魔界帰りの劣等能力者

たすろう

四天寺総力戦 乱戦④


 アルフレッドはオサリバンと交戦中の祐人のいる方向に顔を向けると、祐人と目が合いニッと笑う。

(アルフレッドさん! 強さだけじゃない! なんという……戦闘スキル)

 祐人にはどういう意味の笑みなのかは分からなかったが、これ以上に頼もしいと思う援軍はない。
 するとアルフレッドが距離のある所から祐人に声をかけてきた。

「少年! 悪いがそちらは頼めるかな? こちらもまだ忙しくなりそうなのでね。鍛冶師もまたすぐに来るだろう」

「はい! アルフレッドさん!」

 祐人がそう受ける。まさに今は乱戦の様相を呈しているのだ。しかも敵の一人一人の実力は本来、個で打ち倒せる連中ではない。
 そうであれば自分やアルフレッドのような実力を持つ者が奮戦する必要があるのだ。
 明良たちや、さらに瑞穂やマリオンでさえ、組織だった動きがあって戦える。
 この二人のやりとりに祐人と交戦中のオサリバンが怒りを露わにした。中々にしぶとい祐人に短気なオサリバンがイラついていたのもある。

「余裕かましてんじゃねぇ! あの程度でドベルクがやられるわけねーだろうが! それにてめえが俺をどうにかできると思ってんじゃねぇぇ!」

 オサリバンの連撃の突きを繰り出してきたが、祐人は捌き、瑞穂とマリオンとの連携に頭を回す余裕ができていた。二人には悪いが自分とオサリバンの交戦中に援護をする隙を見つけることはできないだろう。ランクAの優秀な二人だが、相手が悪すぎる。
 自分がうまくそれを作り上げて、決定機を作らなければならない。
 祐人は頭の中で戦闘の組み立てを思案した。
 アルフレッドは祐人の戦いぶりに感心しながらも、すぐに明良たちに集中攻撃を受けているジュリアンに体を向けた。

「アルフレッドさん……剣聖とは呼ばないか。やはり君は……」

 アルフレッドは小声でそう呟いた。


 数分前、アルフレッドとドベルクの交戦中、ジュリアンは明良たちの数千の精霊術を受けていた。
 一つ一つはジュリアンにとって大したものではないが、それが数にものをいわせて間断なく仕掛けられると足止めを余儀なくされる。
 ドベルクが剣聖を前にして嬉々としてその場を離れたことで、明良たちの攻撃を一身に受けることになったのだ。

(こうも思い通りにならねーとはな! 忌々しい四天寺が! 前大戦のときもそうだった。有利に進めていた戦場も四天寺が現れると、いつも、いつも! 面倒を起こしやがる!)

 ジュリアンはドベルクとは対照的に憎々し気な表情でそう考えると、ジュリアンの霊妖力が怒りで揺らぎ赤黒い色に染まっていく。
 するとジュリアンは重鎮席から見て左側の上空に顔を向けた。
 そこには数十のハーピーが飛び上がり、こちらに向かって来るのが見える。

「ククク、ようやくマリノスも来るか。俺たちの魔人化に気づいたようだな」

(最終段階に入るな。ここまで乱戦と化したのは想定外だが、考えてみれば別に俺たちに不利になったわけじゃねぇ。多くの雑魚を相手にできるナファスが殺られた戦力低下は痛いが、奴もそこまでだったということだ)

「ならもう、出し惜しみはなしだ!」

 そう言い、剣聖とドベルクの高位能力者同士の激しい戦いに目を移し、ジュリアンは今日幾度となくした舌打ちを再びすると、明良たちの攻撃を分厚い全方位の結界ではじき返した。
 明良が率いる四天寺の部隊が驚愕し、慌てる。
 それと同時にジュリアンはドベルクの大技がアルフレッドに放たれるのを見た。
 そして、ドベルクが弾き飛んだ。
 だが、ジュリアンは気にもとめず、驚きもしない。

(ふん、ドベルクめ、四天寺の中枢は俺がもらうぞ!)

 ジュリアンはドベルクを無視し、重鎮席に跳躍をしようと足に力を込めた。

(新しい大戦が始まる前に四天寺を叩いておく!)

