魔界帰りの劣等能力者

たすろう

初戦の終わりと……②


「それにしても何故、今回の大祭に参加してきたのかも分からぬ。参加者の中に三千院の名を見たときはわしも目を疑ったものだ」

「はい、私もその時は、以前の瑞穂様との破談になった縁談について、何か思うところがあるのかもしれないと心配をしました。感情的になって暴れにきたのかと」

「……お父様」

 過去の瑞穂と水重の縁談の経緯については日紗枝も知っていたので、眉をハの字にした。
 それは瑞穂が男嫌いになった最初の原因ともいえるものだったからだ。

「いや、早雲、日紗枝……それはないな」

 しかし、左馬之助はそれについてきっぱりと否定した。

「縁談を断ったのはわしだ。それでわしは三千院家に赴きそれを伝え、また誠意をみせるためにも直接、水重にも面会をした。もちろん、詫びも含めてな」



 水重と瑞穂の破談を決めた後、左馬之助は三千院家に足を運び、当主である頼重に事情を話した。そして、水重にも直接、お伝えしたい、と伝えると、当主である頼重が水重を客間に呼ぶようにと使用人に申しつけた。
 ところが、いつになっても水重は姿を現さない。
 当主の頼重も困り果てた表情を見せる。
 そこで左馬之助はこちらから本人のところに伺いますと丁重に言い、水重の私室にまで足を運んだ。
 すると、水重は私室の縁側に座り、中庭を眺めていた。
 その情景は男でありながらも、水重の美しい造形の横顔に一瞬、左馬之助もこの世のものとは思えぬほどであり、息を飲んだ。
 水重は左馬之助が姿を現していることに気づいているはずだが、気にもとめていないかのようだった。
 目上の左馬之助に対して礼を失した態度ではあったが、左馬之助は何も言わずに、まだ少年の水重の横に腰を下ろした。
 そして、水重に今回の縁談の件を説明する。
 聞いているのか、聞いていないのかも分からぬ水重にはるかに年上の左馬之助が、最後に頭を下げると、ようやく水重は顔を左馬之助に向けると、眉一つ動かさず口を開いた。

「では、そのように」

「……!」

 この時、さすがの左馬之助もこの少年の異質さを強く感じ取ってしまう。この少年の傲慢な態度ということでない。
 この少年の目には誰も映っていないのだ。
 どのようなことも、どのような者も、この少年にとって気にもとめるほどのものはないと突きつけられたような感覚を覚えた。

「お気になさらずに。この度の縁談はこの水重に必要がなかったということでしょう」

「……」

「すべて、目の前の事象は必要がなければ追うこともなく流れていくもの。それは誰にとっても当たり前のことではないですか?」

「ふむ……では、必要になったらどうします?」

 水重は左馬之助の問いを聞くと、水重はクスッと僅かに笑みを見せる。

「それは私にですか?」

「そうです」

「私に必要なものですか……そうですね、そうなれば動くこともあるでしょう」

 水重はそれ以上、何も語らなくなり、また中庭の方へ前を顔を向けたので、左馬之助は立ち上がり三千院家をあとにした。



「前にも言ったが、あの者にとってそれは些事にすぎん。むしろ、そのような心を持ち合わせていれば、縁談も成立したかもしれん。あの者の戦いを見て、その実力には驚いたが、その本質はあの頃と何も変わっていないことがわしには分かった。あの者は何者にも心を動かさん。それは生来の性格か天才故の孤独か、もしくは……我々とは違う何かを見ているのか……。何にせよ、余人には解らぬものを持っているのだろう。大祭を開いておいて、こう言っては何だが、できれば……あの者を四天寺に招きたくはないものだ。お嬢のことを想うと尚更な……。おっと、これは失言だったな、忘れてくれ」

「……」

「……そうなりますと、余計に知りたいですね。何故、この大祭に参加をしてきたのでしょう? 彼の目は一体、どこに向けられているのでしょうか?」

 早雲のその言葉はここにいる全員の代弁でもあった。
 特に瑞穂を気遣う心が強い明良や日紗枝にとって、水重の存在や今回の行動に得体のしれないものを感じてしまう。
 これだけの実力を持ち、聞けば、実家である三千院家や親兄弟にすら、心を動かさない人間が一体、四天寺家に何を求めてきたのか。

「ふむ……そうだな、それはわしも正直……いや、もう大祭は始まっておるのだ。あとは結果を見守るしかない。こうして我々が試合を吟味しているのも、人選をしているわけではない。それは大祭が決める。しているのは、この四天寺に仇をなす意図があるかどうかを監視、もしくはそうなったときの対処方法を備えておくことなのだからな。まあ、そういう意図があるのなら、奥の手は見せんかもしれんが、力の系統は分かる」

 全員が沈黙をし、それぞれに考えを巡らしていたが、その沈黙を早雲が破った。

「それで……もう一人は誰です? 気になると言うのは」

「はい……その前に、先ほども名前が挙がっていましたが、ダグラス・ガンズ、ジュリアン・ナイト、そして、ヴィクトル・バクラチオンなども相当な実力者です。それにまだまだ、そのすべてを見せていないのでは? とも思わせました」

