魔界帰りの劣等能力者

たすろう

怪しい参加者③



「……」

(き、気まずい……)

 今、祐人のいるソファー席にはジュリアンと祐人を含め5人が向かい合い座っている。
 先ほどのジュリアンの発言もあってか、この席に混ざって来たこの大祭の参加者たちのピリピリした空気が伝わってくるようだった。
 祐人はグラスを両手で持ちながらここにいる人間たちをさりげなく観察する。
 祐人の横にはジュリアンが座り、そのコの字型に配置されているソファー右側の一人席にはやや赤茶色をした長髪の男が楽しそうに座り、正面には二人が右から黒髪短髪の目つきの鋭い男とその隣にまるで焦げたようなぼさぼさ髪をした男がこちらを値踏みするように視線を送りつつウイスキーをストレートであおっている。

(この状況で……どう切り出せばいいんだ?)

 祐人はそう思い溜息をついて、このような状況を作ったジュリアンに目を向けるとジュリアンは、ニヤッと笑い、無邪気な声を上げた。

「まあ、こうしてても始まらないから、自己紹介でもしましょうか。僕はジュリアン・ナイト。機関には所属していないけど、まあまあ強いと思うよ。それでお兄さんたちは?」

 ジュリアンが突然、元気な声で切り出すと正面に座る目つきの鋭い男がジロリとジュリアンを見つめる。

「……チッ、まあいい。俺はアルバロだ。機関ではマドリード支部所属だ」

「へー、聞いたことがあるよ。カタルーニャの【闘牛士】じゃない」

「! ……知ってやがったか」

「そりゃあ、ね。それで横の方は?」

「私はバガトルで覚えておいてもらう」

「ふーん、機関には所属してんの?」

「……以前はな。今はフリーだ」

 ジュリアンが音頭をとるこの自己紹介を祐人はそれとなく観察していた。

(……それぞれに実戦経験は深そうだね。でも、ここに来た目的を確認しないと……単純に四天寺の名なのか)

「ああ、俺の番かな? 俺はダグラス・ガンズだ。今は機関のニューヨーク支部に世話になっているよ! よろしく、少年たち! いいねぇ、若いってのは。あ、言っておくが俺も若いぞ?」

 突然、ザワっとしたように視線がダグラスに集中した。この席に来ていない参加者たちもこちらに集中したように祐人は感じ取った。

(うん? みんなの雰囲気が……。あ、そう言えば確か……この人がランクAの!)

 祐人は事前に勝ち抜いた参加者たちの名前とニイナたちから聞いた簡単な情報を思い出す。アルバロとバガトルについての情報はほぼなかったが、ダグラス・ガンズについてはそれなりに情報がまとめられていたのだ。

(それだけ大物ってことか……)

「うわー、あんたがランクAの。こちらこそよろしくお願いしますよ、ダグラスさん」

「ハハハ! ここにきてしまえば、ランクも何もないさ! あるのは、花嫁を奪いに来た男たちってことだけだろ? いやあ、俺もそろそろ身を固めようと思っててさ、そうしたらこの四天寺の祭りの話を聞いてね。しかも、あの美少女が結婚相手だって言うじゃないか、これは男として参加しない手はないだろう! いいねえ、黒髪美少女の花嫁! ありゃあ、将来も楽しみないい女になるぞ? うんうん。10年経っても20台半ば! 素晴らしいね。あ、少年たちには分からないか、同世代のようだし」

 いかにも陽気で社交的なアメリカ人といったダグラスは、顔をにやけながらグラスを傾ける。

「ふふん……ダグラスさん、おもしろいね。もしかして、単純に結婚を?」

「おお、そうだ! 俺は婚活中なんだ! ハッハッハー!」

「「「「……」」」」

「……え? 君らもそうだろ? まさか、違うの!? あんな美少女だぞ!?」

 ダグラスは全員の反応に驚いた顔で祐人やアルバロたちにも目を向けてくる。

(ああ……こういう人もいるんだ。そりゃ色々な人が来ているとは思っていたけど)

 祐人は愕然としているダグラスを半目で見つめる。だが、悪い印象ではない。むしろ、目的としてはある意味、真っ当ともいえる。
 しかし、祐人以外の反応は冷めたものだった。

