魔界帰りの劣等能力者

たすろう

過去と現在


「う……」

「あ! 目を覚ましたよ!」

「……静香。わ、私は……?」

 茉莉は明良に用意してもらった和室の客室で頭を押さえながら目を覚ました。

「茉莉さん、大丈夫ですか!?」

「ニイナさん……」

「茉莉さん無理しないでいいですよ。気分はどうですか?」

 マリオンは起き上がる茉莉の上半身を支える。

「あ、大丈夫です。でも私どうして……」

 マリオンたちは自分自身に何が起きているのか理解していない感じの茉莉を見つめると、互いに顔を見合わせた。

「茉莉はさっき、調子を崩して倒れたのよ?」

「え!? 私が? 何で? 私、そんなに調子が悪かったことはないんだけど……」

「「「……」」」

 茉莉を見つめていたそこにいる全員はマリオンに目を移すとマリオンは静かに頷く。
 その様子に気づいた茉莉は怪訝そうな顔で友人たちを見つめた。

「茉莉さん……驚かないでね」

「な、何? どうしたの? マリオンさん」

「茉莉さんの不調の原因なのだけど……」

「……」

「茉莉さんはね……」

 そこに障子が開き、電話をしに部屋の外に出ていた一悟が戻って来た。

「お、白澤さん! 目を覚ましたの!?」

「ちょっと! 大事なところなんだから! 空気を読みなさいよ、袴田君!」

「な、何だよ……水戸さん、それに大事なところって……あ、白澤さんが能力者って話?」

「……え?」

 一悟の言葉に茉莉は目を広げる。

「能力者? な、何? その話……ちょっと、冗談なら後にして……」

「あちゃー、この馬鹿BL!」

「グハ! BL言うな! な、何だよ、何だよ、痛!」

「本当に駄目な人ですね、袴田君は! あ、BLってそういう意味ですか? どんな略なんです?」

 騒がしくしている静香たちを横目にマリオンは狼狽える茉莉に真剣な顔を向けた。

「……マリオンさん?」

「茉莉さん。茉莉さんはね、能力者よ。間違いなくね」

「……!? マ、マリオンさんまで……何を?」

「私は茉莉さんが調子を崩すとき……霊力が出ているのを感じたの。それと……袴田さんは知っていたみたいなんです。茉莉さんが能力者であること」

「……え? 袴田君が? それはどういう……私はいたって普通の……」

「まあまあ、落ち着いて茉莉。一から説明するから。ほら、袴田君! 説明して、嬌子さんたちから聞いた話」

「う、うん……わ、分かった。実はな、女学園にいたときなんだが……」

 一悟が女学園での出来事と、嬌子たちの言っていた話を説明しだし、茉莉は徐々に顔を驚きの顔に変化させていった。



 日も暮れて夕日の沈むころ、四天寺家の本邸では各グループを勝ち抜き、出そろった16人の参加者たちを確認していた。
 朱音や瑞穂たちは既に席を外しており、この場にいるのは大峰家と神前家の重鎮たちと四天寺家の筆頭従者たちである。

「今、参加者たちはどうしているのだ。明良」

「はい、お爺様。敗退者も含め、現在夕食を振舞っているところです。後に敗退者の方々は丁重に退去をお願いしています。また、勝ち抜いた方々には滞在の間の部屋を用意しました」

「ふむ、失礼のないようにな」

「はい。また、時間にも限りがありますので明日には早速トーナメント戦方式で大祭を続ける予定ですとお伝えしております」

「そうか。で、勝ち抜いた者たちだが……四天寺に相応しい実力を持っている者はおったかの、早雲」

「どうでしょうか。中々の者たちが集まったとは思いますが、これだけでは何とも言えないですね。まあ、この程度で測られてしまうのであれば底が知れてしまうとも考えられますから、これで良いとも思いますが。ただ、気になりますのは……」

「三千院のこせがれか」

「……はい」

「たしかにあの時、一瞬だけみせた精霊との感応力には驚いた。わしの想像だが、まだあ奴はその実力の片鱗すら見せてはおらんようだった」

「あれほどの精霊使いに成長しておりましたとは、私も想像していませんでした。三千院に久方ぶりに現れた稀代の精霊使いと騒がれておりましたが……以前、目にした時にはここまでの存在感は感じませんでした。いや……それよりも、あの時はまだ十代そこそこでしたが、まるで世捨て人のような雰囲気すら感じました。一体、何を考えているのかもまったく分からず、正直、気味の悪さも感じたことを覚えています」

