魔界帰りの劣等能力者

たすろう

トーナメント戦2戦目 暴走の身内


「おい! 危ないじゃろうが! 祐人! それが年寄りに対する態度か!?」

「ええい! とっとと降参しろ! こんなところにまで来て、恥ずかしい! 誰に聞いたんだよ! あ、待て、逃げるなぁぁ!」

「うるさいわい! 儂だって、まだ現役じゃ! 嫁だってほしいのじゃ!」

「だからぁ! この大祭の参加条件は40歳以下って決まってんだよ! いい加減、落ち着け! この不良老人が! 僕がどれだけ恥ずかしい思いをしているのか分かってんのかぁ!」

「ふぉっふぉーー! 儂は気持ちだけは永遠の二十歳じゃ! いつまでも若いのじゃ! だから関係ないのじゃ!」

「ぬうう……こんの糞ジジイ! これ以上、恥をさらすのはやめろぉぉ! ここはなあ、僕の友達の家なんだぞ! しかも、その嫁は僕の同級生なんだよ!」

「愛に年齢など!」

「そういう問題じゃなぁい!」

 祐人は跳びあがるとてんちゃんこと、纏蔵に背後から豹のように襲い掛かかった。
 右脚に充実した仙氣を込め、全身をバネのように力をためた跳び蹴りが纏蔵の背中に向けられる。
 その背後からの跳び蹴りに纏蔵は振り向かないまま、自らの背中に手のひらをこちらに向けて乗せると、祐人の右足が纏蔵のその手に追突する。

「ほい!」

 その刹那、纏蔵が軽く背筋を伸ばしたかと思うと、祐人の身体は縦に回転してしまい、その勢いが失われるだけでなく、天地が目まぐるしく移動し自分の位置を見失ってしまう。
 続けて纏蔵は空中で回転している祐人に対し、その場で跳躍するとオーバーヘッドのような蹴りを上方から繰り出した。
 祐人に纏蔵の右脚がクリーンヒットし、祐人は地面に叩き落とされる。周辺には半径5メートルほどのクレーターのような穴と土ぼこりが発生し、その際に発生した風が辺りの草木を激しく揺らした。

「ほっ! 成長したのう、祐人」

「捕まえたよ、爺ちゃん」

 土ぼこりの中心に、仰向けになりながら纏蔵の脚を両手で掴む祐人はニヤリと笑う。

「足に仙氣を込めたのは見せるだけで、はなから受け身に集中していたか」

 祐人を見下ろす纏蔵は一瞬だけマスクの下に嬉しそうな笑みを浮かべたが、それは祐人からは見えない。

「祐人よ……年寄りの恋路を邪魔するとは、なんとも悪い孫に育ってしまったのう」

「恋路って何だ!? 恋路って! このアホ爺!」

「ぬぬう、この儂に向かって……よいわ! 久しぶりに稽古をつけてやろう! 儂のJK妻を想う心はのう、何人たりとも邪魔することは出来んのじゃ!」

「ふざけんな! 孫にどれだけ恥をかかせれば気がすむんだぁ!」

 怒りが頂点の祐人は両手で掴んだ纏蔵の脚を捻り、それだけではなく同時に右脚を振り上げ纏蔵の後頭部に叩き込む。
 が、纏蔵は祐人の腹の上で軽く跳ねるとアイススケーターのように回転し、祐人の両手から脱出しつつ祐人の蹴りも弾いた。
 脚を弾かれた祐人は、その勢いを借りてそのまま体ごと跳びあがり両足を地につけると、自分の両手から脱出し、僅かに地面から浮いている纏蔵に正拳突きを繰り出す。
 纏蔵は回転しながら右手を上げ、左手を下げ、体を地面と水平に体勢を変えながら祐人の拳の上から叩き、空中を移動するようにその場から離れた。

「ほっほー、祐人。お前には孫韋から仙道を学ばせたが、お前は堂杜の霊剣師じゃろう。剣でこんか、剣で」

「くー! この人は何でこう昔から……! もう許さないからなぁ!」

 怒り心頭の祐人がその右腕から落ちるように倚白を出すと、纏蔵もどこから出したのかその手に古びた木刀を手にしている。

「はあーー!!」

「ふん!」

 祐人と纏蔵が激突すると、周囲に凄まじい衝撃波がまき散らされ、それは遠く離れた他の試合会場のみならず、観覧席にもその刃風が届いた。



 度肝を抜かれている観覧席及び四天寺家の司会者。
 それは明らかに超ハイレベルの能力者同士の戦い。
 これほどの能力者同士が戦うことも今では稀であり、さらに言えば、それを目の当たりにすることなど能力者といえどもほとんどない。
 司会者はハッと我に返ると大声を張り上げる。

