魔界帰りの劣等能力者

たすろう

出立前②


 祐人が座禅を組んでいる屋上の出入り口の扉が開くと、背後から怒気を含んだ幼馴染の声が聞こえてきた。

「いた! 祐人! 何で今日、学校に来なかったのよ!」

 祐人の体が条件反射のように飛び上がる。
 振り向くとここまで走ってきたのか、息を切らしながら扉の所に立っている茉莉がいた。
 茉莉は瑞穂たちから祐人が屋上にいると聞いたとたんに、説明もろくに聞かずにこの場所に来たのだ。

「あ! 茉莉ちゃん、これには事情があって!」

「ちゃんと説明……うん? え!? 祐人、どうしたの、その傷は!?」

 祐人の左肩に巻かれている包帯を見て、血相を変えた茉莉は祐人のところに走り寄る。
 茉莉は祐人のところまで来ると、祐人の負った傷を確認し、祐人の両頬を両手で挟んで至近で顔色を確認している。
 茉莉の大きな目が間近にあり、祐人は一瞬、顔を赤くしてしまう。

「顔が赤いわ! ちょっと熱もある! 多分、傷によるものね。ああ、祐人、こんなところじゃなくて保健室に行かなきゃ……」

 茉莉の目に見えて狼狽える姿は非常に珍しい。

「あわわ、茉莉ちゃん、落ち着いて。もう治療は済んでるから! 大丈夫!」

「ああ! 白澤さん! 何やってるんですか!?」

 そこにニイナも現れ、茉莉が祐人の顔を挟んでいることに気づき、茉莉を祐人から引きはがそうとすると、ニイナも祐人の怪我に気づいた。

「堂杜さん!? どうしたんですか!?」

「あ、ニイナさん、この怪我は問題ないですから……」

「あ、もしもし、アローカウネ? ちょっと緊急の要件なのだけど、ヒュール家に伝わる傷薬と滋養強壮の薬を……」

「どこに電話してんの!? ニイナさん! ストップ、ストップ!!」

「どこって……学院の近くに私の執事のアローカウネというものが、常駐しているから、家に伝わる秘伝の薬を……あ、もしもし、何、突然、アローカウネ……誰にって、友達によ」

(アロー……アローカウネさん!? 駄目だ、ニイナさん! 呼んだらきっとややこしいよ!)

「え? 男の子だけど……うん、あれ? 切られた」

「ニイナさん! 大げさだよ! その人、呼んじゃ駄目! 絶対!」

「え? 今すぐ行く! って言って切られたわ。あれ? 堂杜さん、アローカウネを知っているの?」

(遅かったか!!)

「あぁあ……うん……何度か話したことがあっただけだけど……」

「そう……アローカウネにも会っていたのね」

 ニイナは祐人のその言葉を聞き、ジッと祐人を見つめていた。

 暫くして、瑞穂たちも姿を現した。
 その後ろには、花蓮、一悟……そして、水戸静香の姿が見える。

「ちょっと、袴田君、何なの? どうしたの? それとこの綺麗な人たちは誰なの?」

「いいから、いいから、頼むから来てくれ。これから説明するから、俺が祐人を説得するから。これから起きるだろう苦難には全員で対処しないと……無理なの、主に俺が」

「ちょっと、押さなくても行くから……何を涙ぐんでいるのよ!?」

「とりあえず、全員集まったわね」

 瑞穂が声を上げると集まった面々がそれぞれの表情で瑞穂に顔を向けた。
 静香は茉莉を見つけて、驚きつつもその横に並んだ。

「待って、四天寺さん、その前に祐人の怪我を説明して! 何があったの!?」

「それも全部、説明するわ、白澤さん。それとこれからお願いしたいことも……」

 真剣な顔で迫るような表情をしている茉莉も、瑞穂のその言葉で話を聞く態度になった。
 因みにその横では一悟は「これからお願いしたいこと」と聞いてゲッソリしている。

「おい、祐人、お前、怪我したんか?」

「あ、うん、でも、たいしたことはないから大丈夫だよ、一悟」

「ふーん」

「興味ないなら聞くなよ!」

「あ、水戸さんにも協力してもらうから……いいよな? ああ見えて口は堅い奴だし」

「え? だ、大丈夫かな? それについてこれるかな?」

「あー、大丈夫じゃね?」

「一悟、お前……」

「二人、うるさい。じゃあ、今から現状を説明するわ」

 瑞穂がそう言うと、またしても、レジャーシートを持ってきたマリオンがその場で広げて、そこに座るようにみんなを促した。

(マリオンさん……いつもレジャーシート持ってるよな。どこに持ってるんだろ?)

 祐人は首を傾げながら、シートに腰を下ろし、全員が輪になるように座る。
 一人、静香だけが何が語られるのか分からない感じでいる。だが、その顔はワクワクしているような表情だ。

「それじゃあ、水戸さんもいるから、最初から順を追っていくわ」

 今、瑞穂から今回の経緯の説明が始まった。
 もちろん、話せることと、話せないことがあったが、そこは上手く瑞穂は省いて説明していく。
 そして、話が進むにつれて茉莉、一悟は真剣な表情になっていった。
 その横で静香は笑顔のまま、時間が止まったような表情ではあったが……。




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