魔界帰りの劣等能力者

たすろう

四天寺襲撃④


「堂杜のお兄さん、あの変態に勝てるかなぁ」

 参加者たちの宿泊施設になっている屋敷の琴音にあてがわれた部屋のベッドの上で座る秋華が笑顔で足を交互に揺らしている。

「……それでしたら、もう試合は始まってますし、早く応援に行きましょう、秋華さん。私も勝利されたお兄様の出迎えに行かなくてはなりませんし」

 琴音は椅子に座りながら試合が始まる時間になった辺りからそわそわしており、早くこの場から観覧席の方に行きたいという気持ちを募らせていたのだ。それはもちろん、実兄の水重の試合を見るためであるが……祐人の試合も見ていたい。

「あはは、勝利確定なんだねぇ、琴音ちゃんのお兄さんは」

「当然です、堂杜さんだってお兄様とあたってしまえば勝つことはできないです」

「ふーん……。でも、ダメダメ、まだ話が終わってないよ。まだ私の提案を琴音ちゃんに頷いてもらってないんだから」

「……ですから、その話しですけど、どうして堂杜さんを巻き込むんですか? 堂杜さんだって、迷惑だと思うに……違いないです。だって堂杜さんは瑞穂さんと添い遂げるために、この大祭に参加して……」

 途中から心なしか寂し気にうつむいてしまう琴音を、秋華はむしろ策士のような顔でニンマリとする。この超ブラコンの琴音の心が揺らいでいるのを使わない手はない。

「琴音ちゃんは分かりやすいねぇ」

「何がですか!」

「まあまあ、大丈夫! 堂杜のお兄さんはきっと迷惑になんて思わないよ!」

「一体、どこから……そんな自信が湧くのですか……」

「だって、まず、私たちの家は名家だよ? お兄さんにとっては超逆玉。といっても、あのお兄さんはそんなこと興味はないと思うけどね。ただ、これだけは言えるよ? 私たち可愛いもん! しかも琴音ちゃんと私は系統が違う美少女というのも大きいの。こんな私たちから、縁談が来たら……しかも、二人とも同時に娶ってOKの特典付き! これで靡かない男性がこの世にいるわけないでしょう? それに加えて私たち、将来、すごい美人になるし」

 さすがに秋華の話が馬鹿げたものに感じ、ため息交じりではあるが琴音も声を大きくする。

「そんなの! 我が三千院家が認めるわけがありません! 秋華さんだって、黄家の令嬢じゃないですか! こんな話、受け付けるわけがないです! それに堂杜さんは瑞穂さんのこと……」

「あ……ああ、言ってなかったね。堂杜のお兄さんは瑞穂さんを手に入れるために参加してないよ?」

「え……えええ!?」

 呆気にとられ、顔を上げる琴音の前で、何事もないように秋華は持参したスナック菓子を口に放り込んでいる。

「むしろ、逆。四天寺家が堂杜のお兄さんを欲しがっているんだよ、間違いなく。今までの大祭運営の流れを見てて、引っかかってたんだけど、堂杜のお兄さんに話を聞いて確信した。でも、そのおかげで、この作戦の成功率が跳ね上がったよ。四天寺が欲しがっているお婿さんだよ? こんな回りくどい真似までしてでも、あの四天寺が欲しがった。力を落とさないためには何でもする四天寺……これを私たちが家に持ち帰ってうまく説明すれば……」

「……!」

「その辺の細かいところは私が考えておくから、琴音ちゃんは私の言う通りに動いてくれればいいの」

「ちょ…ちょっと待ってください! そもそも何で私たちが、そんなことをしなくちゃならないんです!? 三千院家と黄家の娘があんなどこの馬とも知れない人に! あ……もちろん、素晴らしい人柄の方だとは……思ってますけど……。でも! それだからと言って!」

「三千院家と黄家だからだよ、琴音ちゃん。私たちに生涯の相手を選ぶなんて、ほぼ不可能。できたとして、持ってこられた縁談話の中から選ぶくらい」

「……!」

 今までにやけてた秋華の顔がスッと真面目なものになり、琴音は口を噤んだ。また、秋華の話すその内容は能力者の家系で名家である娘たちの大多数の真実である。

「私は本当にそれが嫌なの。私は……私にも色々とあるわ。だから、私と一緒になる人はとんでもない苦労をする。それを家が決めた男性に押し付けるのはどうしても嫌なの。でも……ううん、だから、考えていたの、こんな私と一緒になっても、切り抜けてくれるようなタフな人を見つけて、その人のところに飛び込んでやるって」