「凄まじい! 第4試合会場! 凄まじい攻防です! これは……わたしもどう実況してよいものか、分かりませーーん!」

 観覧席全体から絶叫にも似た声が各所にあがり、興奮というよりも、驚愕だけが支配しているようだった。

「あ、あれが……祐人さんのお爺さん!?」

「マリオンさん! あれは、あれってどういうレベルなんですか!? 大丈夫なんですか、祐人さんは……キャッ」

 マリオンに質問をしている間にも振動が伝わってきてニイナはマリオンにしがみつく。

「これは……まるで止水さんとの戦いのときのよう……」

 マリオンがそうこぼすと、その横では……、

「堂杜君の爺ちゃん、すげぇぇ!! 凄すぎるよ!! 老人で超強いって……クーー!! なんて燃える!! いけぇぇ!! 二人とも頑張れぇぇぇ!!」

 格闘技ファンの静香が興奮のあまり、完全にここに来た目的を忘れた声援を送っていた。



「あらあら……ちょっとこれは大変なことになってしまっているわねぇ」

 四天寺家の重鎮席で朱音が静かにお茶をすすると、その横で左馬之助が体を震わしてモニターを見つめている。

「こ、このような戦いが……お目にかかれるとは……何者なんじゃ! あのてんちゃんというのは!?」

 その疑問に答える者はいない。
 分かるはずもない。
 ただ、瑞穂だけが半目になり乾いた笑いを漏らしていたが。

「明良! 婿殿は大丈夫か!?」

 左馬之助が血相を変えて明良に振り向く。

「は、はい……大丈夫だと信じてはいますが、相手がこれほどとは……まるで死鳥と戦ったときのようです」

「なにぃ!? それほどの相手だと? いや、これを見ればそうか……」

「………………は?」


 今、なんて言った?


 瑞穂は祐人の戦いよりも、今、耳に入ってきた左馬之助の思いもよらない言葉に目を大きく、大きく広げる。

「ちょっと……左馬爺? 今、なんて……変な単語が入って……」

「ぬぬう……こんなところで思わぬ強敵が来るとは!? むう! 婿殿! 負けるでないぞ!」

「左馬之助様……毅成様が来たら聞こえてしまいますよ。婿殿ならきっと大丈夫です。信じましょう、朱音様や瑞穂様が認めた方なのですから」

「……え? 早雲?」

 すると、明良は左馬之助に体を向けて声をかける。

「早雲様の言う通りです。私も祐人く……婿殿が数々の困難を潜り抜けてきたのをこの目で見ています。きっと、婿殿は勝ち上がってきます。婿殿は!」

「ちょっとぉぉぉぉ!! 明良ぁぁ、今、なんて祐人を呼んだのよ!? しかも、わざと強調していなかったぁ!?」

 大声を張り上げる瑞穂に明良は顔を向ける。その顔もまるで、“え? 何を仰っているのですか? 瑞穂様”と聞こえてきそうな表情だ。

「何って……祐人様のことですか?」

「そうよ!! って……うん? ……様?」

「婿殿ですが……それが何か? あ……申し訳ありません! 瑞穂様。私がそう呼ぶのは失礼でした。これからは祐人様と……」

「そこじゃないわよーー!!」

「瑞穂、静かになさい。観覧席からも見えてしまうわよ。この大祭はあなたのために開かれたものなのです。ここに来ている参加者も皆、あなたのために来ていることを忘れてはなりません」

「だって、お母さん!」

「黙りなさい! ここに来られた方々に失礼だといっているのです」

「……ッ!」

「さあ、あなたもしっかりと大祭を見届けるのです。祐人さ……婿殿の戦いを!」

「はあーーん!?」

 思わず声を上げた瑞穂だが、その横では、真剣な顔で「婿殿! 婿殿!」と連呼しながら、応援する四天寺家重鎮たち。
 瑞穂は唖然とした表情で、周囲を見渡すと、重鎮たちのみならず、四天寺家に仕えるすべての者たちが口々に「婿殿、頑張れ」と応援しているではないか。
 そして、その瑞穂の姿を見て、笑いを堪える明良の姿があった。




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