魔界帰りの劣等能力者

たすろう

怪しい参加者②


 祐人は一旦、自分の部屋に戻るとすぐに今回、予選を勝ち抜いた者たちに用意されている一階の奥にあるラウンジに向かった。

「人は集まっているかな……?」

 ラウンジの前の扉には四天寺の人間が立っており、祐人の姿を確認すると「堂杜様ですね、どうぞ」と扉を開けてくれた。
 ラウンジに入ると、中は思っていたよりも広く、薄暗い照明に照らされ、カウンターとソファー席が数か所に渡って設置されていた。祐人は経験したことはないが、イメージとしてはシティーホテルにあるバーのような装いに見えた。
 とりあえず祐人はゆっくりと中に進み、ラウンジ内を見渡すとすでにラウンジを利用している参加者たちやその従者と思しき人たちを確認する。

(思っていたよりも、利用者が多いな……。とりあえず、様子を見ながら接触していこうか)

 祐人はカウンターに向かい、このラウンジのマスターらしき人に飲み物を頼もうと移動する。祐人は何方向からの強い視線を感じながらカウンターの席についた。

「すみません、僕でもなにか飲めるものあります?」

「はい、お好みはありますかな? 甘いものか、すっきりしたものか」

「じゃあ、すっきりしたものを。あ、アルコールは抜きでお願いします」

「承知いたしました」

 慣れない感じで祐人がカウンター越しにいる蝶ネクタイをした初老のマスターに声をかけると、マスターはテンポよく応じてくれた。
 祐人はさりげなくラウンジにいる人間たちに目を配る。すると、数人と目が合い、中には真剣な顔でこちらを睨む者やニヤニヤとしている者もおり、少々居心地の悪さを感じる。
 ラウンジ内は既に参加者同士で会話をしている者や、従者とアルコールを交わしている者、また、祐人と同じく一人で来ている者もいた。
 分かっていたことであるが、今回の勝ち抜いた参加者のほとんどが大人であり、こういったラウンジの雰囲気にもなじんでいるように見える。

(ううう、これじゃ、さりげなく接触しにくいよ。しかも、ちょっと注目されているような……)

 一介の高校生でもある祐人にとって、このような大人の雰囲気たっぷりの場がどうにも落ち着かない。
 すると、マスターからライムの刺さったグラスが差し出される。

「どうぞ」

「あ……ありがとうございます」

 緊張気味な祐人は差し出されたグラスを瞬間的に手に取り、すぐに口に運んだ。

「やあ、たしか堂杜君でしょ? 勝ち抜いたんだねぇ」

「え?」

 意外にも声をかけられて振り向くとそこには自分と同世代のニコニコしているブロンド髪をした少年が立っていた。

「君はたしか……」

「僕はジュリアン・ナイトだよ」

「ああ……」

 祐人は予選直前に数言だけ言葉を交わした少年だと思い出した。
 そして、勝ち抜いた参加者たちの名簿にその名があったことも確認していた。
 他の参加者を探るという意味でいえば、この少年もその一人である。

「一人で来たんでしょう? せっかくだから、向こうで話をしようよ。僕も退屈していたからさ」

「う、うん」

 周りを憚らないテンションのジュリアンに主導権を握られた感じで祐人は思わず頷く。
 すると周囲を見渡したジュリアンは空いているソファー席を見つけると指をさし、祐人を促した。

(そうだね……まずは話しやすそうなところから探っていくのも悪くはないか。何か情報を持っているかもしれないし)

 内心、祐人はそう考え、グラスを手に持ちカウンターの席からおりて、ジュリアンのあとに従った。

「それにしても、君もここに来るとは思わなかったよ。あんまり慣れた感じじゃなかったからね。実際、少し浮いているし。背伸びしなくてもいいのに」

「あはは……そ、そうかな」

 同世代に明るく無邪気な感じで、そのように言われて乾いた笑いをする祐人。
 さらにラウンジ内では自分たちに注目が集まっているのを感じて、それは苦笑いに移行する。
 ジュリアンは機嫌良さそうにソファーに腰をかけようとすると、分かった! と言わんばかりに大きな声を上げた。

「ああ、なるほど! 堂杜君!」

「な、なに?」

「もしかして君も参加者たちがどんな連中か探ろうとここに来たのかい? じゃあ、僕と一緒だね! まあ、ここにいる他の人たちも似たようなもんだろうけど」

「うえ!? いや! 僕は……!」

 祐人はいきなり自分の目的を言い当てられ、しかも大きな声で指摘されて狼狽える。

「あはは、隠さなくてもいいよ!」

 楽しそうに腹を抑えながら笑うジュリアン。
 ラウンジ中にその声は響き、不穏な視線を一身に浴びる羽目になった祐人は冷や汗をかいて、視線から逃れるようにソファーに腰を下ろした。

「ジュリアンさん! 僕はそんなつもりはないから。それに声が大きいよ!」

「探りにきたのは、参加者の素性? それとも実力かな? それなら、大丈夫だよ! ここにいるほとんどは僕らの相手にはならないから。心配しないでいいって!」

「いぃ! ちょっと!」

 失礼なことを平気で、しかも無邪気に言い放つジュリアン。
 祐人は慌てて周囲に顔を向けるが、明らかに険悪な空気がラウンジ内を覆っているのが見てとれる。

(もう、なんなの!? この人!)

 祐人はとにかく話題を変えようとジュリアンに口を開こうとした時、ジュリアンに手で制止される。

「……ほら、釣れたよ、堂杜君」

「え……?」

「おい、小僧ども、楽しそうにしてるな。俺たちも混ぜろや」

「!?」

 低音の声で背後から話しかけられて祐人が恐る恐る振り向くと、そこには今回の参加者たち数人が肩を上げて立っている。

「色々と俺たちのことを知りたいんだろう? だったら、一緒に飲む方が早いだろ。お互いに……な」

「そうだね、さっきの君たちの発言も気になることだしね。一緒させてもらうかな」

 ニヤリと笑う先輩能力者たちを見上げて祐人は引き攣った笑顔で応じた。

「あ、どうぞ……」

「あはは、良かったね、堂杜君! これでいろいろと聞けるねぇ! ……僕としてはもう一人の気になる人がいなくて残念だけどね」

「え……?」

 ジュリアンのつぶやきに祐人は反応するが、ジュリアンはどこ吹く風でグラスを傾けている。
 こうして結果的に他の参加者たちとの接触には成功した祐人であった。



 この時、カウンターには新たに入ってきたマスクを被った小柄の参加者がカウンターに座り、ラウンジ内の剣呑な雰囲気に我関せず陽気な声でビールを注文していた。

「マスター! とりあえずビールを5杯ほど頼む! それとつまみもな! ぬふふ、いやー、中々良いものを見た。ぬふふ、最近の娘は育ちがいい……ぐふふ」

「承知いたしました」





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