魔界帰りの劣等能力者

たすろう


「良かったのですか? あなた、わざと負けたでしょう。勝手に試合を投げ出してボスになんて言うんですか。あなたが自分で確かめるってきかないから、ボスも仕方なく認めたというのに」

 四天寺の重鎮たちと明良たちが話し合いをしている同時刻、大祭参加者にあてがわれた屋敷の近くの一角で二人の男が照明を避けるように立ち話をしている。
 一人の男は暗闇の中でもしなやかに鍛えられた身体が分かり、もう一人の男は抑揚のない丁寧な口調で腕を組んでいた。

「ああ、対戦の巡りが悪かったしな、あのまま、あいつと対戦するためには決勝戦にまで駒を進めなければならなかったからな。ちょっと力を試そうとするのに、それじゃあ目立ち過ぎだろ」

「……だったら、別に参加しなくても良かったでしょうに。一緒に参加させられた私が馬鹿みたいですよ」

「それはお前に任せる。お前のところなら次の次に戦えるだろう? あいつが勝ち上がってきたとしたらだけどな」

「冗談でしょう、私も次で離脱します。何の益もないのに、あんな化け物と戦うなんて嫌ですよ、私は。それに初戦の記録はあなたも見たのでしょう? あの人物は私から見てもボスが気に掛けるのに十分な資質を持っているのはよく分かりましたよ」

「……フン、まだ分からん」

「……まったく、素直じゃないですね」

 丁寧な口調の男が小さくため息をする。

「私たちはこのあと、ボスと共に出立しなければなりません。それは危険な戦いが待っているのです。ですが、重要な戦いです……私たちにとっても、世界にとっても。その前にこのような祭りで怪我などしたくはありません」

「分かっている。だから、その仲間にするのに信用のおける奴か見たかっただけだ」

「ならいいですが」

「それとな……俺が試合を降りた理由は、対戦の巡り合わせの悪さだけじゃない」

「……どういうことです?」

「ヤバかったんだよ、俺の相手が」

「ほう……それは、あのでたらめな剣士がですか? たしかに、あの奇妙な剣を解放したあとの能力には驚きましたが……。正直言えば、あなたが負けるようには見えませんでしたが」

「いや……あれはまだ本来の力を出していない。あの野郎がその力をだそうと感じたとき、俺はヤバいと思って負けることにしたんだ」

「……ふむ。あなたがそんなことを言うなんて、そんなに凄いのですか、あの剣は」

「ああ、ヤバい。ヤバいなんてもんじゃない。あれはボスの持つ剣とは違うが……それに近いもんを感じた」

「何と!?」

「それと、あの野郎から感じた殺気……一瞬だったが、あれはあんなガキが放つものじゃあない。俺は……それに狂気じみた、まともな人間が放つものではないものを感じた。剣だけじゃない、あいつ自身も何か隠していやがる」

「……。だから……退散したのですか。あなたがそう感じたのなら……一応、ボスにも報告してきましょう。この家はボスにも縁があるようですし」

 その後、短い会話を交わすと、二人はその場から離れていった。



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