「うむ、では……剣聖はその中の」

「いえ……堂杜祐人ですね」

「むう……!?」

 剣聖の挙げた名に左馬之助と早雲は、思わず唸る。
 日紗枝も若干、驚くような顔をしたが、すぐにそれぞれが考え込むような態度になった。
 明良は驚くこともなく、ニッコリと笑みを見せる。

「堂杜祐人……ですか。いや……堂杜祐人ですね」

 べつに剣聖がどの能力者を挙げても不思議はなかった。
 それほど、どの能力者も光るものがあったのだ。
 だが、剣聖が堂杜祐人と言った途端に、左馬之助たちも思うところが出てくる。
 祐人の見せたその戦いは、祐人の圧勝、瞬殺である。それは誰が見ても、祐人の優秀性はすぐに分かるだろう。
 だが、それだけではないのだ。
 そのわずかな時間の戦いの中に、経験豊かな左馬之助、早雲には感じるものがある。それは祐人の事前情報を持っている日紗枝でも同様だった。
 それは言葉にするには難しい。
 同じく圧勝し、底知れないものを感じさせたのは三千院水重だ。
 観客にまで言葉を失わせたのも三千院水重。
 しかし、祐人のものは、それと質が違う。
 百戦錬磨の人間が持つ勘といえばそれまでだが、祐人の見せた戦闘からは……その結果を自然のものと頭のどこかで納得してしまっているのだ。
 まるで堂杜祐人とあと100回戦っても、あらゆる堂杜祐人対策を講じたとしても、同じ内容になると思ってしまう……いや、それを当然のものとすら考える自分がいる。
 この少年を見るのは、左馬之助などは初めてなのにもかかわらずだ。

「お嬢と共に闇夜之豹を叩いたという実力は、嘘ではないようだ。いや、この少年が主力だったと言われても今なら納得することができるな。一体、何者なのだ、この少年は。堂杜などという家も聞いたこともない。当初から朱音様の気に入り様も普通ではなかったが、今となっては、さすがは朱音様と言うべきだ」

「この少年は機関所属だね。ランクはDだと記載されているが日紗枝は知っていたのかい?」

「おい、日紗枝、これでランクDなわけがないぞ。どういうことだ」

「はい、ただ……私も堂杜祐人君の名を聞くようになったのは最近です。機関もこの少年を測りかねているのが実情です。それも彼の残した実績があまりに大きいので、私たちも戸惑っていました。左馬之助様の仰る通り、その実力はランクDとはかけ離れたものです」

「ランクDということにも驚いたが、これだけの能力者が無名だとは……信じられん」

「気に入りましたか?」

「何だ、嬉しそうだな、明良」

「いえ、でもそうですね。ようやく彼が正当に評価されたことは正直、嬉しいです。私は彼に数度、命を助けられていますので。私にとっては恩人でもありますから」

「それは本当か!?」

「はい、本当です。彼は孫の命の恩人でもあるんです、お爺様」

「そんなことを笑って話すな! それとお爺様も……まあ、ここではいいか。しかし、これは優良株だな。これだけの実力があって、お嬢と同い年。なによりも能力者の名家にあるような面倒な系譜もないとは……」

「はい、しかも瑞穂様もまんざらでもない様子です」

「ちょっと、明良君……!」

「ですが日紗枝さん、事実ですよ。しかも、朱音様の一押しです」

「むむむ……! それなら、そう言ってくれれば、このような大祭を開かずとも……」

「それはですね、お爺様の頭が固いからですよ。こうでもしなければ、分からないでしょう」

「何だと! 実力を示すだけなら、こんな回りくどいことをせずとも、うちのものと手合わせさせれば良いではないか!」

「それには色々と事情があるんです。まずは祐人君に結婚の意思はないので」

「は!? では、何故、参加してきたのだ!」

 この左馬之助の質問に、待ってました! という表情を明良は見せた。
 その内幕を知る日紗枝は乾いた笑いを見せ、剣聖は素知らぬ顔でお茶に手を出す。

「分かりました。ではこの経緯を説明しましょう」

 明良がこの大祭の開催の経緯を説明しだすと、左馬之助の顔が歪み、唖然とすると、最後には脱力した。
 早雲は思わず笑ってしまう。

 この話し合いの後、祐人は四天寺家の人間たちに、影で「婿殿」と呼ばれるようになったりする。



 部屋をあとにすると、剣聖は頭が痛そうにしている日紗枝と楽し気にしている明良に深刻そうな顔で話しかけた。

「日紗枝、明良君、ちょっと伝えておくことがあるんだが」

「うん? 何? アル。今、ちょっと疲れてるんだけど」

「さっき、言うのを忘れたんだが、参加者の中にとんでもないのが混じっている」

「え!?」

「剣聖、それは……?」

「あれは多分……いや、間違いなく……仙人がいる」

「「はーーーー!?!?」」

 二人は跳びあがって驚く。

「それも……堂杜祐人君の次の対戦者だよ」

 思考回路が硬直した明良と日紗枝だった。



「魔界帰りの劣等能力者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く