 再び明良たちの放つ、数千のかまいたちとファイアーアローがジュリアンに叩きつけられた。明良たちは観覧席前の広場の境目の木々の後ろを自由に動き回り、攻撃ができる最適ポイントに移動している。

「ぬう……いい加減、ウゼーぞ!」

 ジュリアンは霊妖力を全身から全方位に放出し、明良たちの攻撃を弾くと右手に握るダンシングソードの刃に左手をかざす。
 すると左手のひらから禍々しい球状の霊妖力が出現し、やがてダンシングソードに吸収される。

「消えろぉ! 雑魚がぁぁ」

 そう叫びながらジュリアンが霊妖力を乗せたダンシングソードを振り下ろす。
 剣圧と共に霊妖力が放たれ、そのエネルギーの塊は拡散し大地を割りながら二手に別れた明良たちの片方の部隊に滑走していく。

 この戦場の様子が執拗なオサリバンの攻撃を躱していた祐人の視界に入る。
 頭の中で組み立てていた瑞穂とマリオンの援護を受けるタイミングも飛んでしまう。

(あれはまずい! 明良さんたちが……ここからじゃ間に合わない! アルフレッドさんも駄目だ!)

 アルフレッドも自分も近接戦闘型だ。アルフレッドはジュリアンに向かってはいたが、先にジュリアンが技を放っている。
 さらにここで祐人は上空に蠢く黒い影を見つける。

(あの上空の魔物は!? 契約者、いや、あの数は召喚士がいるのか!? クッ)

 ジュリアンの攻撃も尋常ではないが、こちらに迫る魔物たちの数が多い。
 剣聖が参戦し、この場での負担が一気に減ったとはいえ、敵の実力も魔人化で跳ね上がり、さらに祐人が把握していなかった敵がいることが分かった。
 その召喚士か契約者かは分からないが、まもなくその敵の操る魔物が多数乱入してくる。
 これでは自分だけではカバーできない。
 剣聖アルフレッドがいても圧倒的にこちらの手数が足りない。

「む!?」

 オサリバンのハルパーが祐人の前髪を掠める。
 反応が僅かに遅れ、祐人の髪の毛が数本散った。
 オサリバンが舌打ちをする音が聞こえ、さらにたたみかけてくるようにハルパーを繰り出そうとするモーションが見える。
 すると、祐人の耳に風と共に瑞穂の声が聞こえてきた。

「祐人! 目の前の敵に集中するの! なんでも自分でコントロールしようとするんじゃないわ! 四天寺はそこまでやわじゃない!」

 祐人とオサリバンの間に圧縮された大風が獲物を狩るシャチのように絶妙なタイミングで通り抜け、オサリバンの次発の攻撃を封じた。
 それはまるで瑞穂が祐人とオサリバンの戦闘を先読みしたような援護だった。

「チィィ、何だ!? 四天寺の小娘か!」

 オサリバンが自分と祐人との高次元の攻防に割って入ってきた瑞穂を吐き捨てるように睨む。
 すると、祐人が気にかけた明良たちを襲うジュリアンの攻撃の前面に巨大なエメラルドグリーンの聖楯が上空から形成されるとジュリアンの放つ強烈なエネルギーの衝撃波を防いだ。

「祐人さん! 祐人さんの思うように戦ってください! 祐人さんが自分のことに集中できるように私が周囲に気を配ります!」

「っ!? この俺の攻撃をあのエクソシストの娘が防いだだと!?」

 ドベルクが吹き飛んだことを気にもかけなかったジュリアンが驚きを隠せず、眉間に皺を寄せてマリオンを見つめ、歯ぎしりをする。
 祐人は瑞穂とマリオンの叱咤と援護に驚き、目だけで瑞穂とマリオンを捉えた。

「!?」

 祐人は目を見開く。
 それは瑞穂とマリオンから感じる雰囲気が今までとは違うのだ。
 二人の少女の表情は戦場における覚悟をすでに持っている顔をしていた。
 これだけの強敵に遭遇することは、戦場では不運と言える。
 ましてや瑞穂やマリオンにとっては経験の無いほどの敵だろう。それにも関わらず、二人は強く揺るがない精神をその目に宿しているのが分かったのだ。

 今、相手にしているのは魔界での経験も含めて生半可な敵ではない。
 魔人化したこの敵は広大な四天寺の敷地を覆いつくさんとするプレッシャーを放っている。それはここにいる能力者すべてが感じ取っているものだ。
 祐人や四天寺家といえど選択肢を間違い続ければ確実に全滅させられるだろうという恐ろしい強敵。

(この逆境で戦意を失わないどころか、瑞穂さんとマリオンさんの霊力の厚みが増している! まるでこれは……)

 祐人は魔界で魔神が蔓延る戦場を共に駆け抜けた仲間たちのような感覚を思い出させられた。どちらか一方が守られる対象ではなく、対等にフォローし合い、互いの背中を預けた戦友たち。
 彼女たちの目にはこの戦いにおいて自分のできることを理解し、ただそれを遂行する強い意志が宿っている。
 ここで祐人は瞬時に理解した。
 それが瑞穂の持つ四天寺としての自信と誇りなのだろう。
 心優しいマリオンは神具【ラファエルの法衣】を身に纏うことで、どのような敵だろうとも仲間をできるだけ守ろうと決意を示したのだろう。

