魔界帰りの劣等能力者

たすろう

四天寺襲撃11



(爺ちゃんたちは何を話してるんだ?)

 祐人は顔を引き攣らせながら纏蔵たちを見つめるが、ここからでは当然、何のやりとりをしているのか分からない。

(なんなんだ? どうして秋華さんと琴音さんが一緒に……うん? あ、黄英雄もいるじゃないか!)

 英雄は気を失っているようで秋華の肩にもたれかかっている。秋華は纏蔵に何かを言って、英雄を纏蔵に預けると、祐人の方向に体を向けて秋華はこちらにウインクをしながら、投げキッスを送ってきた。

「は?」

 秋華の行動が、どういうことなのかさっぱり分からない祐人は呆気にとられる。この非常事態に緊迫感の欠片もない一行を見つめていると、明良から通信風が送られてきた。

「祐人君! 仲間は回収した」

 見れば明良はマリオンと共に重傷を負った神前功のチームをクレーターの端に運び、駆けつけてきた援護のチームに預けている。

(爺ちゃんたちのほうは後回しだ。あとは敵を一掃する! 悪いけど、まだあの敵は動けない)

 祐人はそう決断し、クレーター中央で倒れているオサリバンとドベルクに仕掛けようと走り出す。
その時だった。
 祐人の右後方から凄まじい霊力と妖気を発した何者かが猛然と襲い掛かってきた。

「はっ! 待てよ、堂杜祐人! まだ俺との決着がついてねーだろうが!」

「む!? 倚白!」

 忽然と現れたジュリアンは低空に跳躍し、祐人の脳天にダンシングソードを振り下ろす。祐人は体をよじり、右手首から出現した倚白で弾く。その際に生じた衝撃波が周囲にまき散らされて、土ぼこりが激しく舞った。

「チッ、隙のねーやつだな。胸糞悪りー!」

 ジュリアンは着地し、祐人と対峙して唾を吐き捨てた。

「あんたこそ、しつこいね!」

 祐人はそう答えながら仙氣を練り直し、全身から充実した仙氣があふれ出す。
 それを不愉快げにジュリアンは確認すると、クレーター中央にいるオサリバンたちに視線を移した。

「おい、てめーら! いつまで寝てんだ! 遊びは終わりだ。もう、四天寺を潰すぞ!」

 ジュリアンが大声を張り上げると、オサリバンとドベルクは頭を振りながら、なんとか立ち上がり、ジュリアンのいる方向に顔を向ける

「……クッ」

「痛てて……ありゃ、あっち側のジュリアンじゃねーか。随分と荒れてやがるなぁ。ははは、まあ、俺たちのこのざまを見れば、そりゃキレるか。それにしてもあのジジイ……」

 そこに颯爽と四天寺の術者たちが多数現れた。それぞれ五人一組のチームで祐人と対峙するジュリアン、オサリバンやドベルクたちを一糸乱れぬ動きで取り囲む。

「おいおい……これはピンチってか?」

 ドベルクが自分たちを取り囲む精霊使いたちを見回して肩を竦めた。
 オサリバンはハルパーを肩に担ぐと黒く染まった目でドベルクを見る。

「ドベルク、マリノスはどうした?」

「ああ? そういえばはぐれちまったが、向こうで俺たちに襲ってきた小僧二人と遊んでんじゃねーか?」

「何がはぐれただ。どうせ、美味しそうな獲物を見つけて一人で突っ込んだんだろ」

「ははは、まあ、否定はしないが、それをお前さんには言われたかないな」

 取り囲む四天寺の精霊使いたちの中から、明良が一歩前に出る。

「四天寺に仇なす、身の程知らずども! もう諦めろ! お前らに勝ち目も逃げ場もない。ここで大人しく投降するか、それとも死か、今すぐ選べ!」

 周囲に響くような大声で明良は警告する。
 明良たちの背後にいる秋華と琴音は、この様子を見て緊張をした。
 纏蔵に守られていたせいもあって感じ取れていなかったが、今になってここが戦場であることを理解し、生死を懸けた戦いの空気を見てとったのだ。
 それだからこそ四天寺の持つ底知れない実力と組織力、そして四天寺に所属する人間たちの覚悟を目の当たりにして息を飲んだ。

