数。これが召喚ではなく、すべて契約したって? こいつら……魔族、デーモンまでいるだと!?」

「マリノスって奴ですか!? 【万の契約者】っていうのは伊達じゃなさそうね」

 これら仲間の反応に明良が一喝する。

「狼狽えるな! 孝明さんから指示が来ている! 朱音様たちのいるところから鶴翼の陣形で迎え撃つぞ! 急げ!」

 指揮官の明良に狼狽えはまったくない。それどころかこの難局に自信すら感じさせる声色だった。

「し、しかし、明良さん! それではあいつらは誰が抑えるんですか!」

「構うな! あいつらには剣聖たちと婿殿、瑞穂様たちがいく! 私たちはこの魔物どもを徹底的に抑えるぞ!」

 明良の指示に、仲間たちは微妙な表情を見せる。
 剣聖は分かる。
 だが、あの魔人化した襲撃者は明らかにSSランクの能力者と比肩しても遜色はないのではないか。それが今三人もこの場に集まろうとしているのだ。
 たしかに今までの祐人の活躍は想像を超えるものだった。それで心も踊り、士気も大いに上がった。だが、魔人化までしたこの連中をいくらなんでも、将来大切な四天寺の人間になる祐人を当てるのはどうかと考える。
 祐人はあの若さでこの強さなのだ。これからもっと強くなるだろう。四天寺の婿としてこれ以上ない逸材。しかも瑞穂まで付き添い出陣しているではないか。そうであれば、自分たちが盾になってでも守るべきではないのか。
 すると、そういった皆の考えを明良は読んだかのような顔になった。

「祐人くん……婿殿なら大丈夫だ! むしろ私たちでは邪魔になる。見ておけばいい、婿殿の戦いぶりを! 戦場で婿殿ほど頼れる人を私は毅成様以外に知らない!」

 そう明良が言うのと同時だった。
 目の前を魔人オサリバンが吹き飛ばされ、さらにそのすぐ横に祐人が同スピードで移動し、追撃をかけようと倚白を振り下ろす。その刃先はオサリバンの首を迷いなく狙っている。
 オサリバンは滑空しながらも必死にハルパーで受けるが、祐人のしなやかな動きからは考えられぬ剛剣に直角に地面に叩き落され、自身のハルパーの反対側の刃で自分の首を僅かに裂いた。
 そして、まだ止まらぬ祐人はオサリバンの横腹を蹴り上げる。

「グウゥ!」

 鈍い痛みがオサリバンを襲い、そのまま宙に飛ばされると、そこを待ち受けたかのように瑞穂の炎槍が複数襲いかかる。
 昼間なのにも関わらず、辺りを派手に照らす炎がオサリバンを中心に巻き起こり、オサリバンが墜落した。

「なんと!?」
「婿殿に瑞穂様! 見事な連携だ」

 度肝を抜かれたような同僚たちに明良がニヤリとしながら大声を張り上げる。

「分かったか! 我々も行くぞ! それぞれに相応しい役割があるんだ!」

 明良の号令で移動を開始すると、マリオンは突入してきた敵に悪魔系が多いことを確認し、プリーストたちの〝祝福〟を広範囲に展開し、全能力者たちに対悪魔の耐性を上げる。

「おお、何だ、力が湧き出るような」
「マリオン様の祝福だ! これは……精霊術に神聖さが付加される? こんな祝福は聞いたことがない!」

 だがこのマリオンの援護は今まさに始まる戦いにおいて最も助けになる効果なのは間違いない。

 明良たちはそれぞれのチームに分かれ、配置につき、召喚された魔物を中心に攻撃を開始した。

 オサリバンは地に手をつけると、ハッとしてすぐさま跳ね起きて祐人の倚白を躱した。

(こいつ! 強さが……いや戦い方が変わった!?)

 オサリバンはこれまでの祐人との戦闘で段々と祐人の癖や考えが分かってきていた。
 祐人の戦い方は常にこちらの攻撃を弾き、自分の体勢を崩すことに主眼を置いていた。
 おそらくそれは、体勢が崩れた途端に他の場所へ援護に向かうか、先ほどのように何かしらの援護攻撃を瑞穂から引き出そうとしているのだろうと勘づいていた。
 しかし、今は違う。
 説明が難しいが、祐人自身がリスクを負うようになったというべきか。
 それはギリギリまで踏み込み、互いの攻撃が相打ち寸前のところまで仕掛けてきて、僅かにオサリバンを上回るのだ。

(この糞小僧! 今まで実力を隠していたとのとは違う! こいつ、俺との殺し合いを見切りだしたとでもいう気か!)

 そして僅かにでも祐人と距離をとると瑞穂からの攻撃が来る。

「チイ!」

 オサリバンに瑞穂の火の精霊術が直撃するが、オサリバンは背後から乱入してきた多数のデーモンを盾に見立てて祐人の追撃を遅らせた。
 だが、祐人は表情一つ変えずに間に入るデーモンを切り伏せながらオサリバンを追いかける。
 祐人をフォローしている瑞穂はとてつもない数の魔物に祐人の姿を見失う。
 しかし、慌てることはない。

(こんなのはミレマーで経験済みよ! 祐人はそこね!)

