魔界帰りの劣等能力者

たすろう

四天寺襲撃⑨



「あ痛たた……ああ、これ肋骨がいっちゃてるよ。それにしても堂杜祐人……祐人君かぁ、いやぁ、これはとんだ僕の思い違いだったなぁ。いや、騙されたとでもいうのかな? あれだけの実力をもった能力者が無名かつ出自が一切不明ってどういうことだい? 本当に。四天寺の名に目がいきすぎて君を重要視しなかったのがいけなかった。もっと徹底的に調べるべきだったね」

 ジュリアンは自らの体で倒した大木の幹にめり込むように仰向けに倒れ、笑顔を見せながら上空を見つめていた。その表情は祐人と戦闘する以前のものに戻っている。

「あはは、君は四天寺の腰巾着なんかじゃないね。だって強すぎるもんねぇ。機関のランクS能力者に割って入ってもまったく遜色がないよ。いや、得意な接近戦に特化した戦いをさせたらそれ以上かもね。これはたしかに祐人君の言う通り、僕が馬鹿だったかな?」

 ミレマーでスルトの剣の壊滅の報を聞いたジュリアンは烈火のごとく怒り、すぐにこの犯人を調査したが、どうにも核心的な情報は手に入らなかった。
 確実な情報としては機関の日本支部から派遣された3人の新人能力者がスルトの剣と対峙していたということだけだった。
 ここでジュリアンはすぐに四天寺の名を冠する瑞穂に目をつけた。
 スルトの剣の首魁であるロキアルムが倒される可能性を持つのであれば四天寺しか考えられない。もちろん、瑞穂が、とは思っていない。だが、“四天寺”が秘密裏に動いたのであれば話の整合性がつく。
 世界能力者機関の内部情報でもスルトの剣壊滅は謎のまま、としているのも四天寺ならば何かしらの圧力をかけることも可能だからだ。

 そして、さらに期間を置かずに伯爵夫妻が討滅された。調べてみれば、またしても関わっているのが四天寺瑞穂、マリオン・ミア・シュリアン、そしてこの堂杜祐人だ。
 この時もすぐに四天寺の名に目がいく。
 そして考える。
 ジュリアンは間違いなくこれも四天寺の成したものだと確信した。
 もちろん、この時も名を連ねているマリオン、祐人の情報も集められるだけ集めてはいた。
 水滸の暗城でのこの3人の動きを調べ、精査し、前衛に近接戦闘特化型の堂杜祐人、その援護、補助にマリオン・ミア・シュリアン、そして、遠距離に本営、四天寺瑞穂という布陣で、それぞれの特性を如何なく発揮したものだと分かった。
 よくよく見れば、この3人の能力特性からの連携は非常に相性が良い。もちろん、それなりの連携訓練は必要だろうが、それさえクリアしていれば互いの実力を最大限生かせるような布陣だ。つまり、チームとして実力の相乗効果も生まれ単純にプラス3以上の戦果をあげたのだと考える。
 また、それに加え闇夜之豹がこの相手の戦力、数を見誤り、誤った戦略戦術で応対したことも承知している。
 それでいて闇夜之豹がこの状況認識の誤りに気付く前に徹底的な打撃を受け、立ち直る間もなく瑞穂の大技で再起不能になった。

 こういった分析の結果、ジュリアンの……いや、ジュリアンたちの最終的にだした結論はこうだった。
 まずはなんといっても四天寺瑞穂だ。
 この少女は四天寺の名を冠するのは伊達ではなく、また、その四天寺家内だけでなく機関からも天才と言われる噂も嘘ではない実力を秘めているということだ。
 だが、まだ若い。高度な術の発動については恐るべきものを持っていると考えられるが、その術を練る時間を与えなければ小技に終始する。まだまだ、本当の戦争、ましてや対人戦闘の経験が少ないこの小娘はこちらが優位に圧力をかけ続ければ、必ずどこかで術の出しどころを見誤り、それが致命的なミスとなって本人に帰るだろう。
 要は戦場で孤立さえさせればどうにでもなる。
 あとは評価するならランクAのマリオン・ミア・シュリアン。
 マリオンはエクソシストであり対妖魔、対魔族との戦闘での攻撃力は高いが、それ以外では防御、他者の補助を得意とする能力者である。パーティーを組む仲間や敵によってその役割が変わる柔軟性に富んだ能力者だが、対人近接戦闘に持ち込めれば、手数の多い攻め手に苦慮するはずだ。
 まとめれば、この二人は非常に優秀だが、分散させてしまえばジュリアンたちにとってまったく怖い存在ではない。
 何故なら、対能力者、つまり対人戦闘において未熟であることが容易に想像できるからだ。
 これは瑞穂やマリオンたちだけに言えるものではない。これは現在の若い能力者たち全般にいえることだ。