「おーおー、それじゃ、ここはこの者たちに任せて儂らは退散するとしよう」

 飄々として何も変わるところのない纏蔵がそう言うと秋華は我に返る。

「あ、ちょっと待ちなさいよ、変態仮面……琴音ちゃん、行くよ」

「あ、はい! あ、あの……」

 琴音もハッとして纏蔵たちのあとについて行くが、ふと、その目を四天寺家の広大な敷地の方向に向ける。

(お兄様は……今、何をしているのかしら。お兄様がこの状況を把握していないわけはないのに。お兄様がいれば……こんな連中)

 琴音は兄である水重のことが急に気になりだす。兄がこの状況でどう動くか、ということは想像できない。普通に考えれば大祭も中止になり、水重がここに残る理由はない。
 ただ……琴音には兄がこの現状を知っていて帰ってしまうことも想像できないのだ。

(お兄様はここに来るわ、きっと……)

 そう思うと琴音は歩みを止める。

「秋華さん、すみません! 私、ここに残ります!」

「え!? 琴音ちゃん、ちょっと、どこに行くの!? まだ、危ないよ!」

 突然、琴音が水重のいるはずの第一試合会場方向に走り出したのを見て秋華は驚く。

「私、お兄様を探してきます! お兄様に合流できれば大丈夫ですから!」

 琴音は振り返りながらそう言い、秋華は一瞬、どうするべきか判断がつかずに琴音を見送ってしまう。するとすぐに秋華は纏蔵に顔を向けた。

「変態仮面、お兄ちゃんをお願い! ここまでありがとう!」

「ほへ?」

「何となくだけど琴音ちゃんを放っておけない気がするの! 私たちはもう大丈夫だから、変態仮面は先にお兄ちゃんを外に連れて行っていいよ!」

 秋華は纏蔵に気を失っている英雄を無理やり預け、琴音のあとを追う。
 その場に残された纏蔵は二人の少女の後ろ姿を見つめると、英雄を片手で持ち上げてクルクルと頭の上で回す。

「はて……困ったのう」



 ドベルクとオサリバンは互いに背を向けて、自分たちを包囲する大勢の精霊使いたちを見渡した。

「んで、ナファスは? オサリバン」

「殺られた。あそこでジュリアンといる小僧にな」

「マジか! スゲー奴がいるな! それでジュリアンもあのご機嫌の悪さか。正直、四天寺以外には期待していなかったんだが……。さっきのジジイといい、大祭の参加者たちにとんでもねー強者どもが参加しているな。これは楽しくなってきた!」

「ふん、ウザいだけだろうが、この戦闘狂が」

 そこに明良が再び声を上げる。

「おい! 返答はなしか! では……狩らせてもらう!」

 途端に取り囲む四天寺の精霊使いたちに霊力が集まり、まさに臨戦態勢が整う。
 もはや襲撃者に対し捕まえるつもりも逃がすつもりもないことが伝わってくる。
 すると……今、始まらんとする戦闘空間をあざ笑うかのようなジュリアンの怒声が響き渡った。

「狩るだぁぁ!? 笑わせてくれんなよ、雑魚どもが! てめえらに本当の狩りってもんを教えてやろうじゃねーか!」

 そう言い、高笑いを始めるジュリアンを見てオサリバンとドベルクも肩で笑い出す。

「ククク……ドベルク、やるぞ」

「しょうがねえな、やんのか、アレを。アレになると抑えが効かねーんだよなぁ。まあ、いいか、すべてを見せずにやられちまうのは馬鹿のするこったからな。ナファスも悔しがってるだろうよ。んじゃ、ナファスの分まで暴れるか……どちらにしろ、四天寺の皆殺しは決定事項だ!」

 この時、ジュリアンと対峙する祐人に悪寒が走る。

(なんだ!? これは……ロキアルムやカリオストロたちと似た……まずい!)

 祐人は顔色を変えて、明良に向かって叫ぶ。

「明良さん! 全員を一旦、引かせてください! すべての力を防御に集中するんです! こいつらはもう、人間じゃない!!」

 祐人の響き渡る怒声と同時に、襲撃者たちから大地を震わす妖気と霊力が弾けた。




いつもありがとうございます。
今、ようやく新作書き下ろしの書籍化作業が終わり発売日も決定しました。

また、「魔界帰りの劣等能力者」の改稿作業もほぼ終了しました。結構な改稿部分があり、もし本をお手にとっていただきましたら、その辺も楽しんでくださればと思います。
これからもよろしくお願いいたします。

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