魔界帰りの劣等能力者

たすろう

帰国


 闇夜之豹を壊滅させてアレッサンドロに引導を渡した祐人たちは、その場にいつまでも残らずにすぐさま北京に帰ってきた。
 中国政府の調査が入る前にすぐさま帰国するためである。
 闇夜之豹が先に仕掛けてきたとはいえ、こちらも他人の敷地内で大いに暴れたのだ。その場で悠長にしていられるはずもなかった。
 北京に着くと機関からの案内人である田所に連絡をとり、帰国のための段取りを聞くとすぐに飛行機のチケットをとれると言うので、祐人たちは先に空港に向かう。
 田所と合流すると、さっそく日本行きのチケットを渡され、祐人たちはフライトまでの時間を空港内ですごした。

「……その伯爵とかいう奴は、マリオンを生贄に魔神の召喚を考えていた!? とんでもない連中ね。魔神をコントロールする術でもあったのかしら? もしできなければ世界を巻き込んだ大変な事態になっていたわよ。しかも、何故、生贄にマリオンを……?」

「うん……それは分からないんだよね。最期まで不愉快で気味の悪い連中だったよ。でも、これで今後、マリオンさんを狙う奴らが出てくるのかまでは分からない。ある程度は警戒した方がいいかもしれない」

「はい……でも私は大丈夫ですよ、祐人さん。私も自分の身は自分で守りますし」

「そうね……今のところマリオンは四天寺の客人だから、うちにいる間はそうは手をだしては来ないわよ。今回の闇夜之豹の末路を聞けば……なおさらね」

「ははは……そうだね、今回の件の噂が広がれば……というより、機関は暗に広げるだろうけど、四天寺家に手を出したらどうなるかっていうのが嫌でも広がるよね。四天寺家を恐れる組織なりが増えるんじゃないかな……」

「ふん、そんなのそれこそ今更よ!」

「……ははは、確かに」

「それより……祐人さん、怪我の具合は大丈夫なんですか? 今回の戦いで悪化するようなことは……」

「左腕はまだ自由に動きそうにないけど、右はいけるよ。今回の戦いで問題もなかったし。相当、腕のいい医師みたいだね、さすが機関お抱えだよ。日本を発つ前の一日と飛行機内で大分、回復できたしね」

「その怪我を一日そこらで、どう回復するのよ……。仙道使いって化け物?」

「化け物って……自然治癒能力を最大限に高めるだけだよ。内氣を循環させて増幅させるんだ。他人と循環させることも出来るんだけど、やっぱり自分自身への効果が一番高いね」

「あ、秋子さんにしたやつですね?」

「じゃあ、私たちにもできるってこと? 祐人」

「え!? あ、いや! 出来るけど……意識があるときはあまりお勧めできないというか……」

「何でよ」

「い、いや……その……この方法は仙道でいう……あの、房中術ぼうちゅうじゅつ……に通じるところがあってね? その男女でやるのは……その……」

「は? ぼうちゅうじゅつ? 何それ? 虫よけか何か? 何を言ってんのよ、祐人は」

「と、とにかく! 意識を失っている人にやりやすいってこと!」

「ふーん、じゃあ、今度、私が怪我をしたり、疲労が溜まったらお願いするわ。寝てるときにでも」

「えーー!?」

「何なのよ、その反応は。いいじゃない、意外とケチね、祐人は」

 などとやり取りをしている二人の横で、これを正確に理解したマリオンは……顔から耳まで真っ赤に染め上げていた。

「ぼ、房中術……。祐人さんにされる房中術……はう!」

「……うん? え? マリオン! 何で目を回してんのよ!? 顔も真っ赤で! ちょっと、マリオン!」

「はわわぁ……ぷしゅー」

 マリオンの顔からボイラーの水蒸気のように、湯気が上がる。

「マリオンってば! ぼうちゅうじゅつって何なのよ!? ちょっと、祐人! 何とかしなさいよ!」

「何とかって言われても!」

「じゃあ、ぼうちゅうじゅつって何よ!?」

「何でもないです!」

 マリオンの回る目が何とか視点を合わせられるようになり、まだ息は荒いがマリオンも立ち直った。

「だ、大丈夫です。すみません……取り乱してしまいました」

「本当に大丈夫なの? マリオン。突然、意識が飛びそうになってたけど……」

「いえ……祐人さんが変なことを言うから……うん? 待ってください!」

「のわ!?」

「ちょっ、いきなり大きい声で驚かさないでよ! 今度はどうしたのよ!? マリオン」

「祐人さん……さっきの言いようだと、祐人さんは秋子さんに房中術を施したということに……」

(……ギク!)

 みるみる内にマリオンの瞳から光が失われていくのを祐人は見てしまう。

「祐人さん?」

「はう! ち、違うよ、マリオンさん。あれはあくまでも治療の一環で……」

「マリオン、だから、ぼうちゅうじゅつってなんなのよ!?」

 まだ、意味の分かっていない瑞穂に笑顔のマリオン(目は笑ってない)は手招きをし、瑞穂の耳に口を寄せた。

「房中術といのは…………と言われていて…………で、それを祐人さんは…………」

「ふんふん……は?」

 瑞穂の顔がボンッと音を立てるように赤くなったかと思うと……体全体がふるふると震えだす。

「ちょっと、お腹が痛くなったのでフライト時間ギリギリまでトイレに……あおん!?」

 祐人の両肩に二人の少女の力強い手が乗った。
 祐人の額から大量の汗が流れる。
 それは感じるのだ。今、背後にいる二つの危険な存在を。

(後ろに振り返っては駄目だ! ここは男子トイレに強行突破を……)

「祐人……」
「祐人さん……」

 闇夜之豹を壊滅させた祐人の身体はまったく動かない。

(な、何でなの!?)

 そして、その両肩に乗る手は見事なコンビネーションで祐人の身体を反転させた。
 そこには……憤怒の炎を背負う瑞穂と……、
 獲物を咥える虎の幻影を背負うマリオンが……。

「ご、誤解……」

 涙目の祐人は……静かに目を閉じる。

(さようなら、僕……)

「あ、あなたぁぁー!! 人の友人になんて術をかけたのよぉー!! この変態道士が!」

「そうです!! 他の方法は本当になかったんですか!? それと秋子さんに変な影響は出ないんですよね!?」

「ヒーーーー!! 大丈夫! 変な影響はないから! 信じて!」

 フライト時間が迫ってきていることを伝えにきた田所はこの若い三人を見つけ……乾いた笑いを見せる。
 そして真剣に……他人のふりをするか悩むのだった。




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