魔界帰りの劣等能力者

たすろう

トーナメント戦2戦目 裏の暗闇


「おいおい……こりゃあ、盛り上がりすぎだろう。あっちはどうなってんだ?」

 木の陰に隠れながらダグラス・ガンズは祐人たちのいる第4試合会場の方に顔を向けた。
 今、ダグラスは今、第1試合会場にて三千院水重との試合の最中であり、水重のスキルである探査風から逃れながら攻撃のタイミングを探っていたのだが、第4試合会場の方角からの高位能力者が放つ特有の凄まじい圧迫感に驚いていた。
 だが、驚く暇もなく水重の複数の探査風の気配を感じとる。

「おっと! たくっ、あいつもやるなぁ! 俺が攻撃ポイントを探せやしねー!」

 ダグラスはその場から素早く離れ、移動をしながら僅かな風の動きを感知しつつ、水重の探査風から逃れる。
 すると、前方および、ななめ両後方から明らかに水重のものと思われる風が迫ってきているのが分かる。

「チッ……!」

 ダグラスは、何もない自らの両脇の下に両手をクロスしながら探るような仕草をすると、その両手にはあるはずもない拳銃が握りしめられていた。
 そしてそのまま、前方に銃を構え立て続けに撃鉄を引くと、銃から放たれた複数の弾丸は、姿を変えて超高速移動する燕の姿に変わる。
 その燕たちは生きている燕のごとく自由に動き、数匹は背後に、残りは前方に移動し、迫りくる探査風すべてに突入した。

「まあ、これであの兄ちゃんを誤魔化せるとは思わんがな」

 そうつぶやくとダグラスは、探査風の網をかいくぐり、さらに水重への攻撃ポイントを探すべくその場を走り抜けた。

「まったく、また支部長に騙された! なーにが簡単な仕事だ! あの少年を詳しく調べてこいって……これが簡単じゃねーこと知ってたんだろ、あいつ! しかもトーナメントの巡り合わせもわりーし! これじゃ勧誘どころじゃねーっての!」

 アメリカ支部のエース候補とまで言われ、現在、ランクAのダグラス・ガンズは実績、実力ともにランクAAが相応しいと評価されていたが、何故かアメリカ支部支部長にしてランクSの【制圧者】ハンナ・キーズに何故か保留されていた。

「鳥……ではないか」

 水重は試合が始まってから、ただ真っ直ぐ、そしてゆっくりと前に歩を進めていたが、足を止める。
 すると、第4試合会場の方に視線を向け、珍しく微笑した。



 第2試合会場。

「あはは! いいねぇ! 堂杜君! 相手は誰なんだい? この僕が気づかないなんてとんでもない相手なんだろうねぇ! 本当に君は面白いことばかり起こすなぁ」

 鎖で雁字搦めにされている鞘に納まったままの剣を片手に、ジュリアン・ナイトは笑い声をあげた。

「うん、うん、僕も燃えてきた! よし……おーい! 虎狼っていう人ー! 隠れてないで出てきなよ! 僕も本気でいくからさぁ! 昨日の試合で勝手に負けられて消化不良だったしね! 出てこないならこちらから行くよ!」

 そう言うと、ジュリアンの握る剣の鞘に絡まった鎖が緩み、地面に落ちる。
 ジュリアンは笑みを浮かべつつ、その剣を水平に持ち、鞘を抜かんと手にかけた。

「使っちゃおうかなぁ、これ。ふふん、楽しみだなぁ……うん?」

 ジュリアンの笑みが消えたかと思うと、ジュリアンは上空を睨んだ。
 その上空には何もない。
 だが、しばらく見つめるジュリアンの目が険しいものに変わっていく。

「無粋な奴らだな……せっかく僕が楽しんでいるのにさ」

 いつもにこやかにしているジュリアンの笑みが、やがて薄暗い笑みに変貌する。

「でも、仕方ないかぁ……あれを見られたんじゃ。まったく誰だい? 余計な探りを入れてきたのは。随分と優秀じゃないか。まあ……普通に考えれば、四天寺か日本支部か……うん? 吸血鬼? どういうことだい、それは」

 ジュリアンは顔を下ろし、思案するような顔をする。

「ポジショニングの能力を持つ吸血鬼? まさか……ね、あいつは死んでいるはず……」

 そこに第4試合会場から、またしても激しい振動が伝わってくると、ジュリアンはニッコリといつもの屈託ない笑顔をみせる。

「ま、いっか! いずれにせよ、最悪の事態を考えて行動するのがセオリーだしね。あ~あ、もうちょっと遊びたかったなぁ、これからがいいところだったのに」

 そう言うと、ジュリアンは鞘から勢いよく剣を引き抜き、颯爽と走り出した。まるで対戦者の居場所を知っているかのようにさらにそのスピードを上げていき、木々の間に消えていった。



 これと同時刻、深夜のコーンウォール郊外をガストンは慎重に移動していた。

「はやく旦那に伝えないと……」

 追手が来ている可能性は高い。迂闊な行動がとれないことは分かっているガストンは近くの街を避けて移動していた。
 ガストンは闇の中、小さな道路わきを走りつづけていると前方に幹線道路が見えてきた。深夜ということもあり、車は少ないがそれでも数台の車が通りすぎていくのが見える。
 ガストンはスピードを上げると、真横に猛スピードで走り抜けていくトラックに飛び移った。そして、走行中のトラックの助手席のロックされたドアを、力だけで強引に開ける。
 当然、トラックの運転手は、悲鳴をあげて驚くがガストンは何事もなかったように助手席に座り、親し気に小太りの中年運転手に話しかけた。