「わしはあの時、すでに水重がその若さに見合わず相当な実力を秘めているのは分かっていた。だからお嬢との見合いもセッティングをしたのだ……」

「……では、何故、見合いをやめたのです? たしかあの時、最終的にこの縁談を破談に持ち込んだのは左馬之助様だったと記憶していますが」

「……。当初、わしは実力を最重要視し、水重は四天寺に相応しい実力があると考えた。それは四天寺として当然のこと。今でもその考えに変化はない」

「では、何故?」

「実はな、わしはもっと早い段階でこの縁談をやめようとしたのだ。……お前も覚えているだろうが、あのこせがれは四天寺に興味を持っていないどころか……自身の家である三千院にも、いや、何物にも心を動かすことのない少年だったように見えた。それが僅かに引っかかった。いくら実力が卓越していたしても、この者は四天寺の人間にはならないと感じたからだ」

「……」

「だが、これもある種の天才と言われる者たちの特徴とも思った。我らが至宝のお嬢も天才と言って差し支えがないだろう。そして、それ故に孤独も内包してしまうことも。何故なら、自分と同じ歩調で歩む者がいないのだ。若い天才にはそれは苦しかろうて。だから、天才という人種は、互いにライバルと切磋琢磨をするという利点を受けづらい」

 左馬之助は当時のことを思い出すように目を細めた。
 当時の瑞穂は今ほど男嫌いでもなく、気は強いが心優しい女の子で、時々寂し気な表情を見せることはあっても、修行には文句を言わずに黙々と取り組む子だった。
 ただ、他の精霊使いと違ったのはその成長スピードが尋常ではないほど早かったため、いつも同世代の精霊使いとは別に修行を行っていた。

「それでわしは、とりあえずお嬢と水重を引き合わすことにした。天才同士、何かわしには感じることのないものを互いに得るかもしれないと思っての」

「そのように考えておられたのですか……左馬之助様は」

「だが、結果としてこれは大きな失敗だった」

「それは?」

「お嬢はわしが考えておるより優しく、人に対してその心を汲み取ろうとするところが強かった。天才にしては随分、気質がな……そう、ごく普通の女の子だった」

「……それの何が悪かったのです?」

「悪くはない。悪いのは水重と引き合わせたこのわしや……強いて言えば四天寺の大人たちかもしれんな。お嬢は幼き頃から賢い子だった。四天寺に生を受けた時点でこういうこともあると分かっていた。そして、わしは水重が特別で特殊な人物と感づいていたのに、お嬢と引き合わせてしまった。考えてみるがいい、わしら四天寺に仕える者たちの心も汲み取り、水重との縁談に顔をだした心優しいお嬢の置かれた状況を」

「……」

「その上で互いに精霊使いの名家の出身で天才同士、そこでお嬢は水重に興味が湧いたのもあったのかもしれんが……縁談相手の水重の心も汲み取ろうとしたのだ。だが……」

 左馬之助は眉を寄せて腕を組む。

「その汲み取る心が無かったのだ。三千院のこせがれにはな……。同じ天才でも情の深いお嬢と情を持たぬ人間を引き合わせるべきではなかった。いや、引き合わせるとしてももっと、お嬢が大人になってからでも良かったと後悔している」

「……瑞穂様」

 大峰家の当主である早雲は瑞穂を想い、気遣うような表情を見せた。

「結果、わしはいらぬ心の傷をお嬢に負わせてしまった。わしはすぐに三千院にこの縁談はまとまらぬと伝えたのだ」

 明良は自分の祖父でもある左馬之助の話を黙って聞いていた。
 明良もすべてではないが、三千院家との縁談の時の話は聞いてはいたのだ。

「まあ、このせいか……その後の縁談が上手くいったことがなかった。これはわしのせいかも知れんな」

「そうですね。完全にお爺様の責任でしょう」

「……おい、明良」

「ですが、結果オーライです。左馬之助様」

「は? どういう意味だ、明良」

「そのおかげで、瑞穂様は祐人君に……いえ、良い出会いをなさり、良き友人にも巡り合えたということです。いやー、グッジョブです、左馬之助。四天寺にとっても、グッジョブです。朱音様も喜んでいます」

「それはどういう……というより何だ! わしに対してその態度は!? ……グッジョブ?」



 その頃……
 瑞穂はマリオンたちがいる部屋に赴いて、茉莉が能力者だったことを知り、大いに驚いていた。

「えーーーー!! 茉莉さんが能力者ぁぁ!? どういうことなのよ!? 茉莉さん、今まで隠してたの?」

「違うわよ! 私も今初めて知ったの!」

「なんかずるいですよね。幼馴染でもあるのに、能力者とか! 属性インフレを起こしています。これで瑞穂さんとマリオンさんの能力者繋がりは大したものではなくなりましたね」

「「!?」」

「ニイナさんは何を言っているのか、分からないわよ! というより一番混乱しているのは、わ・た・し!」

「……プププ! 茉莉良かったね……プッ」

「ちょっと静香!」

「袴田君、もう一度、さっきの瑞穂さんに説明してあげて!」

「ええー!? 面倒くさいな……」

「ちょっとぉぉ!! 袴田君!」

 そして、盛り上がっていた。 




「魔界帰りの劣等能力者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く