魔界帰りの劣等能力者

たすろう

トーナメント戦⑨


「しかし、どこもすげーな。これが現実の戦いかよって思ってしまうわ。この臨場感は最新の映画でも味わえねーぞ!」

 一悟が各試合を映し出す大型モニターを見ながら興奮気味に唸ると、その横では小柄な体を伸ばすように立ち上がって大声をあげる静香がいた。

「すごい、すごい、すごい! ちょっと! あんた! そこは逃げるな、男だろ! ああ! 何!? その技!」

「痛っ! おい! 水戸さん、落ち着けって!」 

「馬鹿者! こんなの見せられて、落ちついていられるか! おお! 跳んでるよ! あの人、10メートル以上は跳んでるって! こんちきしょー」

「こんちきしょー、って……あんた」

 元々、格闘技が好きだった静香のテンションはマックスで手が付けられない状態になっている。
 三千院水重の第1試合、祐人の第8試合は早々に終了したが、今はどこの試合会場も動きを見せていた。
 このトーナメントの勝者は、次の日も他の試合を勝ち抜いたものと戦うことになるという非常に厳しい日程が組まれている。そのため、今日のこの試合に時間をかけて消耗することは避けたいという心理が働くところがあった。
 そのため、どの試合会場も手の内を見せ始めた能力者たちに会場も盛り上がっている。
 特にニイナたちは、次の祐人の相手になる第7試合を中心に観戦していた。
 もちろん、静香もそのはずのなのだが、茉莉が「こうなった静香はもう……放っておくしかない」と言ったので、放置した。

 その第7試合会場。
 他の試合会場と比べると、もっとも何も起きていない会場だった。
 というのも、この第7試合の黄英雄とてんちゃんという対戦者はまだ、エンカウントしていないのだ。英雄の方は必死に試合テリトリー内を索敵しているのだが、まったく対戦者であるはずの能力者が見つからない。
 英雄も当初は罠の存在を警戒したが、元々、我慢強い方ではない英雄はすぐにしびれを切らし、テリトリー内を自由に走り回っている。

「ああ、何だかなぁ……お兄ちゃんは何をしてんの? あれ」

 もう、飽きてきたという感じで、秋華がぼやく。

「琴音ちゃんのお兄さんはすごいよねぇ! すぐに倒しちゃったし。そういえば、お兄さんのところには行かないの?」

「いえ……うちの兄は、そういうことを望まれる人ではないので」

「そうなの? なんだか冷めてるね」

「……」

「でもいいよ! すぐに結果を出してるんだから! それに比べてうちのお兄ちゃんは……」

 秋華の見る第7試合のモニターに琴音も顔を向けた。

「でも……相手がまったく出てこないのでは、秋華さんのお兄様もどうしようもないのではないでしょうか?」

「それよ! そんなのすぐに見つけて、戦いなさいって言いたいのよ。今朝、試合前に私に向かって、この兄の勇姿を目に焼き付けておけ! あの不埒な野郎を叩きのめしてくるからな! って言っておいて、これだからなぁ。ほら見てよ、あのお兄ちゃんの表情……あれ、相当、頭に血が上ってるわ」

 秋華の言う通り、モニターでも分かりやすいぐらいに額に血管を浮き上がらせている英雄が見える。

「もう、いいや、つまんないし」

「え!? 最後まで見ないんですか? あの……応援は……」

 つまらなそうに立ち上がろうとする秋華に琴音は驚く。

「もちろん、応援はしてるよ。一応、私のために頑張るって言ってくれてるし。でも別に見てなくても応援してればいいでしょ? もし勝ったら、すごい褒めてあげるよ。それだけでうちのお兄ちゃんは大喜びだから。単純だからね、うちのお兄ちゃん」

「……。いいお兄様ですね、すごく……」

「うん?」

「いえ……」

「あ、そうだ! 堂杜のお兄さんはどうしてんのかな? あの人、見た目によらず、めちゃくちゃ強かったじゃない! ちょっと、探しにいってこようかな! 琴音ちゃんも行く?」

「え!? それはやめた方が……試合が終わったばかりで、堂杜さんも疲れているかもしれないですし……」

「大丈夫だよ! あっという間に倒したんだから、きっと疲れてなんかないよ。ちょっと、すごいね、って褒めてあげるだけだから」

「で、でも、今回、私たちは、堂杜さんの対戦者の関係者ですし……。堂杜さんにしてみれば、敵の妹ですから、私たちに労われても、困るだけじゃ……」

「え? 何を言っているの? 琴音ちゃん。私たちが勝ったのを労ってあげたらきっと喜ぶに決まってるじゃない」

「……そ、そうでしょうか?」

「当り前よ! だってこんなに可愛い私たちが労ってあげるんだよ? こんな贅沢は世の中に存在しないもん。それにあの人、誰にも応援されてなさそうだし。可哀想でしょ?」

 たしかに祐人は一人で来ているようだった。従者もいるような感じではない。
 琴音は試合前に祐人を送り出したときに、頑張って、と思わず伝えたときの嬉しそうな表情で手を振ってくれたことを思い浮かべた。
 すると、不思議と琴音も心が軽くなるのを感じる。

「そうですね……少しくらいなら、応援しても。あ、もちろん、お兄様の次にですが」

「もちろん、私もそうだよ。ふふん、じゃあ、行こうか」

 鼻歌を歌うように機嫌の良い秋華。
 その秋華を見ていると、琴音はある疑問が湧いてくる。

「あの、いいですか? 秋華さん」

「うん? なに?」

「秋華さんは何故、堂杜さんに……その、関わろうとするのでしょうか。ごめんなさい、深い意味はないのですけど」

「うーん……なんか面白いんだよねぇ、あのお兄さん」

「面白い……ですか?」

「うん! だってさ、あのお兄さん、機関のランクはDなのよ? あんなに強いのに。おかしいと思わない? 初めて話した時も私の関節技を簡単に抜けていったしね!」

「……関節技ですか?」

「私はねぇ、こう見えて鋭い人間なの」

「はあ」

 秋華の言っている意味が分からない琴音は首を傾げる。

「それに……この大祭での目立ち方。さっきの四天寺のアナウンス聞いた? あれはまるで、堂杜さんを四天寺家が全力で推しだしているみたいじゃない。堂杜さんって間違いなく無名よ? それなのに、おかしいでしょ?」

「たしかに……そう言われてみれば」

「琴音ちゃん、単刀直入に聞くけど、あの堂杜お兄さんのこと、どう思う?」

「え!? そそそ、それはどういう意味ですか?」

「いいから! どんな人か? っていう印象よ、第一印象!」

 そう言われ、咄嗟に琴音は祐人の出会ってからの会話や祐人の仕草、表情を思い出す。

「……分かりませんが、いい人……だとは思います。あ! 別に、男性としてとか、そういう意味では……」

「でしょう!? あれはいい人よ! それで間違いなくお人好し! この世界では珍しくね。でも、それだけじゃない顔も見せる」

「……」

「もしかしたら……だけど、超優良物件かもよ、琴音ちゃん! 私たちみたいな、変な家に生まれた女の子にとって!」

「……? それは、どういう意味でしょうか?」

「しかも、なんでも言うこと聞いてくれそうだし! 行くわよ、琴音ちゃん!」

「あわわ! は、はい!」

 秋華に強く手を引かれて、琴音は観覧席を後にした。
 それと同時にジュリアン・ナイト、ミラージュ・海園の第3試合の攻防に大歓声が生まれ、そしてついに、黄英雄のいる第7試合でも動きが見えたのだった。




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