「いやいや、私を置いていかないでくださいよ」

「え!? ……あ、すまん! 忘れてたよ! でもお前、よく乗ってこれた……」

「ああ、まあまあ、そんなことより携帯を落としてしまいましてねぇ、ちょっとあなたの携帯を貸していただけませんか?」

「あ……ああ、いいぜ。ほらよ」

「ありがとうございます」

 携帯を受け取ったガストンは、連絡先を思案すると電話番号を入力し、相手が受け取るのを待つ。

「あ、もしもし、茉莉さんですか? ガストンです。はい、はい、いえ、ちょっと急いでまして、祐人の旦那に伝えたいことがありますので、すぐに伝えてもらえますか? 旦那は今、試合の最中と思いまして、え!? 携帯を持ち込んで戦ってたんで? ああ、それでは直接、電話します……うん?」

 ガストンは咄嗟にトラックの外に目を向けた。

「あ! 茉莉さん、やっぱり伝言をお願いします! こちらも色々とありまして!」

 ガストンは周囲を最大限に警戒しながら、話しだす。

「質問は今はなしです。落ち着いて聞いてください。入家の大祭ですが、その参加者の中にジュリアン・ナイトという人物がいます。この人物はかつて隆盛を誇ったナイト家の嫡男となっていますが……ナイト家にはそのような人物はいません。現在、ナイト家の当主としては年老いたランダル・ナイトがいますが、この一人息子だったジョージ・ナイトは若くして亡くなられています。その息子、つまり、ランダル・ナイトの孫として参加してきたのがジュリアン・ナイトですが、どのように調べてもジョージ・ナイトに子供がいた形跡はありません。……ム!」

 ガストンは窓の外を睨むと、再びドアを開けて猛スピードで走るトラックから跳躍した。
 トラックの運転手は友人と思っていたガストンが、外に飛び出したのを見て驚愕し、急ブレーキを踏んだ。
 どうやらガストンを探そうと考えたようだった。

「いけません! そのまま行ってください! あ、すみません、茉莉さん、こちらの話です」

 ガストンはトラックの運転手に大声で注意すると、その場から道路横へ飛び出して、走りだす。携帯を貸してくれた恩義のあるトラックの運転手を巻き込むわけにはいかないという判断だったが、それは危険な行為であることもガストンは知っていた。
 ガストンは携帯を片手に道路から逸れて、より明かりの少ない方へ足を止めずに移動していく。
 ガストンは走るスピードを上げて、再び携帯電話に話しだす。

「茉莉さん、いいですか? まだあります。今朝、私がナイト家の当主に会いに行ったとき、すでにランダル・ナイトは……殺されていました。その犯人らしき連中もいましたが、こいつらが何者かまでは分かりません。ですが、かなり危険な連中です。恐らく……いや、間違いなくジュリアン・ナイトという人物はこいつらの仲間に違いありません」

 月明り以外は周囲を照らすものはない草木が自由に生えている荒野を姿勢を低くしながら走り抜けるガストン。

「いいですか、茉莉さん、そんな者が四天寺家に侵入しているということです。それと最後にもう一つ、これが重要です。必ず旦那に伝えてください。ジュリアン・ナイトを名乗るその人物は、ランダルの孫になりすまし、ナイト家に伝わるとてつもない力を秘めた、ある剣を持ち出しています。どのように、いもしない孫に成りすましたかは分かりませんが、その人物はナイト家の剣を継承しました。……うん?」

 ガストンは自分で話しながら、自分の話に引っかかると、ハッとした。

「いや、そうか! 【ポジショニング】ですか! それならすべてが繋がります! 私のポジショニングが通じなかったのも、あちらがオリジナルですか! あ、すみません、こちらの話です。話を戻しますと、ジュリアン・ナイトはおそらく最初からその剣を奪うために近づいたのだと私は考えます。それは神剣のレプリカなのですが、その名はダンシン……!?」

 突如、ガストンの耳に切り裂き音が聞こえてきたと思った瞬間、携帯電話が破壊された。

「クッ!! 私としたことが、大事なところで余計な事に気をとられてしまいましたねぇ、これはしくじりました」

 ガストンは立ち止まり、悔しそうに真っ二つになった携帯を放り投げると、携帯電話を破壊した張本人を確認するように背後上方に顔を向ける。

「みーつけた、吸血鬼。馬鹿ねぇ、自分から目立つ行動をしてぇ」

「また、あなたですか……赤いドレスの人。ふむ、私が思うに、いい女というものは男性を追いかけるのではなく、男性に追いかけてもらうものだと聞いていますがねぇ?」

「フフフ、何を言っているの? いい男がいれば女だって追いかけるものよ?」

「まあ、悪い気はしませんが……タイミングが悪いですねぇ。私はですね、まだ前の恋を……引きずっているのですから!」

 ガストンが腕を薙ぐと強力な魔力の鎌が空中にいる赤い魔女に襲い掛かる。
 赤い魔女はひらりと空中で一回転をしてこれを避けるとガストンに向かって急降下してきた。

「あはは! それこそ、落し甲斐があるというものよ! 私がそのすべてを忘れさせてあげるわ!」

「まったく……旦那のモテ具合は友人の私にも移るのですかね? でも、私にだって相手を選ぶ権利ぐらいは欲しいものです!」

 赤い魔女と伝説の吸血鬼は月明りの下、大地が裂けんばかりの大音量をあげて衝突をした。



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