 瑞穂の集中力に精霊が呼応する。

「吹き抜ける風は新たなる風を呼び覚ます!」

 詠唱後、祐人の居場所を推測し、両腕に巻き付く烈風を放つ。
 横たわるような二本の竜巻がデーモンの群れの中を貫いた。
 直撃したデーモンたちは成す術もなく羽は千切れ、体は引き裂かれ、バラバラになって地面に散らばった。
 すると、オサリバンと祐人の姿が視界に現れ、二人の間には何も邪魔になるものはない。
 祐人の目が光る。仙氣が高まり、倚白を包むのが分かる。

(やりなさい! 祐人)

 だが、今の瑞穂の攻撃で依然と押し寄せてくる魔族たちが瑞穂を標的として定めた。が、その瞬間、瑞穂の前面の地面から光の粒がキラキラと漂いだした。

「ディバイン・グラウンド!」

 マリオンの浄化範囲術が多数のデーモンたちを一撃で塵に変える。
 瑞穂とマリオンは目を合わせるが何も語らずに、そのまま祐人を追いかけた。
 オサリバンは迫る祐人に怒りと殺意の籠った目で口を歪ませる。

「小僧がぁぁ! そろそろ、てめえの顔も見飽きたぞ!」

 オサリバンも前に出る。
 祐人と魔人オサリバンが正面からぶつかった。
 直後、オサリバンの左腕が切り飛ばされ、続けざまに倚白がオサリバンの右肩を貫いた。



 この時、ミラージュ・海園と天道司がこの激戦の広場に飛び込んできた。

「海園! どうするんですか!?」

「どうもこうもねーよ! あんな化け物を召喚されたら俺たちだけでは無理だ! あんなもん魔人が増えたのと大差ねーだろうが」

「それはそうですが……う! こっちもとんでもないことになってますね」

 司がとんでもない数の魔物と魔人オサリバン、ジュリアンのいる戦場を見て鼻白んだ。

「司、とにかくボスや四天寺の指令室に伝えるんだ! 神話級の高位の人外が召喚されてるってな!」

「分かってますよ! でもこの乱戦状態でどうやって伝えるんですか!」

「知るか! お前が考えろ!」

「なんでいつも、あなたは……。あ、あそこにボスがいますよ! また、とんでもないのとやり合ってるようですね。まったく、どんな敵を呼び込んでいるんですか、四天寺は!」

 司はジュリアンと剣を交えているアルフレッドを見つけ、剣聖であるボスと同等に立ち回り、禍々しい妖霊力を纏うジュリアンに目を見開く。

「よし、ボスのところに行くぞ!」

「はあ~、厄介な敵を引き連れてね……」

「うるせー、どちらにせよ、俺たちのせいじゃねー!」

 そう言いながら二人は魔物たちの間を駆け抜け、アルフレッドが戦闘している四天寺重鎮席の方を目指した。
 すると、海園と司が飛び出してきた林からマリノスがゆっくりと歩きながら姿をあらわした。

「うん? ドベルクの妖霊力が感じられませんね。まあ、そのうち来るでしょう。こんな戦場はドベルクの大好物でしょうから。それに私の契約した友人たちが全く歯が立たない強者がいますね」

 相変わらず顔色の悪いマリノスがため息交じりに呟くと、その後ろに控える二人……いや擬人化した人外がマリノスと歩調を合わせるように横に立つ。
 両方とも男性の姿で、一人は豪奢なマントを羽織り、まるで一国の王のような威厳と好戦性を兼ね備えた雰囲気を持ち、もう一人は中世の騎士のような雄々しい甲冑を身につけている。

「マリノスよ、参戦するのだろう?」

 マントを羽織る男がマリノスに声をかける。

「ええ、お願いします。指揮はあなたにお任せします、ワイバーンさん」

「分かった。では、満足のいく敵を探しに行こうか」

「んじゃ、俺も新しい首を探しに行こうか。そろそろ、この顔にも飽きたしな」

 ワイバーンの横から甲冑姿の男も声を上げる。

「その顔、気に入っていたんじゃないんですか?」

「もっといいのがあればだよ、マリノス。文句は言うなよ? 俺との契約に反するだろ」

「文句なんてありませんよ。好きにしてください」

「では、行ってくる!」

「いい首がなけりゃ、さっきの二人のどちらかにするか」

 マリノスと契約する最強の人外二体が乱戦に参戦してきた。





明日から、以前のSSに使った番外編を公開していきますね。内容は一章部分ですので、混乱しないでください。
WEB版に即していますので、そんなに矛盾はないと思いますー。
それと来週あたりに書籍版の情報も出せそうですので、お待ちくださーい。



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