「……」

 琴音は細い形の整った眉を寄せる。秋華の言う言葉の中に、外部には言えない何かを背負っていることが伝わってきたからだ。それは何かまでは分からない、そして聞くこともできない。能力者の家系には色々とある。その中には決して表には出せない裏の事情を持っているというのは、能力者の家系に生を受けた琴音にも当然、分かることだからだ。

「それにね……琴音ちゃんを誘った理由はほかにもあるよ?」

「それは……何ですか?」

 神妙に聞いていた琴音に対し、真剣な顔をしていた秋華が打って変わって悪戯っ子のようにニヤリとする。

「琴音ちゃん……堂杜のお兄さんのこと気になっているでしょう? しかも、人生で初めて身内以外の男性に」

「な!? ななな、何を言って! 私は別に、堂杜さんのことを、そんな風に見てなんて……」

「じゃあ、嫌い?」

「嫌いなわけがないです! 堂杜さんは素敵な……うう!」

 ハッとし顔を赤くして縮こまる琴音を見て、まるで言質を取ったと言わんばかりに再びニンマリとする。

「ふふふ、琴音ちゃん、私たちが個人的に気に入った人と一緒になれるチャンスなんて中々ないよ? まず、ただでさえ出会いが少ないし、分かりやすく用意された社交界で予定通りに何人かの男性を紹介されるだけ。そこにさあ、堂杜のお兄さんのような人は来るかなぁ? 来ないだろうなぁ。堂杜のお兄さん、超庶民って感じだし。ああ、勿体ない、あんなに強くて格好いいのになぁ。なんてたって四天寺が狙う逸材だし。しかも、私たちが気になる男の人きた。奇跡だよねぇ、こんなの。もう二度とない……いや、ないね!」

「~~~~!」

 まだ顔を紅潮させながら、膝の上で両手を握りしめる琴音。

「……ひとつ聞かせてください」

「うん? なーに?」

「秋華さんは、堂杜さんのこと……好きなんですか?」

「好きじゃないよ?」

「……!?」

 琴音は生まれて初めて何もないところで転びそうになる。

「でも……いつか好きになれると思うんだ。堂杜のお兄さんなら……。優しそうだし、他人のために怒ってくれし、それに強いし」

「……」

「なによりも、なんでも言うこと聞いてくれそうだし!」

 もう一度、琴音はガクッときたが、何とか持ちこたえた。

「琴音ちゃんは大丈夫? これが成功しても私と一緒だよ? 旦那の共有だからね。独占欲が強いときついよ?」

「……お父様もお爺様も、母や祖母以外に女性が複数いました。その辺は問題ありません」

「あ、うちもそうだよ! 本当に異常だよね! こんなの当たり前みたいにしててさ! 初めて恋愛映画を観たとき、こんな素晴らしい世界があるんだって感動したもん。互いに一人だけを愛するっていう」

「あ……私もです!」

 琴音が思いもよらず喰いついてきたことに、秋華は一瞬、目を広げる……が、段々とそれは笑顔に変わっていく。そして、琴音も同様に笑顔を見せた。

「プププ……こんな話をしておいて、馬鹿だよね、私たち」

「そうですね……本当に」

 二人は目を合わせると、もう一度大きく笑い出した。その姿はその歳に相応しい光景ともいえる。琴音はこの時、人生で初めての同性の友人ができたことを噛み締めた。祐人という人間だけではなく、秋華に出会えたことも奇跡なのかな? と思うと、瞳が緩んだ。

「よし、じゃあ、行こうか!」

 ひとしきり笑い終え、秋華がベッドから飛び降りたその時、二人は同時に窓の外に目を向ける。

「何やら外が騒がしいです……あ、あれは!?」

 琴音が窓から外を見渡すと、顔色を変えた。

「秋華さん!」

「うん、分かるよ……何か、大変なことが起きてるっぽいね。琴音ちゃん、私はお兄ちゃんを起こしに行くから、ちょっと待てて!」

「はい!」

 そう言い、二人は部屋を飛び出した。



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