魔界帰りの劣等能力者

たすろう

トーナメント戦⑦



「何よ、あのお兄さん、すごい強いじゃない!? 何なの? 何なの? 本当にランクD? 絶対嘘よ、あんなに強くてランクDなんて!」

 秋華が驚きつつも楽しそうに騒ぎ、自分の従者や祐人と別れ後に何となく行動を共にしている琴音の肩に手をかけた。

「す、すごい……堂杜さん」

 琴音も実は兄、水重の第1試合の次くらいに祐人の第8試合の会場を見ていたために、驚きを隠せないでいる。
 それは琴音も能力者の端くれでもある。祐人の相手となったバガトルが相当な実力者だと分かるのだ。 あれだけの霊力による罠を瞬時に張り巡らし、操る精神力と実戦経験の豊富さが伝わってきていたのだ。
 それなのにもかかわらず、結果だけを見れば祐人の瞬殺……といって差し支えない内容。
 まだ、世間知らずの琴音であるがモニター越しとはいえ、実戦の緊張感のようなものも感じ取っており、その戦闘の迫力は息をするのも忘れたくらいである。

「いやー、期待は全くしてなかったんだけど、あれなら本当にお兄ちゃんが負けても平気かもね~」

「……え? 秋華さん、それって……」

「でも、面白いことになったなぁ。あんなに強いとは予想外。あ、そうだ! あとであのお兄さんの連絡先を聞いとこっと」

「……あ、秋華さん?」

 困惑しながら秋華を見つめる琴音に意も介していない秋華は琴音に顔を向ける。

「あ、琴音さんのお兄さんは、どう?」

 自分の兄よりも他人の兄の様子を聞きに来る秋華に何とも言えない感覚を覚えるが、琴音は表情を消すように応える。

「兄なら大丈夫です」

「そうなの? 第8試合だっけ?」

「はい……兄を心配することは、意味のないことですから」

 琴音の抑揚のない返事に秋華は僅かにだが首を傾げた。



 祐人の戦いぶりをおさめた映像を何度も確認する四天寺家重鎮たちと日紗枝、アルフレッドは相も変わらず沈黙し腕を組んでいる。
 そして、もう一度、その映像を巻き戻せとの指示で明良がその動作をしようとした手が止まった。
 それと同時に、日紗枝や左馬之助たちも急に顔を上げる。

「何だ!? 精霊たちが……!」

「これは、精霊が……まるで支配されて」

 突然、目の前の上級精霊使いたちが同時に何かを感じ取ったように表情を硬くしてるのを見て、アルフレッドは眉を顰めると、大型モニターの方に視線を移した。

「あ……申し訳ありません! 第一試合の会場に動きがありますーー! いえ、第二、第五会場にも動きがあるか?」

 精霊使いでもある司会者も一瞬、遅れたように大きな声で実況を再開すると、大型モニターには三千院水重と対戦者であるアルバロが映し出されてる。
 自然体で表情ひとつ見えない水重に対し、呼吸の荒いアルバロは互いに15メートル程の距離で対峙していた。

「この俺が、こんな引きこもりの優男に……!」

 アルバロは憎々し気に、水重を睨みつける。
 今のアルバロの表情に余裕や冷静さはみられない。むしろ、自信を失いかけ、勝利への道筋が見つからない状況に追い込まれているのだった。

 アルバロはスペイン出身の能力者で機関に所属している能力者である。フランス支部に所属し、支部内では誰もが認める実力者でもあり、その主力の一人とさえ言われている。
 その主力とまで言われているアルバロの機関におけるランクはBであった。
 だが……その実力はそれ以上とフランス支部幹部たちには認められている。
 何故か?
 それはアルバロがランク昇格に関わる試験に顔をださず、また、実績によるランク昇格を拒んだのだった。そのためアルバロのランクはBなのである。

 アルバロの性状は好戦的で挑発的、そして相手を見下すような態度を示すことが多く、それは戦いの最中においても変わりがない。
 ただ、興味深いのはアルバロの得意能力は、そういったアルバロの性格や態度とかけ離れたもののように感じられる点だ。
 それは相手の能力の反射、誘導、そしてカウンターである。
 相手の攻撃を冷静に見切り、相手の能力の特徴をも瞬時に解析、把握しなければ、できない芸当であり、またそれに伴い、非常に柔軟な霊力コントロールが必要となる。
 この表面上のアルバロと相反する能力は相手になる人外、能力者の意表を突くことが多く、数々の依頼において実績を上げてきた。
 それで、その戦いぶりから、アルバロについた二つ名は【闘牛士】であった。
 だが、今のアルバロにその面影は見られない。

「おら、名前ばかりのお坊ちゃん! 来ないならこっちから行くぜ!?」

 アルバロが大きな声で水重を誘う。
 水重は眉一つ動かさず、また精霊使いとしては不得手と言われてる準接近戦にもかかわらず、軽く拳を握る動作を見せた。
 それが術の発動であるとアルバロは理解する。だが、それが自分の挑発に乗ったのか、乗っていないのかも分からない。
 アルバロは再び霊力で編まれたマントを取り出し、水重の攻撃に備えた。
 先ほどは中距離で四方から風を操られ、しかも間断ないその攻撃を十分近く受け続けたために、カウンターはままならず、必死に霊力マントによる誘導でとにかく身を守る羽目になった。
 しかし、今は精霊使いの得意レンジではない近距離。
 調子に乗ったのか、または実戦経験の無さか、水重が自ら近づいてきたのだ。

(この野郎……。だがこの距離なら……うまく散らして、この優男の懐に入り込んでやる! ……は?)

 一瞬、アルバロは目を疑う。というのも、水重が自分に背を向けてこの場から去ろうとしているのだ。 それはまるで、自分がどんな奴か一目見に来ただけと言わんがばかりの態度。

「て、てめえぇぇ!! 何処に……何ぃぃ!?」

 突如、アルバロのいる周囲の地面から水が吹き上げてアルバロを包みだす。
 慌てたアルバロは跳びあがり、マントを下方に広げると上方からも多量の水がまるで生き物のように襲ってきた。

「ぬう! こんなもので!?」

 アルバロは四方からの水の動きを計算し、自分以外の場所へ誘おうとする。
 だが、その大量の水はアルバロに接触する直前に止まり、広がり、全方位、穴のない球状の形をかたどり、それは水のボール状の監獄と化した。
 水は上下左右、360度から徐々にアルバロに迫り、そして今も水は供給され続け水の監獄はさらに巨大化していく。
 アルバロに、もう抗う術はなかった。
 アルバロはその水の監獄の中で必死にマントを振り回す。水により外にはアルバロの声は届かない。
 四天寺家の中庭の静寂の中でもがくアルバロも、しばらくするとその動きも止まり完全に意識を失ったのだった。



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