「ふふん、ロリコンだね……お兄さん」

「あのダグラスが……こんな野郎だったとはな」

「……くだらん。本音なら……笑えんな」

「あ、あら~? アハハ……おかしいな。何も変なことは言っていないつもりなんだが……。おかしいかな? 少年」

「え? あ、おかしくはないと……思います」

 祐人は力なく問い返られて引き攣った愛想笑いを作りながら、返答する。
 すると凹んだように肩を落とすダグラスはマスターにバーボンのおかわりを注文した。

「で、お前は? さっき随分と大言を吐いていたな。ここにいる奴らで自分に敵う奴はいない、とな」

 アルバロが鋭い視線で祐人を射抜く。

「ええ!? それは僕が言ったんじゃ……」

「早く名乗れ、俺たちのことを探りに来たんだろ?」

「あ、はい。僕は……」

 そこに新たな客がラウンジに慌ただしく入ってきた。
 そのまだあどけなさの残る風貌の少女はラウンジ内を素早く確認すると、祐人のいる方向でその顔を固定する。

「どうもり……」

「堂杜祐人さん! ここに身を潜めていましたか!」

「へ!?」

 突然、大きな声で呼ばれて驚く祐人はその声の主に頭を振ると、そこには肩まで伸ばした黒髪に普段は優しげだろう目を吊り上げた少女が自分を見下ろしている。
 ちなみに誰も気づかなかったが、この少女の発した「堂杜祐人」という言葉にカウンターにいるマスクを被った参加者が飛び上がって驚いていた。
 ダグラスは突然現れた息の荒いその少女を確認するとヒューと口を鳴らして笑顔を作る。

「あなたに聞きたいことがあります!」

「えっと……き、君は?」

「……覚えていないんですか、どれだけ失礼なんですか、あなたは」

「ええー? 本当に知らない……うん? あ! 確か、三千院水重さんのところにいた……」

「琴音です! 三千院水重は私の兄です! あなたという人は私を馬鹿にしてるんですか!?」

 三千院の名が出るとジュリアンは目を細め、アルバロとバガトルはジロリとこの少女に目をやる。

「ちょ、ちょっと、待って! 名前までは聞いてなかったよ!」

「あの時、お兄様が私の名を呼びました! ああ! お兄様の話を聞いてなかったんですか!? あなたという人はどれだけ……お兄様のお言葉を聞いてないなんて」

 ワナワナと拳を握る琴音に、何故、ここまで怒られているのかも理解できない祐人。
 すると満面の笑みでダグラスが間に入る。

「まあまあ、落ち着いて。琴音ちゃんでいいかな? とりあえずここに座りなよ。話があるんだろ? この……堂杜君だったけ?」

「……あなたは誰です?」

「俺はダグラス・ガンズ。ダグラスでいいよ。あ、呼びづらかったらダグちゃんでも……」

「邪魔です!」

「あら!」

 琴音は祐人に近づいてくると、祐人の顔の前に指をさす。

「あなたは怪しいです!」

「……怪しいって!? 僕が?」

「あなたが外から帰って来たのをお兄様が気づいたんです!」

「あ……」

(……屋敷に入るところを見られたのか? でも、それだけでこの扱いは一体……)

 祐人にしてみればそれ以外の行動については誰にも気取られたとは思っていない。それだけ注意して行動していたのだ。

「えっと、水重さんが怪しいと言っていたんですか?」

「言ってません!」

「……へ?」

「でも、じゃあ、さっきまで外でウロウロと何をしていたんですか!? 何か良からぬことを企んでいるんじゃないですか!?」

「え……? ええーー?」

(ああ……僕が誰か良からぬことを考えていないか見回りしてたんだけどな……)

「全人類を騙せても、お兄様の目は誤魔化せません!」

「そ、それを水重さんが?」

「そこまで言ってません!」

「……」

(こ、これは、どういう状況? ただ、入ってくるところを見られただけだよな……)

「ちょっと待って、琴音さん。僕は何も怪しいことはしてないから! ちょっと外の空気を吸ってきただけだよ」

「!! じゃあ、お兄様が勘違いしたと言うんですか!? あなたは……!」

「ああ、なんかもう……噛み合わないよ~」

 琴音の剣幕に一瞬の静寂が起きると、ジュリアンが笑いだす。

「あははー! 面白いね、堂杜君は!」




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コメント

  • ノベルバユーザー12245

    とても面白いです。次が早く読みたいです!

    4
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