「オラァ! 小僧、どこを見てやがる! 俺に何人でかかろうがてめえが死ぬのは変わらねぇぞ!」

 オサリバンが再び、祐人に仕掛ける。
 祐人はオサリバンのハルパーを弾き、下段後ろ回し蹴りで足を払うとオサリバンが跳躍し躱す。
 この時の祐人には、まさか彼女たちが自分に対する深い愛情をきっかけに恐怖と混乱を乗り越える精神力と闘志を生み、一段上の能力者に覚醒させたとは分からなかった。
 だが、今、一つだけ言えるのは瑞穂とマリオンが共に戦ってくれることがこんなにも心強く、戦いへの集中力を極限にまで高められる予感を感じさせたのだ。
 瑞穂とマリオンがすぐさま援護態勢を整えながら、祐人に向かって大声を張り上げた。

「祐人! あなたにとって私たちが頼りなく感じていたのはあなたのせいじゃないわ! あなたが私たちを常に気にかけてくれたのも嬉しいわよ。でもね、それでこいつらに勝てるの? 祐人なら分かるでしょう! それに私はあなたの荷物になるなんて真っ平よ!」

「祐人さん! 何も庇うだけが守ることになるわけじゃありません! それを気付かせてくれたのは祐人さんなんですよ!」

 この二人の言葉に祐人はハッとした。
 自分は一人でこの敵をすべて駆逐しようとしていた。それに固執していた。
 それは作戦として、目を閉じながら針に糸を通すようなレベルのものだった。いや、非常識でかつ傲慢な考えだ。
 あまつさえ、仲間たちの力を常に最低限のところに見積もり、仲間に気遣いすぎて、結果的に敵を利する行為をしていたのは自分だった。

 魔界で自分が失ってはならないものまで失い、学んだのは何か?

 瑞穂、マリオンの言葉が、奇しくも魔界で最も過酷な戦いに赴いた時、リーゼロッテが祐人に言った数々の言葉を蘇らせる。

〝祐人は仲間のことを考えながら戦いすぎ! それは翻せば私たちのことを信用していない、ともとれるのよ!〟

〝祐人、私たちを守ろうとしてくれてるのは嬉しいけど、それで大義を見失っては駄目よ。私たちの後ろには、たくさんの人たちがいることを忘れないで。もちろん、命は粗末にしていいということではないわ、生きていなければ何もできない。でも、為すべきことを放棄してまで私は生きようと思っていないわ!〟

 リーゼロッテの言うことは祐人に厳しい指摘だった。

 何故なら……祐人にとってはリーゼロッテが世界と同等の価値を持っていたのだから。

 だが、リーゼロッテは決まって最後にこう言うのだ。
 誰よりも祐人を労わるように……

〝ごめんなさい……こう言うと祐人が困ると分かっているのにね〟

 そして、祐人は自分の甘さからリーゼロッテを失った。

 祐人の顔つきが変わり、頭の中がクリアになっていく。
 凝り固まったこだわりが消え、自分のしなくてはならない、為さねばならないことが明確になった。
まずしなくてはならないのはこの強敵たちの撃退。
 であれば混迷した戦場で仲間や味方にとって、一番ありがたいのは……、

(目の前の敵をいち早く倒すことだ! それに必要なリスクをとるし、仲間にもとってもらう! それが結果として多くの仲間を救う)

 この瞬間、祐人の中で瑞穂とマリオンが守るべきものではなくなった。
 背中を預け、共に戦ってもらう。

「瑞穂さん、マリオンさん! 瑞穂さんは僕が仕掛ける奴に必要な時に必要なだけ攻撃して! マリオンさんは周囲を見て、僕だけじゃなく全体をカバー! あそこから召喚された魔物どもが大量に来る!」

 そう言う祐人の充実した仙氣が臍下丹田から湧きあがっていく。

「いい? 状況は流動的だ! 仲間が増えようが、敵が増えようが二人はなんとしても僕に食らいついてくるんだ! これなければ置いていく! とにかく僕を使って敵を倒すことだけを考えて!」

「分かったわ!」
「はい! 絶対に見失いません!」

 祐人の指示に瑞穂は不敵な笑みで、マリオンは輝くような笑顔で応じた。
 二人の返事を聞いた祐人は眼前にいるオサリバンに仕掛けた。

 そして、祐人はもう一つの重要な目的がある。
 それはこの敵たちと魔界との繋がりを確かめることであった。



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