 これもすべて……愚かな世界能力者機関の理念に原因である、とジュリアンたちは分かっている。それは依頼にまつわる例外を除いて、機関所属の能力者は一般人はもちろん、対能力者との戦闘を厳しく禁止していること起因する。
 過去の凄惨な能力者大戦を経験した者たちが世界能力者機関を立ち上げた結果がこれだ。
 能力者の有用性、存在価値を貶める愚かな行為。
 歴史のあるほとんどの能力者の家に伝わる独自の修練法には、必ずと言っていいほど対人戦闘のあり方が伝えられている。これが能力者の現実であり、異能を持つ能力者の本質の一部を映し出していることは自明の理。
 にもかかわらず、機関は能力者たちを、まるで人々に害をなす人外から守る正義の味方にでも仕立てようとしている。
 これほど馬鹿げた話はない。己の有益性、優秀性を示す場を自らが狭めては、能力者たちが衰退の一途をたどる未来しかないのだ。
 この機関に加担する愚か者どもは、何故、能力者が人類の上位種だと思わないのか。
 何故、能力者こそが人類を束ねる存在だと分からないのか。
 人外たちを人知を超えた存在のように扱うのならば、それと対抗できる能力者も人知を超えた存在だろう。

「でも、祐人君は違うねぇ、あれは別物だった。あれこそ能力者の本質をよく表しているよ。太古から存在する能力者らしい能力者、まるで僕が目指している能力者像を体現しているようだった! あはは! すごいよ祐人君!」

 ジュリアンは木の幹にめり込んだ体を剥がし立ち上がる。
 すると途端にジュリアンから無邪気な笑顔が次第に粟立つような邪気を放った。

「ククク……ハッハッハー!! 天然能力者だぁ!? ふざけんなよ? あれのどこが天然能力者だっていうんだ! 仙道使いであることは分かった。でもそれだけとは思えねーな! あいつの考え方、行動原理がすでに仙道使いじゃねーんだよ。浮世に興味のねー、仙道使いが機関に所属して仲良く友達ごっこなんかするかよ!」

 何かを確信したように怒りをぶちまけるジュリアン。

「しかも、あの洗練された忌々しい戦い方……あいつは間違いなく能力者の家系だ。しかも相当な力を持ち合わせている家系と思っていい」

 ジュリアンは右手に持つダンシングソードの刀身に映る自身の顔を睨みながら、まるで誰かと会話をするように口を開く。

「あいつには何かあるな。ああ、そうだな……。たしかにあいつは霊力を持っていたにも関わらず道士になったというのは奇妙だ。あん? お前は……あいつを徹底的に調べる必要があると?」

 ジュリアンは眉間に力を籠める。

「はん! まあ、お前の言う通りランクS級の能力者が今、ここで発覚しただけでも良しとするか。計画の最終段階で邪魔立てしてくる機関の戦力を見誤るミスが減ったのは大きいしな。ランクDが実はランクS級でしたなんて笑えねー」

 薄暗く鋭い目をしたジュリアンはダンシングソードの刀身に向かい頷く。

「うるせーな、分かってんだよ! んなことは! じゃあ、そろそろ行くぞ……チッ、撹乱から一気に攻め落とす予定があのクソ道士のおかげで戦力分散になっちまっただ? ここで四天寺の直系と一緒に殺しちまえば一緒だろうがよ!」

 ジュリアンは吐き捨てるように言うと、殺気の籠った妖気交じりの霊力を纏いながら四天寺家の重鎮席のある方向に歩き出した。

「……お前はあの引きこもりの坊ちゃん精霊使いに連絡しとけ。これから四天寺中枢に仕掛ける。あとはてめえの好きにしろってな」

 その右手に握られているダンシングソードには……明らかにそのジュリアンとは違う無邪気で柔和な表情をしたジュリアンの顔がスッと消えた。




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